もうこっちではやっちゃったんだよ〜。
「…これが俺が呪術師になる前までの話。あの後俺を呪術高専に誘ってくれた人…夜蛾さんっていう人なんだけど、その人の養子になって色んな人から特訓を受けた。その結果1年間で八咫烏を完全に制御できるようになった。殺せんせーとのバトルでコートみたいなオーラ纏ってたでしょ?あんな風に力の一部を解放できる。それと話の途中に出てきた俺が殺した5人の男女…あの人達も呪術師で、俺が使う呪術は彼等から八咫烏が得たものなんだ。」
「つまり漣の呪術?って…他の人の呪術を奪う能力ってこと?」
「そういう事。全身の刺青は術式の影響。後今の話から分かったと思うけど漣奏っていう名前は本当の名前じゃない。それと…」
「ひーちゃんっていう子が……倉橋なのか。」
「そういう事になるね。俺が変わるきっかけになってくれた子だから忘れたことなんて今まで無かったけど……流石に8年前の姿と一致するわけがなかったわ。」
「私も…今のかーくんみたいに明るい性格じゃなかったから、気づかなかった…」
奏は過去についてのことを一通り話した。
最初はカルマや中村、岡島ですら真剣な顔つきで聞いていたが、次第に何人かは気分を悪くしていた。
それでも保健室から出ずに最後まで聞こうとする姿勢を見て、奏は厄介そうにため息を吐く。
「まあこういう反応になるのは当然だな。…それでお前らはこれを聞いた上でもまだ俺を救うつもり?」
「で、でも…呪術師として特訓して八咫烏ってのを抑えられてるんだろ?ならもう心配することなんてないんじゃ…」
「確かに八咫烏に好き勝手される事は無くなったよ。ただ高専に所属してから3回ほど、怒りに任せて自らリミッターを外したことがあった。その結果どうなったと思う?村一つ消滅したよ。」
「な…」
「それに俺自身が暴走さえしなければ安全とはいえ、八咫烏は特級っていう最高レベルの実力の呪いに位置づけられてる。高専の上層部は保守派が多いからね、何人かは早く俺を死刑にしたいはずだよ、ってか今まだ保留になってるだけだし。」
奏は自嘲気味に薄く笑うが、他の皆は何も言えなかった。
「残りの…俺と親しくて実力を認めてくれてる人らは反対の姿勢取ってくれてるらしいけど…俺としてはやはりどっちでもいいかな。」
「どっちでもいいって……何でだよ⁉︎死刑なんだろ⁉︎」
「常に死にたいとはもう思ってないよ。けどさ…死んだ方がいいんじゃないのか、10年間ずっとそれを悩んでる。今でこそ使い道があるって思われてるから生かせてもらってるけど、いつまでも続くわけがない。周りがまずいと判断したならば、俺はいつでも死ねる。」
奏が言い終えるとクラスの空気はお通夜状態になった。
奏は立ち上がって上着を着て、今度こそ保健室から出ようとする。
「さてと、これで俺の過去の話は終わり。高専以降のは長くなるし、ここまでの流れで大体分かるんじゃない?それじゃ。」
「ちょっ…どこ行くんですか、漣君⁉︎」
「帰るんだよ。それと今日付けで退学するから。」
「退学…⁉︎」
「当然でしょ?潜入任務失敗したし、これ以上皆に迷惑かけられないし。」
「迷惑って…」
「呪術師と深く関わった人間は大体ろくな目に遭わないから。ましてや俺レベルの危険度になると余計にね。安心してよ、期限までに皆が殺せそうになかったらもう一度くらい皆のいないところで殺しにいくから。」
立ち去ろうとする奏だが、倉橋は奏の腕を離さない。
「…話したからもういいでしょ。離してくんない、ひーちゃん?」
「離さない…まだ救ってないもん…」
「諦めてよ。俺も殺せんせーと同じで殺すか殺されるかの二択しかない。俺自身が助かる方法なんて無いの。」
「そんなことないよ‼︎誰も傷つけないように1人で頑張ってたかーくんが救われないなんて酷すぎるよ‼︎」
「俺が壊した分は俺自身で埋め合わせる、当然のことじゃない?」
「それだけじゃないよ‼︎E組の皆の為にテストとか修学旅行とか球技大会とかで何も言わずに努力してたじゃん‼︎私達は何も返せてないんだよ!」
「十分貰ったんだよ、皆からは。俺みたいなやつが皆みたいな温かい人たちと楽しく学校生活送れるなんて思っても無かったんだから。その分俺は出来ることをすべきだから。」
「だったら出て行くことないじゃん‼︎」
「出て行かないといけないんだよ‼︎」
今まで静かに話していた奏が遂に声を荒げて言う。
「俺だって本当は皆と居たいよ‼︎E組に来てからたった2ヶ月くらいしか経ってないけど…みんな優しすぎるんだよ‼︎そんな人たちの生活を俺みたいな化け物が壊していいわけないんだよ‼︎そもそも高専に居られるのだって奇跡みたいなことなのに…俺が原因で呪いの被害に巻き込ませてしまったら…いつか八咫烏を抑えられなくなったら…俺の願望で皆と居て、また同じことを起こしたら…そんなのもう嫌なんだよ…やっぱり俺は幸せになっちゃいけないんだよ…」
奏は泣きながら本心を漏らす。
そして倉橋は
一回バチン!とビンタをして
奏にキスをした。
こんな状況にも関わらず当然ゲス組(タコ含む)は写真を撮るのだが、倉橋は口付けを終えて困惑している奏に言う。
「…何で私がこんなにかーくんを引き留めようとしてるか分かる?
私がかーくんの事が大好きだからだよ‼︎
ナンパされてるのを助けてくれた時、見ず知らずの私をサラリと助けてくれたのがカッコいいって思った!
集会の時、怪我した私を気遣って迷わずお姫様抱っこで運んでくれたのが恥ずかしかったけど素敵だと思った‼︎
修学旅行で拉致された時、違う場所に居たのに直ぐに助けに来てくれたのが嬉しかった!
前ちんの仕返しの時、服装が似合ってるって言ってもらえて恥ずかしかったけど嬉しかった!
8年前にとても辛い思いをしてたはずなのに、人と会うのを死ぬほど避けてたはずなのに、それでも私を救ってくれたのが本当に嬉しかった‼︎
私はかーくんの隣に居たい!かーくんの支えになりたい!だって私はかーくんを愛してるから‼︎」
倉橋は胸の中に秘めていた奏への想いを全て明かす。
異常レベルの鈍感さを誇る奏ですら、流石に顔を真っ赤にしている。
しばらく混乱して「えっ?えっ?」みたいなことを呟いていた奏だが、やがてゆっくりと恐る恐る口を開く。
「…本当に…いいの?俺みたいなのが、ここにいて…?」
「うん、いいんだよ。」
「過去に何人も殺してるんだよ?この先ここに居たら、迷惑がかかるかもしれないよ…?」
「何言ってんだよ、漣。」
奏の問いかけに答えたのは倉橋ではなく磯貝だった。
「俺たちもう結構な回数助けられてるんだぜ。」
「そんな…言われるほど…」
「お前全教科勉強できて、教えるの頼んだら快く引き受けてくれただろ?」
「修学旅行の時もお前がいなかったらどうなってたか…」
「律から聞いたよ。律の分解防いだのも漣君だって。」
前原、杉野、矢田が続けて言う。
最後に殺せんせーが話しかける。
「漣君、先生は以前君に言いましたね。『このクラスは既に君を受け入れてます。』と。今の皆さんを見て果たしてそれが嘘だと思いますか?」
「……」
「君が過去に起こした事件は取り返しのつかないことです。そして君はまだその過去に囚われている。けれどそれでも君は前に進もうとしています。苦しい過去を切り捨てたり忘れたりせず、それを糧に成長しようとする君は本当に強いです。そして同時にとても優しい。先生への暗殺の際、皆を巻き込まないように威力や射程を調節していましたね。何よりも仲間を優先する君は、実に素晴らしい人です!」
「……そんなこと。」
「ありますよ。皆さんの顔がその答えです。だから君も助けるだけじゃなく、助けられてもいいんです。いえ…そもそも救いを等価交換する必要なんて無いんです。倉橋さんは君が好きだから…倉橋さんを助けた君の行動故に好きになったのだから、君を助けたいと思っているんです。他の皆さんもそう。君の事を1人の仲間だと思っているから助けようとしてるんです。」
「仲間…」
「この教室にいる以上、君は化け物である以前にE組の生徒です。そしてここが今の君の居場所なんですよ。」
殺せんせーはにっこり笑う。
奏は皆の顔を見渡し、そしてその場に座り込んで泣き出す。
倉橋はそんな奏を優しく抱きしめる。
「あっ…あり…ありがとう……。」
この時シャッターが切られたのは言うまでもない。
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「それじゃあ烏間先生体育教師復帰&漣君E組に改めて復帰&倉橋さん告白成功を祝って!」
「「「「乾杯‼︎」」」」
奏が落ち着いた後、現在教室ではプチパーティーが開かれてる。
鷹岡の授業において唯一評価されていたのが褒美の甘いものであったため、「烏間先生が体育教師に返り咲けたのは生徒のお陰」と言う事で報酬として一人一品烏間先生の財布で好きなスイーツを買ってもいいということになった。そしてめでたい事がいくつか重なったので祝勝会みたいな形になったのだ。
そして今回のMVPの内2名は
『何で私がこんなにかーくんを引き留めようとしているか分かる?私がかーくんの事が大好きだからだよ‼︎』
「もうやめて…お願いだから…」
「いや〜、どストレートに言ったねぇ倉橋ちゃん。」
「大胆な告白は女の子の特権だものねー。」
「漣もさ〜、あそこまで鈍かったのに超顔真っ赤じゃん。流石に分かっちゃう?」
「いつもビッチ先生の授業で表情ほとんど変わらないのに、倉橋からの告白にはこの顔か〜」
「うっさい…」
絶賛いじられ中だった。
こういう時倉橋がズタボロにされるのは割といつもなのだが、今まで弱みみたいなものを全く見せなかった奏が一方的に弄ばれてる。
「ん〜、倉橋さんからの告白はしっかりと録音しましたけど、漣君からの返事がまだ聞けてないですね〜、キスの方もまだですね〜」
「「!!」」
「「「…そういえば。」」」
「おいどーすんだ漣!」
「もう答え決まってるんでしょ‼︎」
「漢を見せろ‼︎」
周りからキスコールならぬ返事コールがかかり、二人はますます顔を赤くする。
だが遂に奏は覚悟を決め、自分の両頬をバチンと叩き
「…倉橋陽菜乃さん、俺もあなたが好きです。不束者ですがこれからもよろしくお願いします‼︎」
「…はい‼︎」
「「「「イヤッフゥゥゥゥゥ!!!!!!」」」」
「赤飯だ!赤飯を炊け‼︎」
「律!録画は!?」
「バッチリです‼︎」
「キスはどうした、漣ぃ‼︎」
「「キスは本当に恥ずかしいから勘弁して‼︎」」
「あれー、漣はともかく倉橋ちゃんはしてほしいんじゃないの?」
「ふぇっ!?いやして欲しいけど、今は恥ずかしいっていうか、そもそもさっきしちゃったのも勢いに任せてっていうか…」
「漣も勢いで行けよ‼︎」
「ヘタレてんじゃねーよ‼︎」
特に挑発に乗せられた訳では無いが、混乱していた奏は倉橋からされておいて俺が返さないってのもどうかなと狂っていた思考判断をしてしまい、
倉橋にキスをする。
奏はその場にうずくまり、倉橋は気絶し、他のボルテージは最高潮に達した。
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呪術高専東京校
いつものように人形を作っていた夜蛾のもとにメールが一件来る。
奏からだ。
『父さんへ
実行が予定より早まってしまい、任務は失敗。惜しくも殺せんせーは殺せませんでした。
それが原因で皆に正体、そして過去の話をすることになっちゃいました。
けれど皆はそれを聞いた上で俺を仲間として受け入れてくれました。
とても嬉しかったです。
だから俺は今はE組を居場所として、この力を使って皆と来年の3月まで頑張ってみます!』
写真が一枚、メールに添付されていた。
それは奏とE組のクラスメイト達との自撮り写真だった。
夜蛾はそれを見て息子が今幸せなのだと分かり、ホロリと涙を流す。
直後もう一件送られてくる。
『P.S.
彼女が出来ました。』
そこには倉橋とのツーショットがあった。
それを見て夜蛾はこう返信する。
『孫の顔が見れるのはいつになる?」
やっと…やぁっとくっついたァァ!!