1回目から実力者とやりあう上、体調管理がなってない奏に勝ち目はあるのか?
E組の裏山から普段なら絶対聞こえない金属同士がぶつかり合う音がする。
発生源は奏の持つ脇差「荒不吹雪」と葉月の持つ大鎌「
奏は少しでも皆とこの男を離す為に、河から離れた森林で交戦している。
そして端的に言って現在優勢なのは葉月の方である。
「あんた何級だよ。」
「ん〜?一級くらいかな?」
(「くらい」ってことはフリーの呪詛師…あるいは別の呪詛師に見出されたやつか…にしても強ぇ。ネタが完全に割れてないから明言はできないが、七海さんより格上…!)
「でも君特級でしょ?なのに僕みたいな格下に押されてるけど?手加減とかはいらないよ〜」
「チッ…」
交戦開始時から葉月は何度も奏を煽ってきていた。しかしその発言自体に奏はイラついてた訳ではない。3割ほどはそうだが。
奏が押されている理由は3つ
1つはリーチ
単純に大鎌と脇差では攻撃範囲に大きな差がある。その上この男は軽々と大鎌を振り、軽々と戦場を飛び回るのだ。
そして普段ならそんなこと気にせず術式で蹴散らしていくところだが、奏は風邪っ引きの真っ最中なのだ。これが2つ目の理由。
どうやら数日間、深夜に片岡のために多川に泳ぎを教えていたときから身体が冷えて、加えて教室クーラーフル稼働が効いたらしい。
最後の理由は術式範囲だ。
葉月はまた繊魄を大きく薙ぐ構えを取り、振るう。
鎌から斬撃が飛ばされて、奏は防御のために氷の壁を形成する。
が、斬撃は防がれずに壁を透過して奏の身体を切り刻む。
「このやり取り何回目〜?僕が切って、君が防ごうとして、失敗して。いい加減ネタ暴いてみてよ。」
「余裕だな…割れても問題無いってことかい。…お前の術式、『
「なーんだ、分かってたんじゃん。けど半分は不正解。正答例はね〜、『風』だよ。」
そう言って再度鎌を振るう。
今度は奏の身体は切り刻まれない。代わりに発生した突風で奏は宙に浮き上がる。
奏は即座に『累乖』を発動させようとするが、それより先に背後に殺気を感じて氷の盾を形成する。
葉月の斬撃を防ぎつつ、突風から抜け出し態勢を整える。
「……ん〜、君聞いてたより弱く感じるんだけど?調子が悪いのかな?」
「…余計なお世話だっつーの。」
「あらら、手厳しい。それじゃ次の攻撃行くよ〜?」
律儀なのかふざけているのか分からないが葉月はそう宣告し、鎌を振るう。
すると奏を取り囲むように竜巻が発生する。
(目眩し…態勢崩し…?…!いや違う、竜巻と鎌鼬の合わせ技か‼︎)
竜巻は奏の肌を薄く切り裂いていく。
そして竜巻が収まると
ズシャ
奏の腕が切り落とされる。
止むと同時に葉月が回り込んでいることに気づいてはいたが、ガードが出来ずに左腕を落とされる。
「まずは一本…ってか僕後ろからしかやってないなぁ。まあいっか!」
(ヤベェな…頭がクラクラして術式がうまく発動しねぇ。『因果』ブッパするか?いや、反動で俺が死にかけるし避けられたら無駄撃ちになる。どうする……そうだ。)
奏は何か策を思いつき、切り落とされた左腕を拾って葉月目がけて投げつける。
突然の奇行に一瞬驚くが、葉月はすぐに回避する。
その間に奏は『荒不吹雪』の持ち手と刀身を氷で継ぎ足して、薙刀の形にさせて、これも投擲する。
葉月は今度は驚きより感心を抱き、鎌で『荒不吹雪』を弾く。
その時、奏は右手をクイッと振る。すると投げられた左手が『荒不吹雪』を掴んで後ろから斬りかかる。
これには葉月も流石に驚き、後ろに飛んで避ける。すかさず奏が背後から
奏と左腕による挟み撃ちを葉月は片方をいなし、片方を防ぐ。
そして左腕が斬りかかるのを避けた時に、奏は左腕が持ってた薙刀を掴み氷剣と合わせて振るう。
葉月は左の氷剣を鎌でガードし、右の薙刀を突風で吹き飛ばす。
だが奏はニヤリと笑う。
「捕まえた。」
薙刀を受け取った直後、奏は左腕を操作して葉月の脇腹を掴ませていた。
これが何を意味するか理解して、葉月は急いで距離を取ろうとするがもう遅かった。
奏が右手をクイッと振ると葉月の身体は奏の方へ引き寄せられる。
『式瀾流呪闘術 陸ノ型・桔梗』
捻りをかけた回し蹴りが葉月の横顔に炸裂する。身体を縛られているのにも関わらず、瞬時に、しかも無理矢理に拘束を解いて腕で防いだのは流石一級と言うべきだが、それでも痛みが身体を襲う。さらに拘束を一瞬でも解いたことで、奏にさらに強く拘束させることになる。
『漆ノ型・芙蓉』
続けて激しい連続蹴りが葉月を襲う。先程より拘束が強化されてるため、今度はノーガードで受ける事となる。
『捌ノ型・茜』
『連閃 那津ノ型・竜飛鳳舞』
そして奏は再び捻りを加えて地を蹴り、両足での空中連続蹴りを繰り出す。最後の両足同時蹴りが決まると、葉月の拘束が解けて遠くに吹き飛ばされる。
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「痛ったぁ……君、体調悪いはずなのになんでそんな動けんの…」
イトナの所まで飛ばされた葉月は半笑いで奏を見ながらそう言う。
シロは苦悶の表情を浮かべ(はっきりと見える訳ではないが)、E組メンバーは喜ぶ。が、奏の服がかなり切り裂かれているのと、奏の左腕が無いのを見て悲痛な顔をする。それを見て奏は気にするな、という様子で右手を振る。
「あ〜……そっちもマズイ感じかぁ。」
「奏君!腕は大丈夫なんですか⁉︎」
「…まぁなんとかなるから。だからうん、その勢い抑えてほしいな、殺せんせー。」
凄い勢いで詰め寄ってきた殺せんせーに奏は少し引く。
「…してやられたな。ここは引くよ、2人とも。触手の制御細胞は感情に左右される危険なシロモノ。この子等を皆殺しにでもしようものなら…反物質臓がどう暴走するかわからん。」
それを聞いてもキレてるイトナはまだやろうとする。
だがもう一度シロが引くよう言うと、今度は帰ろうとする。
しかし奏がそれを許さなかった。
「いやいや、ちょっと待てよイトナ君や。俺はまだ怒ってんだけど?葉月の後はお前とシロボコらんと気が済まないんだけど?それに葉月も、しっかり問い質さないといけないよね。」
いつのまにかイトナと葉月の足元の水が凍っている。
だが葉月は余裕そうに笑う。
「やだよー。なーんも答えないし、そもそもここで捕まる気は無いからね〜。バイバーイ!」
葉月が指をパチンとならすと、2人の周囲を覆うように竜巻が発生する。
竜巻はガリガリと氷を削り、止んだ時には2人の姿は無く、シロも消えていた。
寺坂含め皆が奴らを追い払えた事を喜んでいる中、陽菜乃は奏の側に行く。
「かーくん、腕切られちゃってるじゃん‼︎何でこんな無茶したの⁉︎」
「いやぁ〜、あの葉月ってやつが結構強くて。でもこれくらいすぐに元どおりになるから、心配しないで。」
「ホントに?治るの?」
「うん、治る治る。それより今は…別の方がヤバいかな〜……」
そのまま奏は意識を失い、横になった。
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シロと別れ、自分たちのアジトに戻った葉月は自分たちのリーダーに今回の事を報告していた。
「…というわけでシロの作戦はまた失敗しました〜。めでたしめでたし!…なーんてね。ここまで想定済みでしょ、神無様?」
「うん。殺せんせーの存在なんて私達にとってはどうでもいいことだもん。そりゃあ奏を引き込めたらラッキーだったけど、今は時期尚早だもの。…それで、葉月君からして奏はどうだった?」
「ん〜、まぁやっぱ強いよ。最初はこんなもんか〜くらいだったけど、風邪引いてて、術式も全部使わないでアレは相当だね〜。」
「うんうん、しっかりと強くなってて良かったよ。ちゃんと仕組んだ甲斐があったね!」
「ところでさ〜……この前高専に回収された『宿儺の指』、あれあんな風に使っていいの?レア物でしょ?」
「いいのいいの。宿儺は器もまだ生まれてきてないし、そもそも私達の計画には関係ないから。奏のプラクティスに使うくらいで今は十分!まあ予想外のものが見られたけど♪」
「ふぅん…それで次は?」
「えっとね〜、『彼』がやりたいことがあるみたいだからそれをさせる。サポートにはカレンちゃんと迅君をつける。後『彼』には内緒で篝姉にも動いてもらうつもり。」
「えぇ〜〜…今度はアイツ?気乗りしないなぁ。」
「大丈夫だよ。万事上手くいく。絶対にね。」
そう言い神無は妖しく微笑み、部下たちに次の作戦を伝えに行く。