ヤンデレの病弱妹に死ぬほど愛されているお兄ちゃんは蒼星石のマスター!   作:雨あられ

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第21話

すべてのものが眠りについた黒い夜。

 

目を覚ます、半ば気絶するような形で眠ってしまっていたようだ。

金糸雀の持ってきた弁当箱を近くにあった鞄へとしまい込むと、瞼をこする。……最悪の目覚めだ。昼に食べたあの毒物たちのせいで、体中に疲労を感じる。穴の開いた教会の天井から空を見上げると、妖しい月の光が射し込み、星々が瞬く。

 

『水銀燈の髪は、星が流れているみたいね』

 

いつだったか、自分の壊れたマスター(ジャンク)はそんなことを言って、私の髪を撫でた。陰鬱さや静けさが、黒い布地でできた逆十字のこの黒衣が。星なんて輝いたものとは程遠いとわかっているはず。

 

「行くわよ、メイメイ」

 

金糸雀の背負ってきた鞄を手に持ち、教会を後にする。

 

 

 

 

 

空へと浮かび上がると、びゅうと身を切るような強風が吹き、思わず目を瞑る。空から見下ろした夜の街は、聖夜が近づき浮かれたイルミネーションも消え去っていて、本当にこの町から誰もかれもが居なくなってしまったかのように感じる。

 

『窓を開けておいたの、何時でもあなたが入ってこれるようにね』

 

……きっと、彼女はそう言って窓を開けて、私の帰りを待っているのだろう。……うんざりするくらい頭の足りていないやつ。窓なんて開けていても、私がホイホイ入ってくるわけないっていうのに……!?

 

この視線……雪華綺晶…ではない、まして、あの怪人のものでもない。

速度を上げる、建物の合間を縫い、入り組んだ路地を低空飛行で滑空する。

しかし、それでも、視線は消えない、いい加減うんざりしてきたので、高度を上げて、適当な灰色のビルの屋上へとふわりと足をつける。肌にまとわりつく夜の空気が、いつも以上にこの神経を逆撫でしている。

 

「……誰?」

 

「……」

 

空間が波打つ。屈折した水晶のように、瞬く間にそいつは姿を現した。

紫のドレスに身を包み、第7ドールの偽物。いや、彼女は……もしや

 

「あなた、何者?」

 

「私は8人目のローゼンメイデン…」

 

「…まさか!?」

 

「……ではない。ジョーク…」

 

……持っていた鞄をコンクリートの地面へと放り捨てると、彼女へとむけて羽根の矢を降らす。

 

「……」

 

羽根は、彼女に届く前に、紫光の障壁によって阻まれる。

それにしても、あの障壁、かなりの強度だ。発生速度も異常なほどに早い。

 

「ッチ」

 

「私の名前は薔薇水晶。あなたたち、ローゼンメイデンを…超える存在です」

 

「!?」

 

地面から紫色の水晶が伸びてくる。飛びのき、空を飛んだままビルの下へと急降下すると、その動きに合わせるように、ビルの壁からは次から次へと水晶が伸びてくる。

 

「うざ…ったいのよ!」

 

「!」

 

羽で水晶を薙ぎ払うと、壊れた破片を薔薇水晶と名乗ったドールに飛ばす。相手は瞬き一つせずに、紫色の水晶剣を取り出すと、それらをすべて弾き飛ばす。

気に食わない……私を、私たちを超えるですって?それはまぎれもなくお父様への侮辱。そして何よりは、この私への…!!

 

「メイメイ!」

 

水晶の剣を構えて降ってくる相手に対し、こちらも羽の中からメイメイと同化させた宝剣を取り出す。

 

1合、2合、お互いの剣がぶつかり合う。しかし、向こうは剣の力に加えて重力まで味方につけている、突き刺してくるその剣先が、振り下ろした時のその重みも、こちらより勝っている。

 

「っく」

 

地面に落ちるすれすれで彼女の剣から逃れる。口だけじゃない、こいつ……本当に!

勢いがつきすぎてしまい、止められない体は木の植え込みへと突っ込んだ。クッションとなり、衝撃を吸収してくれたのは良いが、枝は服を裂き、地に落ちた私の顔は泥に汚れる。

相手はふわりと、優雅に、信号機の上へと降り立つと、なお無表情のまま…これで終わり、と最後の攻撃へと転じる。

 

冗談じゃない、冗談ではない!真紅でもない、まして、アリスゲームの参加者でもない、こんな贋作(フェイク)に壊されるようなこと、薔薇乙女として、アリスとしてありえない!

薔薇水晶は先ほどの水晶剣を宙に何本か停滞させると

 

「っ!」

 

一度にこちらへと解き放つ。串刺しにせんと降ってくるそれらに向かって羽根を射出して対抗するが、駄目!威力がデタラメ!迫りくる刃に、頭が沸騰したように白く熱くなっていく。

様々な感情が自分の中で爆発しあふれだす。それは怒りでも悲しみでもない、ただの感情の奔流。

 

「ぁうああああ!!」

 

「…これは!」

 

手に持っていた剣を振るうと、目前に迫っていた水晶剣は、この身に触れる前にただの粒子となって雲散する。先ほどまでのけだるさは消え失せ、体中から力があふれて……!?

 

この全能感!まぎれもなく、ミ―ディアムから吸い取った力!?

 

「少しは強くなった…?」

 

「っく」

 

薔薇水晶は、手に持っている一振りとは別に、もう一対の水晶剣を生み出す。紫色に輝く剣は蒼く冷えたこの甘い空気をも切り裂く。瞬間的に距離を詰めてきた相手に、反応できる。体は今までの自分でも信じられないくらい好調で

 

「…邪魔よ!」

 

振るった剣は、相手を障壁ごと切断するほどに鋭く、重い。しかし、この力は、この力は……!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつだって、彼女は病室で、待っている。私と…彼を。

 

「からたちの棘は痛いよ…♪」

 

「青い青い…針のとげだよ…♬」

 

「ふん、窓を開けて、歌を歌えば私が来るとでも思ったのかしら」

 

「水銀燈。ふふ、でも来てくれた」

 

「……」

 

からたちのとげが痛い……白くて細い彼女の腕には、病室で鎖のような点滴の管と、枷のような…銀色の針。物憂げに窓の方を覗き込むその姿は、まるで空に焦がれる、かごの鳥…。

 

「水銀燈、もらったこの指輪だけど、これ、壊れているんじゃない?いつ、私の命を吸ってくれるのかな」

 

「……さぁ、真紅はまだ目覚めていないようだし、蒼星石はあの通り腑抜けきっているし、そもそも、私はそんな壊れかけの命なんか使わずとも、うんと強いドールだもの。」

 

「そう……」

 

すると、悲しそうに目を曇らせるめぐ。

 

…ずっと、不思議だった。

 

彼女は、私と初めて会った時も。契約したら、命を吸われるということ知りながら、死神のような私に目を輝かせて、あなたは天使ね、なんて言い放つ。そして、早く命を使ってくれたら良いのに、とよく薄汚れた天井を見ながら愚痴のように私に語りかける。

そのくせ、そのくせだ、あの間抜けな人間(おにいさま)に会う日などは、青白い顔を、少しでも見られぬようにと慣れない化粧までして、彼を乗せたバスが来るのをじっと待つ。私が居るときも、その日ばかりは、命を使ってほしいとは言わず、弾んだ声色で髪を梳く。心はずっと、彼を見つめて…

 

「ねぇ、めぐ、あなた、本当は私と契約なんてしない方が幸せに暮らせたんじゃなぁい?」

 

「私は今、すごく幸せよ、こうして水銀燈に出会えて」

 

「……」

 

「だって、あなたは私と……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「く!調子にのってんじゃないわよ!」

 

力任せに剣を振るうと、相手の持っていた水晶剣を粉砕する。もちろん、壊したところで、相手はすぐに新しい水晶を生み出すに過ぎない。

 

「チェックメイトね!」

 

それでも、その生み出す一瞬の隙さえあれば、十分だ。相手を組みしき、両手にもったその剣を高く、高く、振りあげる。あとは、この剣を突き刺しとどめを刺すだけ。早く、早く決着をつけなければ、でなければめぐの命は!

 

「……ふふふ」

 

「な、なにがおかしいの!」

 

「あなたは気が付いていない、戦いながら、私たちが移動していたことを」

 

「……!」

 

ここは!!?

あのミ―ディアムと、めぐのいる!白くそびえるマンション。そこはまぎれもなく……

慌てて両手に持った剣を振り下ろしたが、すでにそこには水晶の虚像しか残されておらず、砕け散った水晶ははじけて、礫となって襲い掛かってくる。

 

「めぐ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、めぐ、しっかりしろ!」

 

それは突然の出来事だった。

いつもみたいに、めぐが寝付いたのを見計らって、その寝顔を見に来た時だった。顔色もよく、今夜も発作などの心配はないなと、安心しかけていた時のことだ。

 

暗闇の中、めぐの薬指の指輪が、青白い光を放った。携帯のバックライトくらいの光だと思っていたその光は、徐々に、部屋中にあふれ出て

 

「…!!??!??ぁぁあああああ!!!!!」

 

「めぐ!!」

 

発作だ!苦しみだしためぐを慌てて抱き留め、近くに置いてあった鎮静剤の入った袋を探す。部屋にはその指輪の光だけで、十分視界を保つことができる。

 

「めぐ、しっかりしろ!めぐ!」

 

「マスター!どうかしたの!」

 

「蒼星石!めぐが!」

 

「…!彼女の指輪が!…まさか水銀燈、彼女の力を…!?」

 

水銀燈が、戦っている……!?アリスゲームでも始めたのか!?

苦しそうに暴れるめぐの手を強く押さえつけ、持っていた注射器を上腕に差し込むと、暴れるめぐを思いっきり抱きしめる。

 

「めぐ…めぐ…」

 

暴れている彼女は、俺にしがみつきながら、爪を立て、背中に突き立て、ひっかきまわし、やがて…暴れつかれたかのように徐々に、力を失くしていく。しかし、呼吸はいまだに落ち着かない、そう、彼女の薬指はいまだに青白く光を放ったままだ。汗は吹き出し、顔から精気が抜け落ちていく。

 

「ぁあ、ぁあ、蒼星石、すぐに病院にいこう。nのフィールド、から行けないか!?」

 

「……問題ないよ、けれど、もし水銀燈がnのフィールドで戦っているとしたら…」

 

「その時は、守ってくれ!今は一刻も早くめぐを先生に診てもらわないと!」

 

「!はい、マスター」

 

自分自身、青いパジャマを着たまんまだが、そんなことは関係ない、めぐを背負うと、部屋を飛び出し、いつものすれ違い窓へと走り出した蒼星石のあとを追う……!?

 

 

「あぶない、マスター!」

 

 

廊下を出ようとした時だ、居間から蒼星石の声が響いた。かと思えば、水晶の礫がこちらに向かって降り注ぐ。

 

「……ミ―ディアム!」

 

!いつかの紫薔薇のドール!水晶の剣を持った彼女を、蒼星石は庭師の鋏ではじき返し、何合かかち合ったあと、鍔迫り合いを繰り広げる。蒼星石と戦いながらも、その金色の隻眼が、こちらを射抜く。

 

「っ!逃げて!マスター!」

 

紫薔薇のドールが蒼星石の腹に向かってそのブーツで強力な蹴りを放つと、蒼星石は本棚へと激突した!まずい!ずり落ちそうになっためぐを持ち直すと、居間の入れ違い窓をあきらめ、洗面台の方へと走り出す!

 

「……終わり」

 

振り向きながら居間を見ると、紫薔薇のドールが跳ぶ!

 

「ふ」

 

!?こいつ、めぐに触れて…!?

くそ!間に合ってくれ!!

 

角を曲がり、洗面台へと足をかけると、思いっきり蹴り飛ばし…!鏡の世界へと踏み入れた瞬間!

 

「雪華綺晶!」

 

「はい、マスター!」

 

紫薔薇のドールが横から現れた雪華綺晶のボディタックルによって吹っ飛ぶ。

水晶の部屋。そこは、雪華綺晶が住むnのフィールド、彼女の領域。

 

「いけない子、悪い2Pカラーには消えてもらいます…」

 

「………私の名前は薔薇水晶、あなたとは、違う!」

 

「あらら?」

 

そういって、薔薇水晶は、雪華綺晶の放った水晶の礫を受けることなく、地面へ溶け込んでいった……。背負っていためぐをゆっくりとおろし、彼女が先ほどの戦いで傷を負っていないかを確認する。

 

「よかった…」

 

ケガはない、それに、指輪の発光も収まり、呼吸も少しは安定して……!?

 

「マスター?」

 

それは、あるはずのないものだった。彼女の汗ばんだ鎖骨から首筋にかけて、紫の、薔薇の刻印が刻まれていた。

 

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