今までは基本奏の語りで進めていましたが、これからは基本三人称視点で進めることにします。
理由は奏の語りという点を作者が上手く使えていない、原作での渚の語りのほぼコピペになっているなどからです。
南の島での暗殺旅行まであと1週間
E組生徒たちはこの日、訓練と計画の詰めのためにグラウンドに集まっていた。
皆がジャージに着替えて射撃訓練をしている中、イリーナだけは高級そうな洋服に身を包みサングラスをかけて優雅にしている。
「まぁまぁガキ共、汗水流してご苦労な事ねぇ。」
「ビッチ先生も訓練しろよ。射撃やナイフは俺らと大差無いだろーにさ。」
「大人はズルいのよ。あんた達の作戦に乗じてオイシイとこだけ持ってくわ。」
「ほほう、えらいもんだなイリーナ。」
イリーナが上から目線で語った時、後ろから殺気を纏った声がした。
イリーナの後ろにはいつのまにかロヴロが立っていた。
「ロッ、ロヴロ師匠⁉︎」
「夏休みの特別講師で来てもらった。今回の作戦にプロの視点から助言をくれる。」
「1日休めば指や腕は殺しを忘れる。落第が嫌ならさっさと着替えろ‼︎」
「ヘッ、ヘイ!喜んで‼︎」
ロヴロの説教に震え上がったイリーナは即座にジャージに着替える。
「それで殺センセーは今絶対に見てないな?」
「ああ、予告通りエベレストで避暑中だ。部下がずっと見張っているから間違いない。」
「ならば良し。作戦の機密保持こそ暗殺の要だ。」
そう言って手袋を装着するロヴロに岡野が質問をする。
「ロヴロさんって殺し屋の斡旋業者なんですよね。今回の暗殺にも誰かを…?」
「いいや、今回はプロは送らん。」
イリーナが初めて教室に来た時から分かる通り、殺せんせーの鼻はとても敏感である。その嗅覚は特に鋭く部外者嗅ぎ分ける。
実は今までも生徒達の知らない時にプロの暗殺者が襲撃していたが、全員悉く失敗、それどころかそれぞれ殺気と臭いを覚えられ二回目以降は教室にすら辿り着けなくなっていたのである。
「さらに困った事も重なってな…残りの手持ちで有望だった殺し屋数名が…何故か突然連絡がつかなくなった。という訳で今現在斡旋できる暗殺者は0だ。慣れ親しんだ君達に殺してもらうのが一番だろう。」
そう言ってロヴロは作戦レポートを確認する。
E組の計画では、先に約束の15本の触手を破壊して間髪いれずクラス全員で攻撃してトドメを刺すというもの。
「…それは分かるが、この一番最初の『精神攻撃』というのは何だ?」
「まず動揺させて動きを落とすんです。殺気を伴わない攻撃には…殺せんせー脆いとこあるから。」
「この前さ、殺せんせーエロ本拾い読みしてたんスよ。『クラスの皆さんには絶対に内緒ですよ。』…ってアイス1本配られたけど、今時アイスで口止めできるわけねーだろ‼︎クラス全員で散々にいびってやるぜ‼︎」
「他にもゆするネタはいくつか確保してますから、まずはこれを使って追い込みます。」
渚達の説明を聞いたロヴロは冷や汗をかきながら、残酷な暗殺法だと感じた。
「…で肝心なのはトドメを刺す最後の射撃。正確なタイミングと精密な狙いが不可欠だが…」
「……不安か?この
「いいや、逆だ。特にあの2人は素晴らしい。」
興味深そうなロヴロの視線の先には、空中に浮いた風船を正確に撃ち抜くE組のスナイパー、千葉と速水がいる。
「…そうだろう。千葉龍之介は空間計算に長けている。遠距離射撃で並ぶ者の無いスナイパーだ。速水凛香は手先の正確さと動体視力のバランスが良く、動く標的を仕留める事に優れた
「ふーむ、俺の教え子に欲しいくらいだ。」
「あぁ。そして彼らのメインサポートにあの2人が付いている。」
烏間はそう言い、グラウンドの端を指差す。そこでは、
「はぁぁっ‼︎」
「せいっ‼︎」
お互いに刀を持ってギリギリ目で捉えられるスピードで組手を行なっている奏と小夜がいる。
「…『災厄』と泡沫の所の娘か。確かに彼らならサポートとしては充分すぎるほどだろう。他の者も良いレベルに纏まっている。短期間で良く見出し育てたものだ。人生の大半を暗殺に費やした者として…この作戦に合格点を与えよう。彼等なら充分に可能性がある。」
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「ハァ…ハァ…やっぱり強いなぁ奏はん。ウチ、全く隙作れへんかったわ…」
「よく言うよ…小夜さんの強みを最も出せるのって障害物が多い所でしょ?呪術無しだったとはいえ、開けた場所でほぼ互角って…」
「それで…結局本番はどうするん?足場は奏はんが作ってくれる言うてたけど、作った足場は固定するんやろか?」
「いや…やっぱりその場その場で作って解除の方がいいと思う。そこら辺はもうすぐ助っ人が来るから、そいつらとの模擬戦で調整…「おい、奏。」…来たか。」
2人してグラウンドに仰向けで寝ながら計画について話していると、奏のよく知った声が聞こえてきた。奏は起き上がり声の聞こえた方を見ると、4人(?)の男女がいる。
E組生徒や教師達は誰だ?という顔をしているが、奏は構わず話しかけに行く。
「悪りぃね。わざわざ呼び出して。」
「ホントだよ。つかなんでこっちなんだよ。普通に高専でいいだろ。」
「まぁ、あれだ。ここの仲間にアッチの仲間を紹介したかったからだな。」
「めんどくせぇ。」
「まぁ、そう言うなって。もしかしたら俺らも奏のサポートに着くかもしれないんだから、今顔合わせておくのも悪くないんじゃないか?」
「それは無いだろ。コイツ一人で充分じゃねーの?」
「しゃけ。」
「いやいや、出来たらとっくにやってるっつーの。」
「えーっと…奏、盛り上がってら所悪いけど、その人達が誰か俺たちに教えてくれないか?」
奏が四人の男女(?)達とフランクに話している中、磯貝が少し申し訳なさそうに説明を要求してきた。
「ああ、悪い…ひーちゃんは少しだけ会ったことがあるけど、他は初めてだよね。コイツらは俺の高専での同級生…まあ俺が飛び級だから一つ年上だけど。このメガネかけた女が禅院真希。武器の扱いと身体能力に関して言えば俺より上。」
「おう、まぁよろしく。」
((((奏より身体能力が上!?))))
「こっちのひ弱そうなのが乙骨憂太。幼馴染だったヤンデレ少女に呪われちゃったやつ。」
「ど、どうも…」
((((呪いにヤンデレとかあるのか!?))))
「こっちの金髪が狗巻棘。術式が原因でおにぎりの具しか語彙がない。」
「こんぶ。」
((((いや、なんて?))))
「それとパンダ。」
「パンダだ。よろしく頼む。」
「「「「「いや、パンダはもう少し説明しろよ‼︎」」」」」
前3人に対しては心の中でのみ突っ込んでいたE組だが、さすがにパンダには声に出して突っ込んだ。
「えぇ…もう少し説明しろったってねぇ…」
「パンダはパンダだもんな。」
「しゃけしゃけ。」
(正直僕も説明欲しい…。)
「ん〜、そうだな…奏の兄だ。」
「「「「「余計分かんねぇよ‼︎」」」」」
再び突っ込みが炸裂する中、組手をする事となっている小夜はなんとも言えない微妙な表情をしていた。
「えぇ…うち、こないな人たちと模擬戦せなあかんの?」
「こんなって。まあそう思わずにはいられないかもだけど。」
「呪術師って大体どっかおかしく奴しかいねーもんな。」
「ま、その話は今はいいっしょ。とりあえず始めよ。あ、みんなも訓練してもらいたかったら別にいーよ。死なない程度にシゴかれるから。」
笑いながら奏はそう言って森の中に入っていった。
先程までは平坦な場所での訓練だったので、今度は障害物が多いところでやるつもりらしい。
ちなみに岡野や磯貝なんかは稽古をつけてもらおうと思っていたが、
「なんなん⁉︎ホンマになんなん⁉︎何で森の中で長物振るえるん⁈」
「クッソ、マジでふざけんなこの体格差ァ‼︎って不意打ち呪言はホントにキツイって‼︎」
「あかん、あかんよ。ウチの生存本能が近づいたらあかんって言うとる!」
「オラァぁぁぁああ‼︎いい加減スピードくらい落ちろよ、この体力バカ‼︎」
森の中から二人の絶叫と咆哮が幾度となく聞こえて、やめておこうと思い直したとか。
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朝3時開始地獄の本気組手で体力ボロボロの状態に超スパルタ模擬戦の追撃を二人が受けている一方で、一般人のE組生徒はロヴロの指導を受けながら平和に射撃訓練を続けていた(皆はいつも学校行く時間と同じ)。
そんな中、渚は恐る恐る気になる事を聞いてみることにした。
「ロヴロさん、僕が知ってるプロの殺し屋って…今のところビッチ先生とあなたと少し違うけど小夜さんしかいないんですが、ロヴロさんが知ってる中で一番優れた殺し屋ってどんな人なんですか?」
ロヴロは渚の質問をしっかり聞きながらも、彼の内に秘められた殺し屋の素質に興味を示していた。
「興味があるのか、殺し屋の世界に。」
「あ、い、いや、そういう訳では。」
「そうだな…俺が斡旋する殺し屋の中に
『死神』という名を聞き渚はゴクリと息を飲む。
その名を知っているが会ったことはないイリーナも思わず冷や汗を流す。
「ありふれた仇名だろう?だが、死を扱う我々の業界で『死神』と言えば唯一絶対奴を指す。神出鬼没・冷酷無比、夥しい数の屍を積み上げ、死そのものと呼ばれるに至った男。君達がこのまま殺しあぐねているのなら…いつかは奴が姿を現すだろう。ひょっとすると今でも…じっと機会を窺ってるかもしれないな。」
ロヴロの説明を聞いた渚は、より一層今回の大規模な暗殺の重大さを感じる。そんな渚の素質を見抜いたロヴロは、この少年の成長を見たくなってきていた。
「…少年よ、君には必殺技を授けてやろう。プロの殺し屋が教える…必殺技をな。」
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午後6時
少し暗くなってきている空の下、何人かは帰宅し、何人かは射撃訓練を続け、何人かは烏間と模擬戦をしていた。
そんな中グラウンドの端では四人の男女+1パンダが力尽きて倒れており、真希ただ一人だけが勝ち誇ったようという訳ではないが立っていた。
「んだよ。結局残るのは私だけかよ。」
「うるせーよ……おまえの体力が…限界突破し過ぎなんだよ……」
「あかん……もう一歩も…動けへん…」
「いつもより…何十倍も……長かった…」
「容赦の「よ」の字も……無かったな…」
そこへ陽菜乃が全員分のスポドリを持ってやって来た。
「皆、お疲れ様〜」
「おう、サンキュー。」
「あんがと…ひーちゃん…マジで生き返る。」
「それは飲み物で…?それとも…目の保養…?」
「両方…」
パンダの軽い質問に真顔で奏は答え、陽菜乃は顔を真っ赤にする。
「てか陽菜乃も混ざれば良かったのに。」
「何言ってんの兄貴。こんなの一般人に勧められるわけないでしょ。」
「うん、私も遠慮したいな…」
「ウチは寧ろ一回受けて地獄を味わって欲しかったわ。」
「エグいなおい。」
そんな風に軽く話をしているが、陽菜乃は何かを迷っているような顔をしていた。しかしやがて覚悟を決めたように頬をパチンと叩く。他の6人はビクッと反応して陽菜乃の方を見る。
「何々⁉︎どしたの、ひーちゃん?」
「かーくん、頼みがあるんだけど…」
「ん?何、言ってみ?」
「私に呪術を教えてくれない?」