ぶく茶がエンリ?   作:嵐山

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2話

 

平和だった村が、いつもと違って騒がしい。

遠くから悲鳴も聞こえてきている。何か起きている。

 

そんな時、両親が家の中に飛び込んできた。

 

 

「エンリ、ネムを連れて急いで逃げなさい」

 

 

何が起こっているのかわからない。

外からの悲鳴や、馬の足音がどんどん近くなるのがわかった。

 

外を見て絶句した。

(何よこれ!!逃げ惑う人が斬られているじゃない…)

 

 

「エンリ何をしてるの?お願いだからネムを連れて逃げて」

 

 

母親が必死に促す、ネムは声も出せないほど、狂乱している。

すぐに中央方面から兵士らしき人がやってきた。

 

 

「逃げろエンリー逃げるんだー!早く行けー!」

 

 

父親が兵士の盾になり必死に叫んだ。

私もパニックになり、ネムの手を引き逃げる。必死に走った。振り返ると父親が背中を刺され

母親はすでに血を流し倒れていた。

(なんなのよ?何よこれ!もうわけわかんないよー!)

 

今まで体験したことがない恐怖、目の前で人が殺された恐怖。聞こえる悲鳴の恐怖。

次は自分の番かと思う恐怖。リアルの世界でもこんな事知らない。狂いそうになる。

 

村の端れまで必死に逃げた。しかし、大人の男と子連れの女、追いつかれるのが当たり前。

追いつかれた瞬間。

 

背中が熱い、焼けるように熱い、動けない、そう思った時には自分の体で隠すように

ネムを抱きかかえていた。

 

 

「‥お姉ちゃん…」

 

 

(ネムごめんね、私どうすることも出来そうにないよ…動けないよ)

死ぬ恐怖より母性本能か?この子を強く守りたいと思った。

しかし、打開するその力がない、迫りくる死を待つだけ。

 

死を待つ時間は長く感じる、でもなぜか一向に斬りつけられない、

思い切って兵士の方を見てみる。

 

兵士たちは何かに怯えるように後ずさっている。

私も兵士の視線の先を見た。そこには見たことがある物があった。『ゲートだ』

さらにその中から出てきた人も、見たことがある。ネムにはこちらも怖い者の対象で

強く抱き着いてきた。

 

その人はすぐに魔法を唱えていた。

 

 

「グラスプ・ハート」

 

 

知っている魔法。1人の兵士は死んだ。

持っている杖はギルド武器のスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン

(間違いない?モモンガさんだよ!ピンチの時に助けてもらうとかっこよく見えるよ

それにしてもユグドラシルの魔法、ここはゲームの中?)

続けて2回目の魔法。

 

 

「ドラゴン・ライトニング」

 

 

二人目の兵士も即魔法で倒した。一度私達を見た後。

(アンデット作成でデスナイトを作っているよ)

見ていたら思わず声に出していた。

 

 

「ウギャー!気持ち悪い…なにそれ」

 

 

作成は何度も見たことがあるけど、ユグドラシルとは違い、作り方が気持ち悪い。

 

 

「ハァ~?まあいい、小娘の事は後だ」

 

 

ゲートからもう一人出てきた。見た所華奢な体つき全身フルメイル、見事な双丘、女性だ。

(女性型のギルドメンバーかな?誰なんだろう?フル装備でわからないよ)

二人は会話を始めていた。

 

 

「準備に時間が掛かり、申し訳ありませんでした」

「いいや、実にいいタイミングだ。アルベド」

「ありがとうございます…‥‥それで、この下等生物の処分はどうなさいますか?」

「とりあえずの敵は、そこに転がっている鎧を着た者達だ」

「畏まりました」

 

 

こちらを見て赤い物体を渡してきた。

(これマイナーポーションだよね?)

 

 

「怪我をしているようだな、飲め」

「あ・ありがとう」

「お・お姉ちゃんダメだよ、やめて」

 

 

ネムに止められた直後、お付きの人が武器を振り上げ怒りだした。

 

 

「下等生物風情が!!」

「ま・まて!急ぐな!武器を下げろ!」

「畏まりました」

 

 

(何この人短気すぎよ、それにアルベド?タブラ・スマラグディナさんが作ったNPC?)

安心したら背中の痛みを思い出し、すぐにポーションを飲み干した。

ゲームの中でのポーションと全く違う。リアルに痛みが引くのがわかった。

敗れた服も元通り‥‥

 

 

「お前たちは、魔法を知っているか?」

「うん、さっきのが魔法じゃないの」

「ん。ん?そうだが、ならば話が早い私はマジックキャスターだ」

「うん、知ってるよ」

 

 

(モモンガさんだとわかって、余裕ができた。昔のように話してもいいよね?)

 

 

「はぁ~??まあいい。守りの魔法をかけておいてやる、そこに居れば安全だ。

それとこれをくれてやる、吹けばゴブリンがお前にしたがうべく、姿を見せるはずだ

そいつらを使って身を守るが良い」

 

(それいつかの課金ガチャの外れアイテムじゃない‥‥私も持ってる)

 

「あ・ありがと、でも終わったら必ずここに来てよね。あとお名前を聞いても?」

「名前?‥‥‥‥我が名を知るが良い。我こそがアインズ・ウル・ゴウン!!」

「エッ~!ププッ。‥‥アインズさん終わったら必ず来てね」

 

 

アクションをつけて名乗った。偽名を。吹き出す笑いを堪えるのは大変。

すぐにモモンガさん達は村に向かって行った。

 

私達はここで事が終わるまでおとなしく待っている。

考えてみた。魔法も、NPCのアルベドが意志を持っていること。

もしかして、アウラやマーレも?ほかのNPCも?

 

斬られてわかった事。死ぬほど痛い、リアルで転んだ時よりも痛い。

本来のゲームなら痛感は無い、やられた時の悔しさだけ、わからない事だらけ。

 


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