リアルの方で用事があり、執筆する時間が取れなかったので。
「呪術の時間」も更新しました。
猛吹雪に生徒たちは目を瞑っていた。
吹雪が収まり目を開けると、既に帳が上がって校庭には夕陽が差している。
先程『永槍氷斬』が突き刺さった場所には巨大なクレーターが出来ており、その地表は凍りついていた。奏は倒れており、殺せんせーの姿は見えない。コート状のオーラも解けている。
「皆、無事か⁉︎」
「「「烏間先生‼︎」」」
「これは…漣君がやったのか…?」
「…そっす。不思議な力使って殺せんせーを圧倒して…」
「けど途中で血を吐いてて、今も…」
「烏間先生は…漣君のこと、何か知ってるんですか?
「……彼は呪術師だ。普通の人間では対処できない『呪い』を祓うのを専門とする、霊媒師のようなことをしている人間だ。奴を殺せる可能性があるなら殺し屋以外も雇うと防衛省が判断して暗殺任務を依頼していた。」
「何で黙ってたんすか…?」
「本人の意向だ。知られたくないことが色々あったらしい。現に俺も鷹岡が言っていた彼の過去のことは知らなかった…とりあえずまずは彼を保健室に運ぶ。彼への疑問はその後だ。…それと奴は死んだのか?」
「…ギリギリ生きていますよ、烏間先生。」
「「「殺せんせー⁉︎」」」
「今回ばかりは本当にダメかと思いました。漣君が皆さんのことを考えず攻撃に巻き込んでいたのなら、先生は死んでいました…」
「いったいどうやって…?」
「残った数本の触手であの槍を横からビンタして射線をずらしました。先生力があんまり無いので押さえるのは無理でしたので。全力で僅かにずらした後、衝撃波に巻き込まれない位置に逃げましたが…それでも多少は凍っている。本当に危なかったです。」
殺せんせーは満身創痍で答える。今の殺せんせーなら殺れるかもしれない、と何人かは思っているがそれより奏が気になり誰も殺しにはいかない。
「ククク、五つの術式全てを使って殺さないとはなぁ。奏自身の甘さもあるがやはり化け物だな、殺せんせーとやら。」
突然このクラスの誰もが聞いたことのない声が聞こえる。それは奏の方から聞こえた。なんと奏の左頬に妖しく笑う口と邪悪な瞳が一つずつある。
「…なんだ、これ?」
「目と口……だよな?」
「我が名は八咫烏。奏に憑いて力を与えている呪いだ。」
「これが…呪い?」
「ククク、状況が整理できていないのも当然か。しかしこの場で奏の身体を使って貴様らを殺したら、奏はどんな反応をするかな?」
八咫烏と名乗った呪いの言葉に生徒たちは身震いし、殺せんせーと烏間は牽制するように睨みつける。
「ククク、安心するがよい。我は奏との縛り故に貴様らを殺すことはできん、残念ながらな。」
「…漣君はどうなっているのですか。」
「それも心配することなどない。今は呪力を消耗しすぎて意識を失っているだけだからな。半日もすれば目覚めるさ。」
「だとしたら何故あなたは私たちと話しているのですか?」
「単なる興味だ。奏を
その言葉に生徒たちは不思議に思う。鷹岡のような奴に一歩も怯まず、殺せんせーを後一歩のところまで追い詰めた奏を自分たちが弱らせていたということの意味が分からないからだ。
「クク、まあこいつの素性も過去を知らないなら当然のことか。だが断言しよう。こいつの心は貴様らより断然弱い。その弱さから来た甘さ故にそこのタコを殺せなかった。」
「…奏君の過去とは?」
「我からは何も言わん。こいつの闇に触れたいのならこいつ自身に聞け。まあこいつが言うとは到底思えんがな。
………しかし奇妙な縁もあるものだなぁ。」
「え?」
八咫烏は倉橋の方を見てニタリと笑う。
一方の倉橋は何のことか分からない様子だ。
「なんだ、
「8年ま……え?ウソでしょ……
ナミ君が……かーくんなの?」
「ん?なんだ、ただ過去の奏と今の奏が一致していなかっただけか。まあいいさ。どうせ貴様がここにいて奏がここに来た時点で、何となくこうなる予感はしていたからな。」
八咫烏の言葉を聞いて倉橋は何かを思い出し、幽霊でも見たかのような目で奏を見る。
「さて、世間話はこの辺にするか。我はもう帰るとしよう。後は貴様らとこいつで何とかしろ。九割九分どうにもならないだろうがな。」
「待って‼︎本当に…本当にかーくんなの⁉︎」
「くどい。これ以上は何も言わんと言っている。」
そう言い放ち、奏の左頬の目と口は消える。
「…倉橋さん、漣君と昔会っていたのは本当なのですか?」
「分からない…けど八咫烏さんが言っていたことが本当だったら…私はまたかーくんに助けられてる…」
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-ば…化け物…化け物だぁ‼︎
違う…違うのに…
-来るな‼︎この村から出て行け‼︎
何で…僕はあんなことしたくなかったのに…
ーお前なんて、生まれて来なければ良かったんだよ‼︎
…僕が生まれなければ…皆は幸せのままでいれたの?
…僕が死んだら…皆は幸せになれるの?
…だったら僕は……
-君は生きたくないのか?
誰…?
-君はされるがままに人を不幸にして、言われるがまま死ぬのか?
……皆が幸せになれるなら。
-本当にそうか?君が死ぬことで不幸になる人は本当にいないのか?
…僕は死んでもいけないの?
…だったら僕はどうすれば…
-君に力の使い方を教えよう。君の力は人を不幸にも幸せにも導ける。その力を何の為に、誰の為に使うのかしっかり考え、生きなさい。それが君が生きてる事を呪う者と死ぬ事を呪う者の為になる。そして君の幸せに繋がるだろう。
…僕が幸せになっていいの?
僕なんかが…幸せになれるの?
-なれるかどうかは君次第だ。しかし私は君は幸せになるべきだと思っている。さぁ、どうする?
…ならば僕は
…俺は人の幸せを守って、自分の幸せを…大切なモノを作る。
もう二度と壊さない為に、失わない為に力を振るう。
もしその幸せを壊そうとする奴がいるなら…例えそいつの幸せが壊れようと容赦はしない。
この誓いなんかじゃない…償いだ。
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「……ここは…?」
奏が目を覚ます。上半身は裸にされていて、全身を覆う刺青が見えている。自身の状態を不可解に感じつつ、忌々しげに舌打ちする。
「……E組の保健室…だよな。……っ、全身が痛むな…結構呪力も消耗してるし…つか何であの夢を連続して見るんだよ…」
「漣さん‼︎目が覚めましたか‼︎」
「…律。何で俺は保健室にいる?」
「漣さんが生き返って鷹岡さんを嬲った後、殺せんせーとの対決に移って力尽きたんですよ。覚えていませんか?」
「……そうだったな。……殺せんせーは?」
「私なら生きていますよ、漣君。」
殺せんせーが保健室に入ってくる。その姿を見て奏は再び舌打ちする。
「…二人共死んでて、ここがあの世って説は無い?」
「ありませんねぇ。昨日の暗殺が終わった午後5時から既に半日以上経って、今は翌日の午前9時です。皆さんも登校してきていますよ。」
その言葉通りクラスメイト達が保健室に入ってくる。
「……結局殺せんせーは殺さず、俺も死ねず、か。」
ポツリと呟くと奏にビンタが飛んできた。
「…簡単に死のうとするんじゃない、漣奏…!」
殺せんせーの顔は黒、怒りの表情だ。だが奏は怯まず睨み返す。
「あんたに俺の人生観を否定される筋合いは無いよ、殺せんせー。」
「だったら君の事を教えて下さい。烏間先生から君の素性は聞きましたが、過去については分からなかった。君がその過去で苦しんでいるのなら、先生は君を救いたい。ですから…」
「俺が正体を隠していた理由は3つ。1つ目は俺が原因で皆を不幸に巻き込ませないため、2つ目はここぞという時まで殺せんせーに手の内を明かさないため。最後に死んでも過去について知られたくなかったから。どんなに僅かな可能性でも徹底的に潰す為、今まで嘘をついてきた。それなのに救いたいって理由で話すとでも?ふざけるな。俺はもう救いようが無いんだよ。」
奏はピシャリと言い放ち、ベッドから出て上を着る。
「…これからどうするつもりですか。」
「決まってるだろ、消えるんだよ。正体どころか過去まで知られたんだ。俺がここに居るわけにはいかない。」
奏は生徒たちを押し退け、保健室から去ろうとする。
しかしその腕を誰かが掴んだ。
「何のつもり……ひなさん?」
「ナミ君が倒れてる時、八咫烏っていう人が出てきて私に言ったの。「私とナミ君は8年前に一度会っている」って……」
「8年前……?そんな訳ない。あの頃俺は一人で山にいて…関わった人なんて高専の人間除いたらたった一人……
……え?そんな……嘘だろ…….ひーちゃんなのか?」
奏は倉橋の言葉を聞いて訝しげな表情から驚愕の表情に変わる。
昨日ほとんど同じ反応をしていた倉橋は涙を流して奏に抱き着く。
「本当に…本当にかーくんなんだね…!8年間ずっと会いたいって…思ってた…!ありがとうって…ちゃんと向き合って言いたかった…!」
「そんな…ありがとうは俺のセリフだって…ひーちゃんがいなかったら…今の俺は……」
奏もポロポロと涙を流す。
他の皆は二人に何があったのか知らない為、困惑している。
「えっと、お二人共…いい感じなところ申し訳ないのですが、誰一人として状況が分からないので説明してくれませんか?」
「私からもお願い。かーくんが何であの場所で私と会ったのか。私と会う前とその後でかーくんに何があったのか。私達の過去に今の私達が繋がっているんでしょ?」
「…確かにあの出会いと今のこの状況は繋がっている。だとしても教えない。救ってもらおうなんて毛頭思ってないし、出来るわけないから…」
「かーくんが救われたくないとしても、私はかーくんを救いたいの‼︎かーくんは8年前から…ううん、それより前からずっと苦しんでいるのに一人で抱えて…それなのに皆の苦しみを解決しようと誰より頑張って…だから今度は私がかーくんを救いたいの‼︎自己満足だとしても、助けたいの‼︎かーくんが話すまで…私は手を離さないからね‼︎」
倉橋がぶちまけた思いに奏は動揺する。
詳細は知らなくとも仮にも大量殺人犯を、8年前に一度助けただけで9年越しに偶然にもお互い知らずのうちに再開していた少女がこんなにも救おうとしているのが信じられないのだ。
「なぁ漣…教えてくれよ。」
「私達は漣君が本当に何人も人を殺したなんて思えない。」
「何も知らないままなんて納得できないぜ。」
「倉橋には負けるけど…俺たちだってお前を助けたいんだ。E組の仲間として。」
前原、片岡、三村、磯貝が倉橋に続いて奏を説得する。
グルリと見渡すと皆真剣な目をしている。
奏は深くため息をついて喋る。
「……わかった、観念する。言わなきゃ何処までも追ってきそうだしな。ただいくつか言っておくことがある。1つに俺が話すのは人殺しの過去だ。キツい内容ばっかだぞ。そして本来ならもう俺の過去を知る人間、しかも非術師なんかを増やすつもりは無かった。それでもお前らのその眼を信頼して覚悟を決めて話す。……だから」
「分かってる。絶対に口外しないよ。」
「……ああ。それじゃあ話すよ、俺の血塗れの昔話を…」