そういうところが嫌い   作:蒼い鳥

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第3話

どうしてだろう。

離れようと思えば思う程その対象は近付いてくる。

何の因果か知らないけれど、麻雀は私にしつこく絡み付く。

やめたい、やりたくない。

何度そう願っても、嫌になるほど押し付けられる。

好きな物ほど手に入らず、嫌いな物は望まなくとも手元に。

払い除けても、捨てても、離れても、いつの間にか返ってくる。

多分世界は、そういう風に出来ている。

この世界のそういう所が、私は嫌いだ。

 

過去も未来も現在も、私の好きなようには生きられない。

嫌々にでも生きなければ望むものは欠片程も手に入らない。

無い無い尽くしの嫌味ったらしいこの世間が、世界が、そうさせてくれない。

どう利口に生きても、無理難題を押し付けられて簡単に瓦解する理想を。

愚行を繰り返してでも理想の為に生きる理念を。

理念に押さえ付けられた理性を。

全てを捨てても手に入らないこの世界の理が、私は嫌いだ。

 

いつだって、どんな時だって、私の前に壁が存在する。

試練と言い直してもいい。今日は、この学校の有名人。

 

 

「あなたが…宮永さんね?」

「…一体誰なんですか」

「学生議会長の竹井よ」

「ああ…それで、何の用ですか」

「学生議会長でもあるし、私は麻雀部の部長でもある。宮永さんの一件は部員から聞かせてもらったわ」

 

 

思った通り口の軽い連中だ。

昨日の今日でその場に居なかった人間に話すとはなんとまあ気遣いも思い遣りも無いものだよ。

まあその程度想定の範囲内だったけどね。

普通なら関わらないと思うけど、この麻雀部の部長…あの部員の上なだけあって似たり寄ったり。下らない仲間意識で私をどうにか麻雀の席に座らせたいのかな。

 

 

「麻雀なら打ちませんよ」

「ありゃ…分かってたか。でもそこをなんとか、ね?」

「私の話、聞いたんですよね。ならその上で麻雀を打てと?嫌いな麻雀を、嫌いな人間達と打てと?」

「押し付けがましくて申し訳ないけど…あなたの実力が知りたいの」

「知ってどうするんですか。少なくとも私が打つメリットは無いですし、打っていて気分がいい人達じゃないんですよ。つまらない人間性の上に大した実力も無くて手加減されていることすら気付かず素人扱い、気付いた人も変に突っかかってくる始末で…どんな部活なんですかあれ」

「それは全面的にこちらが悪いとしか…ごめんなさい…」

「部長のあなたも、私の話聞いたんですよね?それでも打ってほしいって…何考えてるんですか」

「それも私の都合…あなたの…宮永さんの実力を見込んでの話よ。私と一緒に……大会に出て欲しいの」

「嫌です。誰が好き好んであんなクソゲーの大会になんて出るんですか」

「…そこをなんとか…お願いします。私には…今年しか……今しか無いの! 部員が足りなくて現状だと大会には出られない…だからあなたしか頼る人がいないのよ!」

「知りませんよ…残念ですけど、他の人を当たってください」

「二年待った…今やっと、あなたという最後の希望が現れたの。だから…力を貸して欲しい…どんな手段を使っても手に入れたいのっ」

 

 

望まなければ手に入らない…この人はあいつらより愚直に、汚い手を使ってでも力を望む人。

そして…私には出来ない、人を頼るという手段を躊躇いもなく行使出来る人。

ああ…強いなぁ。

私には無い強さを持っている。

どうしてこんな人の近くに、あんなのが集まるんだろう。

類は友を呼ばないね。案外慣用句も間違ったものが多いや。

でも、だからこそ…私は私に無い強さを持つ人を嫌悪する。

嫉妬、羨望、なんでもいい。

ただ私が手に入れられなかったものを手に入れられる力を持っている人が憎ましい。私にその力があれば、私は…。

 

 

「お断りします…私にはあなたの願いを叶える力も、あなたの願いを叶えてあげたいと言う思い遣りもありません。大会に出るだけなら素人でも何でも使えばいいと思いますよ…では、失礼します」

「待って! ……私の願いは、大会に出る事じゃない…ううん、出るのは当然…目指してるのは、インターハイ優勝よ!」

「……優勝…」

「その為には、あなたが必要なの!」

 

 

やっぱり…この人の真っ直ぐ過ぎる言葉は、私の心に突き刺さる。

私の死んだ筈の心が、この人の為に立ち上がれと奮い立つ。

心臓の鼓動が早まって、血を回す。頭を回す。運命の歯車を回し始める。

 

 

「私は…目標の為に、夢の為に、全力を尽くし、後輩の私にさえ頭を下げるあなたのなりふり構わない姿勢が嫌いです。上に立つ人間が下手に出るその態度が気に入らない、簡単に言えばムカつくんですよ」

「じゃあ…どうすればいいのよ…。私にはその程度の力しか無い…後輩にだって頭を下げて、使える手段は使い果たした…もう…」

「だからこそここであなたの手を取れない私が…私自身が何よりも嫌いです。人に頼れない私は、人に頼られることが何よりも苦痛。そんな私にあなたの手を取る資格はありません」

 

 

その程度の力しか無いんじゃなくて、そんなにも力があるんだ。

この人はもっといい人を手に入れられる。

私なんかじゃなく、部活の和を取り繕える人を取り込むべきだと思う。

チームの、団体の和を乱すのは崩壊を招く。

私はそれを、家族で体験したから。

 

 

「ならっ…私があなたの手を取る! 私が欲しいものはどんな手を使ってでも手に入れる!是が非でもモノする…覚悟しなさい宮永さん、私を本気にさせたこと…後悔させてあげるわ」

 

 

…私とあの人は水と油…どうやら私は油だったみたいで、この人の燻って消えかけた炎に引火したみたいだ。

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