ゼノブレイド2×逆行(仮題)   作:フトモモ族ヒカリ派の人

2 / 2
2

 エーテル供給路。ブレイドがドライバーにエネルギーを供給するための(パス)の長さは、培った絆の深さによって伸縮する。絆を深めれば深めるほど伸びるそれを、誰が呼んだか『キズナ』とも言う。

 ホムラとヒカリと一緒に旅をして、ここに戻る寸前のキズナ距離は10メートルはあった。

 だが今はほぼ初対面で、ホムラの別人格であるヒカリとは顔合わせすらしていない。そんな状態で、何度も一緒に死線を潜り抜けてきた時ほどの絆があるものか?

 

 結果を見れば、それはすぐに理解できる。

 悲痛な声を上げるホムラ。

 思い通りの動きをしないレックスの身体。

 飛びかかってきたカエルは、全盛期のレックスの何十倍も遅く、今のレックスの何倍も早く、重い。

 

 「アンカーショット!!」

 

 咄嗟にホムラの側に生えていた木にワイヤーを打ち込み、距離を取る。

 今まで通りに戦ったら死ぬ。

 レックスは今の一攻防──いや、一退でそう理解した。

 ホムラからのエネルギー供給を受けながら、かつての自分を、()()()()()()()を想起する。

 あの頃は、『天の聖杯』という莫大な力を得て悦に入っていた。ある種の全能感すら持っていたし、それはインヴィディアでヴァンダムさんを死なせるに至った。ホムラをシンに奪われたこともある。あんな無様は二度と御免だ。

 内心を焦がす激情が、レックスの拳に力を込めた。

 

 「この状況は全く意味分かんないけど···もう、誰も死なせない!!」

 

 かつて恩人を死なせたとき、そう誓った。

 今は、その恩人すら助けられるかもしれなかった。

 パートナーが自分を忘れているというのは何とも悲しいが、思い出はまた作ればいい。

 

 そう、レックスは自分に言い聞かせた。

 

 「ホムラ、行くよ!」

 「はい、レックス!」

 

 それから、レックスは思い出すように剣を振った。

 姿勢を戻しやすい攻撃、必ず仕留める攻撃、相手を止める攻撃。

 絶対に防ぐための防御、攻撃に繋げるための防御、相手の邪魔をするための防御。

 一通りの動作を確認し終えたとき、ホムラが叫ぶ。

 

 「レックス、行けます!!」

 「オッケー!!」

 

 キズナが高まり、パスが金色に光る。エネルギーの質と量が共に高まり、パスの接続距離が伸びた証だ。

 

 「「バーニングソード!!」」

 

 剣から吹き出す高温のエーテルが体表を焼き、地面から吹き上がる炎と衝撃が内臓を貫く。消滅していくモンスターを見ながら、レックスは剣を納めた。

 

 「さてと···この後は」

 

 レックスは記憶を辿る。この後セイリュウが巨神獣から小神獣になり、ニアと合流してグーラへ向かう。トラと遭遇···の前に、カグツチ率いるスペルビア軍と戦う羽目になるのだったか。

 

 「なんとかなる、いや、もうちょっとレベルを上げた方がいいかな···?」

 

 ぶっちゃけこの周囲の敵となら、レベル差があっても問題にはならない。スペルビアのイカみたいに大きいワケでもないし。ルクスリアのエイみたいに馬鹿げて強いワケでもないし。メツみたいに武器が消滅したりしないし。回避ライジングやら一人ドライバーコンボをしてくるシンほどの技量もないし。

 なんと平和なことか。

 

 「レックス、セイリュウさんの反応はこっちからします。早く···レックス?」

 「いや、ホムラ。もう少し身体を慣らしてから行こう。じっちゃんなら大丈夫だから」

 

 そのうち小さくなってふよふよとこっちに来るかもしれないし。レックスは呑気にそう考える。

 

 

 一時間ほど経った頃、ホムラがしびれを切らしたようにレックスの肩を掴んだ。

 

 「レックス、このくらいにしておきましょう? そろそろセイリュウさんやニアちゃんを探さないと」

 「もうちょっとぐらいいいんじゃない? まだレベルもそんなに上がってないし」

 

 湿地に住むモンスターは、大概が2~4レベル。レックスのレベルは5。ホムラには十分に見えた。・・・だが、レックスの知識は、この湿地で完結していない。もっと強いモンスターが跋扈する巨神獣に行った記憶がある。もっと早く動けた記憶がある。今のままでは絶対に勝てない相手を知っている。今のままでは、救えないひとを知っている。

 

 「レックス?」

 「・・・分かったよ」

 

 ホムラが怒りを見せると、レックスは渋々といった体で武器を納めた。

 

 「この後はどうなるんだっけ・・・? じっちゃんが小さくなって、ニアと合流して、グーラの街に行って・・・トラに会うんだ」

 

 脳裏に「アニキ!!」と呼んでくるノポンの姿が過り、レックスは微笑した。

 ホムラが眉を寄せるが、それには気づかない。

 レックスは覚えていなかった。過去のこの時、ニアがどんな状態に在ったか。

 

 「・・・セイリュウさんが落ちたのは、この辺りのはずですけど」

 「もう小っちゃくなった後なんじゃないの?」

 「ちっちゃく、ですか?」

 

 首を傾げたホムラにちらと視線を向けると、レックスは勝手知ったる湿地を進む。

 

 「そうそう。なんでも、特別な巨神獣にだけできるすごいコトらしいよ」

 「・・・」

 

 能天気に語るレックスに、ホムラはもの言いたげな視線を向けるだけで答えない。レックスは(疑ってるな)とは思ったが、(まぁ、縮んだじっちゃんを見れば分かるでしょ。百聞は一見に如かずってね)とも思い、それ以上は何も言わず歩を進めた。

 

 

 

 数分ののち、レックスは墓標のように突き立つ杭と、明らかに致死量の血を流したセイリュウを見つけた。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(必須:10文字~500文字)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。