「ナミくーん!今どんな感じ?」
「ヒナさん、おつかれ。見ての通りよ。」
「5-0⁉︎すごいじゃん!」
「人間の野球とマッハの野球だと次元が違いすぎるからねぇ。そっちはどうだった?」
「負けちゃったよ〜。けど惜しかったよ。メグちゃんが一人で30点決めてた!」
片岡さんえげつねぇ。そんなん俺でも引くわ。おいそこ、おまえが言うなとか思ってるだろ。
「この調子だといけそうだね!」
「いや〜、向こうのベンチ見てごらんよ。」
そう、まさかの一回表から浅野理事長が参戦してきた。ここからはさっきまでの手は通じない気がする。もうただの野球じゃない。人間離れしてる二大教師の采配対決だ。
「…‼︎今入った情報によりますと、野球部顧問の寺井先生は試合前から重病で…野球部員も先生が心配で野球どころじゃなかったとの事、それを見兼ねた理事長先生が急遽指揮を執られるそうです‼︎」
いやいや、スポーツマンともあろう者が体調管理もできないなんておかしいだろ。野球部も心配なら休ませてやれよ。お前ら、E組相手なら余裕とか思ってたんだからさ、指揮とかいらないはずじゃん。まあそのE組に負けてる最中なんだけど。
理事長が部員を呼び集め、何かを言って円陣を組む。うーん、やな予感。
そして試合再開
6番打者は前原…なのだが野球部の守備体系が大幅に変わった。なんと守備全員を内野に集まる極端なスタイルをとってきた。
「バントしか無いって見抜かれてるね。」
「ええっ⁉︎でもあんな至近距離ってダメじゃないの?あんなの集中できないじゃん!」
「いや…ルール上はフェアゾーンならどこでもOKなんだよ。一応審判の判断次第でダメって言われることもあるけど…その審判は
進藤が球を投げ前原はバントの構えで打つが、真上に打ち上げてしまいワンナウト。
続いて7番岡島、殺監督に指示を仰ぐが…
(^ ^)→(^^;)→。゚(゚´Д`゚)゚。
駄目みたいです。
岡島が三振で続く8番打者の千葉もアウト。一気にスリーアウトとなってしまう。ボールを投げる進藤は試合前の余裕が戻ったようでもなく、ただ淡々と制圧していく機械のように見える。
しかしE組の守備の要も負けてはいない。
杉野が変化球で三者連続三振を成し遂げ、無失点でチェンジ。
杉野は自分でも遅球と言っていたが、以前殺せんせーの指摘を受け変幻自在な変化球を習得しているらしい。E組に来てから特訓したものだから野球部がすぐ対処することなんてできない。
ふとコートを見渡すとレフトを守ってるカルマが足元を見ている。…なんか足元がボコってなってんな。監督がなんか言ってんの?
「…監督〜。」
「ハイハイ、呼びましたか漣君?」
「…地獄耳だねぇ。カルマになんて言ったの。」
「お得意の挑発で揺さぶってみましょうと言ってきました。先生の予想だともう少ししたら君にも指示を出すことになります。」
「…?確かにもう一回打順は回ってくるけど、さっきの俺の見たら絶対敬遠してくるでしょ、あの理事長。」
「攻めの話ではありません。守りの話ですよ。まあその時まで待ってて下さい。」
二回表はその9番打者のカルマ。
だが何故か打席に入らない。
「どうした?早く打席に入りなさい。」
「……ねーえ、これズルくない、理事長センセー?これだけジャマな位置で守ってんのにさ、審判の先生は何も注意しないの。
「小さい事でガタガタ言うな、E組が‼︎」
「たかだかエキシビションで守備にクレームつけてんじゃねーよ‼︎」
「文句あるならバットで結果出してみろや‼︎」
カルマの挑発が炸裂するが、効果はないらしい。観客どもがゴミとか缶とか投げてくる。それをバレないように呪術で逸らしたり叩き落としてく…あっちょっ、コーヒーは熱い‼︎液体はちょっと厳しい!うわ、炭酸ベトベトする!今ドリンク投げたやつ顔覚えたかんなぁ‼︎
カルマの抗議が不発に終わりワンナウト。その後の木村、渚も打てずにスリーアウト。
対して二回裏。進藤の打撃が凄まじく三点も返されてしまう。俺らはバントしか練習してないから取れないのは仕方ない。序盤の蓄えが生きてるのが幸いだ。
続いて三回表、E組の最後の攻撃。
磯貝が三振で、杉野は打ったものの取られてしまいワンナウト。俺に対しては予想通り敬遠され、前原でスリーアウトとなる。
おいこら、バットで結果出せとか言われたから出してやろうとしたのに、逃げ腰の敬遠食らったぞ。なんとも思わねーのかよ、と言いたいところだがこれも戦術の範疇だから何も言えない。
そして三回裏、野球部最後の攻撃。
なんとここで野球部は一人目から意趣返しのようにバントをさせる。
腕前でいったら当然野球歴の長い野球部の方が上で、俺らの守備はザル以下。すぐにノーアウト満塁にされてしまう。
本来ならバントなんて野球部がE組をボコボコにするのを見たい生徒たちにとってはつまらない行動だが、先に俺らがやったことで「手本を見せる」という大義名分が作られたわけだ。
そしてここでキャプテン進藤が打席に入る。その姿はかつてのスポーツマンの面影はない。理事長の改造の賜物か。
満塁のこの状況、理事長が強者を演出させるなら当然スイング、しかも今の極限状態の進藤ならホームランも出しかねない。そうじゃなかったとしても二回目同様の長打でツーヒットランで同点、スリーヒットランでも負けが確定する。しかも杉野が打たれ始めてきているから試合を引き延ばすのも厳しい。どうするか…!
「漣君、今こそ出番です。カルマ君と一緒に前に出て下さい。」
「…?……あー、そういうことか。りょーかい。」
俺とカルマは顔を見合わせ、前に出る。その位置は一回表と野球部と同じ前進守備。
「明らかにバッターの集中を乱す位置で守ってるけど、さっきそっちがやった時は審判何も言わなかった。」
「ルール上OKだし、特別ルールにもE組の守備位置の指定なんてない。文句無いよね、理事長?」
さっきのカルマの挑発はここ一番という状況への布石。同じことをやり返しても文句を言わせないようにするためだったわけだ。明確に打撃妨害とされるのはバットが守備側に当たった時で、それ以外は審判次第だもの。
「ご自由に。選ばれた者は守備位置位で心を乱さない。」
「へーえ、言ったね。」
「じゃあ遠慮なく。」
理事長の許可を得た俺らは更に前に出る。
その距離は進藤がバットを振るえば確実に当たる程。ボールが取りやすくなるなんて訳ないくらい近い。
「……は?」
異様な前進守備に集中が切れたような進藤君。目が点になってらぁ、ウケる。
「気にせず打てよスーパースター。ピッチャーの球は邪魔しないから。」
「フフ、くだらないハッタリだ。構わず振りなさい、進藤君。骨を砕いても打撃妨害を取られるのはE組の方だ。」
カルマの挑発と理事長の指示に明らかに動揺している進藤。振っていいのか悩んでるみたいだね。
そして杉野の1球目。進藤は威圧するように大きくバットを振るう。が、俺もカルマも寸前で躱し、ボールはキャッチャーミットに入りストライク。
マッハ20の殺せんせーを普段から狙い、その上で殺そうとしているんだ。しかも今回はマッハ20で野球までやらされた。ただの人間のスイングを避けるだけなら、バントより楽だ。
「…ダメだよ、そんな遅いスイングじゃ。次はさ、殺すつもりで振ってごらん。」
「殺る気が感じられない…まさかここに来てただバットを振るうのが怖い、なんて言わないよね、スーパースター?」
続いて2球目、集中が切れ理事長の洗脳が裏目に出てきてしまった進藤はバットを振るう。ボールはバットに当たったもののそのスイングは腰が引けていて、真上に打ち上がる。
そのボールをまずカルマがキャッチし、キャッチャーの渚に投げサードランナーアウト。次に渚が三塁の木村に投げる。他のランナー達はこの状況に飲み込まれていたため、反応が遅れてセカンドランナーアウト。最後に木村が一塁の菅谷に向けて投げる。飛距離が足りずボールは途中でバウンドするが、進藤はバッターボックスに座り込んでしまっているので楽々バッターアウト、トリプルプレーで俺らの勝ちだ。観客達は完全に盛り下がっている。頑張った甲斐あったわ。
奏視点out
三人称視点in
「進藤。」
バッターボックスで茫然としてる進藤に杉野が話しかける。
「ゴメンな、はちゃめちゃな野球やっちまって。でも分かってるよ。野球選手としてお前は俺より全然強ぇ。これでお前に勝ったなんて思ってねーよ。」
「…だったら…なんでここまでして勝ちに来た。結果を出して俺より強いと言いたかったんじゃないのか?」
「……んー、渚は俺の変化球練習にいつも付き合ってくれたし、カルマの反射神経とか皆のバントの上達ぶりとかすごかったろ?漣なんかはこの日の為に自分一人でも特訓してたみたいなんだ。でも結果出さなきゃ上手くそれが伝わらない。…まぁ要はさ、ちょっと自慢したかったんだ。昔の仲間に、今の俺の
照れ臭そうに笑って言う杉野を見て、進藤も笑顔で返す。
「覚えとけよ、杉野。次やる時は高校だ。」
「おうよ!」
また一つ、殺意で絆が結ばれたのだった。
(…まぁ、高校まで地球があればの話だがな。)
次回、いよいよヤツが来ます。
アート回は飛ばします。