ロヴロを招いて行われた特別訓練から1週間が経った今日、E組は大規模暗殺計画の舞台、普久間島へ向かっていた。
周りが海を眺めたり船内を探索している中、食堂で奏は数枚の書類とスマホの画面を交互に見ながら難しい顔をしていた。
そこに烏間が入ってきた。
「奏君、ここにいたのか。」
「烏間先生、もう集合時間ですか?」
「いや、まだだ。ただ見回りに来ただけだから気にしなくていい。…ところで何を見ているんだ?」
「ただの任務の書類です。あっちで一件こなさなくちゃいけない問題が出来たので。」
「…聞いていないぞ。」
「アハハ、実は俺も昨日言われたばっかなので。でも殺せんせーの暗殺が済んだらでいいって言われてるので、暗殺計画には支障をきたさないです。」
「そうか、それならいいが…いや。君の教師として言わせてもらう。」
奏の後ろに立っていた烏間は奏の正面に座り、いつもと変わらない、しかし少し心配そうな様子で話し出した。
「以前他の生徒には言ったが、俺は君達に払うべき最低限の報酬は当たり前の中学生活を保障することだと思っている。それはこの教室に来る前から既に普通の中学生じゃなかった君も例外じゃない。だから君も呪術師であることに囚われすぎず、彼等と普通の中学生の様な生活をもっと過ごしてもいいんだぞ。」
奏は少し驚いたように目をパチクリさせるが、すぐにクシャッと笑った。
「ご心配ありがとうございます。けど俺はもう皆から沢山の普通の生活を貰っています。だから俺は呪術師として皆の普通を守りたいんです。」
「……そうか。やはり君には不要な心配だったか。」
烏間はいつものようにフッと笑い、食堂から出て行った。
そして奏はまた書類とスマホとの睨めっこに戻った。
「……にしてもまーた面倒くさい案件持ち込みやがって。」
奏が見ているスマホには、腹部を刃物かなにかで切り裂かれて上半身と下半身の二つに綺麗に分けられた死体の画像が写っていた。
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東京から6時間かけて、一行を乗せた船は目的地に到着した。
船から降りると、港にこの場にはあまり相応しくない白いシャツを着た女性がいるのに気がついた。女性はどこか困った風にこちらを見ている。
「…なぁ、あの人誰だ?」
「見たことない…よな。」
「烏間先生の部下の人とかか?」
「いや、あんな者は俺も知らない。」
皆が女性を不審に思っている時、奏が陽菜乃や小夜と共に最後に船から降りてきた。だが女性を見た瞬間に面倒くさそうな顔をする。
一方、女性は奏に気づくとパァっと顔を輝かせ、走り出す。
突っ込んでくる女性を避けようと奏は右に身体をずらすが、女性もそれに合わせて進行方向をずらし奏に抱きつく。
「奏君ーーーーー‼︎‼︎」
「ぐぁっ⁉︎…もろ腹に入った……!」
悶絶する奏、その奏にまるで猫のように身体をすり寄せる女性、その2人を光の消えた眼で見る陽菜乃と小夜、血涙を流す前原&岡島。
この中々にカオスな事態をまとめようと烏間が話を切り出す。
「……苦しそうなところ申し訳ないが、その女性が誰だか説明してもらえるか、奏君?」
「烏間先生の言う通りだよ。私もちゃんと聞きたいな、かーくん?」
「せやなぁ…こないなこと、しっかり説明してもらわないとあきまへんえ?」
顔は笑っているが眼は笑っていない陽菜乃と小夜に奏含め全員がビビる。
奏は少し苦しそうに答える。
「…も、もちろん…説明するさ…。一部は会ったことあるだろうけど……この人は三輪霞…俺の姉みたいな人で……今回の俺の任務のサポートに着くんだと…」
「初めまして、奏君の『最愛の』姉の三輪霞です。どうぞよろしくお願いします。」
唯一、三輪だけは2人の威圧に怯むことなく威圧で返す。
修学旅行で助けてもらった片岡や矢田、茅野らは思い出したようだが、奏から離れようとしない三輪を引き剥がそうとする陽菜乃と小夜を見て、奏に「ご愁傷様」と心の中で哀れんだ。
そしてまさか三輪が来るとは聞かされていなかった奏もまた、「人選ミスだろ」と心の中で叫んだ。
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陽菜乃達3人の10分近く続いた格闘(?)は終わり、皆は修学旅行の時の四つの班に分かれて、班ごとに時間分けをして殺せんせーと遊んでいる。
だが実はその遊びのもう一つの目的は陽動である。
計画通り暗殺を行うため、綿密に現地をチェックする必要がある。その様子に目が行かないようにする為、1つの班が遊ぶことで殺せんせーの注意を引き付けているのだ。
ちなみに修学旅行には行かなかった小夜は4班にいる。
本人は少し残念そうであった。
そして奏と三輪もホテルのコテージで任務の確認をしていた。
「奏君はあっちに行かなくていいんですか?」
「ん〜、まぁね。多少は遊んだし、舞台のチェックも小夜さんと済ませてきたし、それに…」
「それに?」
「高いの無理。」
「あぁ…」
奏の1班は2人1組で自転車とハングライダーが合体した乗り物で遊んでいたのだが、高所恐怖症の奏はこれを拒否。前原や矢田が陽菜乃と乗ってやれと説得しても「これはマジで駄目」の一点張りに加え、それを理解している陽菜乃が仕方ないと決めた事で奏だけ辞退となった。
ちなみに陽菜乃は当然周りを牽制するように埋め合わせを要求してきた。
「まぁその事は置いといて、本題に入ろう。」
「そうですね…奏君は今回のターゲットについてどこまで知ってるんですか?」
「ゴリゴリの近接型、刀使い、本人よりも獲物の方がヤバいってことくらいかな。」
「術式は?大雑把でも分からないんですか?」
「うん、俺の前で使ったの見たこと無いからさ。……いや、俺に限らず、あの人が術式使うの見たことがある人は数えるほどしかいないな。」
「なるほど……作戦はどうしますか?」
「術式不明でもある程度は手の内が割れてるから俺が前、霞姉は後ろで待機。」
「……私、出番あります?」
「無いね。」
「そんなにはっきり言いますか⁉︎」
「いやだって内容知らされた時、サポートはマジで憲紀さんかメカ丸だと思ってたし。ホントに今回は二重の意味で人選ミスだと思った。」
「二重⁉︎」
ショックを受ける三輪を見つつ、今回の人選は
「…あっ!ところで奏君!何で勝手に彼女作ってるんですか⁉︎」
「え、何か問題あるの?」
「あらかじめ教えて下さいよ!一言くらい相談してくれてもいいじゃないですか!それに!彼女どころか他の女の子まで誑かして!彼女だけでも私は我慢できないのに‼︎」
「霞姉が何に我慢できないのかまるで分からねえし、誑かしたなんて人聞きの悪いこと言うな。」
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各班の活動が終わり、夕陽が沈みかける海上に一隻の船がある。
E組が貸し切った船上レストランである。
「さて殺せんせー、夕飯はこの貸し切り船上レストランで夜の海を堪能しながらゆっくり食べましょう。」
磯貝の言葉に殺せんせーは冷や汗を流す。
「…な、なるほどねぇ…まずはたっぷりと船に酔わせて戦力を削ごうというわけですか。」
「当然です。これも暗殺の基本のひとつですから。」
「実に正しい。ですが、そう上手く行くでしょうか。暗殺を前に気合の乗った先生にとって、船酔いなど恐るるに…「「「「黒いわ‼︎」」」」」
少し焦ってはいたものの何時もの余裕を取り戻した殺せんせーに一同は思わず突っ込む。しかしそれも当然のことで、殺せんせーは真っ黒に日焼けしていたのだ。
その焼け具合は歯まで黒くなり表情は読み取れず、前後の区別もつかないほどである。
「ややこしいから何とかしてよ。」
「ヌルフフ、お忘れですか皆さん、先生には脱皮がある事を。黒い皮を脱ぎ捨てれば、ホラ、元どおり。」
「「「あ……」」」
「ん?どうしました、皆さん?」
「いや、それ…月一の脱皮…」
「こんな使い方もあるんですよ。本来はヤバイ時の奥の手ですが…………あ″っ!」
安定のドジで自ら戦力を減らす殺せんせーを見て、奏と小夜は「仕事減ったな〜」と心の中で呟いた。
三輪ちゃんは暗殺計画には参加しません。
流石に飛び入りは計画が破綻しかねないので。
洞窟肝試し、奏のパートナーは誰?
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ど安定の陽菜乃
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大穴狙いで小夜
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あえての三輪