ここ数日、私は生徒会長…いや、学生議会長に付きまとわれている。
先日麻雀部に入って大会に出て欲しいと言われ、断ってからほぼ毎日だ。
正直うんざりしてる。
目立たないように生活をしていた筈なのにクラスに現れ声を掛けてくるせいで他のクラスメイト達の衆目に晒される羽目になった。
それだけじゃ飽き足らず読書中も、食事中も、何時何時だろうと所構わず勧誘をしてくる。
私は自分勝手な人間が嫌い。
あの人は目的の為には手段を選ばない。
他の生徒にも聞こえるように私を誘うものだからクラスメイトに部活に入ってあげたら、なんて余計な口出しをされるようになった。
こうして大した事ではないが外堀を埋めていく。
そして関係の無い立場故に無責任に勧めてくるクラスメイト達にも嫌気がさした。
ならお前達が入ればいい。大声でそう言えたらさぞ気持ちいいだろう。
でも私は平穏な生活を送りたい。だからこの言葉は心の中に留めておく。
「ねぇ宮永さん、気は変わった?」
「……本当にしつこい人ですね。何度来ても何回聞いても私の答えは変わりません。こんなことしてる暇があったら麻雀の練習でもしたらどうですか?」
「練習を放棄してでもあなたを勝ち取る方が価値のあることよ」
「それは単に私頼りということになりますよ。ワンマンチーム程崩壊が容易いものはないですね」
「勿論あの子達も練習はしてるし、私自身も部活以外でしっかりやってるつもり。そしてあなたさえいれば完璧なのよ」
どうして私ばかりが狙われるんだろう。
それこそ打てそうな人間を募ればこの人ならいくらでも集まりそうなものなのに。
いつだって私は何かに追われている。
暗い暗い仄暗い闇の底から何かが手招きしている。
そして私は一度、その闇に呑まれた。
どうにか這い上がった時には、私の世界は見るも無惨に砕け散っていた。
何も無い、空虚で、閑散とした、虚無の世界。
喜び合える相手も、怒りをぶつける相手も、哀しみを慰めてくれる相手も、楽しさを分かち合う相手も、何もかも居なくなった。
頼れる大人も、遊ぶ友達も、要らない。
頼れるのは自分だけ。
閉じ篭もれる独りの世界があればいい。
こうやって私は、ひとりで死んでいきたい。
できるのならば…私に関わらないでほしい。
「……じゃあ、私が麻雀部に入ったら…干渉しないで貰えますか。大会には出ます、でも部活には出ません。練習相手もいりません、そのせいで負けたら土下座でも何でもします。だから…私に関わらないでください…」
ありったけの苛立ちをぶつけてやった。
なのにこの人は、笑顔だった。
「うん…それでも十分よ。入ってくれるだけでも儲けもの、あなたの好きにしてくれて構わないわ。大会の日時とかは追って伝えるから……これでやっと始まるのね」
嬉しそうな顔を見るのは、あまり好きじゃない。
自分が不幸な目にあったから、人が喜ぶ姿が癪に障る。
我ながらなんと小さい器だろうとは思う。
でも…これが、これこそが人間の在るべき姿なのかもしれない。
人の幸福を喜べる人間は、それこそ聖人君子のような性格で、生まれながらにそういうものなんだろう。
そんな人間はひと握りで、私はそんな大層な人柄はしていない。
仮に育ちがまともだったとしても、妬みや嫉みを持ってしまうだろう。
だから私は、独りが好きなんだ。
独りが好きで、独りが嫌い。
家族が好きで、家族が嫌い。
本当の私はどっちなのかな。
いつだって私は好き嫌いが共存する。
その中で嫌いな方を選び続ける。
その方が、幸せだから。