ヤンデレの病弱妹に死ぬほど愛されているお兄ちゃんは蒼星石のマスター!   作:雨あられ

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第3話

「水銀燈、きてくれたのね」

 

俺と水銀燈が黙ってお互いを見ていると、めぐは不思議そうに俺と水銀燈を見比べる。俺は水銀燈に会って純粋に驚いているだけだったが、水銀燈は苦々しい表情をして自らの腕を抱いていた。昨日の感じからして、蒼星石のいない俺なんて大した脅威にはならないと思うけど……

 

「水銀燈?」

 

「めぐ……こいつが、アナタの言っていた?」

 

「うん。そうよ、私のお兄様……水銀燈がお兄様との婚約指輪をくれたんでしょう?」

 

キラリと輝く指輪を見せつけると水銀燈は難しそうな顔をした。

 

「……帰るわ」

 

「え?そうなの?今日もせっかく水銀燈のためにゲ…病院食をとって置いたのに……」

 

「……!」

 

めぐがベッドの下から取り出した病院食を膝の上に乗せると、帰ろうとしていた水銀燈がピクリと反応する。

 

「……」

 

あ、無言で戻ってきた。結構素直だなぁ。って、めぐのやつ、床においていた自分が普段まずいと言っている病院食を他人にあげるなよ…

 

「えぇっと、昨日ぶりだね、水銀燈?」

 

「……えぇ、そうね」

 

めぐの布団に腰掛けた水銀燈に話しかけると。ぷいっと顔を逸らして返事をしてくれた。ははぁ、さては俺を襲ったことをマスターであるめぐに知られたくないといったところか。めぐは怒ると怖いからな。さっきのはまだマシなレベルだ。三途の川は見えなかったしすぐ対処したからな。腰を曲げて、座っている水銀燈に顔を寄せると小さな声で耳打ちした。

 

「水銀燈、昨日のことは黙っておこう。その方がお互い良いだろ?」

 

「……」

 

黙ってこちらを睨む水銀燈。敵意のないことを示すために笑顔を向けると、向こうは再び、ふん、っといって顔を背けた。めぐはそんな水銀燈を抱えて膝の上に乗せると、水銀燈の目の前に病院食のプレートを置いた。態度こそ悪い水銀燈だが、ぱくぱくと文句も言わずにおいしそうに病院食を食べ始める。

 

「お兄様?水銀燈と何喋ってたの?」

 

「ん?いや、めぐと仲良くしてやってくれって言っていたところだ」

 

な?と言うと、えぇ、そうねぇ、考えなくもないわ。と言って意外にも話に乗ってくれた。それを聞いためぐはありがとう水銀燈、と満足そうに笑う。

 

ふぅ、何事もなく終わりそうだ。遅刻の件も流れたし、水銀燈も敵意は無いようだし。めぐに関しては来た時とはうってかわって上機嫌だ。

こうしてみると、蒼星石は水銀燈を随分敵視していたが言うほど悪い奴には見えないな。めぐの膝の上に乗せられ、スプーンを使ってちまちまとご飯を食べている姿は中々可愛らしい。

 

じっと観察していると。なにやらめぐのやつが鼻をすんすんとひくつかせて俺の臭いを嗅ぎ始めた。

 

「め、めぐ?あぁ、昨日は風呂に入りそこね…」

 

「すんすん、お兄様は……とても良い匂い。これ以上、良い匂いなんてこの世にありえないほど…袋に詰めていつもかいでいたいほど…はぁはぁ。

なのに、お兄様から他の女の臭いが……すんすん、おかしいよね。お兄様の近くには、私しか居てはいけないのに…何処の雌豚が」

 

いや、その理論はおかしい。

匂いを嗅ぎ、徐々に眉を吊り上げて行くめぐ。というか、もしかしてめぐは蒼星石のことを言っているのだろうか?別にそんな匂い微塵もしないのだけれど。何とか話題を逸らさなければ。

 

「なぁ、めぐ、水銀燈はいつもここに来るのか?」

 

「ううん、たまにきてくれるだけで…。私としてはいつも一緒にいてほしいのだけれど、ね、水銀燈」

 

「な、なんなのよ、鬱陶しい……」

 

嗅ぐのをやめて、優しい笑みで水銀燈をなで始めためぐ。水銀燈も、照れているが手を払いのけたりしないあたり本気で嫌なわけではないのだろう。素直じゃない奴だ。

 

「まぁ病院じゃ人の目もあるしな。だけどめぐ。あんまり病院食を残すなよ。治るものも治らなくなるぞ」

 

「治る……うふふ、私は壊れた子(ジャンク)だから…」

 

「そんなこと言うなよ。きっと良くなるから…」

 

すっと右手でめぐの空いていた左手を握ると、少し親指の腹で手の甲を撫でる。

 

「お兄様……ふふふ」

 

めぐは左手を少し上げると、目を閉じて口元に弧を描いた。水銀燈はその様子をスプーンを銜えたままじっと見ている。

めぐと手をつないだまま、水銀燈に声をかける。

 

「水銀燈。ご飯は家に食べに来ないか?」

 

「はぁ!?」

 

スプーンをかたんと落とし、一転呆れたような顔をしてこちらを見てくる水銀燈。

 

「いや、あんまりめぐが病院食を残されては困るし、万が一見つかっても困るしな。その代わり、出来るだけ暇なときはめぐのところへ行ってやって欲しいんだけれど…」

 

「な、何言ってるのよ。大体あなたの家には蒼…」

 

ばちぃっと水銀燈の口元を手で覆った。そ、蒼星石のことを伝えるのはまだ時期尚早だ。気に入っていると言っている水銀燈なら兎も角。人形とはいえめぐの知らない女の子と住んでいるなんて言ってしまえば何をしだすか分からない。バチリと手を叩かれると、水銀燈は不満そうに俺を睨みつける。

 

「めぐもそう思うよな?なっ?」

 

「うん。水銀燈にはゲロなんて食べずにお兄様のちゃんとしたご飯を食べてほしい」

 

基本的に優しい、いや、優しいかどうかは微妙だが、気に入ったものには気を使うめぐは微笑んだまま首を縦に振る。

 

「……」

 

ちらっと俺を見上げる水銀燈。

 

「大丈夫大丈夫。飯を食べるだけだからさ」

 

頼むよ、と両手を合わせると、暫く口元に手を当てて考え込んでいる風な水銀燈であったが、やがて何かを思いついたのかニヤリと一瞬笑い、右手で銀色の長い髪をふぁさっと払い腕を組んでこう言った。

 

「そうね……行っても良いわよ人間、感謝なさい?でも、不味かったら許さないんだから」

 

「もう、人間じゃないわ、お兄様よ水銀燈。後、お兄様のご飯が不味いわけが無いわ。私だって出来ることなら毎日……あ!そういえば、小さいときにお兄様が作ってくれた…」

 

ああ、めぐの変なスイッチが入ってしまった。めぐの独り言は一日中続くこともある。看護師さんたちもはじめは気味悪がっていたが、今では慣れたのか誰も不思議がらない。ぶつぶつと言いながら病院を徘徊していても気にしなくなっているとか。って、あれ?もしかして、俺の妹本当にやべーやつなんじゃ……

 

話が長くなりそうだったのと、面会時間が後少ししかなかったのでそろそろ帰ることにした。この病院は土日、祝日は6時までしか面会時間を設けていない。

 

「じゃあ、水銀燈。気が向いたらいつでも来てくれ。水銀燈の分のご飯も作っておくから。あぁ。もちろんおやつ食べにきたり、昼寝しに来たりしてもいいぞ」

 

「……あの子から聞いていないのかしら……私はね姉妹の中でもとびきり特別なの。例えば、あなたなんてその気になれば……」

 

「もちろん聞いてるさ。後、水銀燈は意味もなくそんなことしないだろう?じゃあな、めぐ。また時間が出来たら来るよ」

 

「お兄様ったらその時私の頬についたクリームを手でとってそのまま、口に…つまり私の成分が入ったクリームをお兄様が取り込んで私達は幼い頃から一つになったということ……!」

 

ぶつぶつと言っているめぐに聞こえているか分からないが、興奮してはみ出ていた上半身に布団をかけてやり、寒い風が入ってくる窓を閉めると水銀燈にまた明日にでもと言ってひらひらと手を振って別れを告げた。俺が水銀燈を誘ったのは実はもう一つ意味があった。それは蒼星石と仲良くして欲しかったからだ。あわよくば、二人とも戦意をなくして、ずっと仲良くなってくれれば良いなんてことも考えているが……少し楽観的すぎるだろうか?

 

ばたんとドアを閉めると、帰路に着いた。

 

 

 

「めぐ……あなたのお兄様は帰っちゃったわよぉ?」

 

「それで、お兄様が使っていたスプーンを見て、私、思わずこう思ってしまったのです。ああ、あそこには、お兄様の元が、いわばお兄様がそこにあるのだなって」

 

「めぐ……あなた本当にイカれてるわ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、言うわけで、明日にでも水銀燈がご飯を食べに来る」

 

「…」

 

「仲良くしてほしい。というのが俺からの新しいお願いなん…だけど」

 

おお!?重い。空気がめちゃくちゃ重い。マスターの命令なら仕方ないね。とか言ってくれるのかと思ったら、蒼星石は怖い顔をしてうつむくだけだった。い、行ける雰囲気だと思ったのだが……。

 

 

帰ってきたときは。笑顔でお帰りなさい。マスター。あぁ、コートお預かりしますね。と俺からコートを受け取って、届かないコートかけにぴょんピョン飛んで必死にかけようとする可愛らしい場面に和み、コートをかけてやって照れくさそうにお礼を言う蒼星石に癒され。マスターの為に、ご飯を作ろうと思ったんだけれど…その、すみません。と言ってしょんぼりしている蒼星石にいけない何かを刺激されそうになった。台所は思ったより悲惨だったので、絶句してしまったが…

 

蒼星石には俺がご飯を作り、俺は蒼星石が一生懸命に作ってくれたであろう黒い物質を気合で食べ終えた。蒼星石は終始涙目で俯いていた。こりゃだめだと思い、頭を乱暴になでて、おいしかったよ、ご馳走様、だから笑っていてくれよ、と言うと、蒼星石は潤んだオッドアイを揺らして、ごしごしと目を拭うと、次にはクシャクシャな笑顔を浮かべてくれた。

 

その後、蒼星石の淹れてくれたお茶を飲んでまったりしていたので、この雰囲気なら簡単に行けるかもしれないな、と思って冒頭の一言を発した瞬間。ずーんと部屋の空気はほんわかしたものから暗いものへと変わってしまった。

 

「あのな、うん、今日会って思ったんだけど、水銀燈もそこまで悪い奴には見えなかったというか。そりゃ、昨日襲われたし、今までの因縁もあるだろうけど、俺の妹と契約を結んだ以上、顔を合わせることも多いしさ」

 

「…」

 

複雑な顔をして俯く蒼星石は一言も言葉を発しない。だめか、と思い肩を落とすと。

 

「わかりました。僕もなるべくがんばりたいと思います。」

 

蒼星石はそう言ってくれた。しかし続けて。

 

「でも、彼女の出かた次第では僕は、彼女を切る」

 

きりっとした目で俺を見上げる蒼星石。…でも会ってくれるといってくれただけ良かったのか?

 

「…なるべくちょっとした挑発とかは流してくれよ。俺が何か言われても、全然気にしないし。」

 

「……」

 

沈黙で返す蒼星石。だ、大丈夫だよな。うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うふふふ、ごきげんよぅ?」

 

「おー!おはよう水銀燈!よく来てくれたね」

 

「水銀燈……」

 

「あらぁ、そんな顔することないじゃない?私はそこの……『お兄様』がどぉうしてもって言うからしょ~うがなく来てやったんだから。いわばお客様よ?」

 

「何を……!」

 

「まぁまぁまぁ二人とも、ご飯が冷めるからさ」

 

東から上り始めた太陽、それを映していたすれ違い窓から、にゅっ、と水銀燈が現れた。てっきりこないものかと思っていたが普通に来てくれた。やっぱり根は良いやつなのではないかと思えてくる。

 

今日のご飯はシンプルに赤ソーセージと目玉焼き、サラダに味噌汁と白米だ。蒼星石にも手伝ってもらって一緒に作った。蒼星石は要領が良いのですぐに一人でも作れるようになるだろう。

 

「ふぅん、貧相な食事ね。a5ランクのステーキくらい出して欲しいものだわぁ」

 

「…!」

 

「まぁまぁ蒼星石。ほら、んじゃ、いただきます。」

 

そういうと、皆で食事を取り始めたのだが、水銀燈は一口ご飯を口につけるとぎょっとした顔をしていた。口に合わなかったかな?などと思い見ていたが、どうやらそうではないようだ。次々とおかずに手を出し昨日以上の速度でご飯を食べ始める水銀燈。口ではあんなこと言っているが気に入ってもらえたようだ。

 

「水銀燈。もう少し遠慮して食べたらどうだい」

 

「蒼星石!水銀燈、おかわりもあるからな、遠慮なんてするなよ。さ、蒼星石も止まってないで食べよう」

 

「ふん、まぁ、そこそこの味のようね、そこまで言うのならおかわりしてあげても良いわぁ」

 

そう言って味噌汁をすする水銀燈にはまるで覇気は無かった。

眉をUの字にして水銀燈を見ている蒼星石だったが、次第に黙ってご飯を食べ始めた。まぁ、はじめだしこんなものだろう。

 

 

 

 

 

「それで水銀燈。今日はこの後どうするんだ」

 

ご飯を食べ終わり、お茶を出して水銀燈に尋ねる。蒼星石の淹れたお茶に品のないお茶と文句を言って、蒼星石がまた怒りそうになったのをなでなでして沈めた。今日は朝から疲れる。

 

「この後?そんなの決めてるわけないじゃなぁい」

 

決めてるわけ無いのか。しかしめぐのほうは日曜は検査やらが多い関係で看護師の出入りが多いし、外は日が出ているが風が冷たいし。

 

「なら今日は家で遊んで行ったらどうだ?」

 

「へ?」

 

「ま、マスター!?」

 

がたっとイスから立ち上がる蒼星石。別に変なことは言っていないと思うのだけれど。

 

「そうねぇ、にんげ……お兄様がそういうのなら、そうしようかしら?ねぇ、蒼星石ぃ?」

 

「っく、大体、なんなんだい、その、マスターのことを、お、お兄様って」

 

「あらぁ、めぐにとってのお兄様なのだから、私にとってもそうなるでしょう?」

 

ねぇ?と今度は俺に振る、水銀燈。蒼星石は期待をこめた目でなにやら俺のほうを見てくる。

 

 

 

 

 

 

 

あれ、今日なんか修羅場じゃないか?

 

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