ヤンデレの病弱妹に死ぬほど愛されているお兄ちゃんは蒼星石のマスター!   作:雨あられ

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第7話

「ふんふんふーん♪」

 

今日は朝から蒼星石はご機嫌のようだ。くんくんのオープニングテーマを鼻歌で歌いながら、ベランダに置いてある植木に緑色をした象の如雨露で水をあげている。俺は眠い瞼をこすりながらそんな蒼星石を隠れて観察し始めた。

 

「らんららんららーん♪」

 

今度はエンディングテーマを歌いながら、ベランダのスリッパを脱ぐと、窓を開けっ放しにして中へと戻ってきた。ばれないように、少し身を隠すとこちらの様子 に気付くこともなく、すぐに洗濯物の入った白いプラスチック製のカゴを抱えるように持って再びベランダへと戻っていった。今日は快晴無風で、洗濯日和のよ うだ。蒼星石は大きな長いすに乗ったまま、なお、鼻歌をやめずに洗濯物をハンガーに通すと、次々にそれらを手馴れた手つきで物干し竿へとかけていく。

 

「ねぇ、マスタ~♪こっち向いて~♪」

 

ねぇ、くんくん。こっち向いて。の歌詞が俺になっている。背伸びをしたり、かがんだり、笑顔で服を干している蒼星石は見ていても飽きないが、そろそろお腹もすいたし声をかけるとしよう。ベランダから顔だけ出すといつもの第一声を発する。

 

「おはよう、蒼」

 

「ひゃあ!マスター!?」

 

珍しく早起きをした俺の存在に驚いたのか、わわっと、体制を崩しそうになっていた。あぶない!と思って手を伸ばそうとしたが、蒼星石は椅子の背もたれに手を 伸ばして、なんとか踏ん張ったようだ。両手を背もたれにかけて、ほっと息をなでおろしている。それにしても、驚きすぎだ。先ほどまでのニコニコ顔が、少しきりっとしたものになっていたかと思うと

 

「マスター。おはようございます。すぐに、ご飯にしますね。」

 

とまるで執事か何かのような口調で言い始める。いつもの蒼星石に戻ってしまった。うーむ、せっかくなので、さっきのご機嫌な蒼星石をもっと見ていたかったかも、何故食欲に負けてしまったのか…。勿論、今のキリリとした蒼星石もいいけれど。

一緒に洗濯物を干し終えると、二人で朝ご飯を作って食べた。最近は蒼星石一人で台所に立つことの方が多くなったし、すっかり家の家事全般は蒼星石が仕切っている。それどころか、常に何か手伝えることはないかとか、マスター、マッサージしましょうか?などと言い出す始末、本当に働き者だ。

 

 

 

「今日こそ三葉さんのお家に行くんだよね。マスター。」

 

「うん。今日こそな」

 

三葉に会ってから一週間。次の日に家で会う約束をしたのに急に断られていたのだ。というのも、向こうがクマがどうのこうのとか言って、会いたがらなかったからだ。くま…服のプリントか何かだろうか?結局、三日ほどして服だけ先に送られてきたのだった。

 

蒼星石にぴったりなサイズのフード付きの蒼い冬服。着替えて着てみると、なるほど蒼星石にぴったりだった。

サイズとか、そういったものじゃなくて、こう、蒼星石に合っているといった感じだ。一目服だけ見たときは男物っぽいと思ったのだけれど、いざ蒼星石が着てみるとふわふわしていると言うか、可愛らしい。どうですか、マスター…と、自らの体を見回す蒼星石。可愛い と素直に言ったら、顔を真っ赤させて両手で顔を隠した。

服と一緒に送られてきた女の子らしい丸文字の手紙には、謝罪と今度は大丈夫だから来て欲しいという内容が書かれていた。了解、ありがとう、と言う内容をメールで。おまけに照れくさそうに顔を隠すフード姿の蒼星石の様子を携帯の写真で撮って送ってやったら、しばらくもっと蒼星石を撮って送れというメールが止まらなかった。

 

関係ないが、めぐのメールは1秒に3通くらい送られてくる日があった。なるべく早く返信してやらな いと、ぴろりんぴろりん鳴りっぱなしになる恐ろしいメールだ。最近は水銀燈とよろしくやっているのか随分と大人しくなったものだ。まぁ定期的に鏡を通って家に来ているのもあるかもしれないな…

 

「これを食べたら、準備していくか」

 

「はい、わかりました、マスター。」

 

今日ならいつ来ても良いと言われていたので、ぼちぼち出て行く、というメールを三葉に送ってやると、わかったわ、とすぐに返信がきた。絶対に蒼星石もつれて きて欲しいという念押しつきで。ご飯を箸でかきこむと、豆腐の入った味噌汁でずずっと流し込む。両手を合わせて、ごちそうさま、そのまま食器を流しへと運ぶ。綺麗に平らげられた皿を見て、蒼星石が、わずかに口を吊りあげて微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「や、やめるかしらー!カナは食べてもおいしくな…きゃー!来るなかしらー!」

 

…今日は、平和だった。蒼星石の機嫌は良かったし、三葉との約束も普通に果たせると思ったし。でも、今まさに、その平和は乱されたのだなと、実感した。三葉の家に行く途中の住宅街で、叫び声が聞こえたのだ。それも、とても日本では着ないような黄色い服を着た少女から。

 

「蒼星石、あれって…まさか」

 

そう尋ねると、普通に話をしていた蒼星石がリュックから飛び出して、俺の左肩から身を乗り出し、状況を把握する。口に手を当てながら、その綺麗なオッドアイは細められて真剣な顔付きに変わっていた。

 

「彼女はローゼンメイデンの第2ドールです。名前は…」

 

「や、やめるかしらー!あ!!」

 

と 蒼星石の声は悲鳴に消されてしまう。複数のカラスに襲われているその黄色いドールはぶんぶんと日傘を振り回して応戦していたが、勢いあまって傘がすっぽ抜 けてしまい、きゃーっとまた悲鳴をあげる。これを好機と見たカラスたちがにじり寄っていくと、あわわわと口で言いながら、あっという間に壁に追い詰められ て、顔を青くさせた。

 

「とにかく、助けないと」

 

「え、マスター?」

 

飛んできた傘を拾ってリュックにしまうと、蒼星石がおちないよう、左手で蒼星石を担ぐようにして支えながら走る。

 

「ほらほら、しっし」

 

カーカー!とカラスたちは不満げな声を出していたが、右手をぶんぶんと大きく振ると、カラスたちは羽を広げて散っていった。壁のほうに振り向くと、両手で頭を抑えながら、おしりを突きだしながらうつ伏せになっている第2ドールが居た。未だに体は小刻みに震えている。

 

「おーい、もう大丈夫だぞ」

 

「カナはおいしくないのかしらー!!……うん?」

 

むくっと起き上がると、キョロキョロと周りを見渡し始める。オレンジ色のワンピースを着ているが、下にふっくらとドロワース風のズボンをはいている。緑色の 特徴的な巻き髪をぶるぶるとふるって、同じく緑色の目をパチパチとさせると、徐々に状況が理解できてきたのか。ありがとかしらー!と可愛らしい笑みを見せ た。

 

「やぁ、久しぶりだね。金糸雀。」

 

「そ、蒼星石!」

 

ひょこっと肩から現れた蒼星石の存在に、身を引かせて驚くカナリアと呼ばれたドール。かと思えば、慌てて何かを探しはじめた。お探し物はこれかな?と蒼星石が言って日傘を見せる。ちょっと得意気な蒼星石可愛い。

 

「か、返すかしらー!」

 

「そういうわけにはいかないよ。君の攻撃は中々厄介だからね。」

 

蒼星石は顔色一つ変えずに傘を見せびらかしている。金糸雀はぴょんぴょんと手を伸ばして跳んでそれを取り返そうとするものの、俺の肩に乗っている蒼星石までは届きそうにない。ぷくーっとほっぺたを膨らませて恨めしそうにこちらを見ていた。

流石にかわいそうだと思って蒼星石に何か言おうとした、その時、黄色い光が蒼星石の傘を持つ手に体当たりをして、日傘を叩き落した。

 

「ピチカート!?」

 

ばっと、落ちた傘を拾い上げると、そそくさと後ろに下がり、俺たちから距離をとった。

 

「やっぱり、このローゼンメイデン1の策士、金糸雀はさすがってかんじかしら!」

 

くるっと一回転して傘を開くと、ぱちっとウィンクしてこちらに自己紹介をしてくれる金糸雀。ローゼンメイデン1の策士か。見た目に反してかなりの頭脳派なのかもしれない。まぁ今のはどう見ても人工精霊のファインプレーだが。

 

「俺は柿崎忍、蒼星石のマスターをやってるよ。よろしく。」

 

「え、あ、はい、こちらこそー」

 

こちらが軽くお辞儀をすると、向こうも傘を持ったまま深々とお辞儀をしてくれた。ローゼンメイデンって、悪い子はいないんじゃないか?この子も根は良い子そうだ。

 

「じゃ行くか蒼星石、金糸雀、次は気をつけるんだぞー」

 

「はい、マスター。またね、金糸雀」

 

「はーいまたー!……って!ちょっとちょっと、それはないんじゃない!かしら!」

 

隣をそのまま通りすぎようとしたが、金糸雀はききーっと走って先回りすると、両手を広げて通り道を塞がれてしまう。参ったなぁ三葉の所に急いでいるのに…。

 

「あ!カラス!!」

 

と蒼星石が空を指差すと。

 

「きゃーー!どこかしら!やめるかしらー!」

 

と言ってばたばたと慌て始めた。いや、何も居ないんだけれども。

 

「さ、今のうちに行きましょう、マスター」

 

「え、ああ…」

 

そう言って隣で微笑む蒼星石。蒼星石ってたまに黒いんだよなぁ。俺は蒼星石を肩に乗せたまま、目を瞑って傘を振り回している金糸雀の隣をゆっくりと通り抜けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「くっくっく、蒼星石は、ちょ~っと手ごわいけれどー!カナの罠にかかればイチコロかしらー!」

 

あーなんていうか、本当、微笑ましいドールなのだな。どう先回りしたのか分からないのだけれど、住宅街の道を歩いていると、目の前には卵焼きの入ったお弁当箱がぽつんと置かれていた。いや、正確にはとっても怪しく置かれていた。というのも、糸のついたつっかえ棒と、それに支えられてるザルが、これは罠です。と 言わんばかりに置かれているからだ。ちなみに糸の先には体と顔が半分電柱から出ている金糸雀の姿もある。

 

どう対応すれば良いか肩に乗った蒼星石に聞こうとしたその時。かーかーっとカラスたちが一斉にお弁当箱に群がり始めた。

 

「あー!それはみっちゃんがカナに作ってくれた、とっても甘くておいしい卵焼き!」

 

ばっと飛び出した拍子に金糸雀は持っていた糸を離してしまい、逃げ遅れた一羽がザルに覆われてしまった。逃れた数羽が、捕らえられた仲間を助けるためなのか、もともとそういうタチなのか、金糸雀めがけて飛んで行く。

 

「きゃーきゃー!やめるかしらー!カナはおいしくないかしらー!」

 

…なんか、さっきみたぞ。これ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐすっ。助かったかしら。」

 

地面にへたり込んで、ぐずる金糸雀。先ほどからカラスを追っぱらったというのに一向に泣き止む気配がない。蒼星石は俺の肩からぴょんと飛び降りると、金糸雀の所へ向かう。

 

「どうしたんだい、金糸雀。カラスならもういないよ?」

 

「うぅ、みっちゃんが折角作ってくれた卵やきが…」

 

「みっちゃん?」

 

蒼星石はポケットからハンカチを取り出して、金糸雀の頬をぬぐう。蒼星石は王子か何かか。しかし、みっちゃん、つまりは金糸雀のマスターだろう。どうやら先ほどの罠に使った卵焼きを食べられたことが相当ショックだったようだ。なら何故罠に使ったのか…

 

「みっちゃんごめんなさい~!ついでにお腹すいたかしら~!」

 

「マスター…」

 

ぐすんぐすんと中々泣き止まない金糸雀に、困ったような顔でこちらを見つめる蒼星石。しょうがないなぁ。

 

「卵焼きくらい俺が何とかしてやるよ」

 

「ふぇ?」

 

ぐずる金糸雀と目線を合わせるために腰を下ろす。一度、良いの?と聞き返され、良いの。と言い返すと、金糸雀はぱぁっと顔を明るくさせて、やったー。かしら!と万歳して見せた。台所と卵一個くらい頼めばかしてくれるだろう。

 

金糸雀の隣に立っていた蒼星石を抱えると、ついておいで、とそのまま踵を薔薇屋敷、つまりは結菱家へと向けた。金糸雀はとことこと俺の隣に並ぶと、カナは甘―い卵焼きが好きかしら~!とご機嫌な様子、調子の良いやつだなぁ。赤いほっぺたを手で撫でて食べているのを想像しているようだった。

 

金糸雀から飛び出した黄色い光が、ふわふわと俺の前で飛び交っているお礼をしているようだった。人工精霊の方がよっぽどしっかりしてるよ。やがて黄色い光は金糸雀の元へと戻っていった。

 

腕の中の蒼星石が、水銀燈の時のように文句の一つでも言うかと思ったが、にこっと俺に一度微笑んだと思えば、よかったね、金糸雀。と笑顔で金糸雀に返していた。そんなに仲が悪くないみたいだ。しかし

 

やっぱり姉妹なんだなぁ。ふんふんふーんと鼻歌を歌い始めた金糸雀は、朝の蒼星石にそっくりだった。

 

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