ザッ ザッ
「うう、なんだか気味が悪いよぅ、416」
「あんたのハロウィン衣装みたいなもんでしょ、こんなの」
どこかの病棟のような、輸血液のぶら下がったベッドと見たことのない文字で書かれた本の棚しかない部屋をゆっくりと進みながら、そうごちる。
「……っ、静かに」
先頭にいる45が次の部屋で何かを発見したようだ。その指示に反応し、トリガーに指をかける。幸いにも弾薬は目一杯もっていた。ついでに鞄の中身もアイツ用の菓子が入っていた。
部屋を覗き込んでいる45の側に付いて、状況を確認する。
「何かいた? 鉄血?」
「ううん、違うわ。ヤツらじゃない」
「でも、友好的ではなさそうよ」
45と場所を入れ替えて部屋を覗き込む。
医療ベッドが多く並んだ広い部屋の中央、そこにいたのは獣だった。
「狼……?」
それにしてはその獣はあまりに大きく、私達以上の体格だった。
しかし無防備にも、そいつはムシャムシャと私達に背を向けて何かを貪っているようだった。
「骨格からして変だし、何を食べたらああなるんだろうね」
私と逆側から覗いていた9が続ける。
「戦闘力が読めないね。動きも速そうだし」
「どうする? 45姉」
その時興味本位かぴょんとG11が顔を出して、すぐに引っ込める。
そのまま壁にもたれると、心底嫌そうな声で抗議する。
「あんなのと相手したくないよぉうえぇ」
「全くあんたねぇ……ほら、これあげるから少しは気張りなさい」
「おおっ! これはシュヴァルツサンダー!」
モムモムと頬張る姿に、やる気は出たみたいで一先ず安心。まだストックはあるし、頑張ってもらわないと。
「もぐもぐ、でもアイツ、むぐ、なんか傷ついてないかな」
「手負いなら、んっ、殺れそうだよ」
こんなんでも流石というべきか、観察眼はしっかりと発揮していた。
45も同じ結論に至ったのだろう、既に準備を始めている。
「手負いでも、能力が未知数である以上、確実にやるわよ」
「9、閃光手榴弾はあるわよね? 合図で放って。416、榴弾はいつでも撃てるようにね」
「オッケー」
「了解」
「G11はここで援護射撃をよろしくね。急所は頼んだわ」
「うん、わかったよ」
返事から間もなく用意を終える。榴弾に余裕がある訳ではないけど、必要な一発というのは自覚していた。
「私と416で右に回るわ。9は逆から挟んで」
「先ずは足から潰すわ。いい?」
指でカウントダウンをする。何度となく繰り返した行為だ。
3
2
1
カランッ
キィーン!
「怯んだ! GO!」
閃光手榴弾は見事に獣の目前で炸裂し、確かな効果を発揮していた。悶える獣を挟むように飛び出し、頑健な後ろ脚に火力を集中させる。
「グオォオ」
「くっ、効いているの?!」
視覚を奪われ、パニックに陥った獣は辺り構わず暴れ回る。銃弾は確かに獣を貫きダメージを与えているはずなのに、一向に倒れる様子を見せない。
「45姉、膝もつきそうに無いよ!」
「9!! 危ない!」
音を頼りにしたのか、9に向かってがむしゃらに振り回した腕が彼女を吹き飛ばす。無造作に置かれたベッドが、彼女の動きを制限したのが不運だった。
「アガァ! ッ416!」
「このぉ!」
ドーンッ!
それでも、その隙を見逃す訳がなかった。裏拳のように振った腕によって開いた胸元に、遠慮なく殺傷榴弾をお見舞いする。
ダン! ダン! ダン!
肉が抉れ、肋骨をもぎ取られた獣が断末魔の声を上げる間もなく、G11の狙撃が獣の眉間に1発、心臓に2発撃ち込まれる。
そのままドサリと崩れ落ち、死亡を確認する。
「死んだ? ……おお、死んでる……」
トコトコと寄ってきたG11が検死している間に、彼女を探す。ベッド3つ4つ程吹き飛んでいたけれど。死んだかしら?
「9、大丈夫? あなたも死んだかしら?」
「もっちろん、この通り!」
まぁそんな訳が無いけど。
すぐさま助け起こした45が9の状態を確認する。
「良かったわ、大きな怪我もなさそうね。心配したわ」
「うん、ありがと! ……ごめんね、45姉」
「いいのよ、私も悪かったわ」
二人をよそに私は獣の腕をみやる。異常に硬く太く伸びた爪を。もしあれが裏拳でなかったら……
それに、45の青ざめた表情、真っ先に9に向かった姿。
「……フンッ」
「さ、9も大丈夫みたいだし、45、行くわよ。こんな所でもたもたしていられないわ」
踵を返して先に進む。想定以上に消耗したことに、不安を押し隠しながら。
これからは416主観で進めていこうと思います。