絆の軌跡   作:悪役

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特別実習 セントアークⅠ

「あっつっつ……筋肉痛が……」

 

「マッサージはしたのか?」

 

「したけど……まぁ、あんなアドリブコンビクラフトの後じゃあなぁ」

 

鉄道の席で他のメンバーと会話しつつ、レイは体を解していた。

 

「でも、凄かったわねぇ……あのクラフト。私から見たら、もう何が何やらで理解できなかったわ」

 

「フフ……私はそなたとフィーが良き好敵手であると改めて理解して素晴らしかった……」

 

ラウラの凄い綺麗な笑顔と声にぞくぞくする───恐怖で。

帰ったら、俺はどうなってしまうだろうか……。

 

「ま、まぁ、それはともかくとして。今頃A班はどうなっていると思う?」

 

「んー……あんまり言いたくないけど僕はその……予想通りだと思う」

 

全員がうんうん、と頷いて、あの実技テストの後を思い出す。

全員の実技テスト終了後、やはりというか予定調和的に次の実習の目的地と班分けのプリントを渡された。

その内容が

 

 

【5月特別実習】

A班:リィン、エマ、マキアス、ユーシス、フィー

(実習地:公都バリアハート)

B班:レイ、アリサ、ラウラ、エリオット、ガイウス

(実習地:旧都セントアーク)

 

 

というものであった。

ああ、この教官、間違いなくやる気満々だな、と売られている二人を除いて全員が理解したであろう。

そして当然

 

「サラ教官! いい加減にして下さい! 何か僕達に恨みでもあるんですか!?」

 

「……茶番だな。こんな班分けは認めない。再検討をしてもらおうか。」

 

予想通りの反応をしたので全員が耳を塞いだが、当の教官は暖簾に腕押し状態。

一応、ユーシスは実家。マキアスは何やら貴族の本山だからというちゃんとした理由もあるようだが、感情で認められるはずがない。

だから、サラ教官は普通に笑顔で

 

「それとも、実力で変えてみせる?」

 

と、笑顔で二人に問うた。

 

「……くっ」

 

「ちっ……」

 

それに対して、二人がそのまま挑む事は出来なかった。

これは、単純に俺とフィーが事前にサラ教官の実力を曝け出していたが故の理解だろう。

逆に、サラ教官の事実を知らないままなら、そのまま挑んでいた可能性は大いにある。

で、まぁ、結局あのままのチーム分けで挑む事になったのだが

 

「まぁ、サラ教官はリィンを見込んでああいうチームにしたんだろうけどな」

 

「見込んでって……リィンに力がないってわけじゃないけど、そこまで簡単にどうにかなる問題かな……?」

 

エリオットの疑問も最もだが、そうとしか言えないから説明しようがない。

リィンはこの一、二か月で大体理解したが、非常にトラブルメーカーである。

だが、トラブルメーカーというのは逆に言えばトラブルに対処するのが上手いという事である。

聞いたところ、人間関係、金銭関連、物、その他色々という様々なバリエーションなトラブルをリィンが解決してくれたとの事らしい。

情報源はトワ会長……ではなくクロウである。

あの人が傍に来ると体が未だにぞわぞわっと来るのだ。それはもう、強烈に。

だから、それを語ると

 

「……いや、それは貴方も……」

 

「うむ……無自覚、というものか」

 

「レイは何だか変な所で……」

 

「……まぁ、リィンと違って女子関連で鈍感ではないだけマシというものではないか?」

 

アリサ、ガイウス、エリオット、ラウラの順で何やら言われるが無視する。

俺はリィンみたいに人間関連系でのトラブル対処は苦手なのだから問題ない。

 

「ま、いない相手を気にしても意味ないさ。今回も気楽にやってけばいい。そんなもんだろ」

 

「本当に気楽ねぇ……まぁ、でも緊張し過ぎても意味はないわね」

 

「ああ。俺達らしくやろう」

 

ガイウスが綺麗に締めてくれたのでそうだろうと、頷きつつトランプを取り出した。

 

「あ、レイはトランプ持ってきたの? 僕もブレードは持ってきたけど」

 

「ブレードも悪くはないけど、今回は集団でやろうかと思ってな」

 

ほぅ、うむ、あら? と他のメンバーも協調してくれたのでふむ、とカードをシャッフルしながら

 

「暇潰しに罰ゲームでもするか」

 

「……パンツ頂戴なんて破廉恥な罰ゲームは嫌よ」

 

「その誤解がまだ解けていないか!」

 

あのヅカ王子が引き起こしたイベントはクラスの絆にすら罅を入れるとは……今度出会ったら唐辛子を目玉に注入してやろうか。

 

「そ、そういうのじゃなくてな。例えば、負けたらお互いに聞きたい事を聞いてみたいとか。所謂、交流ゲームだよ。例えば、ラウラ、趣味は?」

 

「今の所、レイとフィーと腕試しをする為に追いかける事だな」

 

「……聞きたくなかった……」

 

最近の彼女の朗らかな笑顔が怖いです。

彼女にバトルジャンキーの趣味を与えた人間は誰だろうか。彼女の父親だろうか。

 

ちくしょう……真っ向からじゃ勝ち目がねぇ……。

 

「と、まぁ、こんな感じに遊びと交流を深めてセントアークに辿り着く、ちょっと前まで遊ばね? 他のメンバーはともかくガイウスとアリサとラウラは前回の旧校舎で組むのが初めてだろ」

 

「そういえばそうね……」

 

「確かに盲点だった……」

 

クラスの交流は氷河期に入っている二人以外は問題ない。

問題ないが、やはり付き合いが短いのは事実だ。

そこは正直、どうしようもない事実なのだ。対策があるわけでもないし、特効薬があるわけでもない。

だから、こうしてコツコツと交流を進めるしかないのだ。

 

「それにしてもレイって凄いね?」

 

「はぁ? どうしてエリオット。おだてても手品しか出ないぞ」

 

「へ? う、うわぁ! レイの手から薔薇が急に!?」

 

「意外な特技だな」

 

特技以下のスキルだから、そこまで自慢出来るものではない。

少なくとも、本職の人から見たらザルだ。

 

「いるか? アリサ、ラウラ」

 

「いや、純粋に嬉しいけど……」

 

「この場で貰っても飾る事が出来ないではないか……」

 

御尤もで。

だから、薔薇は一旦、手から消して、代わりに

 

「わぁ……」

 

「ほぉ……」

 

アリサの方にはクッキー。

ラウラの方には飴。

それが両手から現れ、二人に差し出した。

 

「うわっ、これ……どこで買ったの?」

 

「別に。普通にトリスタで買ったものだ。高級品じゃないから気にするな」

 

「いや……しかし、御代を……」

 

「わざわざ金を取る為に買わんよ」

 

二人して何か言いたげな表情になったが、そのままお礼を言って貰ってくれた。

 

「さてエリオットとガイウスには……」

 

「え? 僕達にもくれるの?」

 

「有難いが……本当にお金の事は大丈夫なのか」

 

「ああ。こう見えても暇な時に魔獣倒してセピス塊売ってるから気にすんな。それに、俺は基本、男女平等だぜ?」

 

ごそごそ、とあっれーー? とか言いつつ目当ての物を探しているレイを余所に四人が思わず目線で会話する。

 

暇な時にって……。

 

そんな暇があるのかしら……

 

部活動にこそ入っていないが、リィンみたいに生徒会の依頼がないのに何かに奔走しているのが私の普段のレイのイメージなのだが……

 

少なくとも、魔獣を倒しにいっている姿を、そこまで見た覚えはないな。

 

アイコンタクトの範囲を超えている気がするが、そこはリンクで補っている。

無駄にARCUSを使いこなしていた。

 

「っかしいなぁ……ここら辺にガムを入れていたと思ったんだけど……」

 

「むしろ、どこにそれだけのアイテムを入れていたんだ?」

 

ガイウスの突っ込みに周りもつられてレイを見ると何時の間にか道具やらお菓子やらが結構、出てる。

本当にどこに入れているのだろうかと全員が気にするが、本人は気にするなと言うので渋々引いた。

 

「お。あったあった。ほら、二人にはガムだ。美味いぞぉ」

 

「あ、ありがと」

 

「感謝する」

 

パンパン、と今度は出した道具やお菓子を収納していく。

周りが凄い不審な目でこちらを見てくるが無視する。

 

「さて……じゃ、まずはババ抜きからやろうか?」

 

 

 

 

 

 

まもなくセントアークですというお馴染みのメッセージで現実に戻らされてB班。

そのトランプの内容は

 

「納得いかないわ! レイにダウトでここまで嘘がばれるなんて……もう一勝負!」

 

「時間的に無理だから諦めろアリサ。そんなのを言うなら神経衰弱の時のガイウスの記憶力と勘の良さはなんだ。風の導きパワーはチート過ぎるだろうが」

 

「そうか? 俺はむしろポーカーでのエリオットの謎の圧力が怖かったのだが……」

 

「そ、そうかなぁ……ラ、ラウラはババ抜きでちょっとポーカーフェイス崩れていたね?」

 

「むぅ……ああいうのは私は苦手なのだ……」

 

まさか、罰ゲーム以外で互いの個性がここまで暴露されるとは思わなかった集団は色んな意味で感慨深い思いを既に抱きつつ、とりあえず片付けを始めた。

 

「さて……セントアークか」

 

「A班が行っているバリアハートよりはマシだけど帝国の大きな貴族街の一つね」

 

「確か、Ⅰ組にいる四大名門のハイアームズ家が領主であったな」

 

「ふむ……リィンを学生館三階のサロンに招待した学生か」

 

「ユーシスやラウラ、リィンと比べると何だか典型的な貴族って感じだったよね?」

 

時々、俺はエリオットの順応が怖い。

次にラウラの剣を持っての笑顔。一番はトワ会長かもしれない。

まぁ、確かにエリオットの言うとおり典型的な小物な感じの貴族であったが。

物語で言うと主人公達に嫌がらせをするタイプの人間。

嫌な事に、あの同級生から何故か何度かこちらを見る視線を感じる。

いや、俺というよりⅦ組をという感じなのだが。

視線に見るからに、こちらに対しての侮蔑が込められていて、おいおいと何度か思った。それはあの坊ちゃんだけじゃなくてⅠ組の生徒のプライド高そうな生徒からだが。

 

「大方、Ⅰ組の貴族生徒からしたら特別なクラスなんて思い上がってこの野郎っていう感じなんだろうよ」

 

「……別に、Ⅶ組は我らが作ったものでもなければ思い上る要素もないのだがな」

 

正しく、ラウラの言う通りなのだが、そういう感じに見えるのだから仕方がない。

 

「……まぁ、なんだ。別に深く気にしないでいいとは思うが、やらかされないように気を付けとけよ。他の戦闘系はともかくアリサやエリオット、エマ、マキアスは色々と不安だぞ? 現時点で言えば一番不安なのはマキアスだが」

 

「……そういえば以外にもマキアスはユーシスでイメージが出来上がっていたけど、他の貴族生徒とはそこまで喧嘩してないね」

 

確かに、エリオットに言われてそういえばと思った。

ある意味で、ユッシーのお蔭で他の貴族に視線を集中する所ではないのかもしれない。

最近は、リィンが余計な言葉遊びをしたせいでリィンにも敵意が集中していたし。

まぁ、あれは完全にリィンのせいだから同情はせんが。

それも含めて、今回の実習でリィンが何とかするだろう。

無理だったら知らん。

まぁ、それはさておき

 

「今回は出来るだけ無問題で行きたいなー」

 

でも、何故だか知らないが無理な気がする。

ここにいるメンバーがリィンを含めて、全員トラブルメイカーだからだろう。

 

 

 

 

 

 

「うわぁ……!」

 

エリオットのこの第一声こそ、アリサは皆の心情を表してくれているだろうと思う。

正しく、貴族の街と言われても過言ではない豪奢な街並みの光景。

歩く人も、勿論、貴族ではない人もいるのだろうけど中には明らかに隠す気がない煌びやかな衣装を着て歩いている人が多い。

店も場合によるけど綺麗な所や大きな店が多い。

ケルディックは賑やかであり、ここも間違いなく人の数と規模なら間違いなく賑やかと評せるものがあるのだが方向性が違う。

ケルディックは楽しそうという感じがしたが、この町は少し威光が強過ぎて重さを少し感じてしまうものだ。

第一印象から決めるのは余り好きではないのだが、少しここは自分とは合ってないのかもしれない。

 

「レイ? それで? 私達は着いたらどうすればいいんだっけ?」

 

「何故流れるように俺に聞く。まぁ、確かにサラ教官から聞いてるけど。とりあえず、宿屋に迎えだってさ。ここで立ち止まっても意味もないし、行こうぜ」

 

地図を見ようともせずに歩いていく彼を見ると、どうやら今回も彼は来た事がある街らしい。

どれだけこの男は旅をしているのだろうか。

とりあえず、やはり宿も豪華であった。

 

「トールズ士官学院の皆様ですね? お話は聞いております」

 

と、歓迎の挨拶を受け、そのまま部屋に案内される。

今回は男女別に分けられている事に皆に気づかれないようにほっとした。

いや、まぁ、三人ともそういうのはしないタイプの人間っていうのは解っている。

レイは怪しいが、実のところ、彼は彼でギャグで抑えられる範囲でしかそういう事はしないので、そういう意味でなら信頼できる。

だけど、それとこれとはやっぱり別で……ラウラみたいにきっぱりするのが士官学院の生徒として正しいとは解っているんだけど……つい。

そして、そのまま荷物を各自の部屋に置き、ロビーに再び集まり支配人から例の特別実習の依頼を手渡された。

早速、中身を見る。

 

一つ目は手配魔獣。

二つ目は店のイベント手伝い。

三つ目はモデルを求めるというもの。

 

「……一つ目はまぁ、前にもあったものだな」

 

「うん。そこは実に士官学院らしい依頼であるのだが」

 

「……二つ目の店はレストランのようだな」

 

「じゃあ、二つ目は大安売りを手伝ってとか、店特有のイベント手伝いかなぁ?」

 

「三つ目はタイトル通りみたいで、依頼人も服飾関連の店らしいからそのままの依頼のようね」

 

何やら今回は珍し気な内容ばかりだ。

まぁ、珍しいと言ってもまだ二回目だから珍しいと判断するに早い気もするが。

 

「必須は手配魔獣だけみたいだな……これは一番最後に回した方がいいな。この面子なら問題はないだろうしな。じゃ、武器とオーブメントの手入れが終わったら早速行くか?」

 

レイの提案には最もだと思うし、その方がいい自分でも思っているので否はないが

 

「その前に班のリーダーを決めるのはどうかしら?」

 

すると、他の四人も意図を理解したのか。同意するように頷く。

唯一、意図が通じなかった当の本人は

 

「リーダー? まぁ、別にいいんじゃね? その方が身も心も締まるっていうなら問題ないし、引き際と攻め際&判断力を養うっていうなら何の問題もないしな。どうする? アリサがやるのか?」

 

ここで私がやるのか? って聞くのがレイらしいというか。

あからさまだろうに、それに本当に気付いていない。

そこら辺は微妙にリィンと被っている。

好意の意味が違うかもしれないが、そういった部分に鈍感である。

 

……もしくはわざとなのかしら……。

 

よく考えれば。

彼もクラスの中で過去を語る人間ではなかった。

知っているのは家族が遊撃士で自分も見習いとして働いていたこと。

そして自分が記憶喪失の人間である事。

それが全てであった。

まぁ、それは皆からしたらの私もそうなのだから気にしないでおこう。

だから、今はその自分はまるで関係ないっていうその表情を崩すために

 

「とりあえず、多数決で決めたいんだけど───」

 

勿論、私達が誰を指名したか言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

「ここが例のレストランか」

 

ガイウスはレイの先導を元にレストランに辿り着いた。

何故か、店はカーテンを閉め切っており、閉店しているのではないかと思ったが中で色んな人が動く気配をしたので間違いなくここだろうと思ったのだ。

レストランの名は『ロワイアル』

何故か、嫌な予感がする名前であった。

周りのメンバーも表情が何故、こんな店名にっという顔である。

だが、まぁ、別に店名に罪があるわけではないので無理矢理嫌な予感を振り払い、店の扉を開けた。

店は普通に広い店であり、何をメインにしているのかは理解出来なかったが、もしかしたらバイキングという形式の店なのかもしれない。

断言が出来ないのは依頼にあるイベントの為か。席が纏められており、中央に何やら横長の机と椅子が置いてある。

一体、どんなイベントをするのだろうか。

段々と興味が湧いてきた。

 

「あ! トールズ士官学院の学生ですね!?」

 

イベントの設営の指示を出していた女性がこちらに向かって声をかけてきたのでこちらも挨拶をしながら女性の方に向かった。

 

「初めまして。トールズ士官学院Ⅶ組B班のレイ・アーセルと愉快な仲間ですが、依頼のイベントというのはこちらの方で?」

 

愉快云々でアリサが凄い目でレイを睨んでいたが、本人は普通に無視した。

リーダーに指名された事を根に持っているのかもしれない。

まぁ、それでも黙ってこなす所がレイらしいが。

 

「はい、こちらの方です! 良かった! 来て頂いて!」

 

どうやら活発な女性らしい。

笑顔を撒き散らせ、周りに明るい雰囲気を生み出しており、見た目からすると店員の方かと思い

 

「あ! 自己紹介がまだでしたね! 私、店長のローラと申します! よろしくお願いします!」

 

「───皆。落ち着け。驚きたくなるのも仕方がないが、口調や仕草から明らかに事実だ」

 

世の中、不思議というものは数多くあるものだ。

よくよく考えればトールズ士官学院の旧校舎といういい例があるのだから不自然に若いくらい普通かもしれない。

何やら女性陣が頻りに自分の肌や髪を気にしていたが気にしない事にした。

 

「何やらイベントの手伝いという事らしいですが……見たところ、設営の方はかなり終わっているようですが……」

 

「あ! いえ! 今回、皆さんに手伝ってほしいのはイベントの設営じゃありません!」

 

失礼かもしれないが、レイの敬語というのも珍しくて驚くが、余り偏見で決めつけるのも失礼だなと思い、気を締めることにした。

 

「では何か……必要な素材でも? 危険な場所にしかない食材とか?」

 

「いえいえ! そういった細々としたものはこちらで揃えています! ───皆さんに頼みたいのはイベントの参加なんです!」

 

「参加?」

 

思わずといった調子でエリオットが口を挿む。

エリオットの疑問は最もだ。

見たところ、観客席だけを見ても結構な人数が参加するみたいだ。

その中で、学生である自分達が参加するのは浮くのではないかと思う。

それに

 

「ですが、こちらも他の依頼があるので余り時間は取れないのですが……」

 

「あ! それなら大丈夫です! イベント自体はもう直ぐ始まりますし、時間も一時間くらい取ってもらえば……」

 

ふむ、と少しレイはローラさんに相談の時間を取らせて貰い、こちらで集まる。

 

「一時間程度なら確かに不可能ではないか……」

 

「ふむ……私も余りこういうイベントについて詳しくはないが……しかし見た所困っているのは確かなようだ。なら、受けてもよいのではないか?」

 

他のメンバーも同意らしく、なので決定権があるレイの方を見る。

はいはい、と言いたげな仕草と表情で受ける事が一致した。

 

「では、イベントの詳細を知りたいのですが……」

 

「あ、はい! 参加は男性三人によろしくお願いしたいです! 女性の方々は細かな所を手伝って貰えれば!」

 

「あ、女子は直接参加しないんですね?」

 

アリサは多少、ほっとしたような顔をしている。

女子はこういったイベントで前に出たい派と前に出たくない派で別れるものなのかと思いつつ、質問の答えを聞く。

 

「はい! ───流石に女子の方に参加させるわけにはいきません!」

 

「え?」

 

何やら言葉の選び方がおかしかった気がする。

レイも気付いたようだが、気のせいだと思ったのだろう。特別追求せずに

 

「では、イベントの中身は……」

 

「はい! ───出された食事を食べ切るイベントです!」

 

再度の言語選択に店の前で無視した嫌な予感が蘇った。

 

 

 

 

 

 

 

『はーーーい! 今日も皆さん集まって頂いてありがとうございます! 今回も隠れイベントの始まりですよーーーー!』

 

ワァーー! と騒ぐ中、レイはとりあえず座って周りの観客の視線を受ける。

すると隣のエリオットが小声で

 

「はは……やっぱり、ちょっと緊張するね」

 

「食べられる所を注目されるのは初めてだ……正直、帝国の食事のマナーを上手く出来るか不安だ」

 

「まぁ、流石にそこまで目くじらは立てられないとは思うが……いざという時は俺かエリオットに聞けばいいさガイウス」

 

「かたじけない」

 

「僕もちょっと心配なんだけどね……」

 

確かに人に食べられる所を注目されるというのは初めて近い経験だろう。

とりあえず、出来るだけ下品に食べないようにしなくては。

すると、俺の隣の他の参加者であるおじさんがこちらに笑顔で話しかけてくる。

 

「ガハハハハ! 何やら珍しい制服着ている子供らしいが、度胸がある子供達だな!」

 

「いやぁ、これも学院の授業の一環でして」

 

「授業の一環で参加するのか! ───凄い授業だな!?」

 

何やら参加者の皆さんの言葉の選び方もさっきから不穏だ。

他にも

 

「ああ……この状況で談笑する余裕があるたぁ、活きがいい子供だ」

 

とか。

 

「あそこにいる同じ制服の女の子は彼女かい? 成程……男だから見栄を張りたいよな……」

 

などと嫌な予感を増長させる言葉しかない。

見れば、頑強なおじさん集団は皆、武者震いに震えている。

まるで魔王に挑む勇者のようなテンションになっている気がするのだ。

 

「……早まった気がする」

 

まるで、天使の祝福を受けたはずなのにその天使は実は悪魔でしたという感じの。

間違いなく何かがおかしい。

良くて味の批評をする係り。

悪くて大食い競争だろうと腹を括っていたのだが、どちらも違う気がする。

遊撃士として培ってきた経験がさっきから警報を鳴らしている。

だが、もう賽は投げられた。

何故なら、もう目の前に料理が置かれたからだ。

 

「……普通のサラダですね?」

 

しかし、思ったよりもそれは普通のサラダであった。

緑に赤、黄色と様々な野菜を盛り合わせ、何やら赤いソースが惜し気もなくかかっているコースの第一走。

どうやら無駄に構え過ぎたのかもしれない。

もう食べてもいいらしいのでフォークを取り、いただきますと手を合わせる。

周りが戦々恐々しているのを無視してサラダを食べる。

うん、新鮮さを第一に、優しさすら感じるその食べ応えに後からソースの甘……甘? ───苦い。

最早、毒のレベルにまで昇華された苦味が一瞬で口の中で爆発した。

 

「ぶはっ!」

 

隣のエリオットが余りの苦みに耐え切れずに吹き出そうとするが───何時の間にか背後に立っていたウェイターがエリオットの口を無理矢理閉じさせた。

 

「お客様───料理を口から出すのは禁止で御座います」

 

ご丁寧に能面の笑顔を付けた完璧な笑顔で死刑宣言をした。

見れば、用意のいい事に手はゴム手袋をしている。

 

「ま、まさか……これは……!」

 

俺は即座に水を探すが───置いていない。

わざとらしく置いていない。

そのせいで何となくこのイベントの趣旨を理解し、更にこの赤いソースが何か解った。

 

「これはにがトマトのソースだ……!」

 

リベールが生み出した謎のトマト変異。

トマトの癖に苦いという斬新さで、実は意外に人気商品なのだが、これはそんなものではない。

よく見ればサラダにこの赤いソース……というよりはケチャップじゃないのかこれ? と思わないでもないが、かかってない部分が存在しない。

つまり、どこも苦みのフェスティバル。

そして、間違いなくこのにがトマト。どうやったのかは知らないが、品種改良か、もしくは調理法からか。

苦みのゴージャスさが増している。

ガイウスはどういう事だという表情をしているが、それに答えたのは俺ではなく隣でぐえっぷとか唸って笑ったおっちゃんであった。

 

「へへへ……どうやら気付かないで参加したようだな……そうよ。このイベントは批評大会でもなければ大食いでもねえ───これらの珍料理を最後まで食べ切れるかの生存競争よ!」

 

「は、謀ったなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

思わず、叫び、視線を店長のローラさんを見る。

すると彼女はそのままの笑顔で口元を動かす。

声は聞こえない。だが、その口はこう動いていた。

 

け・い・か・く・ど・お・り

 

「げ、下種ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

 

エリオットが色んな涙を零して思わず、立ち上がろうとするが

 

「おっと、がきんちょ共。言っとくが、始まったらこの席は立てれねえ。食って生きるか、食って死ぬかがこのイベントの最大にして至上のルール。食い残しなんて当然許さねえ」

 

「狂ってる……!」

 

ガイウスすらも冷静さを失って叫ぶがそれどころではない。

その話が本当なら、俺達はこの後も続くこのファンシー料理を食べ切らなくてはいけないのだ。

観客の熱狂ぶりも異様だ。

デッドオアアライブ。

その単語こそがここの全て。

 

「くぅ……!」

 

悔しいが、出された料理は食べなくてはいけない。

ダメージすら負うこの苦味を必死に呑み込みながら、何とか食べきる。

見れば、周りも最初のサラダなのに息絶え絶えだ。

 

「だ、大丈夫かエリオット……」

 

「な、何とかだけど……絶対にもたないよぉ……」

 

仲間の絶望の声が耳に痛い。

ネガティブに陥りそうな心を必死に押し止める。

ここで精神すらも屈服したら後から続く地獄に耐えられるはずがない。

負けてはならないのだ。

 

 

 

 

 

 

次のメニューはスープであった。

見かけは逆に余りにも普通すぎて不気味……ではなく

 

「何だこの冷気は……」

 

そう。

スープからもうもくもくと冷気が漂っている。

足元に置いてある手が指の先から冷えていく感触がある。

どうしたら、こうなるのか理解出来ないがとりあえずスプーンを手に取って中に入れ

 

「───取れん」

 

そのまま凍結した。

おかしい。

感触は間違いなくスープの液体の手応えだったというのに、まるで氷の中に突っ込んだかのように瞬間凝固した。

最早、これは既存の料理ではない。

これぞ、調理する事によってミラクルと共に発生する料理───正しく攻撃料理!

 

「どうやって食えと言うんだ……!」

 

入れたスプーンが凍結する料理など間違いなく口にいれば口の中、全てが凍り付く。

口の中が凍り付いて死ぬなんて、もう拷問なんてレベルではない死に様ではないか。

既に横では無謀にも挑んで食べて、口の中が凍り付いて悶え死んでいる死体が増えている。

前菜なぞ、これに比べれば赤子に等しい。

だが、諦めるには早い。

それ程、容易く凍結するというのなら

 

「こちらから温めればいい事だろうが……!」

 

瞬間、スープから稲妻が走り、目論見通りにスープは温まる。

そしてそのまま食らいつく。

 

「あばばばばば、あばんばばばばば」

 

若干、口答えがビリビリしたが問題ない。死ぬには遠過ぎる。

見れば、ガイウスも見様見真似でオーブメントを利用して炎を出しており、生還している。

だが

 

「……エリオット……?」

 

何時の間にか、彼はスープに顔面を入れた状態で動きを止めている。

身動き一つすらしていない。

そう、本当に。呼吸どころか心臓ですら動いているのか怪しい。

 

「お、おい……エリオット。冗談は止せ。下手な演技なんてお前には」

 

似合わないと言いつつ、手を伸ばし、彼の肩を叩き───そのまま彼は横倒しに倒れた。

顔面に完全凝固した皿をくっ付けたまま。

 

「馬鹿なエリオットーーーーーー!」

 

思わず、ガイウスと一緒に駆け寄ろうとするが

 

「お客様───お席から立つ事は許されていません」

 

「な、何だと……!?」

 

それはつまり、目の前で身動きすらせずに倒れている仲間に手を貸す事も許されないと。

生死不明で、それでも今から手を貸せば復活する余地がある仲間を?

例え、生命が停止していても、その冷えていく体(料理による)を抱きかかえて涙を流す事すら許されないというのか。

 

「風よ……!」

 

ガイウスが祈るが、やはりエリオットは動かない。

 

「ば、馬鹿な……」

 

呆気無さ過ぎる。

あのエリオットが何もこちらに残さずに逝ってしまった。

余りにも空虚さに、最早涙すら流れない程であった。

 

「……あの二人、周りのテンションにやられて若干、おかしくなってない?」

 

「だが、客と参加者の反応からするとあれくらいにならないと逆に辛いのかも知れん……」

 

外野の反応ですら気にならない程に。

 

 

 

 

 

 

 

 

「次は魚料理か……」

 

これも間違いなく鬼門だ。

対処を間違えたら、間違いなく煉獄逝き確定の万能地雷。

不幸中の幸いか。制限時間がない為に他人の動向から料理の攻撃の種類が判断できる。

一人を生贄に捧げれば生き残れるのだ。

生贄になった人間には黙祷は捧げよう。後は知らん。

自分が生き延びればいいのだ。他人の事に構っていられる余裕なんぞ皆無だ。

だから、次に運ばれてきたカザギンに対しても何の油断もしなかった。

見たところ、やはり見た目自体は不審な部分はない。

ちゃんと焼かれたカザギンはその生命活動を停止し、間違いなく人に対しての食べ物へと変化している。

 

……ボコリ

 

「ん……?」

 

今、気のせいかカザギンの腹の部分が膨れ上がった気がする。

まるで泡のようにという感じに。

調べようと少し顔を近づけた時に近くから明らかにフョークを取る音が聞こえる。

はっ、として振り返る。

だって、そっちの方は

 

「ガイウス! 止せ!」

 

「いや、レイ。これが適材適所だ」

 

「馬鹿な事を言うな! 犠牲に適材も適所もあるものか!」

 

「───だがしかし。それでは周りに被害が出るだろう?」

 

「───」

 

事実だったが故に口が強制的に閉口した。

しかし、その様子にガイウスは微笑を出してこちらをただ見る。

 

「気にしなくていい。出来るだけ俺に被害を出さないように考えていたのだろう? 感謝こそするが非難する気はない」

 

「な、なら、お前の代わりに俺が食えば!」

 

「俺は余り詳しく知らないが───こういう時にリーダーを残すのはセオリーなのだろう?」

 

「ガイウス……!」

 

笑顔で何も言うなと今回の魚用の箸を魚から取ろうと魚に指しながら、笑顔をこちらに向けながら───その笑顔は光に包まれた。

まるで昇天するかのようなその光景に、何か前にも一度この光景を見たことがあるぞという思考が生まれたがその前に

 

「ガイウスーーーー!!」

 

ガイウスが爆発した。

否、厳密に言えばまさかの魚が爆発した。

一か月前のゴキバンの恐怖を思い出しながら、恐らく原理としては似た爆発要因……つまり触れられた事によって爆発したのだろう。

そして、爆発に巻き込まれたガイウスは───

 

「───またお前リーゼントかよ!」

 

ちゃっかりフラグを回収するガイウスに思わず、ツッコミを入れるが、よくよく考えれば事態に希望が見えない。

 

「今度こそどうしろって言うんだ……!」

 

触れれば爆発する魚なぞどうしろと言うのだ。

しかも、フォークで触る段階で。

ガイウスのような前衛職ですら一撃で倒す威力では、頑丈が売りな自分でも耐えられるとは思えない。

流石にこの事態に周りの生き残っているメンバーも悔しさを吐き出している。

ここでゲームセットするしかないのか? 

いや、だがそれだけはいけない。

ここでただ終わるのならエリオットの死はどうなる? ガイウスの犠牲は?

一瞬、ガイウスはこちらに嫌な役割を押し付けただけではないかという邪推が生まれるが無理矢理忘却する。

そう……なら、ここでただ終わるだけの決着など認められない。

ならば、直ぐに行動をと思い、袖の中に隠しているものをそのまま観客の前に落とした───フラッシュグレネードという小道具を。

小道具のピンは既に抜かれていたので、ちゃんと機能を発動させ、周りの目を潰す。

 

「うわあああああああああああああ!?」

 

周りの悲鳴は無視して、自分はちゃっかり腕で防ぎつつ

 

「ARCUS駆動」

 

本命のアーツを起動させる。

急げ。しかし、慌てるな。

ただでさえ苦手分野なのだ。ここでまさかの発動失敗とかになったら笑えてくる。

だが、今回は祈りが届いたのか。上手い事、アーツは発動した。

 

「アクアブリード」

 

アーツ適正がない俺だからか。明らかにエリオットと比べて小さい水玉が出るが、気にせずに分割して、それをそれぞれの魚にぶちまける。

全員にやるのはイカサマ発覚の可能性を避ける為だ。

丁度、ぶちまけた後に目潰しも終わった。

ならば後は

 

「命を懸けるのみ!」

 

そのまま勢いに乗ってフォークを刺す。

周りが爆発を恐れて引いていくが───爆発しない! 

勝った! と思い、そのまま切り分けて、安堵事食べようとするが

 

「水気が……!」

 

作戦上仕方のない末路であったとはいえ、何が悲しくてこんな水気たっぷりの魚を食わないといけないのだろうか。

色んな意味で涙が流れそうだが、止めるわけにもいかなかった。

すると、周りでは爆発音が幾つか。

どうやら、全部が全部、成功したわけではなかったようだ。

南無三。

 

 

 

 

 

 

いよいよ来てしまった肉料理。

間違いなく、これは最後の晩餐に成りかねないメインディッシュだろう。

気を引き締めなければ殺される。

そうして、よく周りを見回せば生き残りが既に俺を含めて二人しかいない。

それは隣にいるおっちゃんであった。

 

「よう、アンちゃん。まさか、最後まで生き延びるとは。大したもんだねぇ……」

 

ガハハ、と裏のない笑顔で笑ってくれるこのおっちゃんがこの煉獄における唯一の清涼剤であった。

女子二人は?

あの二人は同情だけで、この苦楽から救ってくれる事もなければ分かち合ってくれないのでノーカウントだ。

今の俺には積み上げてしまった戦友(とも)の姿しか見えない。

 

ガイウス……エリオット……見ていてくれ……

 

きっとボーナスポイントは手に入れて来るから。

暗い笑顔を浮かべながら、二人の笑顔が幻として浮かび、サムズアップしてくれる。

もう何も恐れる事もない。

見れば、隣のおっちゃんも

 

「へへ……俺にもよぉ……こんなガサツな俺が育てたとは思えねえ可愛い娘がいてよぉ……しかももう直ぐ結婚式なんだよ……はは、娘の幸せってぇのは何時の時代でも馬鹿な親父の最高の麻薬でよぉ」

 

ヤバイレベルの台詞と状況をばんばん口から吐いている親父。

しかも、この場合、他人事ではない。

おっちゃんがヤバイ目に合うという事は必然的に俺もヤバイ目に合うという事なのだから。

運命共同体という重い言葉が頭に思い浮かぶ。

冗談で済まないのが残念な所であった。

 

『はい! 皆さん、お待ちかねのメインディッシュの時間です! いやぁ~、ここまで生き残るとは……』

 

待ってない。そして今、本音出た。

製作者側の人間も明らかに殺意に溢れた料理だと自覚していたのか。

最早、怒りすら湧いてこない自分は末期症状なのだろうか。

そして、次のメニューがこちらに運ばれてくる。

ゴクリ、と二人で唾を飲む。

そして、その内容は

 

『次の肉料理はご覧の通り! 明らかに経営無視の大赤字八連ステーキ積立! この店、頭大丈夫かーーーーーー!?』

 

「───」

 

一瞬、視界に入れたが、しかし直ぐに何故か視界が真っ暗になった。

最早、思考すら出来ない無音の空間を心地よく思い、そのまま暗い海の底にまで行くような気持ちでそのまま真理の奥底に開眼を切に願い、渇望というのは心の底から願い、祈り、狂ってすら届かない切なる願いであってつまりこの世に神なんて存在しないという証明であり、ああ、何か悟りが来たよ来たよ。

 

「アンちゃん! アンちゃん! しっかりしろ! 間違いなく意味がない悟りに挑もうとしても、現実は変わらねえぞ!?」

 

そこは変わって欲しかったが、とりあえず有難い忠言に従って意識を覚醒させる。

 

「……うわぁ」

 

再び、無我の境地に挑みたくなる気持ちを抑えるのが精一杯であった。

それはタワーであった。

この際、肉が八連とかは関係ない。何故なら、それ程までに一つ一つの厚みがおかしかったからだ。

肉一つで明らかに二つ、三つはいける。

 

「まさか、ここに来て物量作戦とは……」

 

手の込んだ罰ゲームである。

よく考えれば珍料理というのは何も頭がおかしい料理の事を言うものではない。

明らかに常識から外れているものも珍料理とも言えるのだ。

これぞ、言葉のマジック。

ストレスの余り、頭痛すら発生し始めたが挑むしかない。

 

「い、いただきます」

 

 

 

 

 

 

最初の一、二つは意外な美味しさに舌を躍らせる時間であった。

三つ目で少し、飽きが出てきて、四つ目で地獄と化した。

あれだ。不味さというものには飽きは来ないのだが、美味さというのは続けると直ぐに飽きが出るというものだ。

しかも、この厚さ。

どんなに美味くてもその量の減らない視覚情報と段々と膨れてくるお腹が危険信号を送ってくる。

 

「くぅ……!」

 

ようやく五枚目を消化した頃には苦しくなってきた。

ここは一旦、フォークを置いて休憩するべきか。

そう思い、ふと隣を見ると、何故かおっちゃんは清々しい笑顔を浮かべていた。

 

「……? おっちゃん?」

 

返事は無言だけであった。

嫌な予感が益々膨れ上がり、その表情を見る。

それは見事な程に晴れやかな笑顔を浮かべ、我が生涯に一片の悔い無し! と今にも叫びそうな顔であり

 

「……気絶している」

 

夢半ばに散った敗残兵の姿であった。

もう、頼れる仲間すらいないらしい。

 

 

 

 

 

 

「ん……! がっ、ぐぅ……! うぷっ」

 

胃が吸収できる領域は既にリミットブレイク。

最早、胃では間に合わぬとばかりに過剰に抽出されたエネルギーは脳にでも贈られたのではないかと疑わんばかりに脳のイキっぷりは間違いなく違う世界に繋がっている。

視界はぐらつく。

時折、散って逝った戦友の姿がこちらに手を振っている。

 

ああ……エリオット……お前、そんなに青褪めた表情のまま笑っても怖いだけだぞ……ガイウス、お前もそんなリーゼントスタイル……笑えて今の俺には死活問題だ。おっちゃんも何をあっさり死んでるんだよ……俺一人煉獄に置いて逝きやがって……

 

最早、何が現実で真実なのかさっぱりだ。

チカチカと色々と光が広がったり、暗闇に埋没したりとフリーダムな身体機能。

遂に、視覚も新たな可能性を得たかエマージェーシー。

人体のミラクルは間違いなく、今、許容限界を超えて新たなら人類への一歩を踏み出すバーサクダンス。

おぉ……今なら何も怖くない。

トワ会長? それがどうした。

サラ教官? 何だそれは。

戦鬼?   くだらんくだらん。

剣聖?   恐れるに足らん。

何を恐れる事があろうか? この秒読みで天の領域に踏み込もうとしている俺が何を恐れる? 最早、何もかもを失い過ぎて何も恐れる事はないわあっはっはっ。

うんうん、さぁ、次へ行っくぞぉー。

例え、どんなゲテモノだろうが、大食い料理だろうが何も怖くない。

例え、生の魔獣が出ても恐れるものではない。

さぁ? 次は何だ? さぁ! さぁ!

 

『最後まで生き残った挑戦者の学生さん……───おめでとうございます!』

 

へい?

 

『最後のデザートはこのレストランでの人気ナンバー1のチョコレートパフェで御座います! ここまでの試練! 乗り越えた挑戦者に対しての報酬です! 受け取ってください!』

 

なんですと?

 

見れば、何時の間にか目の前にそのチョコレートパフェなるものが置かれている。

その見た目には明らかにおかしい所はなく匂いも変ではない。

周りの反応もよくここまで頑張った、素晴らしかったという反応。

それで、この料理に嘘はないと気付き

 

「……ここに来て最後は優しさを見せるなんて……最高の拷問だぞこれ……」

 

唐突に生まれた莫大な安堵に対処する事が出来ずにそのまま崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 




まさか、凡そ小説二話分になるとは予想も出来なかった……
オリジナル故に自由に書けるから最早、やりたい放題。
でも、何一つ後悔のない清々しいイベント……書いていて楽しかったです……!

ともあれ、この調子だとセントアーク終わらせるのに結構、時間がかかりそうです。
気長に付き合って貰えればと思います。

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