「たっ…高田ちゃん‼︎」
このノリで死ぬほど笑ったわ。
転校生 堀部イトナは触手持ちだった。
事前に知らされてなかったのか烏間先生も驚愕している。
俺はというと思いの外冷静だった。彼が触手持ちならほとんどのことが説明がつくのだから。
まずカルマが尋ねた、雨の中手ぶらなのに濡れてない件。マッハの触手で水滴を跳ね飛ばして来たのだろう。
次に兄弟ということだが、これはイマイチ説明がつけづらい。触手が他の生物に寄生するのか、後天的に触手を移植したのか、はたまた触手が他の生物をコピーして姿が変わるのか。パターンはいくらでも考えられるが触手という共通のものから生まれたのなら、まあ納得できる。
いや…律は調整って言っていた。てことは改造人間か人工生命体のどっちか。後者なら触手→他の生物を象るとかなんだろう。けど前者なら?恐らく移植になる、がそうなると殺せんせーは元々人だった?仮にそうだとしてどんな経緯で殺せんせーは人の形じゃなくなった?
考えれば考えるほど頭が混乱してくるが、そうなる前に俺は思考を中断した。恐ろしい怒気を感じたからだ。その怒気を放っているのは…
「どこだ…どこでそれを手に入れた‼︎その触手を‼︎」
「君に言う義理は無いね、殺せんせー。だがこれで納得したろう。両親も違う。育ちも違う。だが…この子と君は兄弟だ。しかし怖い顔をするねぇ。何か…嫌な事でも思い出したかい?」
あのシロって男…何を知ってる?俺の推測だと恐らくアイツはここに来る前の殺せんせーの知り合い、まあ開発者でほぼ確定だ。それは分かりきっている。問題は殺せんせーがここに来る理由を知っているのか?以前の殺せんせーを知ってるのか?
殺せんせーは黙りこくるが、すぐに触手を再生しシロの方を向く。
「…どうやらあなたにも話を聞かなきゃいけないようだ。」
「聞けないよ。死ぬからね。」
突如シロの服の袖から光が放たれる。すると殺せんせーは全身が石化したかのようにその場で固まる。
「この圧力光線を至近距離で照射すると、君の細胞はダイタラント挙動を起こし一瞬全身が硬直する。全部知ってるんだよ。君の弱点は全部ね。」
「死ね、兄さん。」
動けない殺せんせーを後ろからイトナの触手が串刺しにする。イトナは攻撃を緩めず、何度も上から突き刺していく。
「うおおっ…」
「殺ったか⁉︎」
「…いや、上だ。」
吉田と村松の言葉に寺坂が返す。
上を見ると殺せんせーは電灯に掴まっていた。触手は切り落とされてないがかすり傷がかなりあり、息も荒い。再びリングの方を見ると大きな皮があった。これが噂の脱皮能力なのだろう。月一で使えるエスケープ技で、抜け殻は手榴弾の威力も打ち消せるらしい。
「脱皮か…そういえばそんな手もあったっけか。でもね殺せんせー、その脱皮にも弱点があるのを知っているよ。その脱皮は見た目よりもエネルギーを消耗する。よって直後は自慢のスピードも低下するのさ。常人から見ればメチャ速い事に変わりはないが、触手同士の戦いでは影響はデカイよ。」
イトナはぶら下がってる殺せんせーを狙い、殺せんせーはそれを避けリングに再び脚をつける。しかしイトナは待ってたと言わんばかりにラッシュを決めてく。
「加えて、イトナの最初の奇襲で腕を失い再生したね。
確かにいつもより動きにキレがない。狭いリングでスピードが出しづらいのもあるが、普段より遅くは感じる。
「また触手の扱いは精神状態に大きく左右される。予想外の触手によるダメージでの動揺、気持ちを立て直すヒマもない狭いリング。今現在どちらが優勢か、生徒諸君にも一目瞭然だろうねー。」
殺せんせーの弱点、テンパるのが意外と速い…あれはそういう事だったのか。
「さらには献身的な保護者のサポート。」
再びシロが例の光線を照射する。殺せんせーの動きが止まり、イトナは捻りを加えたドリルのような一撃を放つ。間一髪で殺せんせーは避けるが、触手が二本切り落とされた。
「フッフッフ、これで脚も再生しなくてはならないね。なお一層体力が落ちて殺りやすくなる。」
「…安心した。兄さん、俺はお前より強い。」
…なーんか、つまらないな。急に出てきて、後出しジャンケンみたいに弱点言ってって、賞金貰ってハイ終わり。非常につまらない。…んー、そろそろ混ぜてもらおっかな?
「脚の再生も終わったようだね。さ…次のラッシュに耐えられるかな?」
「…ここまで追い込まれたのは初めてです。一見愚直な試合形式の暗殺ですが…実に周到に計算されてる。あなた達に聞きたい事は多いですが…まずは試合に勝たねば喋りそうにないですね。」
「…まだ勝つ気かい?負けダコの遠吠えだね。」
「…シロさん、この暗殺方法を計画したのはあなたでしょうが、少しばかり計算に入れ忘れてる事があります。」
「無いね。私の性能計算は完璧だから。殺れ、イトナ。」
その瞬間、イトナの触手が弾け飛んだ。俺が撃ったのだ。
「…何のつもりだい?ターゲットを殺せる絶好のチャンスだというのに。」
「いやぁ、この状況に便乗して漁夫の利狙おっかなって思ったんだけど、外しちゃった☆ゴメンゴメン。まさか生徒からの援護射撃禁止とか言わないよね?」
そう言いつつ俺は射撃を続ける。撃った弾はほとんどがイトナの触手に命中する。予想外のことに対処できてないみたいだな。ついでに少し殺せんせーに向かって撃ってみたが、躱された。やっぱダメか。
「援護だと?いい加減なことを言うね。ほとんどイトナに当ててるくせに。」
「アッハハ、確かに。…じゃあ言い直させてもらうよ。ポッと出の分際で俺らの獲物横取りしようとしてんじゃねーよ。」
「殺せんせーが死ねば地球は救われる。誰が殺るかは重要じゃないだろ?」
「アンタみたいな部外者からしたらね。けれど殺せんせーが何を思ってここにいるか、何を思ってイトナの触手にキレたか、そういう事は俺らは一切知らない。だからただ殺すだけじゃダメ、殺せんせーの真実を知るべきだと俺は思った。だから邪魔するよ。」
「…やはり君という存在は私にとって不快だね。まぁ今はどうにもできない。まずはタコから…⁉︎」
シロが再びリングを見ると形勢は逆転していた。あの射撃は殺せんせーの再生時間を稼ぐため。超スピードが出せるとはいえ殺せんせーと同じ触手。つまりリング外からの予想外の射撃で触手を失えば、動揺して機能は落ちる!
今のイトナは殺せんせーが脱ぎ捨てた皮に包まれて身動きが取れない。
「イトナ君、君の力は確かに強力です。使い慣れてる先生が一番よく知っています。でもね、先生の方がちょっとだけ老獪です。」
そのまま殺せんせーは校庭側の窓目掛けて皮で包んだイトナを放り投げる。イトナは抵抗できず校庭に飛ばされる。
「先生の抜け殻で包んだからダメージは無いはずです。ですが君の足はリングの外に着いている。先生の勝ちですねぇ。ルールに照らせば君は死刑。もう二度と先生を殺れませんねぇ。」
殺せんせーは顔をナメてる証のシマシマ模様にする。俺の援護が無かったら結構ヤバかったくせに。やっぱ器小さいな。
「生き返りたいのなら、このクラスで皆と一緒に学びなさい。性能計算ではそう簡単に計れないもの、それは経験の差です。君より少しだけ長く生き、少しだけ知識が多い。先生が先生になったのはね、
「勝てない…俺が、弱い…?」
イトナの様子が変わる。その触手はドス黒くなり、構えはまるで獣のようだ。あの色、触手を見た時の殺せんせーと同じ…ってことはガチギレしてんのかよ!イトナは真っ黒の触手を出鱈目に振り回す。その威力は凄まじくイトナの力の木を簡単に切り倒してしまう。
「俺は、強い。この触手で、誰よりも強くなった…誰よりも!」
イトナが殺せんせー目掛けて飛びかかろうとした時、何かがイトナの首筋に命中した。それが放たれた方向にはシロが立っていて、光線を隠していたのとは別の裾から銃が覗いている。麻酔銃か。
「すいませんね、殺せんせー。どうもこの子は…まだ登校できる精神状態じゃなかったようだ。転校初日で何ですが…しばらく休学させてもらいます。」
いけしゃあしゃあと…
シロはそう言うとイトナを担ぎ、当然のようにそのまま去ろうとする。
「待ちなさい!担任としてその生徒は放っておけません。一度
「嫌だね、帰るよ。力ずくで止めてみるかい?」
挑発してくるシロに触手を伸ばす殺せんせー。しかし触手がシロの衣服に触れた途端、触手が溶ける。そういう武器もあるんかい。
「対先生繊維。君は私に触手一本触れられないよ。心配せずともまたすぐに復学させるよ、殺せんせー。三月まで時間が無いからね。責任もって私が…家庭教師を務めた上でね。そして…次は君もだよ、漣奏君。」
「ハッ、触手だけが取り柄の短絡思考に非戦闘要員がほざきやがって。返り討ちにしてやるよ。」
「チッ…」
2人が去った後
「何してんの、殺せんせー?」
「さあ…さっきからああだけど。」
俺らが机を元に戻しているなか、殺せんせーは顔を真っ赤にして触手で覆っている。
「シリアスな展開に加担したのが恥ずかしいのです。先生どっちかと言うとギャグキャラなのに。」
「自覚あるんだ‼︎」
「カッコ良く怒ってたね〜『どこでそれを手に入れたッ‼︎その触手を‼︎』」
「いやああ、言わないで狭間さん‼︎改めて自分で聞くと逃げ出したい‼︎掴み所のない天然キャラで売ってたのに、ああも真面目な顔を見せてはキャラが崩れます!」
計算してやってんのかよ、腹立つわぁ。
そんな空気の中、ビッチ先生が代表して話を切り出す。
「…でも驚いたわ。あのイトナって子、まさか触手を出すなんてね。」
「…ねぇ殺せんせー、説明してよ。」
「あの二人との関係を。」
「先生の正体、いつも適当にはぐらかされてたけど…」
「あんなの見たら聞かずにいられないぜ。」
「そうだよ、私達生徒だよ?先生の事よく知る権利あるはずでしょ。」
みんなが問い詰めると、殺せんせーは意を決して立ち上がる。
「…仕方ない。真実を話さなくてはなりませんねぇ。…実は、実は先生…
実は先生…人工的に造り出された生物なんです!!」
「うん、だよね。で?」
「ニュヤッ、反応薄っ‼︎これ結構衝撃告白じゃないですか⁉︎」
「…ってもなぁ、自然界にマッハ20のタコなんていないだろ。」
「宇宙人でもないのならそん位しか考えられない。」
「で、あのイトナ君は弟だと言ってたから…」
「先生の後に造られたと想像がつく。」
うん、俺もさっきまでほとんど同じ推測してたし、誰だってそれくらいなら考えつく。なのになんで殺せんせーは「察しが良すぎる…‼︎」みたいな顔をしているのだろうね?
「知りたいのはその先だよ、殺せんせー。どうしてさっき怒ったの?イトナ君の触手を見て。殺せんせーはどういう理由で生まれてきて…何を思って
渚からの質問に殺せんせーは答えない。
「残念ですが今それを話したところで無意味です。先生が地球を破壊すれば、皆さんが何を知ろうが全て塵になりますからねぇ。」
「……‼︎」
「逆にもし君達が地球を救えば…君達は後でいくらでも真実を知る機会を得る。もうわかるでしょう。知りたいなら行動は1つ、殺してみなさい。
欲しいものは殺して得よ…単純だけど、あの先生相手にはとても難易度が高すぎる。けど、それでも俺らのやる事は決まってる。
放課後
校庭では烏間先生が部下の人たちと一緒に新しい設備を作っている。
「烏間先生!」
「…君達か、大人数でどうした?」
「あの…もっと教えてくれませんか、暗殺の技術。」
「…?今以上にか?」
「今までさ、『結局誰か殺るんだろ』ってどこか他人事だったけど。」
「ああ、今回のイトナと漣見てて思ったんだ。誰でもない、俺らの手で殺りたいって。」
「もしも今後強力な殺し屋に先越されたら、俺ら何のために頑張ってたのかわからなくなる。」
「だから限られた時間、殺れる限り殺って知りたいんです、私達の担任のことを。」
「殺して、自分たちの手で答えを見つけたい。漣の意思表示と殺せんせーの言葉を聞いて、そう決意しました。
「…分かった。では希望者はこの後追加で訓練を行う。より厳しくなるぞ。」
「「「はい‼︎」」」
良い目をしているね。意識が変わったのなら、あの時邪魔した甲斐があったな。…俺も呪術なしで殺せるように特訓しようかな。
奏視点out
三人称視点in
時は少し遡り、シロは教室を去った後考えごとをしながら山を下りていた。
「このイトナもまだ成長真っ盛り、調整を焦る必要は無い。奴の性格上…地球滅亡まで学校から逃げ出す事は無い。それよりも優先すべきはあの呪術師…さて、どうしたものか。」
「お困りのようだね、
突然シロの前に紫色の着物を着た女が現れた。雨が再び降り始めたというのに女は傘を差していない。
「何の用だい?私は君のことを知らないのだけど?」
「そんな警戒しないでよ。私はただ君と協力関係を結びたいだけなんだから。」
「何だと…?」
「私はね、奏が欲しいの。けれど私が説得しても無理だし、力ずくじゃあ少しばかり都合が悪い。だから君に力を貸す代わりに、彼を捕まえてきてもらう。利害は一致してないかな?」
シロとしては奏への有効打がない。この女は怪しいが、計画の為には力を借りるべきだろう。
「いいだろう。協力関係を結ぼうか。」
「嬉しいよ、シロ君。じゃあ自己紹介させてもらうね。
はい、新キャラです。彼女についてはそのうち明かされていきます