文豪HAZARD   作:魂魄せんむ

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第2話 喰う者

 玄関ホール西側の重々しい扉の先は、蝋燭(ろうそく)だけが灯る薄暗い大食堂だった。

 真ん中に白いクロスが敷かれた長いテーブルには、使い込まれた銀の食器が並べられ食事の準備がされていたのであろうが、どれも長いこと使われていないらしく厚く埃が積もっていた。部屋の奥には暖炉があるが、薪はくべられていない。

 

「誰も居ない、か…」

 

 国木田が周囲を見回す。絨毯(じゅうたん)が敷かれていないので、2人の足音が響く。

 不意に、先を歩いていた敦の歩みが暖炉の前で止まった。

 

「どうした敦?」

 

「国木田さん、コレって…」

 

 敦が震える指でさした先には血溜まりがあった。

 国木田はしゃがんでそれに触れる。指先にベッタリと紅い液体が付着する。

 

「まだ乾いていない…」

 

「ということは、まだ近くに負傷者がいるんじゃないでしょうか?」

 

「そうだな。見つければ、何か情報を掴めるかもしれん。捜すぞ」

 

 2人は近くの扉を開け、大食堂を出た。

 そこは廊下だった。赤い絨毯が敷かれており、明かりがついているが薄暗く、不気味な雰囲気を醸し出していた。

 右側には扉が2つほどあり、一番奥で左に折れて続いているのが見える。その一方で、左側には他に扉が無く、突き当たりはやや広くなっているのが見えた。突き当たりの広間の壁には、人がうずくまっているような形の影が映しだされていた。

 

「生存者かもしれん。急ぐぞ!」

 

 2人は急いで左の広間に向かう。しかし、寸でのところまで来たとき、2人の足は自然と止まった。

 影の正体はやはり人だった。服装から見て男性のようだが、どこか様子がおかしかった。何かを一心不乱に貪っている。

 

「おい、大丈夫か?」

 

 国木田が男の肩に手をかける。不意に男が振り向くと、国木田はギョッとして、思わず肩から手を離した。

 男の肌は乾燥した石膏(せっこう)のように白く、口の周りは鮮血で濡れていた。

 男の口から肉片が落ちた。男が喰っていたのは、人だった。喰われていた者は、既に息絶えた様子だった。

 国木田は男から距離をとり、咄嗟に銃を構える。

 男はゆっくりと立ち上がり、手を前に伸ばして(うめ)き声をあげながら近づいてくる。

 

「止まれ!止まらないと撃つぞ!」

 

 国木田が怒鳴るが、男は声が聞こえてないのか、前進を止めない。

 

「止まれ!本当に撃つぞ!」

 

 男との距離は徐々に縮まる。

 想定外の事態に敦は足が(すく)み、身動きがとれないでいる。

 その時だった。

 

「どけ」

 

 何者かが敦を退け、男の方へ向かう。そして次の瞬間、轟音が廊下に響き、男は蜂の巣状になり倒れた。

 突然起こったことに、2人は呆然としていた。

 

「お前ら、一体何をしている!もう少しで死んでいたぞ!」

 

 慣れた手つきで銃のマガジンを替える。轟音をあげていたのはアサルトライフルだった。

 

「あなたは…?」

 

 国木田が聞くと、男はまじまじと2人を見つめる。

 

「見たところ、(ここ)の者じゃないな?俺は但馬(たじま)。軍警の特殊部隊員だ。お前らは?」

 

「武装探偵社の国木田です。こっちは同じく探偵社の敦です」

 

 国木田に紹介され、敦は軽く会釈する。

 

「探偵社か…。そうすると、アンタらはどうしてここに来たんだ?」

 

「我々は、あなたがた軍警とそれに同行した与謝野さんの救出に来ました」

 

「ああ…なるほどね」

 

 但馬は納得したように頷く。

 

「与謝野さんについて、何か知りませんか?」

 

 2人は何か情報を得られると期待した。が、但馬は首を横に振った。

 

「山中ではぐれてしまったからな。ここにたどり着いた隊員もごく僅かだ」

 

「そうですか…」

 

「で、これからどうするんだ?」

 

 但馬が2人に質問する。

 

「我々は玄関ホームで待機している仲間に、状況を知らせに戻ります」

 

「そうか。俺はコイツを調べる」

 

 但馬が指したのは、先程喰われていた人だった。さっきはよく見えなかったが、但馬と同じく武装していた。

 

「同僚の方、ですか?」

 

 敦が恐る恐る話しかける。

 

「ああ…。お前らも気ぃつけろよ」

 

 但馬は低い調子でそう言った後、付け加えて、

 

「コイツのようになりたくなければ、奴らを見つけ次第始末することだ。頭を狙え。急所に当てたところでコイツらは倒れん」

 

「コイツらは、一体何なんですか?」

 

 敦の疑問に但馬が答える。

 

「信じられないかもしれないが、コイツらはゾンビだよ。たとえ知り合いだろうと見つけたら容赦するな。()れなければ逃げろ。わかったな?」

 

 2人は黙って頷くしかなかった。

 

 

※ ※ ※

 

 

「太宰、緊急事態だ!」

 

 国木田の声だけがホールに響く。玄関ホールに戻ると、そこにあるべきはずの2人の姿は無かった。

 

「太宰!太宰!」

 

 国木田が名前を呼ぶが、返事は無い。敦は階段の裏を見てみるが、小さな蜘蛛が壁を這っているだけで2人の姿は無い。

 

「こっちにも居ません」

 

 敦がホールの中央を通って戻ってくる。すると、何かが敦の爪先に当たった。

 

「なんだろう…?」

 

 蹴飛ばした物を拾い上げる。

 それは、鏡花が常に持っていた携帯電話だった。この携帯電話は、鏡花の異能「夜叉白雪(やしゃしらゆき)」の制御装置としての機能も兼ねている。

 

「国木田さん、これ…」

 

 敦は携帯電話を国木田に見せた。国木田は何かを察したように呟く。

 

「…2人も緊急事態か」

 

 国木田は懐から愛用の手帳を取り出す。

 

「異能力『独歩吟客』」

 

 手帳に何やら複数書き込み、それらを具現化する。そして敦に具現化した物を全て手渡した。

 

「持っていけ。役に立つかもしれん」

 

 手渡されたのは、手のひらサイズの小型拳銃と替えのマガジン、そして閃光榴弾だった。

 

「手分けして捜そう。俺は西側を調べる。お前は東側を頼めるか?」

 

 敦は不安げな表情を浮かべていたが、決心したように返事をした。

 

「よし。何かあったらここで落ち合うとしよう。それらの使い方は分かるな?」

 

「はい、大丈夫です!」

 

 敦がそう答えると国木田は一瞬、口元に笑みを浮かべた。そして、また扉を開けて大食堂へと戻っていった。




太宰治(以下:太宰):「さて、記念すべき第一回目の後書きなんだけどもね」

中島敦(以下:敦):「あー、そういえば今まで後書き無かったですね」

太宰:「うん。作者曰く、ネタが無かったそうだよ」

敦:「うわぁ…理由がメタい…」

太宰:「何はともあれ、ここは後書きだ。どんなことも自由に言えるのだよ敦君」

敦:「その言葉は信用していいんですかね…?」

太宰:「失礼だなぁ。ところで、敦君は何か今作についての疑問とか無いの?」

敦:「疑問…ですか?」

太宰:「うん」

敦:「う〜ん…。あっ、そういえば、軍警の但馬さんって原作には居ないキャラですよね!」

太宰:「そうだよ。本当はモブ扱いだから名前無くてもいいとか考えてたんだけどね」

敦:「なんで太宰さん知ってるんですか!?」

太宰:「カンペ」

敦:「無かったですよね!?」

太宰:「細かいことはいいんだよ。ここは後書きなんだから」

敦:「後書きってこういうものでしたっけ?」

太宰:「気にしすぎると国木田君みたいに禿げるよ」

敦:「国木田さんは禿げてませんよ!?」

太宰:「他に気にするところあるでしょ」

敦:「…?」

太宰:「ほらほら〜」

敦:「えぇ〜…あっ」

太宰:「おっ?」

敦:「なんで…太宰さんが居るんですか…」

太宰:「それだよ〜、それそれ。いやー敦君が気づいてくれてよかった〜」

敦:「よくありませんよ!?なんで太宰さんがここに居るんですか?」

太宰:「後書きだから」

敦:「は?」

太宰:「?」

敦:「いや、『?』じゃねぇよ!」

太宰:「後書きに主人公(?)の私が出るのは当然だろう?」

敦:「いや、太宰さんは主人公じゃないですよ」

太宰:「え?」

敦:「は?」

次回に続く…(?)
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