ヤンデレの病弱妹に死ぬほど愛されているお兄ちゃんは蒼星石のマスター!   作:雨あられ

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第8話

「一面薔薇だらけかしら~!」

 

「だから近所じゃ薔薇屋敷、単純だよなぁ。」

 

インターホンを鳴らすと、結菱家の使用人の一人が出て、すぐに遠隔操作で門を開けてくれた。勝手知ったる他人の家、とまでは行かないが、小学生ごろから通っていたこの薔薇屋敷。辺りを見回すと少し枯れかかった薔薇のアーチや花壇が変わりなくそこにあって、何だか懐かしいような、それが嬉しいような、くすぐったい感じだ。

 

「薔薇の庭園…」

 

「蒼星石?」

 

左腕で抱き上げている蒼星石は、庭師として何かしら庭園に言うかと思っていた。しかし、ただただ、ぼーっと辺りを見ているだけで、意外と平凡な反応だ。ちなみに金糸雀はほへーっと何とも間抜けな声を出しながら辺りをキョロキョロと見回している。俺だって、初めてここにくればそんな感じになるだろうな。

 

「忍」

 

「ん?ああ、三葉、おはよう。」

 

「おはようございます。三葉さん」

 

薔薇園をみていると、不意に横から三葉に声をかけられた。今日は作業着ではなく、黒いタートルネックに青いジーンズといった機動性重視のファションだ。目立つ金色の髪は勿論後ろで束ねてポニーテールになっている。色気のなさそうな肌の露出のない服だが、なんと言うか、それが余計ボディラインを引き立たせていて妙な色気がある。

 

「おはよう、二人とも。…あれ?」

 

三葉の存在に気付いたのか、金糸雀はそそくさと俺のズボンを掴むと後ろに隠れてしまった。もちろん、三葉もそれに気づいたようだ。…その青い目が、尋常じゃないほどに輝いている。

 

「あ、あなたももしかして、ローゼンメイデン…!?」

 

そういわれると、びくっと一瞬身を震わせたが、次第にくっくっくと笑い出し。

 

「よくぞ見破ったかしら!ローゼンメイデン1の頭脳派!金糸雀かしらー!」

 

金糸雀は人見知りと言うわけではないようだ。少なくともローゼンメイデンを知っていることに気をよくしたのか、くるくると回って俺の前に踊り出ると、勝手に自己紹介をしはじめた。最後にパチンとウィンクまで決める。あーあ。

 

「か、可愛い!!!」

 

「え、きゃあ!や、やめるかしらー!ううう、こいつみっちゃんみたいかしらーーー!!」

 

三葉は金糸雀を捕獲すると、金糸雀のほっぺたに、自らのほっぺたをぐりぐりとくっつけてこすり合わせている。金糸雀の頬っぺたが、三葉に押されてぐにぐにと形が変わっている。嫌そうにもがいているものの、体格差もあって、逃げ出すことができないようだ。

 

「みっちゃん?私も昔、みっちゃん、ってよばれてたわよー?」

 

「え?えーっとじゃー、カナの知ってるほうのみっちゃん」

 

「私は結菱三葉。これで私達は少なくともお知り合いね?金糸雀ちゃん」

 

「え!?えっと、そうかしら!って、わぷ、まさつせっちゅするのはやめるかしらー!みっちゃんーじゃなかった、カナの知ってるほうのみっちゃん…でもないし、あうー、誰かー!」

 

再びぐりぐりとほっぺたをあわせる二人。三葉は暴走すると止められないからなぁ。ご愁傷様と言ったところか。

 

「俺たちもやってみるか?蒼星石」

 

「え!?え、えーっと、その、ま、マスターが望むのなら…」

 

そう言って、腕の中の蒼星石は、顔を赤くしながら俯いてしまう。本当!なんでこんなに可愛いんだよ…。

 

「蒼星せ…」

 

「じゃあ、寒いでしょうし、中に入って頂戴。」

 

満足そうな顔をしてそういう三葉と、頬をさすりながらよろよろとふらついている金糸雀。折角蒼星石とマサチューセッツするチャンスが…蒼星石はほっとしたような、残念なような、そんな顔を浮かべている。くそう、三葉のやつ…

それから俺たちは、三葉に導かれるようにして、館の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそおいでくださいました。忍様。」

 

「伊達さん、お久しぶりです。ええっと、お変わりないようで何よりです」

 

向こうの綺麗なお辞儀に対して、こちらもつたない礼で返すとニコリと笑うメガネをかけた初老の執事。心なしか皺が少し増えたようだが、柔らかい物腰は相変わらずだ。

 

「伊達、何か飲み物を…それから」

 

「カナは卵焼がいいかしら!甘い卵焼!」

 

ニコニコと細められていた伊達さんの目が一瞬驚愕で見開かれた。それはそうだ。突然、派手なフリルのドレスを着た見かけ子供が入ってきたのだから。ちなみに、蒼星石は目を閉じて人形のフリをしている。

 

俺と三葉の顔を見比べて、なにやら物思いにふけっていたが、やがて

 

「…かしこまりました。では、後ほどお持ちいたします。」

 

と言って笑顔で礼をすると、奥へと消えていった。

 

「さ、こっちよ」

 

もう少し、金糸雀について色々と突っ込んで良いんじゃないか?とは思ったが伊達さんは何も無かったかのように目を元のように細めて奥へと消えていった。一瞬瞳に涙が浮かんだように見えたが、気のせいだろうか?変な勘違いをしていないと良いが…

 

わーいっと、嬉しそうに万歳している金糸雀の手を三葉が握ろうとしたが、上手くかわされていた。嫌われたな。っと遂、声を出して笑ってしまう。…すると蛇の如くにらまれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家にはとても置けないような長くて大きなテーブル。離れて座っても話しが出来ないので、結局使うのは端っこだけだが…。

それぞれの席には、先ほどメイドさんが入れてくれた紅茶が出されている。紅茶評論家の蒼星石も満足するほどなのだから、中々おいしいのだと思う。俺にはあんまり違いが分からなかったが。

そして、真ん中には伊達さんが作ったであろうほかほかの卵焼が置かれている。ふわふわに出来ているみたいで、オムレツと普段見る卵焼の中間といった感じか。ぶすっと、金糸雀が身を乗り出して、一つをフォークに刺すと、ぱくっと口に入れる。それから口元を緩めると、もちゃもちゃとほっぺに手を当てて幸せそうに食べはじめた。結構うまそうだな、と一切れ口に放り込んでみたが、あまりの甘さに驚いた。金糸雀にはこれがちょうど良い甘さなのだろうか。

 

「ん~、とってもおいしいのかしら~!」

 

「ふふ、喜んでもらえてよかったわ。…ねぇ忍、その、めぐちゃんは元気?」

 

「元気も元気さ。この前なんて、家にあった…いやなんでもない。」

 

「えー?何よ、気になるじゃない」

 

「なんでもないんだって」

 

危ない危ない。流石にお宝本を処分されたなんていえない。めぐは三葉とそんなに仲が良くなかった。それどころか、めぐのほうが三葉を嫌っている節すらあった。三葉は仲良くなろうと色々考えてくれているのに、なんでだろうなぁ。

 

「そっちこそ、どうだ?その、おじさんとか」

 

「!…おじさんは…」

 

そう言って、顔に影を落とす三葉。そういえば、今日はまだおじさんに会っていない。それどころか、いつも車椅子を押して、付き従っている伊達さんがそばを離れていたのだ、何か、あったのかもしれない。

 

少し、間が空く。

 

「金糸雀、少し外を見に行こう」

 

「え?で、でもまだ卵焼きが…」

 

「いいから。マスター。僕たちは少し、外を見てきますね。薔薇の庭園を、見て回りたいから…。」

 

「ん?なら俺も」

 

と言おうとしたときに、蒼星石は俺に意味ありげな笑みを浮かべると、名残惜しげな金糸雀を引っ張るようにして出て行ってしまった。残ったのは、飲みかけのカップ4つと卵焼、それから。三葉と俺だけだ。まさか、気を使われた?

 

 

 

 

 

 

 

 

「も~!まだ卵焼が残っていたのに~!」

 

「マスター達を二人にさせてあげたかったんだ。今の三葉さんには、多分マスターの力が必要だから。」

 

「こっちのみっちゃんが?」

 

「うん。…みっちゃん、と言うのが君のマスターかい?」

 

「そうなのかしら!みっちゃんはオーエルとか言うところで働いていて、ぐりぐりでまさちゅーせっちゅーで、いつもカナに服を着せて写真をいっぱい撮るのかしら…」

 

元気に語っていたのに、段々とげんなりとした様子になっていく金糸雀に、自然と笑みがこぼれてしまう。マスターに初めてこちらの服を着せられたときも、同じようなことをされたっけ。あれは、その、か、可愛いとか褒められると、嬉しいのだけれどとても恥ずかしい。

 

しかし彼女は、げんなりしてこそ居るが、助けを求めたりしている辺り、みっちゃんというマスターが彼女の信頼に足りているというのは、なんとなくわかる。

二人で薔薇のアーチくぐっていたのだけれど、勝手に、足が止まってしまう。それに気付いたのか、金糸雀も日傘をくるりと回してこちらを見る。

 

「どうしたのかしら?蒼星石」

 

「金糸雀。アリスゲームについて、どう思う?」

 

「え?」

 

思わず、今思ったことをそのまま口にしてしまった。夢の中で水銀燈と話をしてからよく考えていること。アリスゲーム、お父様の望み。僕たちの存在意義それが、何だか分からなくなっていた。考えれば考えるほど、黒い渦のようなものに引きずり込まれていくような。そんな感じで。

 

「うーん、カナはそんなに深く考えてないのかしら。」

 

「深く…考えていない?」

 

同じローゼンメイデンなのに…?

 

「みっちゃんが、他のドールもほしい、って言うからローザミスティカを集めているだけなのかしら!…まだ一個も集まってないけど」

 

「!」

 

彼女のマスターがそういったから。彼女はその通りに動くと言うのか。確かに、ローザミスティカを集めるのはお父様の願いだ。だけど、彼女はお父様のためではなく、彼女のマスターが望んだから、それを集めると言う。

 

…僕にもその決断が出来ただろうか。マスターはあまりアリスゲームには積極的じゃない。だから、マスターがやめろと言えば、アリスゲームをやめる決断を、すぐに下せただろうか?

それじゃあ僕自身、存在する意義が…翠星石の居ない今、僕のできることは限られているのに…。

 

「僕は…」

 

「む~。本当はこういうのは翠星石のやることだけど…えい!」

 

「あ」

 

突然、ぎゅっと僕に抱きついてくる金糸雀。いや、抱きしめてくれている?

いつも翠星石にされていたような、ハグ。翠星石のやること…か。彼女はいつもそうだった。戦いを好まず、平和を愛していた。いつも僕は彼女に元気付けられてばっかりで、暗い顔をしているだけで。マスターにだって、いつもそう思われている。優しく抱きしめてくれるときも、頭をなでてくれるときも、僕が何かを考えているときだ。

 

身長の低い金糸雀が、めいいっぱい背を伸ばして僕の頭をなでる。おかしいな、何だか、金糸雀がとっても大きく見える。

 

「蒼星石には、蒼星石にしかできないことがいっぱいあるのかしら。」

 

「うん」

 

「アリスゲームだって、よくわからないけど、お父様が意味の無いことをさせるとは思えないし、きっと何か意味があるのかしら!

色々と悩んでも、多分お父様の考えてることは分からないし、折角だから、カナはカナなりにみっちゃんと仲良くやっていこうって、思ったのかしら!」

 

「うん」

 

おかしいな、少し、目頭が熱くなってきた。よしよし、と言って撫でてくれる彼女は、普段あまり見せない、優しい顔をしていた。

 

「全く、世話のかかる妹を持つと、お姉ちゃんはつらいのかしら~」

 

などと顔を赤らめて僕から離れると、黄緑色をしたその髪を照れくさそうにいじる金糸雀。彼女は、僕よりずっと早く生まれている。だからこそ、普段あれでも、根底にある直感や考えは僕よりも深くて、強い。先ほどの三葉さんやみっちゃんさんのように、その可愛さで人を幸せにしてあげることも出来る。僕にも、そんなことが出来るだろうか。翠星石のいない僕に。

 

「あ。」

 

突然、前を歩き出した金糸雀が声を出した。見ると、薔薇のアーチの先には、一人の老人が車椅子に座っているのが見えた。その目は遠くを見つめていて、まるで心がここに無いみたいな顔をしている。

 

「ほらほら、早速蒼星石にしか出来ない仕事なのかしら。」

 

「え?」

 

「あの人を元気にするのかしら!ここの卵焼はおいしかったから、カナも少しだけ手を貸すから」

 

「わ、押さないでよ。自分で歩けるよ、金糸雀。」

 

「ぐーん!レッツゴー!なのかしら!」

 

ぐいぐいと金糸雀に押されるがままに老人の前へと向かう。僕にしか出来ないこと。そんなこと、あるのだろうか。不安と劣等感の間に押しつぶされそうだったけど、今押されている背中の小さな手が少しだけ、頼りになった。

 

 

 

 

 

 

「君たちは…。」

 

「僕たちは、三葉さんの知り合いです。ここで何をしていたんですか?」

 

老人に声をかけてみると、こちらに顔を向けて、目があった。深い悲しみが伝わってくるような、世の中に絶望しているような、そんな目をしている。老人は再び空を見上げるとこう呟いた。

 

「……昔を思い出していたのだよ。」

 

「あー!そういえば、老人は昔をやたら美化して懐かしがるってみっちゃんも言ってたのかしら!」

 

「ちょ、ちょっと何言ってるのさ金糸雀!」

 

「過去を美化…か。確かに、そうかもしれんな」

 

老人は顎を擦りながらぽつりと呟いた。金糸雀の物言いはあんまりだけど、特に気に留めた様子でもないようだ。それにしても意味深な言葉だ。

 

「申し遅れたね。私は結菱一葉…、三葉の…保護者みたいなものだよ」

 

そう言って大きな皺皺の手を僕たちに向ける一葉さん。握手、ということだろうか。僕たちも手を出して、それぞれの名前を名乗る。物腰は落ち着いているが、どこか威厳があると言うか。昔の貴族のような礼儀正しさを感じた。

 

「一葉はどうして元気がないのかしら?」

 

ああ、金糸雀。君って奴は本当に直球だね。しかし、それくらい直球の方が、分かりやすくて良いのかもしれない。翠星石なら、少しづつ彼の心の樹を伸ばすこともできるが、今の僕には断ち切ることしか出来ないのだから。

 

「元気が無い…?……ふ、話しても仕方がないかもしれないが。実は…」

 

 

でも僕は、僕だけにしかない力で、彼の力になれるかもしれない。彼のどんな過去だろうと、僕が…

 

 

 

「三葉が最近構ってくれないんだ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蒼星石―。今日は楽しかったか?」

 

「はい、マスター。久しぶりに鋏を振るったので、少し疲れてしまいました。」

 

日の暮れた帰り道。俺の肩に手を置いている蒼星石から答えが返ってくる。蒼星石と金糸雀はすっかり結菱邸を気に入り、結局今の今まで外で遊んだり、庭の世話をしたり、でっかいスクリーンでくんくんを見たりしていた。

 

「それにしても、あのスクリーンはすごかったなぁ。まるで映画館みたいだった。」

 

「はい、すごい迫力でした。」

 

ちょっとした爆発音などが入ると、あまりの迫力にびびる金糸雀の姿を今でも鮮明に思い出せる。あわわわと腰を引かせてピチカートを呼ぶ姿はなかなかプリティだった。でも、黙って俺の服の裾を掴む蒼星石はもっとプリティだった…!

金糸雀は既に傘を差して風に乗って帰ってしまったが、また来るかしらーなどと言っていたので、もしかしたらあそこに通い始めるかもしれない。

 

「そういえば、一葉さんとは何を話してたんだ?」

 

「…それはその、色々と、です。」

 

そう言って遠くを見つめる蒼星石。いつの間にか薔薇の庭園で仲良くなっていた3人だったが、俺たちが合流したときにはなんと言うか、蒼星石はげんなりしていた。まぁ、何があったかは大体、想像がつくが。

 

「大方、三葉の素晴らしさについてのあれこれ語られたんだろ?」

 

「!どうしてそれを。」

 

「くくく、わかるさ。俺も三葉に一葉さんに対する愚痴を聞かされたからな。まぁあの人の元気が無かったのも、最近の衣装作りで三葉が忙しかったっとかそんな感じだろう?」

 

「…はい。」

 

落ち込んだような顔をする蒼星石。どうせ蒼星石が席を外したのも、おじさんに何かあった、それで三葉が落ち込んでいる。俺に元気付けさせるためにと気を使った、とかそういうことだろう。

実際は、大学生になっても終わらない過保護に悩んでいるだけだったと言うのに。

 

「一葉さんはなぁ。昔「二葉」っていう別の名前を使ってたんだ。その時のあの人は、そりゃもう、なんていうか、「怖い人」だったな」

 

「別の名前を…?」

 

「そう、あの人の、兄弟の名前さ。双子だったんだ。もう、二葉さんは亡くなってるけど。その人の代わりをやりたかったとか、言ってたかな…」

 

「双子の…代わり…」

 

「色々と複雑だったんだ。あの家は、ああ見えて。三葉だって、ずっと引きこもりだったし。一葉さんは怖いし、正面から遊びに行けるような家じゃ無かったかなぁ」

 

それが逆に、何だかわくわくしたんだけれど。

 

「三葉さんが?」

 

「意外だろ?無口だし、何考えてるかわからなかった。」

 

部屋の隅っこで、人形に囲まれるようにして座っているあいつは、まさに人形そのものと言ってもよかった。まるで意思がないような、そんな姿で。

 

「マスターが」

 

「ん?」

 

「マスターが、彼女を変えたのですか?」

 

「変えた?いや、別に普通に毎日遊びにいってただけと言うか、俺、俺の家嫌いだったから遊びに行ってただけだよ。そしたら、いつの間にか、三葉とも元気に遊ぶようになってったし、オジサンも文字通り人が変わったみたいになったし…」

 

「一葉さんのことはまだわかりませんが。三葉さんは、きっとマスターに救われたのだと思いますよ」

 

「そんなたいそうなことはしてないよ」

 

何だか頭の後ろあたりがむずがゆくなる。救われたなぁ。本当に、そんなつもりは無かった、お袋が再婚して、仕方がないから来たこの町の家なんて、大嫌いだったから。廃墟だって言うから、冒険気分でもぐりこんで遊んでただけ。薔薇も何も彼も枯れていたのだから、そう噂されてもおかしくない屋敷だったしな。

 

「僕は、誰かを喜ばせたり出来ないから…本当に、すごいことだと思います。」

 

「何言ってるんだよ。」

 

「え?」

 

またそんなことで、ネガティブスパイラルに陥りそうになってるのか、蒼星石は。よく目が見えるように、歩みを止めて、肩から抱っこするよう蒼星石を下ろすと、その宝石のような綺麗なオッドアイと目を合わせる。

 

「今日は洗濯物、干してくれた。」

 

「!」

 

「いつも寝坊する俺のために起こしてくれるし、ご飯も作ってくれる。帰ってきたら、おかえりっていってくれるし、嫌なことがあったら愚痴は聞いてくれる、楽しいことがあったら一緒に笑ってくれる。」

 

「マスター…」

 

「隣に居てくれるだけで。十分助けになってるんだよ。蒼…。」

 

「ますたぁ…!」

 

じわっと、目に涙をためたと思ったら、蒼星石は俺の胸辺りに顔をうずくめて泣き始めた。色々と溜め込んでいたのか?いや、昼に何かあったのかもしれない。どちらにしろ、この涙は嫌な感じはしなかった。なんていうか、蒼星石が、良い方に少し変わっている気がして。

 

さらさらした赤茶色の髪を撫でると、一瞬びくっとしたが、再び、俺の胸の中で嗚咽を漏らした。今日は、ケーキでも買って帰ろうかな。

 

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