ゼノブレイド2×逆行(仮題) 作:フトモモ族ヒカリ派の人
エーテル供給路。ブレイドがドライバーにエネルギーを供給するための
ホムラとヒカリと一緒に旅をして、ここに戻る寸前のキズナ距離は10メートルはあった。
だが今はほぼ初対面で、ホムラの別人格であるヒカリとは顔合わせすらしていない。そんな状態で、何度も一緒に死線を潜り抜けてきた時ほどの絆があるものか?
結果を見れば、それはすぐに理解できる。
悲痛な声を上げるホムラ。
思い通りの動きをしないレックスの身体。
飛びかかってきたカエルは、全盛期のレックスの何十倍も遅く、今のレックスの何倍も早く、重い。
「アンカーショット!!」
咄嗟にホムラの側に生えていた木にワイヤーを打ち込み、距離を取る。
今まで通りに戦ったら死ぬ。
レックスは今の一攻防──いや、一退でそう理解した。
ホムラからのエネルギー供給を受けながら、かつての自分を、
あの頃は、『天の聖杯』という莫大な力を得て悦に入っていた。ある種の全能感すら持っていたし、それはインヴィディアでヴァンダムさんを死なせるに至った。ホムラをシンに奪われたこともある。あんな無様は二度と御免だ。
内心を焦がす激情が、レックスの拳に力を込めた。
「この状況は全く意味分かんないけど···もう、誰も死なせない!!」
かつて恩人を死なせたとき、そう誓った。
今は、その恩人すら助けられるかもしれなかった。
パートナーが自分を忘れているというのは何とも悲しいが、思い出はまた作ればいい。
そう、レックスは自分に言い聞かせた。
「ホムラ、行くよ!」
「はい、レックス!」
それから、レックスは思い出すように剣を振った。
姿勢を戻しやすい攻撃、必ず仕留める攻撃、相手を止める攻撃。
絶対に防ぐための防御、攻撃に繋げるための防御、相手の邪魔をするための防御。
一通りの動作を確認し終えたとき、ホムラが叫ぶ。
「レックス、行けます!!」
「オッケー!!」
キズナが高まり、パスが金色に光る。エネルギーの質と量が共に高まり、パスの接続距離が伸びた証だ。
「「バーニングソード!!」」
剣から吹き出す高温のエーテルが体表を焼き、地面から吹き上がる炎と衝撃が内臓を貫く。消滅していくモンスターを見ながら、レックスは剣を納めた。
「さてと···この後は」
レックスは記憶を辿る。この後セイリュウが巨神獣から小神獣になり、ニアと合流してグーラへ向かう。トラと遭遇···の前に、カグツチ率いるスペルビア軍と戦う羽目になるのだったか。
「なんとかなる、いや、もうちょっとレベルを上げた方がいいかな···?」
ぶっちゃけこの周囲の敵となら、レベル差があっても問題にはならない。スペルビアのイカみたいに大きいワケでもないし。ルクスリアのエイみたいに馬鹿げて強いワケでもないし。メツみたいに武器が消滅したりしないし。回避ライジングやら一人ドライバーコンボをしてくるシンほどの技量もないし。
なんと平和なことか。
「レックス、セイリュウさんの反応はこっちからします。早く···レックス?」
「いや、ホムラ。もう少し身体を慣らしてから行こう。じっちゃんなら大丈夫だから」
そのうち小さくなってふよふよとこっちに来るかもしれないし。レックスは呑気にそう考える。
一時間ほど経った頃、ホムラがしびれを切らしたようにレックスの肩を掴んだ。
「レックス、このくらいにしておきましょう? そろそろセイリュウさんやニアちゃんを探さないと」
「もうちょっとぐらいいいんじゃない? まだレベルもそんなに上がってないし」
湿地に住むモンスターは、大概が2~4レベル。レックスのレベルは5。ホムラには十分に見えた。・・・だが、レックスの知識は、この湿地で完結していない。もっと強いモンスターが跋扈する巨神獣に行った記憶がある。もっと早く動けた記憶がある。今のままでは絶対に勝てない相手を知っている。今のままでは、救えないひとを知っている。
「レックス?」
「・・・分かったよ」
ホムラが怒りを見せると、レックスは渋々といった体で武器を納めた。
「この後はどうなるんだっけ・・・? じっちゃんが小さくなって、ニアと合流して、グーラの街に行って・・・トラに会うんだ」
脳裏に「アニキ!!」と呼んでくるノポンの姿が過り、レックスは微笑した。
ホムラが眉を寄せるが、それには気づかない。
レックスは覚えていなかった。過去のこの時、ニアがどんな状態に在ったか。
「・・・セイリュウさんが落ちたのは、この辺りのはずですけど」
「もう小っちゃくなった後なんじゃないの?」
「ちっちゃく、ですか?」
首を傾げたホムラにちらと視線を向けると、レックスは勝手知ったる湿地を進む。
「そうそう。なんでも、特別な巨神獣にだけできるすごいコトらしいよ」
「・・・」
能天気に語るレックスに、ホムラはもの言いたげな視線を向けるだけで答えない。レックスは(疑ってるな)とは思ったが、(まぁ、縮んだじっちゃんを見れば分かるでしょ。百聞は一見に如かずってね)とも思い、それ以上は何も言わず歩を進めた。
数分ののち、レックスは墓標のように突き立つ杭と、明らかに致死量の血を流したセイリュウを見つけた。