そっちの方が作者のやりたいことができるので。
ひゃー、今回クソ長い!
7月
今朝奏の目覚めは悪かった。
暑くて寝苦しかったわけではないし、以前まではこんなのは日々しょっちゅうだ。
しかしE組に来てからあの夢を見たのは転校して数日の間だった。
「…腑抜けてんのかな、俺。」
朝ご飯を作りながら、ポツリと呟く。自嘲気味に軽く笑うが、すぐに無表情になる。
「…忘れるな。俺の命は俺のものじゃない。幸せになろうなんて思うな。そんなことを思うのは…奪った命への侮辱だ。」
奏は自分に言い聞かせるように呟く。
=================
(四カ月に入るにあたり…「可能性」がありそうな生徒が増えてきた。)
千葉と三村のナイフを払いながら、烏間はその可能性のありそうな生徒の名前を思い浮かべていく。
(磯貝悠馬と前原陽斗。運動神経が良く仲も良い2人のコンビネーション、2人がかりなら…俺がナイフを当てられるケースが増えてきた。)
(赤羽業。一見のらりくらりとしているが…その目には強い悪戯心が宿っている。どこかで俺に決定的な一撃を加え、赤っ恥をかかそうなど考えているが…そう簡単にいくかな?)
(女子は体操部出身で意表を突いた動きができる岡野ひなたと、男子並みの
(そして殺せんせー。彼こそ正に俺の理想の教師像だ。あんな人格者を殺すなんてとんでもない‼︎「人の思考を捏造するな。失せろ
烏間からの厳しいお言葉を受け、泣きながら砂場でタージマハルを作る殺せんせー。
(寺坂竜馬、吉田大成、村松拓哉の悪ガキ3人組。こちらは未だに訓練に対して積極性を欠く。3人とも体格は良いだけに…彼らが本気を出せば大きな戦力になるのだが。)
(本気という点では彼、漣奏もだ。ここに来てから訓練の時ですら一度も本気を出していない。彼の実力はここに推薦されるくらい高いらしいが、俺はまだ見たことはない。しかし球技大会などを見る限りそろそろ出してくれそうか?)
(全体を見れば生徒たちの暗殺能力は格段に向上している。この他には目立った生徒はいないものの…)
その時、烏間は恐ろしい気配を感じた。まるで蛇に巻きつかれて、今にも噛まれそうなそんな気配を。反射的に勢いよく手を振り払いのけると、そこには痛そうに頭を抑えていた渚がいた。
「…いった…」
「…‼︎すまん、ちょっと強く防ぎすぎた。立てるか?」
「あ、へ、へーきです。」
「バッカでー。ちゃんと見てないからだ。」
「う…」
(…潮田渚。小柄ゆえに多少はすばしっこいが、それ以外に特筆すべき身体能力は無い温和な生徒。…気のせいか?今感じた得体の知れない気配は)
その様子を殺せんせー、そして奏はじっと眺めていた。
「そこまで!今日の体育は終了‼︎」
「せんせー!放課後街でみんなでお茶してこーよ‼︎」
「…ああ、誘いは嬉しいが、この後は防衛省からの連絡待ちでな。」
烏間は倉橋からの誘いを断り、職員室に戻っていく。
「…私生活でもスキがねーな。」
「…っていうより…私達との間にカベっていうか、一定の距離を保ってるような。」
「厳しいけと優しくて、私達のこと大切にしてくれてるけど、でもそれってやっぱり…ただ任務だからに過ぎないのかな。」
「そんな事ありません。確かにあの人は先生の暗殺のために送りこまれた工作員ですが、彼にもちゃんと素晴らしい教師の血が流れていますよ。」
矢田や倉橋は寂しそうに言うと、殺せんせーはいつものようにやんわりと否定する。
一方噂の烏間は今日から追加で配属される人員のことを考えていた。烏間がいかに優秀だとしても、暗殺者の手引きと生徒の訓練を同時にはこなせないと上が判断したためだ。
烏間が校舎に入ろうとすると、入れ替わりに大柄な男が出てきた。その男はダンボールを担ぎ、両手に沢山のビニール袋や紙袋を持っている。
「よ、烏間!」
「…鷹岡!」
鷹岡と呼ばれた男はグラウンドに降りていった。
「やっ!俺の名前は鷹岡明‼︎今日から烏間を補佐してここで働く!よろしくな、E組の皆!」
その場にいる全員が戸惑った。烏間とら真逆の鷹岡のフレンドリーさと鷹岡の荷物に。その荷物にはケーキや飲み物が大量に入っていた。真っ先に反応したのはスイーツ党の茅野と不破だった。
「これ『ラ・ヘルメス』のエクレアじゃん‼︎」
「こっちは『モンチチ』のロールケーキ‼︎」
「いいんですか、こんな高いの?」
「おう、食え食え!俺の財布を食うつもりで遠慮なくな‼︎モノで釣ってるなんて思わないでくれよ。おまえらと早く仲良くなりたいんだ。それには…皆で囲んで飯食うのが一番だろ!」
「でも…えーと鷹岡先生、よくこんな甘い物ブランド知っていますね。」
「ま、ぶっちゃけラブなんだ、砂糖が。」
「でかい図体してかわいいな。」
皆は少しずつ鷹岡の持ってきた菓子を食べ始める。それに釣られて殺せんせーもじっとヨダレを垂らしながら見ている。
「お〜殺せんせーも食え食え‼︎まぁいずれ殺すけどな。」
持ち主からの許可を得てスイーツに食らいつくタコ。その姿に恥なんてない。
「同僚なのに烏間先生とずいぶん違うスね。」
「なんか近所の父ちゃんみたいですよ。」
「ははは、いいじゃねーか、父ちゃんで。同じ教室にいるからには…俺たち家族みたいなもんだろ?」
その様子を奏は少し離れて見ていた。
(…なんだアイツ?あの仮面みたいに貼り付けた笑顔、気持ち悪りぃ。)
「おーい、そこで見てるおまえ!おまえもこっちに来いよ!」
「そうだよ〜、ナミ君!美味しいよ〜!」
「…すんません。今ちょっと胃の調子が悪いんで、またの機会に。」
「…そっか。ならしゃーないな!」
奏は無表情のまま、校舎に戻っていく。中には烏間がいて話しかけてきた。
「君は混ざらないのか?」
「…薄気味悪いんで、あの人。補佐って言ってましたけど…具体的には?」
「…俺が暗殺者の手引きに専念して、鷹岡が君達の訓練を行えとの指示だ。」
「そうですか…なら俺は明日休みます。あの人の授業は受ける気になれないんで。」
教室に入ると、奏は律に話しかける。その内容は明日の鷹岡の授業に不審な点があったら連絡してくれ、とのことだ。
奏の疑惑に反して、鷹岡の生徒からの評価は高くなっている。
「どう思う?」
「えー、私は烏間先生の方がいいなー。」
「でもよ、実際のとこ烏間先生何考えてるか分からないとこあるよな。いつも厳しい顔してるし、メシとか軽い遊びも…誘えばたまに付き合ってくれる程度で。その点あの鷹岡先生って根っからフレンドリーじゃん。案外ずっと楽しい訓練かもよ。」
上からの鷹岡の評価は烏間も聞いていた。教官としては自分より遥かに優れていたらしい。しかし部下の園川からの警告、そして鷹岡の生徒と軍人を一緒くたに考えるような言葉を少し不審に思っていた。
=========================
(だいぶ憂太も腕上がってきたな。伸び代は大きい。)
翌日、予告通り学校をサボった奏は高専で憂太の特訓をしていた。
「…もらった‼︎」
「…‼︎」
憂太は腰近くに横薙ぎを仕掛けてくる。奏はこれをバク転で回避する、がこれを読んでいた憂太はさらに加速して足元目掛けて切りかかる。しかしその一振りは当たらずに空を切る。空中に浮いて回避した奏は憂太の上を飛んで後ろに回り込み、切りかかる
「ええ!?」
「これで二つ目だな。1ヶ月ちょいでこれは充分だろ。」
憂太は既に奏から百々目鬼と累乖呪法の使用に成功している。残すは二つだが、自在に重力を操る奏からさらに癖のある術式を使わせるのは至難の業だ。
「…まさか、空を飛ぶ術式なんて。」
「いや、違うぞ。今使ったのは領域内の重力を操る術式で、自分にかかる重力を弱くしてかかる方向を変えた。他人にかけるにはこうやって。」
説明しながら奏は憂太の肩に触れる。そして指をクイと上に曲げると憂太の体が宙に浮いた。
「うわ⁉︎」
「相手に触れる必要がある。質量次第で触れる時間は変わるけどね。」
「わ、分かった!分かったから降ろして‼︎酔いそう‼︎」
奏が憂太にかかっている術式を解いたとき、携帯がなった。律からだ。
「漣さん!大変です‼︎」
「律?何があった⁉︎」
「これを見て下さい‼︎」
「…⁉︎」
律が奏の携帯に映したもの、それは腹を抑えて苦しそうにしている前原とその様子を昨日と同じ笑顔で見下ろしている鷹岡だった。
「…これは、いったい…」
「鷹岡先生が訓練が始まってから時間割の変更を告げてきたんです。それがこれです…。」
「は⁉︎十時間目、夜9時まで訓練⁉︎こんなのできるわけないだろ!」
「私も同意見です。しかし前原さんが同じように鷹岡先生に言った時、鷹岡先生がお腹に蹴りを入れてきました。『できないじゃない、やるんだよ。世の中に父親の命令を聞かない家族がどこにいる?』と言って…」
「あのやろう…!」
奏は怒りで携帯を握り潰しかねない程の力を込めていた。
そのまま荷物を整理し、学校に向かおうとする。
「憂太!悪いが今日の特訓は中止だ、用事ができた‼︎」
「え、う、うん。…漣君、大丈夫?」
「大丈夫じゃねぇよ…今から俺の仲間傷つけたやつをぶっ飛ばしに行く。」
「…気をつけてね?」
奏はその言葉には何も言わず、片手を挙げて走って行った。
=======================
鷹岡明
彼は同期である烏間に対して強い対抗心を抱いている。
その彼が活路を見出したのが教官、そしてその教育方針は「親愛」と「恐怖」。延々と「
「さあ、まずはスクワット100回かける3セットからだ。」
鷹岡はまるで表情を変えずに言う。
「抜けたい奴は抜けてもいいぞ。その時は俺の権限で新しい生徒を補充する。俺が手塩にかけて育てた屈強な兵士は何人もいる。1人や2人入れ替わってもあのタコは逃げ出すまい。けどな、俺はそういう事したくないんだ。おまえら大事な家族なんだから、父親として1人でも欠けて欲しくない!家族みんなで地球の危機を救おうぜ‼︎なっ?」
そういい鷹岡は三村と神崎の肩に手を回す。2人とも当然青ざめていた。その表情を見て鷹岡は神崎に問いかける。
「な?お前は父ちゃんについてきてくれるよな?」
「…は、はい。あの…私……私は嫌です。烏間先生の授業を希望します。」
それを聞いても鷹岡は変わらない笑顔で神崎にビンタをする。
「「神崎さん‼︎」」
「…お前ら、まだ分かってないようだな。「はい」以外は無いんだよ。文句があるなら拳と拳で語り合おうか?そっちの方が父ちゃんは得意だぞ‼︎」
「やめろ、鷹岡‼︎」
異常に気づいた烏間が職員室から飛び出して、神崎たちのところに駆け寄る。
「大丈夫か?首の筋に痛みは無いか?」
「烏…間先生、大丈夫です。」
「前原君は?」
「へ……へーきッス。」
「ちゃんと手加減してるさ、烏間。大事な俺の家族なんだから当然だろ。」
「いいや、あなたの家族じゃない。私の生徒です。」
鷹岡が振り返るとそこには顔を赤黒くしている殺せんせーがいた。ど怒りになりかけた表情だ。頼れる担任が来て生徒たちの顔が明るくなる。しかし鷹岡は怯まない。
「フン、文句があるのかモンスター?体育は教科担任の俺に一任されてるはずだ。そして、今の罰も立派に教育の範囲内だ。短時間でお前を殺す暗殺者を育ててるんだぜ。厳しくなるのは常識だろ?それとも何か?多少教育論が違うだけで…お前に危害も加えてない男を攻撃するのか?」
その言葉に殺せんせーも烏間も言い返せず引き下がる。
そのまま鷹岡の授業は続き、指示通りスクワット300回を強制する。その様子を三人の教師は眺めるしかなかった。
「…あれでは生徒達が潰れてしまう。超生物として彼を消すのは簡単ですが、それでは生徒に筋が通らない。私から見れば間違っているものの、彼は彼なりの教育論がある。ですから烏間先生、あなたが同じ体育の教師として彼を否定してほしいのです。」
(否定…俺が奴を間違っていると言えるのだろうか。)
烏間は迷っていた。今でこそ鷹岡のは異常な授業に見えるが、昨日の時点では彼のように家族の如く接した方が良かったのか、プロとしての自分の接し方は間違っていたのかと思っていたからだ。
「冗談じゃねぇ…初回からスクワット300回とか…死んじまうよ…。」
「烏間先生〜…ナミ君〜…」
倉橋の呟きを聞いてしまった鷹岡が近づく。
「おい、烏間は俺たち家族の一員じゃないぞ。お仕置きだなぁ…父ちゃんだけを頼ろうとしない子は。」
鷹岡が拳を振りかぶり、倉橋は目を瞑る。
しかし痛みはいつまでたっても来ない。恐る恐る目を開けると…
「アンタ…何してんだよ…‼︎」
鷹岡の拳を受け止めている
「…ナミ君!」
「…ギリギリセーフか…いや、前原と神崎さんがやられた時点でアウトだよな…」
「気にすんなよ…漣。平気だからさ。」
「私も大丈夫だよ…。」
「……そうか、すまない。」
拳を放し周りを一瞥してから、奏は再び鷹岡と対峙する。
「それで何してたんだよ…!」
「ん?お前は今日欠席だと聞いていたが、まさか仮病か?良くないなぁ。」
「質問に質問で返すなよ。さっさと答えろ。」
「見て分からないか?教育だよ。」
「これが…教育…?ふざけんのも大概にしろよ!」
「おいおい、何人間に向かって偉そうに説教してるんだ?化け物の分際で、虐殺者の分際でよぉ。」
その言葉を聞き奏は目を開く。鷹岡は続けて言う。
「お前の過去は知ってるぜ。11歳という異例の年齢で特級の名を冠し、飛び級で呪術高専に入学した稀代の天才呪術師。けれどその力は10年程前に自らの一族郎党、5人の呪術師、そして何百人もの一般人を虐殺して得たものなんだってなぁ。付いた異名が「災厄」。化け物ってのが相応しいな‼︎」
鷹岡の言葉に皆が驚愕する。呪術師という聞いたことのないワード、奏が着ている椚ヶ丘のとは明らかに違う黒い制服、今まで奏が話していたのとは何一つ合ってない奏の過去、そして「虐殺」。情報が纏まらず困惑している。それは奏の素性を全く知らなかった殺せんせーとイリーナ、素性を知っていたものの過去は知らなかった倉橋と烏間もだ。そして奏本人が誰よりも驚いている。
「…何でテメェがそれ知ってんだよ…」
「化け物の言うことに従うと思ってんのか?あぁん?」
「…そうかよ…だったらぶちのめして聞き出す!拳で語り合うのが得意なんだろ?」
そう言うと奏は回し蹴りを決める。突然の一撃に対処できずに蹴りは鷹岡の顔に命中する。そのまま素早く飛び蹴りに移行するが、これは鷹岡が掴んで防がれる。
「化け物風情が…あまり調子に乗るなよ?」
鷹岡は掴んだ足を投げ、地面に落ちた奏を踏み付けようとする。しかし落ちると同時に奏は受け身を取り、避けた後すかさず逆立ちの要領で蹴りを放つ。
「す…すげぇ…」
「漣のやつ、訓練の時とは全然動きが違うぞ…」
「まるで動きを予想してるみたい…」
奏の動きにクラス中が驚くものの鷹岡は表情を崩さない。教育のやり方は異常だがこれでも烏間同様の精鋭軍人、簡単には倒れない。
「なかなかやるな…父ちゃんも本気でいくぞ‼︎」
鷹岡は勢いよくタックルを仕掛けてくる。巨体に反してスピードは速いが奏にとって見極めるのは造作も無く、当たる寸前で避け後ろを狙おうとする。しかしそれが鷹岡の狙いだった。当たる寸前減速することで奏の回避のタイミングが早まり、できた隙を狙って顔の左側にパンチが飛んでくる。
「くっ…」
「まだまだいくぞ‼︎」
再び鷹岡はタックルを仕掛ける。奏はフラフラと立ち上がりガードの構えをするが、ぶつかる前に鷹岡はパンチの構えに切り替える。右側から放たれた鷹岡のパンチを間一髪で防ぐものの、バランスが崩れていた奏はしっかり防げずガードした腕がメキメキと鳴る。フラッとした奏の頭を鷹岡が掴み地面に叩きつけ、何度も足で踏み潰す。
「なんだぁ?大層な名前の割に大したことないじゃないか?」
鷹岡はそう言い、皆の方に振り返る。さっきの勝負を見て皆は震え上がっている。だがその顔は信じられないものを見る目に変わった。
「手加減してやったのに、大したことない…ね。」
そこには奏が何事も無かったかのように立っている。先程の傷も全くない。奏は何処からともなく手帳のようなものを取り出し、あるページを開いてアームウォーマーを取り外して、そこに手を合わせる。
「だったら少しだけ見せてやる、俺の
さっきとは明らかに違う感じの気配を纏った奏に鷹岡は警戒するものの、すぐに勝負を決めようと最速でのタックルを仕掛ける。たがなんと奏は防御も反撃の構えもせずに
「な⁉︎」
「消えた⁉︎」
何処に行った、そう考えるより早く鷹岡の背に蹴りが決まる。振り返るといつのまにか奏がいる。鷹岡は今度こそと拳を振るうが、奏は再び両手を鳴らし消える。と同時に今度は横腹に正拳突きが決まる。
血印刻術
血液を介して他者の術式を奪う奏の術式。この術式で奪われた者は二度とその術式を使えないが、これにはもう一つのやり方がある。
それが「拝借」。他者の術式を時間制限ありで使用できるようにする術式。発動には「血印台帳」という手帳に写し込まれた血印に手を合わせる必要がある。「略奪」との最大の違いは対象の術式保有者から術式が消えない点。
そして今奏が拝借しているのが京都校2年生、東堂葵の術式「
これは両手を鳴らすことを発動条件として、領域内の一定以上の呪力を持つ生物、または非生物の位置を入れ替えるというもの。
ではいったい奏は何と入れ替わっているのか?
鷹岡を始め奏以外の全員には見えていないが実はグラウンド一帯に奏の放った百々目鬼が20体ほど存在している。奏はこの眼と自身を入れ替えることで鷹岡の背後から攻撃しているのだ。普通の呪術師でさえ20箇所ものワープポイントの内何処から仕掛けてくるのか判断しづらいのに、見えない人からしたらまるで対処できない。
立場は逆転して奏が一方的に攻め立てる。
『式瀾流呪闘術 仇の型・竜胆』
正面に転移して鷹岡の腹に強烈な発勁を撃つ。鷹岡の身体がグラつくが奏は構わず次の技に移す。
『什の型・牡丹』
奏はジャンプをして勢いよく踵落としを繰り出す。まともに受けた鷹岡は仰向けになる。
「さてと…そろそろ吐いてもらおうか、誰に聞いた?」
だが鷹岡は答えない。奏は気絶しているものかと思った。
しかし返事の代わりに聞こえたのは銃声だった。
パァンという音がして、奏は胸に痛みを感じる。見ると心臓から血が出ており、振り返ると鼻血を流し拳銃を持った鷹岡が立っている。生徒たちは悲鳴を上げるが、奏は気にしない。さっきと同じように反転術式を使えばいいからだ。この程度で形勢は変わらない。
だが奏は膝をつき、吐血する。
(…な⁉︎何で…何で反転術式が
顔を上げると鷹岡がニヤニヤと笑っている。再び引き金を引きながら鷹岡は言う。
「再生能力を持っているお前には一般兵器は通じないんだってなぁ?けどよ、あるルートから手に入れたこの銃を使えばその力を封じられるんだぜ。知らなかっただろう?」
(クソ!そういう術式が付与されてんのか‼︎いよいよ誰が仕組みやがった⁉︎)
弾丸が奏の身体を撃ち抜く。奏は道連れにと不義遊戯を発動させ、鷹岡の後ろにいる眼と弾丸を入れ替えようとする。しかし、
(…な…不義遊戯も百々目鬼も発動しない⁉︎俺の術式全部封印かよ‼︎)
最後の弾丸が奏の身体を貫く。
鷹岡は最初の時と同じ笑顔を、奏は憎悪で満たされた苦悶の表情を浮かべる。
そして奏の視界は真っ暗になりうつ伏せになって倒れ込んだ。
主人公、まさかの死亡。
これじゃあタイトルが「奏、死す」になってまう。