はぁ…面倒臭い。
嫌だ嫌だ。
麻雀っていうものは私を不幸にする。
家族。
姉妹。
友達。
全てを踏み躙ってぶち壊しにする。
これさえ無ければ…こんなものさえ無ければ。
私は幸せに生きていけたのに。
神様って存在は、どうあっても私と麻雀を縛り付けたいらしい。
神様って存在は、どうやっても離れられないように結び付けたいらしい。
そんな碌でもない神様なんて、消えてしまえばいいのに。
人と人を結び付ける神様にだったら、敬意を払ってもいい。
でも…麻雀の神様にだけは憎悪を、嫌悪を、殺意を。
私の悪意の全てを持って、ありったけの憎しみをぶつけてやりたい。
「私は、麻雀が嫌い」
「私は、そのいい加減な態度が嫌いです」
「私は、あなたの自分勝手な考え方が嫌い」
「私は、あなたの自分本位な考え方が嫌いです」
「私は、幸せそうなあなたが嫌い」
「私は、自分だけが不幸な気でいるあなたが気に食わない」
水と油。
どう取り繕っても交わることの無い私とこの人。
考え方が合わない。性格が合わない。
思考が噛み合わない。
お互いを嫌いあって、お互いを忌避する。
「私は、お前が嫌いだ」
「私は、あなたが嫌いです」
仲良しこよしなんて、絶対に出来ない。
想像するだけで鳥肌が止まらない。
「お前のその目が…希望に満ち溢れた目が大嫌いだ」
「あなたの独りよがりで頼ることを諦めたような目が心底嫌いです」
「お前に何がわかる…」
「何もわかりませんよ」
「…っ……お前なんかにっ…私の何がわかるんだよ!」
「分かるわけないでしょう! 自分一人で抱え込んで、誰にも寄り掛かることをしなかったあなたの自分勝手なエゴを! 誰が理解できるんですかっ!」
好き勝手言われても、もう何も思わない。
言葉になんの重みも無い、薄っぺらい軽薄な台詞。
こいつは、相談相手がいる幸せを理解していない。
誰かに頼れることが如何に幸せなことか、理解出来ていない。
頼る人間もいない、一人ぼっちで育った、姉妹すらも奪われた私の事を。
「偽善者が理想を語るな…どん底まで落ちてから物を言えよ」
「人の底の深さなんてものは人それぞれです。あなただってまだ底まで到達したとは言いきれません」
「…それが理想論だって言ってるんだけど…死にたくなる程の環境にいて、まだ底があるって? 笑わせないで」
「そうでしょう。死にたくなる程、でも死んでいないのだから底とは言いきれませんよ?」
「じゃあ私に死ねって言いたいの?」
「どうしてそう極論しか言わないんですか…その前に、誰かに頼ってみてくださいと言ってるんです」
「だからそんな相手なんてっ」
「いるじゃないですか。須賀君だって、私だっていいんです。誰でも、一度は頼ってもいいじゃないですか」
簡単に言うけど、私はそんな簡単に頼れない。
血の繋がった姉でさえ、父親や母親でさえ頼れる対象にならなかった。
そんな人間が会ったばかりの他人に頼れなんて土台無理な話。
こいつは無責任で、無遠慮で、無自覚に人の心に割って入ってくる。
「もういい…こんな話しても無駄だった」
「そうでもないですよ。こんな無駄な話だとしても、あなたがどうして人を拒み続けるのか…少しだけ分かった気がします」
「……知ったような」
「咲」
今まで黙っていた癖に、話が終わりかけた頃にタイミング悪く入ってくる。
これが男の空気の読めなさかもしれない。
「俺はそんなに頼りないか?こんなでも中学からの付き合い…って言ってもそんな長くもないか」
「付き合いって…一方的に絡んでくるだけでしょ」
「そうだったか?でも突き放すわけでもなく今までつるんできただろ」
「そうかもしれないけど…」
突き放しても、気付かずに絡んできただけなのに。
都合よく解釈する考え方をするから嫌いなんだよ。
「私は人が嫌い。なんでも口を挟んで何も知らないことを知っているかのように語るその根性が嫌い。人の心は自分にしか分からない、それを知らない上で無責任に押し付けてくる価値観が嫌い。人がああ言ったから、他の人はそう、自分はそう。その癖自分が言われると他人とは違う、一緒にするな。言う時と言われた時で対応が変わるから信用ならない。他人にそう言うなら自分がまずそうあるべきなのにね。だから、私はお前達には頼らない。仮に麻雀と関わる人生になっても、人に頼ることなんて絶対に無い」
何度言われても、私は人を好きになんてなれない。
家族が元に戻らない内は私の心が癒えることも無い。
普通で幸せだった家族を、返してもらうまでは。
「私、帰る。ここで麻雀を打っても楽しくないし、そもそも麻雀が好きじゃないのに…」
「麻雀が嫌いな理由も…関わっているんですか?」
「…寧ろ主な原因が麻雀だよ、他にも色々あるけど」
「……では、まず麻雀から…好きになる努力をしてみませんか?」
「…気が向いたらね」
「私は待ってますよ。宮永さんがもう一度打ってくれるまで、ここで待っています」