お昼休みが終わり、拳藤さんと塩崎さんと別れてから次の授業の為に教室まで戻ってきた。次の授業というのはヒーロー科だけの特別授業、ヒーロー基礎学だ。プロヒーローから直々に教えを請うチャンス、自分の糧にしよう。
「わーたーしーがー! 普通にドアから来た‼︎」
席に座って待っているとピシャリと音を立てドアが開いた。
「オールマイトだ‼︎」
「スゲェや!ホントに先生やってるんだな!」
「アレ、銀時代のコスチュームね」
「画風違いすぎて鳥肌が‼︎」
今しがた登場した人物に俄かにクラスメイトがざわつく。それもそのはず教室に入ってきたのは、現代なら世界中の子供達が知っているであろうNo.1ヒーローのオールマイトだからだ。ムキムキの筋肉お化けな身体を包む青いマントが特徴的なそれは、今では見かけなくなった少し昔のコスチュームだ。
「私の担当はヒーロー基礎学、ヒーローの素地を作るため様々な訓練を行う科目だ、単位数も最も多いぞ。早速だが…今日はこれ!戦闘訓練‼︎」
「戦闘ォ‼︎」
「訓練…」
戦闘訓練と聞き、興奮する者も不安そうな者もいる。俺は楽しみだな。
「そしてそいつに伴って〜、こちらっ‼︎入学前に送ってもらった個性届けと要望に沿ってあしらえたコスチューム‼︎」
オールマイトが指を差し、01から21までの番号が書かれた箱のような物が壁から出てきた。
被服控除、箱の中身はコスチュームだ。個性届けを提出し色々なサポート企業や研究機関が作ってくれたもので、デザインや機能など自分の求めたものが入っているはずだ。
「「「おおっ〜〜!!!」」」
「着替えたら順次、グラウンドβに集まるんだ!」
「「「はいっ‼︎」」」
俺は04と書かれた箱を手に持ち着替えに行った。
ところでオールマイトが来た時にドアがかなり乱暴に開けられていたが飯田君は注意しないのだろうか?
「格好から入るってのも大切なことだぜ、少年少女!自覚するのだ今日から自分は………ヒーローなんだとっ!!!」
オールマイトがテンションブチアゲな感じで少し喧しいが俺も似たようなものだ。
「天羽君、カッコ良いね!」
「おお〜麗日氏〜、麗日氏も似合ってますぞ〜」
「何そのしゃべり方…」
麗日さんが褒めてくれた俺のコスチューム(寒い日コーデ)は、灰色のYシャツの上に携帯食料やフラッシュグレネードなどが入ったファーフード付きモスグリーンカラーのモッズコート、下はシュッとした動きやすいジーンズだ。あ、個性の為にちゃんと服の肘はレースになっている。
そして何と言っても1番の目玉は専用サポートアイテム、今回俺が頼んだのはメタリックホワイトに青色の蝶の模様が入ったガントレットとグリーブ("空式")だ。グリーブもだがこの空式ガントレットには手の平と肘に細く狭めた噴射口が付いており、ジェット噴射の威力を格段に上げている。そしてその事により機動力が劇的に上がるだけでなく遂に片手だけで「ジェットブレッド」が威力も上げて撃てるようになったのだ。材質はアイ○ンマンをリスペクトしてチタン合金を使った。他は、何故か頼んだ覚えが無い黒と白の線が交差しあったチョーカーもある。
対して麗日さんは、顔を守る半透明のマスクとボディラインがはっきり分かるパツパツスーツだ。可愛い子は何を着ても似合うね。
「天羽さんのコスチュームは、籠手と脛当て以外は変わったデザインではないのですね」
「お、おぉ…八百万さんは、すっ素敵ですね」
「ありがとうございます、本当はもっと布の面積を少なく注文したのですが…」
装備を確認していたら八百万さんが話しかけてきた。八百万さんのコスチュームは肌面積が恐ろしく広く、見ているだけで何だか悪い事をしている気分になる。その…スゴく良いです。
「ヒーロー科、最高」
「分かる」
「………」
「え、何?」
「ううん、別に」
峰田君と俺がやおよろっぱいを見て目の保養にしていると麗日さんがジト目をしてきた。何だろうか?もしかして仲が良い間柄だけの秘密の合図的なやつか?次からは俺も睨み返せばいいのかな。
「さぁ、戦闘訓練のお時間だ!」
遅れてきた緑谷君も来て全員揃ったのを確認したのかオールマイトが前にでて話し出す。
「先生!ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!?」
パトレ○バーにそっくりなコスチュームの、声からして飯田君だと分かる人が質問した。
「いいや!もう二歩先に踏み込む!ヴィラン退治は主に屋外で見られるが統計でいえば屋内の方が凶悪ヴィラン出現率は高いんだ」
確かにそうだろうな、いつもテレビとかで見るヴィラン達はチンピラみたいな後先考えて無い感じの奴らみたいだし。
「真に賢しいヴィランは屋内にひそむ!!君らにはこれからヴィラン組とヒーロー組に分かれて2対2の屋内戦を行ってもらう!!」
「基礎訓練なしに?」
「その基礎を知るための実践さ!…ただし今度はぶっ壊せばOKなロボじゃないのがミソだ。」
大きなゴーグルを頭につけた梅雨ちゃんがオールマイトに質問するとオールマイトから答えが出た。あのロボットには悪い事したなぁ…ムシャクシャしてやった、今は反省している。
「勝敗のシステムはどうなります?」
「ブッ飛ばしてもいいんスか。」
「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか…?」
「分かれるとは、どのような分かれ方をすればよろしいですか。」
「このマントヤバくな〜い?」
「何でチョーカーあるんだろ?」
「んん〜〜、聖徳太子ぃ〜!!!」
あ、しまった。みんなが矢継ぎ早に質問するから俺も乗ってしまった。オールマイト、困らせちゃったね。んん〜〜、聖徳太子が実在した人物かは諸説ありぃ〜!!!
「状況設定はヴィランがアジトに核兵器を隠していて、ヒーローはそれを処理しようとしている!ヒーローは制限時間以内に敵を捕まえるか、核兵器を回収する事。ヴィランは制限時間まで核兵器を守るか、ヒーローを捕まえる事。」
カンペを見ながら欧米かっ‼︎って感じの設定を並べていくオールマイト。
「コンビ及び対戦相手は…くじだ!」
「適当なのですか!?」
オールマイトがくじ箱を出した途端飯田君が反応する。が、オールマイトが答えるより早く緑谷君が答えた。
「プロは他事務所のヒーローと急造チームアップすることが多いし、そういうことじゃないかな…」
「そうか……!先を見据えた計らい…失礼いたしました!重ねて質問失礼します!このクラスの人数は21人、しかしそれでは1人だけ余るのではないですか?」
そう、本来なら20人で偶数になり誰も余ることが無いが原作にはいない存在の俺がいる。ここら辺はどうなるんだろう。
「それについては安心してくれ、ちゃんと考えてあるとも!まずクジ箱の中に1つだけKのクジを用意しそのクジを引いた者ともう一度戦う組みを最後に対戦させる事にする‼︎つまり6回戦中1組だけ2回戦う事になるな!」
「それだと1人の側が圧倒的に不利ではないですか?」
「その代わり、1人の側はヴィラン役にして準備時間を20分にする!それだけではなく最後に対戦する事によって、必然的にKを引いた者は自分が戦うコンビの情報が分かることになるな!時間切れになったらもちろんヴィラン側の勝利だ‼︎」
成る程、只でさえ有利なヴィラン役に準備時間延長や情報収集という1人側に好条件を付けて2人側と対戦させるのか。それでも数の暴力は覆せない気がするが…。
「誰がKを引いたかな〜?」
「ああ…はい俺です、オールマイト」
まぁ案の定というか、やっぱり俺が1人だけのチームKを引いた。これで中学の時のデジャヴだね。
「さぁ!最初の対戦相手はこいつらだ!!Aコンビがヒーロー、Dコンビがヴィランだ!」
そしてオールマイトが最初の対戦クジを引き、原作通り麗日さんと緑谷君ペア、飯田君と爆豪君ペアに分かれた。原作の矯正力ってやつだろうか?
「麗日さん」
「ん?天羽君?」
「頑張ってね………あと、いってらっしゃい」
「!……うん!いってきます!」
緑谷君チームが勝つのは分かっているが、念のため応援しておく。気分は妻を見送る専業主夫だ。気に入ってる子を贔屓目で見てしまうのは仕方ないよね。
そして第1試合が始まった。スタートして少し経ち、爆豪君が飯田君と離れヒーローチームに襲いかかるという単独行動をとった。
「いきなり奇襲…」
「爆豪ズッケェ!奇襲なんて男らしくねぇ!」
マジで?そうなると俺の考えてる作戦が破綻しちゃう…
「奇襲も戦略!彼らは今、実戦の最中なんだぜ!」
そうそう!オールマイトは分かってるな〜やっぱ。不意打ちとか上等なんだよなぁ〜やっぱ。
爆豪君の奇襲に上手く対応する緑谷君、そして爆豪君の攻撃に背負い投げで返す。どんだけ〜!!!
これは激アツだね、普段誰よりも爆豪君を見てきた緑谷君だからこその一撃だろう。
いつも見下している緑谷君に、カウンターを決められたのが癪に障ったのか爆豪君がキレた顔で何か叫んでいる。まぁコッチには聞こえないんですけどね。
そしてそのまま緑谷君は爆豪君を引きつけて、麗日さんは核を探しに行った。
「スゲェなアイツ!個性も使わずに入試2位と渡り合ってる‼︎」
合ってるんだけど、間違っても本人の前では2位って言わないようにしてほしい、キレられるの俺だからね。てか本当に爆豪君凶悪な顔してるな、ヴィラン目指してます!って感じのかっちゃんだ。
散々逃げ回っていた緑谷君が爆豪君に見つかった。
「爆豪少年!ストップだ‼︎殺す気か⁉︎」
コスチュームによる大技を放つ爆豪君、壁を抉りながら建物を揺らし緑谷君を吹き飛ばした。
「少年‼︎緑谷少年!!!」
爆風が晴れ緑谷君の無事を確認できたが…イッちゃってるね爆豪君…。
「先生!止めた方がいいって!爆豪アイツ相当クレイジーだぜ⁉︎殺しちまうぜ‼︎」
「いや………爆豪少年!次それ撃ったら強制終了で君らの負けとする‼︎」
訓練って事だからか、優しい判定だな。あのビルには麗日さんもいるし、どっちのチームの負けでもいいから止めて欲しいけど。
また始まる爆豪君の怒涛のラッシュ。緑谷君はサンドバッグ状態だった。
「リンチだよコレ!テープ巻きつければ捉えたことになんのに!」
「ヒーローの諸行にあらず…」
「緑谷もスゲェって思ったけどよ…戦闘能力において爆豪は間違いなくセンスのかたまりだぜ…」
確保テープ云々に関しては緑谷君もそうだな、せっかく背負い投げした時に爆豪君が一瞬驚いて止まってたんだから、その隙にすぐ巻き付けておくか追撃でもすれば良かったのに。が、緑谷君が窓際まで動いたって事はそろそろだ…。
「双方中っ⁉︎」
2人は交差しあい爆豪君は緑谷君へ爆破を、そして緑谷君は天井へ衝撃波を放ち、飯田君と戦っていた麗日さんが崩れた瓦礫を使い上手く核モドキを障った…。
「ヒーローチーム………W i i i i i i N!!!!!!!!」
「まぁつっても……今戦のベストは飯田少年だけどな!!!」
「勝ったお茶子ちゃんか緑谷ちゃんじゃないの?」
「んん〜そうだなぁ〜、何故だろうなぁ〜、分かる人!!!」
勝利した筈のヒーローチームから選ばれなかったのを疑問に思った生徒達にオールマイトは問い掛ける。オールマイトが挙手を促すと、八百万さんが手を挙げた。
「それは飯田さんが一番状況設定に順応していたからです。爆豪さんの行動は、戦闘を見た限り私怨丸出しの独断。そして先程、先生も仰っていた通り屋内での大規模攻撃は愚策。緑谷さんも同様、受けたダメージから鑑みてもあの作戦は無謀としか言いようがありませんわ。麗日さんは中盤の気の緩み、そして最後の攻撃が乱暴すぎたこと。ハリボテを"核"として扱っていたら、あんな危険な行為はできませんわ。相手への対策をこなし"核"の争奪をきちんと想定していたからこそ、飯田さんは最後対応に遅れた。ヒーローチームの勝ちは"訓練"だという甘えから生じた反則のようなものですわ」
「……………ま、まぁ飯田少年もまだ堅すぎる節はあったりするわけだが、まぁ正解だよ、くぅ〜〜!」
むむっ!指導者として言うべき事も全て言われたからか自信を無くしたオールマイトに川平慈英が憑依した!!楽天カードマイト!!
今回の対戦については俺も似たようなものだな。爆豪君は考えていなかっただろうが、爆破という個性故に核モドキから離れたはいいが、その後の緑谷君を集中狙いや大技でブッパ、テープを直ぐに巻かなかった事がかなりの敗因だろう。フォローみたいで絶対言わないけど。
「ようし!皆んな場所を変えて第2戦を始めよう!今の講評を良く考えて訓練に挑むように!」
「「「はい!!!」」」
その後、第2戦から第5戦まで保健室に行った緑谷君以外のA組生徒達は、互いに戦い講評し合っていた。
次はいよいよ俺の番だ。
イラストは描けないのでご自身で想像してみてください。