文豪HAZARD   作:魂魄せんむ

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第1話 或る山中

 ヘリの捜索にあたり、救出チームが探偵社員によって構成された。

 捜索にあたるのはリーダーの国木田(くにきだ)を筆頭に、太宰(だざい)谷崎(たにざき)(あつし)鏡花(きょうか)の5名。福沢(ふくざわ)乱歩(らんぽ)賢治(けんじ)は社に残った。

 谷崎が操縦するヘリは、消息を絶ったヘリとの通信記録を頼りに、ヨコハマから数十キロ離れた山中を飛んでいた。

 すっかり陽は落ち、暗闇に包まれた森をサーチライトで照らしながら低空飛行する。

 しばらく探すと、谷崎が声を上げた。

 

「あそこにヘリらしきものが!」

 

 サーチライトに照らされた先には、不時着したヘリらしきものが見えた。

 

「よし、この辺りにヘリを降ろしてくれ」

 

 国木田の命令で谷崎はヘリを巧みに操り、木々の広く空いた隙間にヘリを着陸させる。

 

「谷崎はヘリを見ててくれ」

 

 谷崎が(うなず)くと、4人はヘリを降り現場へと向かった。

 先程、谷崎が見つけたのは、やはり軍警のヘリだった。どうやら不時着したようで、ぐしゃぐしゃになったコックピットではパイロットが死んでいた。しかし、それ以外に人影は見られなかった。襲撃された跡も無い。

 

「ヘリに居ないということは、与謝野医師(せんせい)は生きている可能性が高い。周囲を捜索してくれ」

 

 4人は周辺を注意深く探した。

 

「与謝野せんせーい!与謝野せんせーい!」

 

 敦が目一杯名前を叫ぶが返事は無い。

 

「やっぱり、居ないのかな…」

 

 敦が諦めかけたその時だった。後方の(くさむら)からガサガサと音がした。音がした方を懐中電灯で照らすと、叢から人の腕らしきものが出てきた。

 

「誰かいるんですか?」

 

 敦が叢に近寄ろうとすると、腕はボトリと落ちた。腕は食い千切られたようであり、見るに堪えない様であった。

 人の代わりに叢から出てきたのは犬だった。しかし、犬の様子は明らかにおかしかった。片耳は無く、皮もところどころ剥けて肉が露わになっている。そして、地面に落ちた人の腕を貪るように喰っていた。その姿はまるで怪物(モンスター)のようであった。

 その光景に、敦はただ呆然と突っ立っていた。

 不意に、犬が敦を見た。そして咆哮(ほうこう)し、いきなり敦に飛びついた。

 敦は押し倒されて地面に伏した。

 

「やめろ!離れろ…!」

 

 敦が思っていた以上に怪物は狂暴で、執拗に喉を狙ってくる。人の急所を知っているようだ。

 敦も必死に抵抗する。犬は荒々しく涎を垂らしながら、敦に襲いかかる。

 騒ぎを聞きつけ、誰かが敦のところへ駆けつけた。銃声がしたかと思うと、怪物は悲鳴をあげて敦の上から退いた。

 

「大丈夫か?」

 

 駆けつけた国木田が敦の腕を掴んで起こす。

 

「はい、なんとか…」

 

 敦はフラフラになりながらも、なんとか身体を支えて立ち上がる。

 

「しかし、これは一体…?」

 

 国木田がそう言いかけたときだった。国木田に撃たれたはずの犬が、唸り声をあげながら立ち上がった。気がつくと、辺りには様子の似た犬たちが2人を囲んでいた。

 

「異能力!『独歩吟客(どっぽぎんかく)』!」

 

 国木田はそう叫ぶと、愛用の手帖を懐から取り出し、その中の1枚を破った。すると、「閃光榴弾(フラッシュグレネード)」と書かれたその(ページ)から拳大の榴弾が現れる。瞬時にピンを抜き、それを投げる。

 

「逃げるぞ敦!」

 

 閃光が炸裂し、犬たちは視界を奪われる。その隙に2人は走り出す。

 国木田の異能力「独歩吟客」は、手帖の頁に書かれたあらゆるものを具現化することが出来る。ただし、大きさは概ね手帖サイズまで、さらに国木田本人が形と機能を理解しているものに限られる。

 2人は急いでヘリに向かう。それと同時に、ヘリコプターのプロペラが回る音がする。

 

「待て!谷崎!!」

 

 国木田がそう叫んだときには、ヘリは宙に浮いていた。

 

「何をしてるんだ!早く戻ってこい!!」

 

 しかし、国木田の叫びは虚しく轟音に掻き消される。

 

「くそ…!」

 

 国木田は立ち止まり、膝を付いた。息を整えながらそう呟いた。

 敦が振り返ると、まだ怪物たちは追ってきていた。

 

 (まずい…!)

 

 そう思ったとき、銃声が響いた。

 

「2人とも、走れ!」

 

 声がした方を見ると、太宰と鏡花が同じ怪物と交戦中だった。

 国木田は拳銃のマガジンを入れ替えると、敦の腕を掴んで再び走り出した。鏡花と太宰も続いて走る。

 時折、後ろの怪物たちに発砲しながら、ひたすら森の中を走る。

 すると、前方にうっすらと明かりが漏れている建物を見つけた。

 

「あの建物まで走るんだ!」

 

 太宰が息を弾ませながら叫ぶ。

 4人は無我夢中で走り続け、建物の中に入った。

 玄関に鍵が掛かっていなかったことが、不幸中の幸いだった。

 最後に入った太宰が玄関のドアを閉めた。

 

「これで一安心だ」

 

 4人が逃げ込んだのは古い洋館だった。

 玄関は大広間のように広く、中央に大階段がある。壁には油絵が飾られているが、どれも不気味な絵ばかりだ。全体的に手入れはあまりされておらず、大階段脇に置かれたタイプライターには(ほこり)が積もっていた。

 

「しかし、人が居ないように静かだな」

 

 国木田が辺りを見回しながら言う。

 

「不気味な館…」

 

 鏡花は怖いのか、敦の隣に駆け寄る。

 

「ここは一体、誰の館なんでしょうか?」

 

 敦が当然の疑問を口にしたときだった。

 館の西側から、銃声のような乾いた音がした。

 

「なんだ?」

 

 国木田は咄嗟(とっさ)に銃を抜く。

 

「銃声だね…」

 

 太宰はそう言うと少し思案すると、

 

「国木田君、様子を見てきてくれない?」

 

 と付け加えた。国木田は眉をひそめる。

 

「なんで俺が…」

 

「あれー?もしかして…」

 

 太宰がニヤリと笑うと国木田は、

 

「別に怖いとかそんなんじゃないからな!」

 

 と、早口でまくしたてた。

 

「まだ何も言ってないよ」

 

五月蝿(うるさ)い!お前はいつも俺であそびおって…!」

 

 いつものように太宰の襟首を掴む国木田。太宰は襟首を掴まれても笑顔だ。

 

「だったら、僕もついて行きますよ」

 

 敦がそう言うと、国木田は太宰の襟首を掴んでいた手を放した。

 

「良かったね国木田君!」

 

「お前なぁ…!」

 

 国木田は太宰への怒りを隠せないでいる。

 

「じゃあ、2人とも頼むよ」

 

 太宰は軽い調子でそう言った。

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