呪われた少年の暗殺ライフ   作:楓/雪那

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呪術廻戦、新章始まりましたね。
まーた入場料払わないアイツが悪巧みするのか。


第32話:夏の時間

七月に入り、夏の暑さも本格的に厳しくなってくる。

なのにE組の校舎にはクーラーが無い。地獄かよ。

 

 

 

…なので

 

 

「いや〜、奏と律のおかげで助かったぜ!」

「本当にね。二人がいなかったら勉強も暗殺も捗らなかったわ。」

「いえいえ、お安い御用です!」

「律はともかくこのままじゃ俺も死にかねなかったからな。」

 

俺が『氷淵呪法』で教室の空気を冷やし律が送風機を開発することで、教室内を一気に快適にする。俺一人だと場所が偏ったり温度の調節がやり過ぎたりしかねないし、律単体だとただ蒸し暑い風を送るだけになってしまう。俺らだからできるクーラーコンビネーションだ。

 

 

「いけません皆さん!クラスで協力し合うのは素晴らしいですが、二人を便利な道具扱いするのは関心しません!」

「何だよ。殺せんせーだってバテてたくせに。」

「夏の暑さは当然の事ですよ‼︎温暖湿潤気候で暮らすのですから諦めなさい。ちなみに先生は放課後には寒帯に逃げます。」

「「「「ずりぃ‼︎」」」」

 

俺もそう思う。この前なんか南極産の氷でカキ氷作ってたし。俺が術式使ったすぐ後に氷嚢作ってって頼んできたと思ったら授業中その氷嚢の上に立って授業してたし。できるのならあの氷をドライアイスに変えてやりたい。

 

「でも今日プール開きだよねっ。体育の時間が待ち遠しい〜。」

「いや…そのプールがE組(おれら)にとっちゃ地獄なんだよ。」

 

ひーちゃんの言葉に憂鬱そうに答えたのは木村だ。

 

「どゆこと?」

「プールは本校舎にしか無いんだよ。だから炎天下の山道を1km往復して入りに行く必要がある。人呼んで「E組 死のプール行進」。特にプール疲れした帰りの山登りは…力尽きてカラスのエサになりかねねー。」

 

ひぇぇ…学校のプールの行き帰りで人が死ぬとは、日本各地を探してもここくらいしか無いのでは?

 

「けどそれも奏がいるからどうにかなるだろ…」

「いや無理だ。」

「「「え?」」」

「呪術ってのはなお前らの想像以上に神経削るんだよ。式神使いとかは少し集中が途切れると型崩れするし、俺みたいに精密な操作を必要とするのは過剰に発動したりするからな。一日中ぶっ続けで呪術使い続けることは出来ないから、今はある程度冷やして律に空気回してもらってんだよ。」

「まじか〜……」

「でも確かに。私達も一日中殺意丸出しで生活できないもんね。」

「じゃあ本校舎まで運んでくれよ〜、殺せんせー。」

「んもーしょうがないなぁ…と言いたいですが、先生のスピードを当てにするんじゃありません‼︎いくらマッハ20でも出来ない事はあるんです‼︎」

 

そうだろうね。服ん中にクラス全員入れて本校舎まで飛んでったらめっちゃ目立つもんね。

 

「…でもまぁ気持ちは分かります。仕方無い、全員水着に着替えてついて来なさい。そばの裏山に小さな沢があったでしょう。そこに涼みに行きましょう。」

 

裏山の沢ねぇ……あそこ足首まであるかないかくらいの深さでしょ?

そんなん行くよりさ、殺せんせーが何往復かして俺らをどっかの海に連れてくとかの方が良くない?カスピ海とかエーゲ海とか死海とかさ。渚とカルマなんかこの前ハワイに連れて行ってもらったらしいじゃん。羨ましい。…あ、でも俺高い所ダメだった。終わったわ。

 

 

==================

 

 

 

………なーんて事を数分前の俺は思ってました。

前言撤回します。裏山の沢で十分満足できます。

 

 

なんと殺せんせーは1日かけて沢を塞き止めてプールを作っていたのだ。

25mコースやデッキチェアまで作って、水位を調節すれば魚も飼えるとのこと。最高かよ。

 

 

「楽しいけどちょっと憂鬱…泳ぎは苦手だし…水着は体のラインがはっきり出るし。」

「大丈夫さ、茅野。その体もいつかどこかで需要があるさ。」

「…うん、岡島君。二枚目面して盗撮カメラ用意すんのやめよっか。」

 

浮き輪に乗ってる茅野さんの言う通り、岡島はカメラを持参していつにも無く真剣な表情でシャッターを切っている。

「岡島もあんな真面目な顔できるんだー」なんて思ってたら、ひーちゃんと片岡さんが俺の肩をポンと叩いてきた。

 

「「かーくん(奏君)」」

「ん?どしたの二人とも?」

「「岡ちん(岡島君)ギルティね。」」

「…イエスマム。」

 

何となく要求が伝わったから、左手を岡島の方に向けカメラを凍らす。

 

「俺のカメラがーー‼︎」

「当然よ。」

「…悪いが情状酌量の余地は無いな。」

「仕方ないね〜。」

「奏ぇ‼︎お前も男なら分かるだろ!女体の美しさをカメラで撮り残したいこの気持ちが‼︎」

「いや分かんねえよ。」

「んだとこのリア充め‼︎じゃあ想像してみろ!写真に収められた倉橋の水着姿を!それに興奮したら…「岡ちん?」……ハイ、スイマセンデシタ。」

 

岡島がなんか言いかけた時ひーちゃんがめちゃくちゃすごい殺気放った。思わず岡島だけでなく俺も片岡さんもビビったよ。…けどひーちゃんの写真か。欲しいかどうか聞かれたらそりゃ欲しい。水着じゃなくても頼めば撮らせてもらえるかな。

 

…なんか視線感じる。

 

「…菅谷、なんで俺の体凝視してるの?」

「いや…前も見たけどよ、奏の体の刺青(それ)ほんとにスゲーなって。」

「あんまいいもんじゃないんだけどなー……」

「あ、悪りぃ。けど芸術家としてはけっこうカッケェって思っちゃってさ。」

「菅谷のソレもカッコいいじゃん。メヘンディアート…だったっけ?」

「そう言えば奏だけはやらせてもらえなかったよな。それ隠してたんなら当然か。」

 

鷹岡が来る前に菅谷がメヘンディアートブームもたらしたことがあった中、俺だけは拒否した。既に体に色々書かれてるからな。

けど美術に限らず芸術系は超下手な俺からしたら、菅谷みたいな芸術が得意なやつはとても尊敬する。E組だと他には原さんの裁縫とか、不破さんの漫画力とか、後三村のギターとか。

 

その時ピピーッと笛の音が鳴った。殺せんせーだ。

 

「木村君‼︎プールサイドを走っちゃいけません‼︎転んだら危ないですよ‼︎」

「あ、すんません。」

 

確かにな、プールサイドでこけるのはプールで一番起こりやすい事故だしな。

再び笛が鳴る。

 

「原さんに中村さん‼︎潜水遊びはほどほどに‼︎長く潜ると溺れたかと心配します‼︎」

「「は、はーい…」」

 

まあそうね、今日は烏間先生もビッチ先生もいないから殺せんせー1人でプール全域の底まで見るのは難しいものね。

三度笛が鳴る。

 

「岡島君のカメラも没収‼︎狭間さんも本ばかり読んでないで泳ぎなさい‼︎菅谷君‼︎君のボディーアートは普通のプールなら入場禁止ですよ‼︎体質だから仕方ありませんが、本来なら奏君もです‼︎」

 

岡島、お前は二台持ってきてたんかい。

狭間さん、もっともです。プールに来てるんなら泳ぎましょう。

俺の刺青なあ…ほんとどうにかならないかなぁ。銭湯とか行ってみたいんだけどなぁ…。

 

 

……つか、それにしても小うるせぇ…

 

「いるよね〜。自分が作ったフィールドの中だと王様気分になっちゃう人。」

「うん…ありがたいのにありがたみが薄れちゃうよな。」

 

まーた笛が鳴る。

 

「奏君と倉橋さん‼︎君達カップルはもっとイチャつきなさい‼︎この前のデートは撒かれてしまったんですから‼︎」

((イラっ))

 

誰が原因で撒いたと思ってんだ。

俺とひーちゃんは顔を見合わせ、殺せんせーの監視台の近くに行き「せーのっ!」と水をかける。

その瞬間

 

 

 

 

「きゃんっ」

 

 

 

 

は?

 

 

 

 

「…何、今の気持ち悪い悲鳴?」

 

思わず声に出して言ってしまった。けどまじでキモかったんだよ。

もしかしなくても殺せんせーだよね?

 

俺らが困惑してると、いつのまにか監視台の下に移動していたカルマが監視台の足を掴んで揺らす。すると

 

「きゃあっ!揺らさないで水に落ちる‼︎」

 

 

次に俺が監視台の足を掴み『累乖呪法』を発動させる。

殺せんせーが監視台にしがみついた状態のまま、台をプールの中心の真上に浮かせて上下逆さまにしてシェイクする。

 

「やめてー‼︎落ちる!落ちちゃう‼︎助けてーッ‼︎」

 

 

 

 

…まさか、殺せんせーって泳げない?

 

 

 

 

「…いや別に泳ぐ気分じゃないだけだし。水中だと触手がふやけて動けなくなるとかそんなん無いし」

「じゃあそのビート板は何なのさ。泳ぐ気満々だと思ったんだけど?」

「これビート板じゃありません。ふ菓子です。」

「「「「おやつかよ‼︎」」」」

 

この時俺含めほとんどのやつらが直感した。

「今までの中で最も『使える』であろう弱点なのではないか」と。

その時後ろでドボンと何かが水の中に落ちる音が聞こえた。

振り返ると茅野さんが浮き輪から落ちて溺れていた。

 

「ちょっ…バカ何してんだ、茅野‼︎」

「背ぇ低いから立てねーのか‼︎」

「かっ、茅野さん‼︎このふ菓子に捕まって…」

「届いてねーし、そもそもふ菓子じゃ無理だろうが‼︎」

 

ビート板(ふ菓子)を手にオロオロしている殺せんせーにツッコミながら俺は茅野さんの方に行くが、それより先に誰かが茅野さんを救出した。

 

「はい、大丈夫だよ茅野さん。すぐ浅いとこ行くからね。」

「助かった…ありがとう片岡さん‼︎」

「…ふふ、水の中なら出番かもね。」

 

 

 

==================

 

 

 

プールの授業の後

片岡さんを中心に裏山に集まって作戦会議をしていた。

 

「まず問題は殺せんせーが本当に泳げないのか。」

「湿気が多いとふやけるのは前に見たよね。」

「さっきも…奏と倉橋が水をかけたとこだけふやけてた。」

「もし仮に全身が水でふやけたら…死ぬまではいかなくとも、極端に動きが悪くなる可能性はかなり高い。」

「だからね皆、私の考える計画はこう。この夏の間、どこかのタイミングで殺せんせーを水中に引き込む。それ(・・)自体は殺す行為じゃないから…ナイフや銃よりは先生の防御反応も遅れるはず。そしてふやけて動きが悪くなった所を…水中で待ち構えてた生徒がグサリ‼︎」

 

確かに殺せんせーは自分自身だけを狙った攻撃には敏感だけど、それ以外の攻撃には反応が少し遅いな。

それに動揺してれば機動力は更に落ちる。

 

「水中にいるのが私だったらいつでも任せて。髪飾り(バレッタ)に仕込んだ対先生ナイフで…いつでも殺れる準備はしてる。」

「おお〜、昨年度の水泳部クロール学年代表、片岡メグ選手の出番ってわけだ。」

「まず大事なのは殺せんせーに水場の近くで警戒心を起こさせない事。夏は長いわ。じっくりチャンスを狙ってこう!」

 

片岡さんの言葉に皆がおう!、と応える。

女子のクラス委員だから磯貝同様に信頼度と指揮能力は高い。

 

「うーむ、流石は『イケメグ』。」

「こういう時の頼れる度合いはハンパじゃないな。」

 

三村と菅谷の会話に気になった言葉が出てきたからひーちゃんに聞いてみる。

 

「イケメグって?」

「メグちゃんのアダ名だよ。文武両道で面倒見が良くて颯爽として凛々しい姿がイケメンだからね〜。今までたくさんの女の子からラブレター貰ってるんだよ〜。」

「なるほどね…」

 

じゃあなんで彼女はE組に落ちたんだろうか。あんなにできた人間なのに。まあそういうのはあんまり詮索すべきじゃないか。

 

 

===============

 

 

 

その日の放課後

 

 

「律、タイムは?」

「26秒08 片岡さんの50m自己記録には0.7秒届いていません。」

「ブランクあるなぁ。任せてと言った以上は万全に仕上げておかないとね。」

 

 

 

「……よし、じゃあ行くぞー。」

「了解。いつでもOK。」

………

「……ここ!」

「うわっと!……今のはタイミングいいんじゃないか?」

「む〜〜〜ん……タイミングは悪くないけど…殺気はどうだった?」

「あ〜〜…ちょっと分かりやすかったかもな。」

「触れないで凍らすのは意識を集中させるからなぁ…やっぱ少し分かりやすくなるかぁ…」

 

 

プールでは片岡さんが泳ぎの練習を、プールサイドでは俺とひーちゃん、磯貝の三人で殺せんせーをプールに突き落とすための作戦を練っていた。

片岡さんにはご覧の通り律が付いて、正確に記録を測定している。中学生にはもったいないくらい精密なコーチだ。

そして俺ら三人はまず呪術を使って落とす方法を考えていた。今は『氷淵呪法』で足元を凍らせてこけさせるやり方を試していた。あ、ちなみに受け役の磯貝には『累乖呪法』をかけているので絶対無事です。

 

「やっぱり最初から凍らせるのじゃダメなの?」

「多分殺せんせーなら気付く。その場でトラップを作れば気づかれにくいのは確かなんだけど…片岡さんの言ってた通り、悟られないようにするのがキツイんだよな〜。」

「氷以外のだといい案は無いのか?あの蔦とかは?」

「あれは捕獲系だしなー。トラップとして使うんなら……こうやって木に触れて…」

「うぉぉッ⁉︎木の根が動いた⁉︎」

「これで足払いとかかなぁ…?少し離れた位置で使えば…」

「でもせっかくかーくんが呪術オープンしたのに皆で一緒に立てた計画に参加しないって思われると…」

「怪しまれるよな…」

「それは…千葉と速水さんのスナイパーコンビにも言えるだろ。けどそうだよな…。」

「いっそのことビッチ先生からワイヤートラップ習わない?」

 

 

 

こんな風にあーでもない、こーでもないと話し合いながら、実際に試してみるのを繰り返していると、片岡さんが申し訳なさそうな顔でこっちに来た。

 

 

「ごめん三人共!友達との用事ができちゃって…悪いけど先に上がらせてもらうね。」

「ん?おう…じゃあな。」

 

教室に向かう片岡さんの後ろ姿を眺めながら、俺たち三人は顔を見合わせた。

 

「なんかさ、友達と会う割には暗い顔してたね、メグちゃん。」

「ああ、E組のみんなから何か頼まれる時でもあんな顔は滅多に見ないな。」

 

ひーちゃんと磯貝の言葉を聞いて、俺は少し不安に感じた。

ああいう責任感の強い人は自分の苦しみは一人で抱えてしまいがちだからだ。

 

 

「……様子、見に行くか?」

 

 

 

 

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