多分賢いバカなんだと思いたい。
「…アンタ、誰?隠れてないで出てこいよ。」
ある日の放課後、下山中に視線を感じた。
その上、気配を隠していやがる。十中八九殺し屋ってのは分かるが、何故
どちらにせよこちらから仕掛けさせてもらおうか。
俺は隠し持ってた荒不舞雪を森の方へ投擲する。一本の木に刺さるとその裏から1人の男が出てきた。外人…東欧系か?その男は日本語で話しかけてくる。
「流石だな、災厄の特級。」
「その異名で呼ぶな、ムカつく。アンタ殺し屋でしょ。俺狙い?それとも殺せんせー狙い?」
「フフ、どっちでもないな。俺の名はロブロ。イリーナ・イェラビッチをここへ斡旋した者だ。」
「ふぅん…てことは、ビッチ先生の師匠か。それこそ何の用だよ。」
「弟子を撤収させに来た。もはやこの仕事はアイツには適任ではない。潜入の才能ならトップクラスだが、素性が割れた以上は居座る意味がない。あげく今は教師の真似事。アイツにはもうこの仕事は不可能だ。」
「そうですか、ご自由にどうぞ。」
「…随分ドライだね。楽しく授業し、親しげに話しているから子供たちの心なぞとっくにつかめているものかと思ったが…」
「ビッチ先生がクビになろうが正直どうでもいいので。殺せんせーと烏間先生がいれば機能しますから、この教室。」
「ククク、その冷静さに先程の気配察知、君の方がよほど暗殺者に向いているな。ただ投擲は正確とはいえ迂闊じゃないかな?」
「この状況でもそれが言えます?」
投げた時に累乖呪法を発動、荒不舞雪に付与させロブロさんが煽った時に首筋に刃を当てる。対人ならこれだけで基本余裕だが、この人や烏間先生レベルになると割と余裕で防がれるかもな。現に一瞬驚いてたけどすぐに冷静になってるし。
「…!これは失敬。甘く見積もってたようだな。やはり君も殺せんせー同様の怪物…いや化け物らしいね。」
「褒められてますか?それと少し勘違いしているみたいですけど、ビッチ先生は簡単に連れて帰れないと思いますよ?」
「何故そう思う?」
「ここの担任がお節介だからですよ。」
「…?同僚にもか?」
「どうですかね〜。確かに言えるのは、あの先生は生徒の為に常に最善の環境を用意しようとしているってことです。」
俺は荒不舞雪を手元に戻し、帰宅する。
ロブロさんは教室に向かったらしい。百々目鬼を使ってもいいが、まあ律から何があったか聞けばいいか。
翌日
今は体育の授業
細い二本の丸太の上に立ったまま、紐でぶら下げられたボールをナイフで突くという訓練。
しかし皆は的に集中できず、ある一箇所を見ている。
「先生、あれ…」
「気にするな、続けてくれ。」
ついにひなさんが烏間先生に尋ねてみるが、忌々しそうにその一点を無視しようとしている。
皆が注目している所、そこには3人の不審者がおり烏間先生を狙っている。
1人は息を荒げながらナイフを舐めているビッチ先生
1人は鋭い殺気で様子を伺っているロブロさん
1人はおそらく忍者のコスプレをしている殺せんせー
何故このような構図になっているのか。
あの後のことを律から聞いたのだが、ロブロさんがビッチ先生を撤収させようとしたところ、殺せんせーが仲介に入った。ここまでは俺の予想通りだった。
問題はこの先で、ビッチ先生の残留を賭けた暗殺対決を殺せんせーが提案してきたのだった。
ルールは今日中にビッチ先生かロブロさんのうち、先にターゲット役の烏間先生に対先生ナイフを当てた方が勝利というもの。
ビッチ先生が勝ったら残留、ロブロさんが勝ったら撤収、互いの暗殺の妨害と授業の邪魔をした場合即失格。
毎度毎度お疲れ様です、烏間先生。
「カラスマ先生〜、おつかれさまでしたぁ〜。ノド渇いたでしょ、ハイ冷たい飲み物‼︎」
先攻はビッチ先生…なのだがこれはひどい。無理がある。最初の頃の猫被りを今さらやったところで何になるのか。あの飲み物になんか入っているのはイヤでも分かる。
「おおかた筋弛緩剤だな。動けなくしてナイフを当てる。…言っておくがそもそも受け取る間合いまで近寄らせないぞ。」
そりゃそうだろう。計画でもない限り見え透いた手に乗っかるバカなんぞどこにいる。
「あ、ちょっと待って。じゃここに置くから…」
立ち去ろうとする烏間先生だが、ビッチ先生はまだ粘りコップを置く。その直後こける。えぇ…
「いったーーい‼︎おぶってカラスマ、おんぶ〜〜‼︎」
エエェ…これはひどい(2回目)
烏間先生の代わりに磯貝と三村がビッチ先生を立ち上がらせる。
「…ビッチ先生。」
「さすがにそれじゃ俺らだって騙さねーよ。」
「仕方ないでしょ‼︎顔見知りに色仕掛けとかどうやったって不自然になるわ‼︎キャバ嬢だって客が偶然父親だったらぎこちなくなるでしょ⁉︎それと一緒よ‼︎」
全然分からん。キャバ嬢ってなんぞ?とか聞きたいが、要するに既に手の内が知られているビッチ先生の技は烏間先生には無意味という訳だ。ビッチ先生の毒技は鋼タイプの烏間先生には効果が無いのだ。
そうなるとロブロさんにかなりアドバンテージがあるな。俺昨日あんなことロブロさんに言ったけど、これビッチ先生が負けたらかなり恥ずかしいのでは?
休み時間
ロブロさんの暗殺が気になったから、烏間先生の周りに二体の百々目鬼を憑けさせる。今烏間先生は無言でパソコンの画面と向き合っている。向かいのデスクにはビッチ先生が焦った様子で座っている。
するといきなりロブロさんが職員室に正面から入ってきた。烏間先生は椅子を引き避けようとするが、椅子は下がらない。多分ロブロさんが事前に仕掛けていたのだろう。そのままロブロさんはデスクに登り烏間先生目掛けてナイフを突き刺す。
がしかし、その攻撃は当たらなかった。直前で烏間先生がロブロさんの左手をデスクに押さえつけナイフを落とさせる。さらにそのまま膝蹴りを放つ…がこれは寸止め。しかしこの一瞬で烏間先生とロブロさんの力量差がはっきりした。
「熟練とはいえ年老いて引退した殺し屋が、先日まで精鋭部隊にいた人間をずいぶん簡単に殺せると思ったもんだな。」
この人達じゃあ烏間先生は殺せない。はっきりと俺を含めた3人が理解した。
烏間先生は落ちたナイフを拾いビッチ先生とその隣の殺せんせーに向ける。
「わかってるだろうな。もしも今日殺れなかったら…」
((ひ…ひぃぃぃ〜〜‼︎))
…ビッチ先生はともかく、何故殺せんせーまでビビってんだよ。
あーいや、ビッチ先生とロブロさん両方とも殺せなかった場合の烏間先生の報酬が殺せんせーにとって不利なものなのだろう。
烏間先生が職員室から出ていき、ロブロさんは苦しそうに腕を抑える。さっきの反撃で手首を捻ったようだ。
「…フッ、相手の戦力を見誤った上にこの体たらく。歳はとりたくないもんだ。これでは今日中にはあの男は殺れないな。」
「ニュヤッ⁉︎そんな諦めないでロブロさん‼︎まだまだチャンスは沢山ありますよ‼︎」
諦めたようなロブロさんをチアリーダー姿で応援する殺せんせー。烏間先生と何かしら賭けたんですね。ザマァと言っておこう。
「例えば殺せんせー。これだけ密着していても俺ではおまえを殺せない。それは経験から分かるものだ。戦力差を見極め、引く時は素直に引くのも優れた殺し屋の条件なのだ。イリーナしても同じことで、殺る前に分かる。あの男を殺すのは不可能だ。どうやらこの勝負引き分けだな。」
「…そうですか。あなたが諦めたのはわかりました。ですがあれこれ予測する前に、イリーナ先生を最後まで見て下さい。経験があろうが無かろうが、結局は殺せた者が優れた殺し屋なんですから。」
昼休み
なんとビッチ先生が烏間先生にナイフを当てることに成功した。
最初はいつも通り服を脱いで、何か交渉していた。烏間先生は表面上は承諾したらしいが、近づいたところを反撃するつもりらしい。
しかしビッチ先生は脱ぎ捨てた上着と烏間先生が寄りかかっていた木を巧みに利用したワイヤートラップを繰り出し、烏間先生の上をとる。一度は抑えられるものの、何を思ってか烏間先生は力を緩めナイフが当たる。
「師匠…」
「出来の悪い弟子だ。先生でもやってた方がまだマシだ。必ず殺れよ、イリーナ。」
「…‼︎もちろんです、先生‼︎」
ロブロさんなりの褒め言葉を受けて嬉しそうにするビッチ先生。
ハニートラップの達人VS殺し屋屋 暗殺対決 ターゲットは精鋭軍人
この勝負を制したのは高慢でまっすぐな我らが英語教師だった。