その前に修学旅行前もやります。
「漣君、班は決まった?」
「…班?」
中間テストがあけてから、片岡さんが唐突に聞いてくる。
「修学旅行の班よ。来週から京都に二泊三日。決まったら私か磯貝君に伝えて。」
「ん、了解。」
…京都、京都か。
京都かぁ〜〜〜〜。(けっこう嫌そうな顔)
いや別に京都の街とか名物は好きなんだよ?けど京都校の人達苦手なんだよなぁ。
まあ修学旅行中に会うことはないでしょう。班どうしよっかな…。
「ナミ君、まだ班決まってないの〜?」
「倉橋さん、うん。まだっていうか今修学旅行の存在知った。」
「じゃあさ、一緒の班にしよーよ!」
「え、嬉しいけどいいの?」
「もちろん!」
「…わかった、そうさせてもらうわ。ありがとうね。」
こうして倉橋さんからのお誘いのおかげで一班に決まりました。
ちなみに他の班員は磯貝、前原、片岡さん、岡野さん、木村、矢田さんで計8人。
「まったく…3年生も始まったばかりのこの時期に総決算の修学旅行とは片腹痛い。先生あまり気乗りしません。」
「
殺せんせーは自分(推定3m)よりデカイ荷物を用意している。中から明らかに必要ないであろうもの(ミニカー、けん玉、こんにゃくetc.)が見えている。準備が下手な小学生か。
「…バレましたか。正直先生、君達との旅行が楽しみで仕方がないです。」
しかしやはり暗殺教室の修学旅行。普通の修学旅行とは違う。
広く複雑な京都の街で班ごとに回るコースを決め、付き添う殺せんせーを暗殺するスポットを指定、そこから国が手配したスナイパーが狙撃するとのこと。
成功した場合には、貢献度に応じて百億円から分配されるため、より良い暗殺スポットを探さなければならない。
よって一班作戦タイム。
「2日目どこ行く?」
「やっぱ東山からじゃね?」
「こっちの方が楽しそうだよ〜。」
「けど暗殺との兼ね合いを考えるとな…」
うん、まぁやっぱりすぐには決まらないよね。俺は別にみんなが行きたいところに行けばいいかなと思い口出しはしないつもり…だったが磯貝が聞いてくる。
「なぁ、漣だったらどうする?」
「そっか、漣は京都に何回か行ってるんだよな。」
「いや京都に何回も行ってるからって暗殺スポットは詳しくないわ。」
ここ暗殺向けじゃん、なんて考えながら旅行したことはないわ。呪いの発生しやすい場所は想定するけど。
「…そうだな、俺だったらやっぱり殺せんせーの動きをある程度抑えられる場所がいいな。」
「けどそんな場所あるのか?」
「けっこうあると思うぞ?甘味なり絶景なり殺せんせーってそういうのけっこう見惚れたりするじゃん。」
「それならこの嵯峨野トロッコ列車なんてどう?」
俺の意見を聞いて片岡さんが提案する。なるほど、トロッコ自体はゆっくりだし車内なら殺せんせーはあんまり動けない。いいかもしれないな。
みんな賛成したため、俺たちのおおまかなルートは決まった。
すると殺せんせーが辞書みたいなのを持ってきた。
「1人一冊です。」
「重っ…」
「何これ殺せんせー?」
「修学旅行のしおりです。」
「「「辞書だろこれ‼︎」」」
「イラスト解説の全観光スポット、お土産トップ100、旅の護身術入門から応用まで昨日徹夜で作りました。初回特典は組み立て紙工作金閣寺です。」
「どんだけテンション上がってんだ‼︎」
「大体さぁ、殺せんせーなら京都まで一分で行けるっしょ」
「もちろんです。ですが移動と旅行は違います。皆で楽しみ、皆でハプニングに遭う。「いやハプニングには遭いたくねーわ。」漣君は揚げ足をとらないで下さい!…とにかく先生はね、
俺も同感だな。こういう時だけ殺せんせーとは考えが合う。
にしてもこのしおり面白いな…。八ツ橋が喉に詰まった時の対処法とか、銀閣寺のかっこよさが理解できない時の対処法とか、わかってる感を演出する石庭の褒め方とか興味深い。後で一通り読んでおこ。
奏視点out
三人称視点in
修学旅行前の日曜日
倉橋は修学旅行で必要なものを買って帰っている途中に、以前奏に助けられたところを通り、あの時のことを思い出す。
あの一件では優しい人が第一印象だったが、集会の件からやけに意識してしまうようになった。
ルックスはクラス2トップの磯貝、前原に並び、戦闘力も訓練の時から見て烏間先生に並んでもおかしくないくらいに見えた。
結果自分は奏のことが好きなのかもしれないと最近気づいた。
そこまでは良かったかもしれないが、倉橋は自分で思っている以上に分かりやすかったらしく、親友の矢田や茅野、クラスのおかんこと原に早くもバレてしまった。最悪なのはこのメンバーに加えイジり技術が天才的な中村にまでバレてしまい、彼女らの後押しされ班に誘うことになってしまったのだった。
ちなみにもし倉橋が自分から誘えなかった場合、中村、原、茅野が奏を各班に入れず一班に誘導することになっていたが、これは奏が不憫になりそうだったため倉橋が意を決することとなった。
そんなことを思い出し内心バクバクしていると、倉橋は少し離れた廃ビルを眺めてる思い人の姿を見つけた。
「あれ…ナミ君だよね?何してるんだろ?」
声をかけようとする前に奏は廃ビルの中に入っていった。
気になった倉橋はあとをつけていく。
実は倉橋は生き物好き故にか、観察する時などから隠密の技術が高まっておりクラス内でも気配を消す腕前は高いのである。だから倉橋が付いてきていることに気づけなかった奏を余り責めるべきではない。そうは言っても本来ならしっかり確認すべきだから結局不祥事なのだが。
何故奏がこの廃ビルに入っていったのか。それは1日前、奏は愛犬のリズを夜蛾に預けに一度高専に戻っていた。その際に夜蛾からこの廃ビルの解体前に中に住み着いた呪霊を払う任務を任されたからである。
ここの呪霊はせいぜい準2級くらいで奏が出るほどでもないのだが、椚ヶ丘に住み込みで長期任務に出ている奏はこの街と周辺に現れた呪いの対応を一括して任されている。
『闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え。』
奏は呪いを炙り出すための結界"帳"を張る。その中にクラスメイトが入ってしまったことに気づかず。
「さてと、チャチャッと済ますか。」
四階建てのビルを下から上っていく。
『い"い"いらっしゃいませ"ぇ"ぇ』
二階にて最初の呪霊に遭遇する。呪霊は奏を見ると襲い掛かってくるが奏は動じず、構えをとる。
「
奏は正面から来た呪霊の首を右に傾けさせ進行方向をずらすと同時に、肘打ちを決め呪霊を祓う。
式瀾流呪闘術
奏の扱う武術の流派である。対呪霊・呪詛師の武術であり己の拳と脚が主体で花の名前を模した十二の型を持つ。一見すると空手と合気道の複合のようなものであるが。
『こ…ごちらが…おすずめです』
背後から2体目の呪霊が現れ、奏に飛びかかる。奏は腰から脇差を取り出し突っ込んで来る呪霊を横に一閃して斬り祓う。
「刀身参の型・
式瀾流呪闘術の最大の特徴は、あらゆる武器にその型を組み込めること。刀や薙刀、槍から始まり弓や斧に暗記、果ては銃火器などの西洋武器にまで至る。そして武器ごとに十二の型を持っているのである。
奏はあまり武器を持ち運ぶタイプではないので、「
」の二つのみを使う。
「ふぅ、この調子だと術式を使うことはないかな。」
呪いの気配はそこまで多くない。索敵用の百々目鬼を使う必要もないと奏は判断し、上に上る。
「…何だろうこの黒いの?」
奏が中で呪いを祓っている最中、倉橋は帳から出られないことに気づいた。ビルの中に入ったものの奏の姿を見失ってしまい、おまけに中からイヤな感じがするので、戻って後で奏本人から聞こうと思った矢先にだ。仕方がないので奏を待つことにするのだが…。
『ごれがってぇぇ』
「…え?」
『がってよぉ』
『安いですぅぅ』
『迷子のおじらせです』
帳の影響でいつのまにか倉橋の周りに呪いが集まっていた。
倉橋は呪いが見える人間ではないが、帳の効果で今は見える。
初めて見る異形に恐怖する。
「何…これ。助けて!」
倉橋の悲鳴が響くが、それがまた呪いを呼び寄せてしまう。
四階にいる奏はその悲鳴を聞いた。
「…しまった、中にいたのか。一階だよな。」
そう呟き
「なっ…」
そこには呪いに囲まれたクラスメイトがいた。一瞬動揺したものの奏はすぐに攻撃に移り周囲の雑魚を祓っていく。がしかし倉橋の最も近くにいた呪霊が倉橋の首筋に爪を向ける。
(人質…それなりに知性があるタイプか。)
基本的に呪術師は任務中に呪いに襲われた一般人を発見した場合、祓うより救助の方を優先するよう言われている。一般人嫌いの夏油や独自の判断基準を持つ伏黒や冥みたいのもいるが、奏は人命優先。この様なケースだと手が打てなくなる。
「ちっ、これでいいだろ。そいつを離せ。」
武器を床に捨て、両手を上げる。倉橋は涙目でこちらを見ている。しかし呪霊が倉橋を解放する様子はない。迂闊に奏に攻撃出来ないから、向こうが手出しできない今に様子を伺うのは当然だろう。
しかし奏はそれを分かって降伏した振りをした。
突然床に投げ捨てられた荒不舞雪が動き出し、倉橋の首を抑えている呪霊の右腕を切り裂く。咄嗟のことに呪霊は戸惑い、奏はその隙に一気に駆け抜け倉橋を抱き抱える。
「刀身伍の型・
荒不舞雪は左右から一回ずつ斬りつけ、最後に上から呪霊を叩き割り奏の手に戻ってくる。
自分を中心とした半径5mの領域の中の物体にかかる重力と引力を操作する術式である。ただし物体を操るにはその質量に応じた時間対象に触れる必要がある。しかし祓い始めてからずっと荒不舞雪を手にしていたため、操っていたわけである。
「聞きたいことはお互い色々あるだろうけど…まずは倉橋さん、大丈夫か?」
「う、うん…」
「とりあえず一度出るからな。ついてこい。」
「わ、わかった。」
廃ビルを出た2人は近くのファミレスに入る。
倉橋はまだ怯えているようだった。あんなものを初めて見たのだから当然だろう。
最初に動いたのは奏だった。
「何か頼みなよ、奢るからさ。」
「えっ、でも…」
「今回の件は俺の責任だから、せめてものお詫び。」
奏はコーヒー、倉橋はパフェを頼み、再び奏から話し始める。
「それで、なんで倉橋さんはあそこにいたの?」
「えっと、ナミ君があのビルに入っていくのを見て…それで気になって…」
「…そっか。つけられていたのに気づけなかったとはね。」
「ナミ君は…何をしてたの?ううん、いったいなんなの?」
「……」
倉橋からの疑問は当然だ。心配させた上、実際に見てしまったのだから誤魔化すことはできたとしても下手な言い訳はできない。
しかし奏は思わず黙ってしまった。いつかはバレることだったがこんなに早くなるとは思っていなかった。ここで黙るということは言いづらい事だと認めているようなもの。しかも奏は殺せんせー暗殺のタイミングでE組に来た。これ以上ないくらい疑われるに決まってる。
奏は仕方なく答えることにした。
「…呪いだよ。辛酸・後悔・恥辱、そういった人間の負の感情…それが呪い。そして呪いが生き物を型作ったものが呪霊、さっき倉橋さんが見たものだ。簡単に言えば心霊みたいな類だ。」
「…呪い。」
「俺の正体は呪術師。呪いの力を使って人に害を与える呪いを祓うのが仕事だ。E組に来たのも殺せんせーを祓うため…まあ殺せんせーは呪霊じゃないがそう分類されたってことだ。」
「なんで嘘ついてたの…?」
「みんなを呪いと関わらせないようにするためだ。呪いと関わってしまったやつは大抵ろくな目に合わない。綺麗な死体が見つかるだけでも御の字なんだよ。」
「…そんなに。」
「まあ見られた以上は話さないと納得してくれないと思ったから話したけど、絶対に殺せんせーを含めてみんなには言わないでくれ。呪いのことも俺自身のことも。」
「…分かった。」
「ありがとう。」
「…けど!あんまり危ないことはしないでね…。もし急にナミ君がいなくなるなんて、私はやだよ…。」
「…あんがと。けど俺結構強いから。簡単には死なないよ。」
「…うん。」
その後2人は店を出て分かれた。
既にお分かりかもしれないが、奏はまだたくさん嘘をついている。E組のみんなを呪いに関わらせたくないというのは本心だが、それ以上に自分の過去を知られたくなかった。
それが奏の本来の術式。
戦闘能力なんて全く無いにも関わらず、呪術界でもトップクラスで危険視されている術式。
その力は「血を媒体として他人の術式を奪い、自分のものにする」というもの。
百々目鬼も累乖呪法も生まれ持ったものではない。昔他の呪術師を殺して得たものだ。
奏は人殺しである自分の過去を知られて、あの優しいクラスメイトたちから昔と同じように扱われるのが怖いのだった。
(身近な人を失うのが怖い、いや、自分とその人との関係を失うのが怖いか…呪術師に
そう思いつつ奏は家に帰った。
なーんかくどいかなぁ?
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