絆の軌跡   作:悪役

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奈落を掴むは

Ⅶ組一同は、まるで図ったかのように全員が、正門前に集合していた。

一同と言っても、リィンとレイはいなかったが、しかし、それ以外のメンバーは少し息を乱しながらも全員が示し合わしたかのように正門に集合したのだ。

………………一部、視線が合った少女二人は、即座に視線を逸らしていたりするのだが、そこは今、気にする所では無かった。

代表として、アリサが一番最初に口を開く。

 

 

 

 

「……………………見つかって、ないわよね」

 

 

 

返ってくる言葉が沈黙であるのが、既に最大の答えであった。

しかし、嘆いても現状が変わるわけではない事は知っているメンバー故に、直ぐに互いの調べた箇所を教え合う前向きさを発揮する。

 

 

「私は一階を調べてみたのだけど、保健室や用務員室……………学長室も確認して貰ったのだけど、エリゼちゃんはいなかったわ」

 

「俺とエリオットは二階を中心に回ってみたが、右に同じくだった」

 

「僕は図書館を調べてみたが………………人にも聞いてみたが、それらしい女の子が図書館には来てないらしい」

 

「……………………中庭、特にいなかったよ」

 

「私とユーシスさんで学生会館を見回りましたが………………」

 

「……………………一応、貴族生徒用のサロンの方を見回っても、特に無しだ。机の下にもいなかった」

 

「むしろ、何故、机の下にいると思うのだそなたは……………………私はギナジウムを見回ったが、やはり、それらしい姿は無しだ」

 

「……………………と、なると後、調べていないのはグラウンドと技術棟と……………………旧校舎だね」

 

 

エリオットが結論を纏めながら、最後の単語に顔を顰める理由は理解出来る。

何故なら、旧校舎は最早、自分達の常識を超えた建物と化しているからだ。

何故か、魔獣はどれだけ退治してもいなくならないわ、むしろ強くなって増えるわ。エレベーターが生まれるわなど、やりたい放題である。

 

 

 

 

そこにただの一般人が入ったら、最悪の事態が起きてしまうかもしれない

 

 

 

とは言っても、あそこには鍵がかけられているし……………………何よりもあそこは一般人はおろか訓練を受けている筈の学生ですら入ろうとは思わない不気味さがあるから大丈夫だとは思う。

だから、全員で残った場所を下がろうと足を一歩踏み込んだ時、

 

 

 

 

「おーーーい」

 

 

正門から軽く走りながら、手を振ってくるレイがいたので、思わず全員が振り返る。

そこに淡い期待を見たが……………………彼の傍に誰もいない所を見る限り、やっぱり外には出ていっていないらしい。

仕方がないからレイとも情報を共有するしかない、と全員が思った瞬間に……………導力エンジン音が耳に響き

 

 

 

 

 

「アリサが言っていた黒髪美少女らしい姿はやっぱり、外にはいぶるぅあ!!!?」

 

 

 

後ろから導力バイクに思いっきり轢かれるレイを見てしまった。

空中で3回転所か、乱回転する馬鹿に、ほぅ、とガイウスが呟くのを聞くが、頼むから、そこに芸術を見ないでね……………………!! とエリオットがツッコむが、むしろ、ここに誰もレイの現状にツッコむ人間がいないのが────────

 

 

 

 

「アンちゃんーーーー!!? 何しているのーーーー!!?」

 

 

 

そうは問屋が卸さない、という形で学園きっての才女からのツッコミが宙を叩くと同時に、レイが地面に崩れ落ちる。

ぐしゃり、と生々しい音が響くが、Ⅶ組メンバーにとっては日常茶飯事だったりする。

やれやれ、という感じでユーシスが代表して近寄り

 

 

「おい、レイ。外にはリィンの妹らしい姿は見えなかったのだな?」

 

「……………轢かれた事に関しての優しい言葉は俺には無いのか?」

 

「本当に轢かれた人間はあんな風に愉快に飛ばん」

 

 

この世に女神無し……………と泣き真似をする馬鹿を全員で無視する光景が生まれ、それに絶句するトワと密かにジョルジュもいるのだが、リィンとレイに関するギャグ関係ならば鉄血宰相もびっくりな冷血メンタルを取得しつつあるⅦ組は気にせず関せずである────────ガイウスに関しては単に、この程度ではレイは傷は負わんだろう、という信頼によるものだったりするが、外から見れば同類に見えるのが悲しい風評被害である。

よっこらせ、と立ち上がるレイは服を叩き落としながら

 

 

 

「で? 後はどこを探していないんだ? グラウンドと技術棟。後は……………旧校舎付近だ」

 

「んーーー。順調にフラグが作られている気がするぞ現状………………でも、俺、今回、旧校舎探索寝てて参加出来なかったけど、鍵は閉めたんだろ?」

 

「連絡が繋がらなかったのはそのせいですか………………ですけど、はい。鍵はしっかりと参加したメンバー全員で確認したので、旧校舎自体には入れない筈です」

 

「だよなぁ────────ま、あの場所に、普通の鍵が通じるかどうかが謎な所だが」

 

「前提条件台無しにする当然の疑問だね」

 

 

フィーがふわっ、と欠伸をしながらレイの痛烈な疑問に相槌を打つが────────どちらかと言うと旧校舎の存在を知っているメンバーはその意見に関しては同意せざるを得ないので、文句を言えないのだが。

多少、空気が悪くなってしまったのを察知したのか、レイはそんな雰囲気に対して落ち着け、という身振りをしながら

 

 

 

「心配するな────────最悪、その妹さんが巻き込まれたせいでリィンがとんでもなく苦しんで、こう惨めで無様な姿を晒しておいおい、何だよそれ最高じゃねえかよおい! くっそ! 巻き込まれるのがリィンの妹さんじゃ無かったら幾らでもやって欲しい所なのに………………!! こうしちゃいられねえ………………!! リィン妹を助けたら、隠して、リィンに死んじまったとか言って落ち込ませなければ……………!!」

 

「悪質だし、長いし、止めなさい」

 

 

一瞬にしてアリサが左ストレートを放ち、見事に顎を撃ち抜かれた馬鹿が、ゆっくり倒れるのを見届けながら、全員が一息を吐き

 

 

 

 

「────会長。もしかして、リィンか誰かに頼まれて、エリゼちゃんの捜索を手伝ってくれたんですか?」

 

 

 

何事もなく、聞いてくるⅦ組総員にさしものトワもえ、えーー? と慌てる。

おかしい、こう、入学式の時くらいまでは皆………………うーーーん、レイ君以外はとってもいい子で、普通の子だった気がするのだが、何か凄い勢いで方向性が変質していないだろうか?

あ、いや、でも、こうしてクラスメイトの妹の為に奔走しているという事は、方向性自体は変わってはいないんだけど………………メンタルが凄い勢いで鋼鉄製に変貌している気がする。

後でサラ教官に色々聞くべきではないかと会長スケジュールに乗せながら、とりあえず今は一番の目的を達成する事にした。

 

 

「う、うん。リィン君に頼まれて。グラウンドは私が、技術棟はジョルジュ君が、外は丁度バイクに出ていたアンちゃんが見てくれたの──────ってそういえばアンちゃん! 人を轢いたら駄目だよぅ!! ちゃんとレイ君に謝って!!」

 

「ははは、いや、大丈夫だろうトワ。彼はとても業深い者………………レザースーツのお姉さんに轢かれて悶えるくらいは容易いはずだ……………!!」

 

「人の性癖を歪めるな……………」

 

 

脳震盪から回復したレイがツッコみながら、蘇生し、あーぐらぐらするーー、と呟きながら、結論を纏める。

 

 

 

 

「じゃあ決定だな。とりあえず旧校舎に行って、中の捜索班とその周辺を探る班で分かれればいいだろ。あそこ、結構、森もあるから隠れ放題だし、まぁ、幾ら泣いたり怒ったりしていても、あんな不気味な旧校舎に入ろうとする程、無警戒な子供じゃないだろ」

 

 

 

レイの結論に特に異議はなく、同意の頷きと共に、全員が一斉に旧校舎に向かっていく。

その中で最後尾を走りながら………………レイは右手をさする。

 

 

 

 

「……………うーーーん」

 

 

 

さっきから、ちょっと右手が鼓動する(・・・・・・・)

これがこんな風に反応するっていう事は……………面倒事が起こり得る可能性があるという事であり………………日常が壊れる感覚である。

 

 

 

 

「やっぱりかぁーーーー」

 

 

 

大体、昼寝の時に、魔女と出会った時点でいちゃもんが付いているのである。

場所も場所で問題だらけの場所だ。

鬼が出ようが蛇が出ようが、特に不思議ではない。

 

 

 

 

 

「じゃあーーしょうがない」

 

 

 

 

鬼と蛇が出るなら、追加のサーヴィスで悪魔(・・)が出るくらいは仕方がないだろう。

そんな風に、理屈の通らない納得を得ながら、レイは特に気にせずに旧校舎に向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リィンは脱力感と自身の能力から外れた逸脱した力を使った影響で膝を着きそうだったが、堪え、直ぐにエリゼをパトリックから奪い起こし、体に傷がない事もそうだが、意識もある事にホッとしていた。

………………鍵を閉めたはずの旧校舎が何故か空いていた事自体は、今までの旧校舎の異変に比べれば、可愛いものだが、今回はこちらの状況が違った。

明らかに不穏な場所であるはずの旧校舎にエリゼが入ってしまった事……………………そして、そんな義妹を斬る…………というよりは潰そうと巨大な刃を振りかざしていた首なしの鎧騎士がいた事。

 

 

 

 

────────一瞬にして視界は赤く染まった

 

 

 

我慢しようなどとは一欠けらも思わなかった。

己の胸から溢れる暴力的でありながら、快楽にも近いそれ(・・)に全てを委ね、またあの時のように(・・・・・・・)周りの全てを破壊し尽くそうと意識が薄れそうになり

 

 

 

 

 

 

何故か、そこで思い浮かんだのはエリゼではなく────────どこぞの馬鹿の姿であった

 

 

 

 

それも、あのノルドで、右手が食われたはずなのに、特に外傷も無く、本人も一切、それを気にしていない姿。

────────だが、リィンには一つだけ分かった事があった。

あの時、レイは右手が無事である事に、アリサ達が驚愕を得ながら、安堵を得ている時────────露骨にその事実に憎悪していた。

右手が無事で良かった、などと欠片も思う事無く、何故、右手が無事なのだ、と、いや、それすらも生温い。

 

 

 

 

 

 

むしろ、あの時、あの男は、己が生き残った事に憎む程に残念を得てい(・・・・・・・・・・)()

 

 

 

 

あれだけ、生きる事は奇跡なのだ、と説く男が────────己が生きている事は汚らわしいのだ、とゴミのような目で、自分の右手を通して、己を見ていた事に……………………恐らくリィンだけが気付いた。

理由は分からない。

リンクのレベルが俺達が高いからこそ通じたのかもしれないし、直感かもしれないし、誤解かもしれない。

だからこそ、リィンも特に例に対して何も言わなかったし、しなかったのだが……………………今は何故か、その事を思い出して、マグマのような怒りの熱が、胸から込み上がる衝動を一瞬で、駆逐した。

何故なら、これもまた勝手な考えだが、思う事があるからだ。

 

 

 

 

もしも、今の状況を、あの馬鹿が見たら────────驚きや同情を得るのではなく、まず失笑する。

 

 

 

 

余りにも勝手な偏見だが、リィンはその偏見を捨てる事がずっと出来なかった。

最早、悪意に近い偏見だが………………その偏見が囁くのだ。

 

 

 

 

失笑した馬鹿は、その後、こう呟くのだ────────何だ、その程度か(・・・・・)、と

 

 

 

他の誰かに言われるのならば、リィンは素直に悔しがるか、納得しただろう。

Ⅶ組の他のメンバーもそうだが、学院の誰か、敵にすら言われても、正しかったら納得する────────だが、あの馬鹿に言われる事だけは許せなかった。

あの馬鹿に言われるくらいなら死んだ方が億倍マシというのは誇張表現でもないし、うっかり本気で殺したくなるくらいに最悪だ。

その最悪の気分が、己を暴走から解き放った、という事も最悪だったが、後はこの場に来てくれたクロウとパトリックのお陰で何とか助かったから、とりあえずは良かった思う事にする。

そして、昇降機が下りてきたのを把握して、見るとそこにはⅦ組のメンバーやトワ会長達やサラ教官がいたので、ホッとしようとし──────その中に馬鹿がいたのが、実に苛立つ。

向こうも同じ事を思ったのか、超苛立つ顔になった後、ポケットに手を突っ込んで来て

 

 

 

「あれあれぇ~~~~リィン君~~~~? 妹さんを泣かした愚か者がいるって話を聞きましたけど君の事かなぁーーーーー!!?」

 

「羨ましがるなよケダモノ馬鹿。エリゼが可愛いのは認めるが、発情期の猿が近づけるほど、安くはない。分かったらとっととく・た・ば・れ」

 

「ほっほぅ……………流石はせっかく来てくれた妹を泣かすような素敵な兄貴だな……………そんなに容易く暴言吐きまくる……………!!」

 

「ははは、いや、そんな弱っていると見るや否や、嫌がらせする気満々の馬鹿には叶わないさ」

 

 

はははは! と互いに笑いながら、さて、殺すかと俺は刃を、レイがガントレットを装着しながら、拳を握るのを、クラスメイトは華麗にスルーしながら、女子は主にエリゼを見てくれ、他は先程まで俺達が相手していた首なし鎧を見ていた。

 

 

 

「…………魔獣……………いや魔物? それにしてはまるで人工物みたいだが……………」

 

「生物というより人工物と言われた方が、納得出来るね。解析とかしたい所だけど……………流石に危険かな」

 

 

マキアスとジョルジュ先輩の会話を聞きながら、ちっ、と互いに舌打ちして、顔を逸らし────────エリゼが信じられないという顔でこちらを見ている事に気付き、あっ、と唸る。

良く良く考えれば、俺がここまで堂々と嫌味と悪意を言うのはこの馬鹿相手だけである。

エリゼからしたら、義兄が唐突にグレた光景にしか見えない。

事態を理解したリィンは一瞬で膝を着く衝撃を受けたが、その間にレイがけけけ、と嘲笑いつつ、エリゼの近づくのを見て、これを狙っていたなあの性悪………………!! と思ったが、義兄には辛い攻撃の前では動く事は叶わなかった。

 

 

「そこのリィン妹」

 

「エ、エリゼです。エリゼ・シュヴァルツァーですっ」

 

「こんな場所に無警戒に入り込むヤンチャなチビッ子なぞリィン妹で十分だ。明らかに変な校舎だって分かっただろうが。それをまぁ、この馬鹿が恐らくクソな言葉を言って傷心中とはいえ、警戒心を失っていい理由にはならねえな」

 

「そ、それは……………この校舎に入っていく猫を見て……………あれ? そういえば、猫が…………………?」

 

「猫?」

 

何故か猫とレイが呟くと同時に委員長を見るが、委員長も何故か顔を真っ青にしていた。

それに何かレイは納得したのか、はぁーーと大きな溜息を吐き

 

 

 

 

「何だ……………全く、今日は面倒事ばっかり起こるなぁ。嫌味な女の次は、御伽噺かよ。ったく」

 

 

何か意味が分からないぼやきを呟いて、再び大きな溜息を吐き

 

 

 

 

「きゃっ!?」

 

 

 

レイは軽くエリゼにデコピンをかましていた。

ちょっとっ、とアリサが窘めるが、レイはレイでこれくらいは必要だろ、と言うので、他の皆も窘めずらくなる。

かくいう俺は………………正直、エリゼ相手にしっかりと怒れるかどうか不安でもあったが………………先に役目を取られた感があって超不満であったが………………とりあえず後でぶった斬ろう、と誓う。

 

 

 

 

「ま、ヤンチャするのはいいけど、ちゃんと責任とれる能力を得てからしろよ、リィン妹。世の中、身分や性別程度では配慮してくれない事態の方が多いしな」

 

 

 

そう、適当に忠告を告げるレイは、俺からしたらお前が言えた義理か…………と、言いたくなるが、正しい言葉だったから、否定する事も出来ない。

嫌われ者を担っている事も理解しているが故に、仕方がない。後で斬るけど。

そう思っていたら、何故かエリゼは額を抑えたまま、やや呆然とした顔でレイを見上げ……………………そして唐突に

 

 

 

 

 

「────兄さま?」

 

 

 

と、レイに対して呟いた。

流石にレイも、一瞬、その言葉に硬直したが……………………しかし数秒後に片手で顔を覆い

 

 

 

「何て事だ………………俺の溢れんばかり気高き魂のせいで本当のお兄様を超えてしまうとは………………すまんな屑リィン。お前の妹、俺の方が兄に相応しいって」

 

「よし分かったレイ。止まるなとは言わないから、待ってろ。そこでぶった斬ってやる。ワンミニッツあればイナフだ………………!!」

 

「HAHAHAHAHA! 嫉妬は見苦しいぞクソ餓鬼(バッドボーイ)。俺を斬り殺したかったら、サラ教官のスカートをめくるくらい出来ないとな………………酒臭いおっさん魂のパンツなんて興味もねえが。そういう意味ではクレア大尉は実に魅力的だなぁ……………憲兵隊じゃ無かったら、遠慮なく揉むんだけどな」

 

「ただの犯罪者の戯言かぁーーーー!!」

 

「というか、そこの馬鹿。いい度胸ね。教官を相手でも態度を変えないのは好ましいけど、その挑発は買うわよ。鉛玉で」

 

「駄目です教官。鉛玉ではこの馬鹿は生き残る可能性があるから、レイに対してはアーツです。最大火力でぶっぱするのが一番効果的です。手伝いますよ」

 

「アリサさん…………………今、オーブメントの編成、完全な火力編成にしていましたよね…………」

 

 

くそ……………………結局、あの馬鹿のペースか、とリィンは憤慨しながらも、ようやく立ち上がる力を取り戻したリィンはそのままエリゼの元に向かう。

見れば、馬鹿との会話に乗っていないメンバーは苦笑したり、引き攣った笑みを浮かべている人ばかりである。

エリゼですら呆然としていたのに、少し笑みを浮かべている辺り、あの馬鹿、本当に口だけは回るな……………と感心し

 

 

 

 

 

 

────────背後で物凄い勢いで立ち上がり、剣を振り上げる首なし騎士の動きに、全員が致命的に遅れたのであった

 

 

 

 

「────は?」

 

 

全員の総意であろう、呆然とした声が、現実を表している。

間違いなく停止していたと思われる鎧が、先程よりも明らかに速い動きで立ち上がり、既に剣を振りかぶっているのだから当然だ。

ただ、限界を超えた動きだったからか、鎧の体は所々、先程以上に砕け、ショートしているような音が響いている─────が、一撃を振り下ろすだけならば、何も問題ないだろう。

剣を扱うものとして、その切っ先がどこを向いているのか理解してしまったのが恐ろしかった。

 

 

 

 

 

剣の行く先は──────エリゼとレイであった。

 

 

 

誰でも良かったのか、もしくはどちらかを目的としたのかは分からなかったが……………………それを理解した瞬間、全員が抗おうと動くのをスローモーションの動きで捉える。

Ⅶ組のメンバーは全員がまずはそれぞれの武器を持とうとするが、その対応では構えた後の動作も必要とする為、余りにも無意味過ぎる。

一番効果的に行動したのは先輩達であり、彼らは武器を構えるよりも先に二人を助けに迎えに行こうとしていて………………しかし、余りにも致命的に距離があり過ぎた。

その中で一番、サラ教官が早く、既にダッシュをかけて、二人に向かっていたが……………幾らサラ教官が早くても、一秒以内ではとてもじゃないが、届く距離では無かった。

当然、俺も抗おうとし……………………もう一度力を開放しようとするが……………………とてもじゃないが間に合わなさ過ぎる。

その事実に絶望感が胸を走る。

 

 

 

 

 

そんな……………じゃあ、俺は何の為に………………!!?

 

 

 

何の為に士官学院に来た?

この先を、誰かを守りたくて来た。

何の為に剣を取った?

理解も意味も分からない暴走を制御する為であり、同時にこの手で誰かを守れる力が欲しくて剣を取った。

なのに、この様は何だ?

先程まで笑っていた義妹が、再び呆然とした顔で現状を見つめており……………………一秒後に無残な姿を迎える、とは理解していない表情。

 

 

 

 

────────違う!!!

 

 

 

エリゼはそんな風に死ぬ為に生まれたわけじゃない。

エリゼはもっと幸せに……………最後まで笑い、満足して死を迎えるべき人間だ。

だから、嫌だ。こんな結末は嫌だ。

 

 

 

 

 

許せない、認めない、消えさせてなるものか

 

 

 

 

 

その思いが、最早言葉にもならない叫び声として口から漏れる時────────最後の一人を見た。

 

 

 

 

 

 

 

その少年は襲い掛かる死を前にして────────圧倒的な無価値になる程の虚無の感情を浮かべていた。

希望所か、絶望すらない無、無、無。

下らない、詰まらない、どうでもいい、と言わんばかりに巨人の剣を見て、そんな風な感情を浮かべていた。

無価値なり、無意味なり、無情なり。

だって、少年は知っている。

こんな普通なら絶体絶命としか思えない事態ですらも────────全てを台無しにする悪(・・・・・・・・・・)魔が存在する事を(・・・・・・・・)

善も悪も、希望も絶望も、人も怪物も、同じ悪魔ですら無価値に扱う悪魔を知っている。

だから、少年は、レイは……………乾いた笑みと共に、右手を振り上げる。

まるで振り落とされる刃を、右手一本で受け止めるというような姿。

荒唐無稽にして、自殺願望のような仕草を前に、レイは唇を三日月に歪める。

 

 

 

 

 

 

 

さぁ、呪いの言葉を紡ごう

 

 

あらゆる結末を台無しにして、下らないものに仕立て上げる悪魔による人を憐れむ詩を────────

 

 

 

 

 

 

【────────アクセス。■■の一柱】

 

 

 

 

ぐしゃり、と何かが砕ける音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

理解不能

 

 

 

この四文字こそが全てを意味する世界が今、そこにあった。

旧校舎という場所もそうだが、そこから現れた首なしの巨大な鎧騎士に、妹と馬鹿ではあるが、それでもクラスメイトの一人であり、友人であるレイの絶体絶命。

どれ一つとっても、理解不能という理不尽に相応しいし、文句を言ってもいい所である、とリィンは思うが……………それでもまだしっかりと繋がった理解不能という理不尽であった。

 

 

 

 

 

 

 

だが、これは無理だ(・・・・・・)

 

 

こればかりはどう足掻いても理解不能と叫ぶしかな(・・・・・・・・・・)()

 

 

 

 

 

だって、そうだろう?

 

 

 

 

 

 

その絶体絶命な状況を────────目にも止まらぬ恐ろしいスピードと怪力で鎧騎士の胴体を掴み取り(・・・・)破壊した(・・・・)レイと……………そのどう見ても右手と言うには余りにも異形過ぎる鈍色の手(・・・・・・・・・)を見て、どうして理解出来ると言えるのだ…………………………!!

 

 

 

 

元々あった右手がまるで生まれ変わったかのように変わり、人間の手のひらと比べれば圧倒的に大きくなり、その上で手の甲からは突起物が9本程出ている異形の手。

雰囲気だけならば魔獣というより魔物のようにも見えるが……………アレと比べれば、魔物なんて赤ん坊のようなものだ。

 

 

 

 

 

あれ程、禍々しくて寒々しい怪物の手なんて見た事が無い

 

 

 

 

まるで、人間の魂を掴み取るとでも言わんばかりの禍々しさ。

こうして見ているだけで、魂の奥底から恐怖と嫌悪が掻き立てられ、自然と刃を構えてしまう。

それは誰もが同じらしく、全員が反射的に武器を構え────────相手がレイであるという事を思い出して絶句してしまう。

クラスメイトなのに、後輩なのに、教え子なのに、仲間なのに、友達なのに────────そんな理性を全て破壊する程の圧迫感。

 

 

 

 

 

もしも煉獄があるとすれば…………………………あの右手に詰まっている、と答えれるぽっかりと空いた奈落のような手で────────その右手を持った少年の瞳は更に暗かった。

 

 

 

 

「……………………はっ。何て無様─────」

 

 

 

感情の籠らない、零度の言葉を漏らしながら、異形の手を持った少年は、持っていた胴体の鎧を、その手で握り潰しながら、そんな事をぼやいた。

その言葉と共に時が動き出した、というように巨人の手足が倒れるのを聞いて、ようやく今の状況を思い出す。

しかし、中心である少年はそんな事を一切気にしないまま─────酷く無感動な笑みを浮かべ、その手を振りながら

 

 

 

 

 

 

 

「どうも────────化け物です」

 

 

 

 

何て実に下らない自己紹介をした。

まるで、レイ・アーセルという名は借り物の名で、こちらが本名です、というような紹介だった。

そんな寒々しい自己紹介を聞きながら……………リィンは一つ、理解したことがあった。

 

 

 

 

 

……………ああ、そうか

 

 

 

 

どうして、この男がこうまで気にくわない理由の一つが理解できた。

実力や性格なんて分かりやすくも、小難しい理屈じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

俺はただ、この馬鹿が浮かべる笑みが無性に……………憎らしかっただけなのだ、と

 

 

 

 

 

 

 




ようやくここを出せた……………レイの核心です。


あーーー、余り信じられないかもしれませんが……………これ、本当に一切、設定を付け加えた部分とかない、初期構想をそのまま書いたものなので、マクバーンだったり、鬼の力だったり、結構、無視した悪役のオリジナル設定です。


まだⅣをやってない自分ですが、軌跡で言う"外"に当て嵌まるのかな? あるいは繋がってはいけないナニカから生まれ出たものと思って頂ければ。
"外"が何か自分、マジで知りませんから、後者の方がベストかな?



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