呪われた少年の暗殺ライフ   作:楓/雪那

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狗巻語の解読に難航している作者。だいたいは分かるけど「いくら」だけがどうしても分かりません。


第23話:才能の時間

「久しぶりだなぁ、貴様がここに来るのは。」

 

猛烈な吹雪。

辺り一面に雪の上に転がっている骸。

その中に対になるようにそびえ立つ骨が重なってできている二つの塔。

片方の塔の頂に座るのは奏、もう一つの塔の頂に座るのは奏と同じ顔をした男。しかし奏のような銀髪ではなく、その髪は鴉をイメージさせるような黒。顔には不可思議な刺青がある。何より奏と違うのはその残虐さを隠すことのない表情である。

 

この2人が居るのは地球上のどこにも存在しない場所。

ここは奏とこの男が生み出した『生得領域』、すなわちこの2人の心の中なのだ。そしてここに居るということは奏はまだ完全には(・・・・・・)死んでいないということになる。

 

「まぁな。最後に死んだのは四年前…いや、三年前だったか?…どっちでもいいか。」

「ククク、先程までには焦っていたのに冷静なものだな。」

「そりゃあここに来たら嫌でもクールになるよ。」

 

奏は少しイラついた顔で、奏に似た男は愉快そうな顔で話す。

 

「しかし油断した結果、あのような虫けらに殺られるとはなぁ。」

「反転術式封じの術式かかってんのは流石に想定外だっつうの。防衛省も知らない俺の過去知ってる時点で術師と繋がってんのは分かってたから、普通の呪具だと思ってたんだよ。」

「クク、そうさなぁ。しかもこの術式、我等が死んでいてもかろうじて解呪できるよう(・・・・・・・・・・・・)弱めに設定されている。非常に不可解だな。」

「その割には楽しそうじゃねぇか。……それで、解呪にはどれくらいかかる?」

「割と複雑だな…6、7分程だな。」

「…分かった。解呪が完了したら。すぐ復活して拷問にかける(・・・・・・)。向こうの手の内は割れているから造作もないし、情けをかけるつもりもない。鷹岡をぶち壊した後は殺せんせーだ。」

「ほう…?随分と決断が早いな。先日まではあの殺せんせーとやらを殺すのはやたら渋っていただろう?」

「事情が変わった。鷹岡が俺の秘密をバラした以上隠すのは律の力を借りても不可能だからな。これ以上居座る理由はない。俺に慣れる前に殺す、全力でだ。」

「ククク……ということは我も殺れるのか…!楽しみだなぁ‼︎」

「その前にまずはあのクズだ。徹底的にゼツボウさせて、ぐちゃぐちゃにシテ、死スラ生温イ地獄ヲ味ワワセテヤロウ‼︎」

「ほう!…つまり久しぶりに『あの状態』に入るのか‼︎ますます楽しくなってきた‼︎」

 

 

 

 

 

「アア…『共鳴』ダ……『八咫烏』‼︎」

 

 

 

 

 

憎悪に染まっていた奏の表情は次第に狂気じみた笑みに変わり、それに合わせて「八咫烏」と呼ばれた男も楽しそうに笑う。

 

 

2人しかいない雪原に狂った笑い声が響いた。

 

 

 

 

========================

 

 

「ナミ君‼︎」

「漣君‼︎しっかりしろ、漣君‼︎」

 

グラウンドはパニックになっていた。拳銃を持った鷹岡、そして射殺された奏。烏間や倉橋が必死に奏に呼びかけるが返事は返ってこない。

 

「こんなことをして許されると思っているのか、鷹岡明‼︎」

 

殺せんせーは鷹岡と向き合っている。その顔は当然、ど怒りの黒。しかし鷹岡はさも当然のように語る。

 

「許されるさ、モンスター。あいつはお前と同じ…いや、それ以上の怪物だ。お前は知らんだろうが、やつがその力を最大限に発揮すれば1ヶ月足らずで人類は滅びるんだぜ?そんな化け物を殺してやったんだ。讃えられこそすれど、貶される謂れは無いはずだが?」

「貴様…いったい彼の何を知っている⁉︎」

「だからさっき言ったまんまだよ。昔から家族含めて何百人もの人を殺して来たんだよ、アイツは。」

「ッ……‼︎」

 

殺せんせーは鷹岡を睨みつけてから、奏の方に向かう。

 

「烏間先生、どいて‼︎私がここで手術を行います‼︎」

 

殺せんせーは触手を駆使して手術を開始しようとするが、心臓部分に触れようとした時バチリと弾かれる。

 

「何…⁉︎」

「無駄だぜ、殺せんせー。それにかかっている術はそいつの術を封じるだけでなく、外界からの接触を封じる結界もかかっている。あんたのマッハ手術が優れていても触れられなきゃ意味がない。」

 

 

鷹岡はニンマリと笑いそう言う。

次に鷹岡はクラス中を見渡し、わざとらしくため息を吐く。

 

「父ちゃんがお前たちを危険に晒す敵を倒してやったのに…お前らはまだ納得していないみたいだな。それなら烏間、お前と俺で教育勝負をしよう‼︎」

「何だと…?」

「どちらの教育が優れているのか競うんだよ。烏間、お前が育てたこいつらの中でイチオシの生徒を1人選べ。そいつと俺が闘うんだ。そいつが一度でも俺にナイフを当てられたらお前の勝ち、当てられずに降参したら俺の勝ち。勝った方が体育教師としての権限を得る。…たーだーし、殺す相手が俺だからな、使うナイフは本物(コレ)だ。どうだ?」

「なっ…ふざけるな‼︎彼らは人間を殺す訓練も用意もしていない‼︎しかもまさに今一人殺されているんだぞ‼︎まともに振るうことすら出来るはずがない‼︎」

「安心しな。寸止めでも当たったことにしてやるし、俺はナイフも銃も使わず素手でやる。これ以上無いハンデだろ?」

 

 

鷹岡のこのやり方もまた軍隊の時と同じだった。

初めてナイフを持つ新兵を素手で制圧することで、鷹岡との格の違いを思い知り心服するようになる。

 

軍隊ですらそうなるのだから、当然E組全員青ざめている。

 

「さあ烏間‼︎1人選べよ‼︎嫌なら無条件で俺に服従だ‼︎生徒を見捨てるか、生贄として差し出すか‼︎どっちみち酷い教師だな、お前は‼︎はっははーー‼︎」

 

鷹岡は高笑いし、烏間の足元の地面にナイフを投げ渡す。

烏間はそのナイフを引き抜くが、どうすべきか判断しかねていた。

 

 

(……俺は…まだ迷っている。地球を救う暗殺者を育てるには…奴のような容赦のない教育こそ必要ではないのか?……この教師(しょくぎょう)に就いてから悩みだらけだ。仮にも鷹岡は精鋭部隊に属した男。訓練3ヶ月の、ましてや目の前でクラスメイトを殺された中学生の(ナイフ)が届くはずがない。)

 

 

ナイフを持ったまま烏間は思考する。しかし悩んではいるが、いつものような厳しい表情である生徒のもとに向かう。

 

(その中でたった1人だけ、わずかに「可能性」がある生徒を…2度も危険に晒していいものかも迷っている。)

 

 

そして烏間はその生徒…渚にナイフを差し出そうとする。

 

 

「渚君、やる気はあるか?」

「…⁉︎」

「選ばなくてはならないなら恐らく君だが、返事の前に俺の考え方を聞いてほしい。地球を救う暗殺任務を依頼した側として…俺は君達とはプロ同士だと思っている。プロとして君達に払うべき最低限の報酬は、当たり前の中学生活を保障することだと思っている。だからこのナイフは無理に受け取る必要は無い。その時は俺が鷹岡に頼んで…「報酬」を維持してもらうよう努力する。」

「ククク、土下座でもすりゃ考えてやるがね。」

 

 

烏間の判断には烏間以外の全員が困惑する。それもそのはず、渚の運動能力は当然運動部に所属していた者やカルマのような喧嘩好きな者には劣る、男女問わずだ。体格と馬力は女子並み。一般的に選ぶなら磯貝か前原(負傷中だか)、カルマ(サボりだが)、或いは片岡あたりのはず。しかも使うナイフは本物。鷹岡は素人が本物のナイフを人に向けると、その意味に気づいて普段の力の一割も出せなくなることを経験則から知っている。誰もが選択ミスだと思った。ただ1人…E組の担任を除いて。

 

「カラスマの奴、頭が変になったのかしら?なんでここで渚を選ぶのよ?」

「いいえ、烏間先生の出した答えは正しいですよ。あの条件なら…私も渚君を指名するでしょう。」

 

 

一方渚は烏間の目を見つめて考えていた。

 

(…僕はこの人の目が好きだ。こんなに真っ直ぐ目を見て話してくれる人は家族にもいない。立場上、僕らに隠し事も沢山あるだろう。何で僕を選んだのかも分からない。けどこの先生が渡す(ナイフ)なら信頼できる。それに神崎さんと前原君の事、何より漣君の事、しっかりお返ししなきゃ気が済まない。)

 

渚はナイフを受け取り、覚悟を決めて宣言する。

「やります。」と。

 

「おやおや、お前の目も曇ったなぁ、烏間。よりによってそんなチビを選ぶとは。」

「渚君、鷹岡は素手対ナイフの闘い方も熟知している。全力で振らないとかすりもしないぞ。」

「……はい。」

 

鷹岡は上着を脱いで準備し、烏間は渚にある事を囁く。

 

 

そして勝負が開始する。

2人とも動かない。渚はどう動けばいいのか迷って、鷹岡は自分の作戦として。渚は勝負の前に言われたアドバイスを思い出す。

 

『鷹岡が決めたこの勝負、君と奴の最大の違いはナイフの有無じゃない。鷹岡にとってのこの勝負は「戦闘」だ。目的が見せしめだからだ。二度とみんなを逆らえなくする為には…攻防ともに自分の強さを見せつける必要がある。』

 

『対して君は「暗殺」だ。強さを示す必要も無く、ただ一回当てればいい。そこに君の勝機がある。』

 

『奴は君にしばらくの間、好きに攻撃させるだろう。それらを見切って戦闘技術を誇示してから、じわじわと君を嬲りにかかるはずだ。つまり反撃の来ない最初の数撃が最大のチャンス。君ならそこを突けると俺は思う。』

 

 

 

 

 

 

(そうだ、戦って勝たなくていい。殺せば勝ちなんだ。)

 

 

 

 

 

そして渚は鷹岡の方へ歩いていく。まるで通学路を歩くかのように普通の笑顔で。

渚の胸がポスンと鷹岡の腕に当たる。すると渚は素早く首筋目掛けてナイフを振る。ここでようやく鷹岡は自分が殺されかけてる事に気がついた。済んでのところで体を仰け反らせて避けるが、渚は重心が後ろに偏っていることを見逃さない。手を伸ばして服を引っ張ると、鷹岡は転ぶ。そして防がれないよう背後に回り込み、ナイフを首筋に当たる。

 

 

 

「捕まえた。」

 

 

 

この一連の流れに殺せんせーは当然分かっていたような笑顔を浮かべ、それ以外の面々は驚愕する。

 

 

(なんて事だ…予想を遥かに上回った‼︎普通の学校生活では…絶対に発掘される事のない才能‼︎殺気を隠して近付く才能、殺気で相手を怯ませる才能、本番に物怖じしない才能‼︎俺が訓練で感じた寒気は…あれが訓練じゃなく本物の暗殺だったら‼︎戦闘の才能でも暴力の才能でもない、暗殺の才能‼︎これは…咲かせても良い才能なのか⁉︎)

 

「…あれ、ひょっとして烏間先生、峰打ちじゃダメなんでしたっけ?」

「そこまで‼︎勝負ありですよね、烏間先生。」

 

殺せんせーの声で皆ハッとする。

それに続いて皆が涙を流しながら、しかし笑顔で渚のもとに駆け寄る。

 

「やったじゃんか、渚‼︎」

「お前までやられちまったらどうしようかと思ったぞ‼︎」

「大したもんだよ。よくあそこで本気でナイフ振れたよな。」

「いや…烏間先生に言われた通りやっただけで、鷹岡先生強いから…本気で振らなきゃ驚かす事すら出来ないかなって。」

 

パチンと前原が一回渚にビンタする。

 

「痛っ⁉︎何で叩くの、前原君⁉︎」

「あ、悪い…ちょっと信じられなくてさ。でもサンキュな、渚‼︎今の暗殺スカッとしたわ‼︎」

 

 

その様子を烏間は離れて見ていた。

 

 

(それにしても……ああしてるととても彼が強くは見えない。だからこそ鷹岡はまんまと油断し反応が遅れた。暗殺者にとっては…「弱そう」な事はむしろ立派な才能なのだ!さらに自然に近付く体運びのセンス、敵の力量を見て急所を狙える思い切りの良さ、暗殺でしか使えない才能‼︎だが…喜ぶべき事なのか⁉︎このご時世に暗殺者の才能を伸ばしたとして…E組(ここ)ではともかく、彼の将来にプラスになるのか?)

 

烏間が悩んでいると殺せんせーがその肩に顔を乗っけてきた。

 

「烏間先生、今回は随分迷ってばかりいますねぇ、あなたらしくない。」

「悪いか。」

「いえいえ…でもね烏間先生。」

 

殺せんせーが生徒たちの方を指差すと、その後ろに鷹岡が立っている。勝負前までの余裕はなく、完全に激昂している。

 

「このガキ…父親も同然の俺に刃向かって…まぐれの勝ちがそんなに嬉しいか。もう一回だ!今度は絶対油断しねぇ!心も体も全部残らずへし折ってやる‼︎」

 

烏間は止めようとするが、殺せんせーは肩を叩いて少し見ていて下さいと言う。

 

「…確かに次やったら絶対に僕が負けます。…でも鷹岡先生、はっきりしたのは僕らの『担任』は殺せんせーで、僕らの『教官』は烏間先生です。これは絶対譲れません。父親を押しつける鷹岡先生より、プロに徹する烏間先生の方が僕はあったかく感じます。本気で僕らを強くしようとしてくれたのは感謝してます。でもごめんなさい、出て行って下さい。」

 

渚は鷹岡の方をしっかり見ながらキッパリと意見を言い、最後に頭を下げる。更に倉橋が続けて言う。

 

「鷹岡先生が言ったナミ君の事は私達は分からない…ナミ君に何があったのか知らない。けど…私達にとってナミ君は『化け物』なんかじゃなくて『仲間』だから!ナミ君を殺した鷹岡先生を許すことなんて出来ません。ナミ君は戻って来ないけど、私達の心の中からは欠けません。」

 

2人の言葉に続けて皆が反抗的な目を向ける。

その光景にビックリしている烏間に殺せんせーは言う。

 

「先生をしてて一番嬉しい瞬間はね、迷いながら自分が与えた教えに…生徒がはっきり答えを出してくれた時です。そして烏間先生、生徒がはっきり出した答えには…先生もはっきり応えなくてはなりませんねぇ。」

 

鷹岡は怒りのままに渚に襲いかかろうとするが、それより早く烏間が鷹岡の顎に肘打ちを決める。

 

「…俺の身内が…迷惑かけてすまなかった。後の事は心配するな。俺1人で君達の教官を務められるよう上と交渉する。いざとなれば銃で脅してでも許可をもらうさ。」

「「「烏間先生‼︎」」」

「くっ…やらせるか、そんな事…。俺が先にかけあって…」

「交渉の必要はありません。」

 

突如としてグラウンドに澄んだ声が響く。校舎の方に皆が振り返ると浅野理事長が立っていた。

 

「理事長…‼︎……御用は?」

「経営者として様子を見に来てみました。新任の先生の手腕に興味があったのでね。」

 

急に現れた理事長に鷹岡以外の教師達が焦る。理事長の教育理念から考えれば、E組を消耗させる鷹岡の続投を望むのが合理的だからだ。しかしその予想は外れる。

 

「でもね鷹岡先生、あなたの授業はつまらなかった。教育に恐怖は必要です。一流の教育者は恐怖を巧みに使いこなす。が、暴力でしか恐怖を与える事が出来ないなら…その教師は三流以下だ。自分より強い暴力に負けた時点で、それ(・・)の授業は説得力を完全に失う。」

 

そう言いながら理事長は紙を一枚取り出して何か書き込み、その紙を鷹岡の口に突っ込む。

 

「解雇通知です。以後あなたはここで教える事は出来ない。椚ヶ丘中(ここ)の教師の任命権は防衛省(あなたがた)には無い。全て私の支配下だという事をお忘れなく。」

「鷹岡クビ…」

「ってことは、今まで通り烏間先生が…」

「「「よっしゃあ‼︎」」」

 

喜ぶ生徒たちを見ようともせずにその場を去ろうとする理事長。だが彼は一度立ち止まって奏の死体を見てある事を言う。

 

「ああそれと、彼まだ終わっていない(・・・・・・・・・)と思いますよ?私の勘ですが。」

「「「え⁉︎」」」

 

それってどういう事かと皆が聞こうとするが

 

 

「ウガァァァァァ‼︎‼︎」

 

 

これ以上無いほどの屈辱を受けた鷹岡が、八つ当たりに近くにいる生徒に手当たりしだい当たり散らそうとする。

まずい、と思い烏間と殺せんせーは動くがそれよりも早く動いた人物がいた。

 

 

 

 

「「「「…なっ⁉︎」」」」

 

今日何度目かになるか分からないが、皆驚く。理事長ですら少し予想していたとはいえ多少驚いていたが、今度こそ校庭から去っていく。

 

 

鷹岡を抑えているのは、数分前まで物言わぬ死体となっていた奏であった。




書きながら思っていましたけど、クラスメイトが目の前で死んでいたら、まずメンタルブレイクして今回のような流れにはなりませんよね。というか今回陽菜乃ちゃん、カッコ良すぎひん、なんて思っちゃったんですがどうでしょうか、うちのヒロインは?

それと活動報告一件更新しました。見てください。
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