違和感がございましたら、ご指摘いただけると幸いです。
2点、原作設定から改変がございます。
今作では友希那さんの通っている学校を共学ということにさせていただきました。
そして、友希那さんは、ボーカルだけではなく、ギターも多少は弾けるという設定にさせていただいております。
なお、Roselia結成前のお話です。
「やっと帰ってきた……」
地元の駅の改札を出た瞬間、思わずため息をついた。
腕時計を見ると、もう22時だ。
学校が終わってから、電車に乗って隣町の塾に向かい、数時間の勉強。
親父に「部活に入るか塾に行くか選べ」と言われて何となく選んだ塾だけど、思ったよりも面倒くさい。
「早く家に帰って、撮りためてたアニメでも見ようかな」
そんなちょっとオタっぽい言葉をつぶやきながら、駅前広場を横切る。
広場を横切った先の路地に、「駐輪場あります」の看板が。
そこの駐輪場に自転車を止めているのだ。
僕の家って、駅から結構遠いんだよな。
「にゃーん、にゃーん」
「ん?」
駐輪場に近づくと、何やら可愛らしい鳴き声が聞こえた。
猫……か?
最近、駐輪場に猫が何匹かいる。
程よく雨風をしのげるし、住処にしているのだろう。
でも、どことなく今日の鳴き声は人間の声っぽいような。
こう、猫の鳴き声を真似ている女の子の声っていうか。
「にゃーん。ほら、こっちにおいで。撫でてあげるわ」
あ。
人だ。
確実に女の子。
猫語で猫としゃべっているつもりなのかな。
微笑ましいといえば微笑ましい。
いったいどんな娘だろう。
声からすると、ちょっと子供っぽい。
僕と同い年ぐらいだろうか?
少し興味をひかれたのと、僕自身自転車を出さなきゃならないのもあって、駐輪場の中を覗き込む。
するとそこにいたのは……。
「湊さん!?」
なんと、クラスメイトの湊友希那さんだった。
湊さんは、クラスでも指折りの美少女なんだけど、少し冷たい感じのする女の子で。
こう、クールを絵に描いたような感じというか。
そんな湊さんが、にゃんこを相手に猫語で話しかけている?
意外だ。
意外過ぎる。
「誰?」
物音に気が付いた湊さんが、こちらを振り向いた。
目が合う。
どうしよう。
なんとなく気まずい。
でも、別に僕が悪いことをしているわけでもないしなぁ。
「や、やぁ」
苦し紛れに、片手をあげて挨拶をしてみた。
「も、もしかして、あなた同じクラスの……」
「う、うん。小牧。小牧浩紀だけど」
「~~っ!!!!」
見る見るうちに、湊さんの顔が青ざめていった。
「ち、違うのよっ、これは、そのっ!」
普段の彼女からは予想もつかないほどわたわたと慌てて、言い訳をしようとするが、何も思いつかないらしく。
「わ、忘れて頂戴! 私はこんなところにいなかった」
無理なことをおっしゃる。
僕は思わず苦笑した。
「別にそんなに恥ずかしがらなくても。僕だって家で猫を飼ってるから、見かけたらすぐに触りたくなっちゃうのはわかるよ」
「え、あ、ほ、ほんと?」
可哀そうなぐらいに取り乱し、すがるような瞳で僕を見つめる湊さん。
うるんだ瞳は透明感にあふれている。
うわぁ……本当に美少女だな、この人。
僕は少しドキドキしながら答えた。
「うん。猫のお腹の毛ってふさふさしてて、触ったら気持ちいいもんね」
「!! そ、そう! そうなの! さっきの子は、特にふわふわのサラサラでっ!」
うおっ。
キラキラの表情で食いついてきた。
猫の話ができる友達とか、いないのかな?
気が付くと、駐輪場に住み着いている猫のうちの一匹が僕の足元にすり寄っていた。
文字通り、猫なで声で鳴いてくる。
「よしよし」
頭を撫でてあげると、ぱたんと寝ころんだ。
なので、おなかも撫でてあげる。
そんな僕の様子を見ていた湊さんが、感嘆の声を上げた。
「小牧くん。あなた、すごいのね」
す、すごい?
いったい何が?
「そのサバトラ模様の猫。いつも近くまで近寄れないの。近づこうとしたら必ず距離を取られちゃうのよ。なのにあなたには自分からすり寄っていくだなんて」
「サバトラってちょっと警戒心強いからね。さっきも言ったけど、うちで猫を飼っているから。猫の匂いが体についてるんだよ。それで仲間だって思われたのかもね」
「う、うらやましいわ」
心底うらやましいといった雰囲気の湊さん。
「今なら湊さんが近づいても大丈夫じゃないかな? 触ってみたら?」
「だ、大丈夫かしら?」
「たぶん。断言はできないけど」
サバトラは、警戒心の無い表情でコンクリートに寝転がっている。
大丈夫だとは思うんだけどね。
「そ、それじゃ、触るわっ」
緊張した声で宣言して、そぉっと手を伸ばす。
うわっ、指細いなぁ。
……ちょん。
湊さんの指先が、サバトラの背中に触れることができた。
「や、やった! できたわ! 小牧くん! 触れたわっ!!」
嬉しそうにはしゃぐ湊さん。
だが、すぐに我に返ると。
「あ、ち、違うの。いまのは、その。……忘れて頂戴」
顔を赤くして、またもや無茶なことを言うのだった。
※
サバトラを触って遊んだ後。
駐輪場の壁に背を持たせかけて、僕らは少しおしゃべりをした。
湊さんは、駅前のスタジオでギターの練習をしているらしい。
駅前は僕らが住んでいる地区から遠いから、なぜ制服姿でここにいるのか不思議だったんだけど、それで合点がいった。
華奢な背中に、大きなギターケースを背負っている。
アンバランスだけど、妙に魅力的に見えた。
「毎日練習してるの?」
「そうね。時間とお金が許す限りは」
「す、すごいね」
湊さんの言葉には迫力があった。
練習しなければならないのだという強い意志というか。
どこまで踏み込んでいいのかわからなかったのだけど、もう少しだけ彼女のことを知りたくなった。
「ギターの練習をしてるってことは、バンドやってるの?」
そういう噂は聞かないんだけど。
軽音部にも入ってなかったと思うし。
答えにくい質問だったのか、数秒の沈黙。
「……今は、一人よ」
ぽつり、と、そう答えた。
今はってことは、前はバンドをやってたのかな?
「リサも、ベースを辞めてしまったから」
リサ……。
あぁ、今井さんか。
ネイルとか好きな、ませた感じのおしゃれな女子だ。
そういうと、湊さんと今井さんって、タイプが違うように見えるけど、一緒にいるところをよく見る。
「今井さんのことだよね。あの子、ベースやってたんだ」
「えぇ……」
また、沈黙。
「ねぇ」
唐突に、湊さんが、悩ましげな瞳で僕を見つめてきた。
い、いったいどうしたっていうんだ?
「それよりも、お願いがあるんだけど……」
お、お願い?
「小牧くんの、その…………」
ごくり。
「飼ってる猫ちゃんの写真を見せてくれないかしら?」
「へ?」
僕は思わず間抜けな声を出す。
「だって。飼っているのなら、写真ぐらい撮っているはずでしょう? いいえ、絶対に撮っているわ。携帯の中にいっぱいあるはず。絶対に可愛いわ。それを見せてほしいの」
いつものクールな様子からは想像もできないほどの早口で頼み込んでくる。
僕はやれやれと肩をすくめて、携帯を手渡した。
「しょうがないなぁ。うちの猫。いっぱい写真あるよ」
「あ、ありがとう!!」
ふんすと鼻息を荒くしそうな勢いで、湊さんが僕の携帯を奪う。
ホントに猫好きだなー。
……と、微笑ましく思っていたのも、つかの間。
はたと気が付いた。
やばい。
携帯の待ち受け画像、好きなアニメのヒロインにしてた。
恥ずかしすぎる。
ってか、女子って絶対にそういうの軽蔑するよね。
「み、湊さん!」
「小牧くん、これ……」
残念そうな表情の湊さんが携帯を差し出す。
時すでに遅しか!?
「パスワードがわからないわ」
ずこっ。
あ、そりゃそうだ。
「一度ロック解除するから、ちょっと返して」
「わかったわ」
携帯を返してもらい、ロック解除。
ついでにささっと待ち受け画像も無難なものへ変更。
画像フォルダの、猫ってファイルをクリックして、我が家のにゃんこの写真を見せる。
「うわぁ」
湊さんが、意外なぐらいに無邪気な声を上げた。
すすっと僕のすぐそばに寄ってきて、携帯を覗き込む、
さらさらした髪が僕のすぐそばで揺れて、ちょっと良い匂いがする。
きょ、距離感が。
あれか。
湊さんって、夢中になったら周りが見えなくなっちゃうタイプか。
「可愛いわ。黒猫と三毛猫なのね」
僕のドキドキも知らずに、湊さんが話しかけてくる。
僕は、上ずった声で答えを返す。
「そ、そうなんだ。黒いほうが、クー。クロって呼んでたんだけど、だんだん訛っちゃって。で、三毛のほうが、チビっていうんだ」
「あら。チビのほうが大きいのね?」
「拾ったときはずっと小さかったんだ。それがさ、すごく食欲旺盛で。モリモリ食べて、どんどんでかくなっちゃったってわけ」
「ふふふ。そうなんだ」
クスクスと綺麗な声で笑う湊さん。
顔がすぐそばにあるから、息遣いまで聞こえてくる。
女子とこんなに近くでしゃべったのって、初めてだ。
や、やばい。
頭が回らなくなる。
カチッ。
僕は携帯の画面を閉じた。
「あっ……」
すると湊さんがあからさまに残念そうな声をあげる。
「さ、そ、そろそろ帰ろうよ。夜も遅くなってきたし。親に怒られちゃう」
僕は湊さんにそう言うのだが。
「ん~~」
まだ物欲しげに僕の携帯を見つめている。
な、なんか子供みたいだな。
細い腕に巻いている女の子らしいデザインの小さな腕時計で時間を確認して、悩ましげにため息をついた後。
「わかったわ。今日はここまでにしましょう」
そんなことを言った。
僕は胸をなでおろす。
湊さんとおしゃべりできたのは楽しかったけど、女子とほとんど接点のない僕にはちょっと刺激が強すぎた。
「それじゃ、湊さん」
僕が、自転車にまたがって手を挙げると、湊さんも鞄を自分の自転車の籠に積み、手を振った。
「えぇ。さよなら、小牧くん」
ちょっと危なっかし気にサドルにまたがる。
やっぱり、背中に背負ったギターが重そうだ。
「帰り道、気を付けてね」
思わずそう言うと、湊さんが唐突に、問いかけてきた。
「そういうと。あなたは、ロックは聴かないの?」
「あ、ロックかぁ」
実は僕は、ロックはほとんど聴いたことがない。
数年前までピアノを習ってたから、クラシックとジャズはそこそこ聴くんだけど。
ロックに興味がわかなかったんだよね。
「ごめんね。ロックはあまり知らないんだ。クラシックとかジャズは好きだけど」
僕が答えると、湊さんが頷いた。
「そう」
そっけない返事だ。
エレキギターを背負っているし、きっと湊さんはロックが好きなんだろう。
僕もロックぐらい聴いておけばよかったかな。
もしかしたら、もっと湊さんと仲良くなれたかもしれない。
でも、嘘をついて適当に「ロックも好きだよ」とか言ってしまうと、後々困ったことになりそうだし。
僕がそんなことを考えているうちに、もう湊さんは自転車のペダルを踏んでいた。
「今度こそ、さよなら」
「うん」
お互い、逆方向の自宅へと自転車をこぎだした。
その日は初夏だったけど、夜風が冷たかった。
だが、なぜか頬が熱かった。
高揚感があった。
「湊さんと喋っちゃったよ」
なんとなく、呟く。
不思議な胸の高まり。
なんだろう、こう、勝手ににやけてくる感じ。
「……とはいえ、まぁ。今後、特に絡む機会はないだろうなぁ」
学校でのグループが違いすぎる。
湊さんはカーストの上位に位置する孤高のクール美少女。
一方僕は、さほど目立ちもしない、隠れアニメオタクだ。
今日の出来事は、偶然。
つまらない高校生活に一度だけ訪れたラッキーイベント。
のはずなんだけど……。
何かが頭に引っかかった。
うーん、何だろうか。
自転車を走らせながら、先ほどの会話を反芻する。
と、湊さんの言葉の一つが、リフレインした。
“わかったわ。今日はここまでにしましょう”
ん?
“今日は”?
* * *
翌日。
いつも通り、遅すぎず、早すぎずの時間帯に登校する。
基本的に目立たないキャラの鏡のような行動なのだ。
特に挨拶する相手もいないので、さっさと自分の机に着席。
あくび交じりに鞄を置くと。
「小牧くん、待っていたわ」
唐突に湊さんが真横ににじり寄ってきた。
「え、え、なに?」
思わず驚いてしまう。
が、湊さんはさほど動じもせず。
いつものクールな雰囲気。
「待ちきれなかったわ。昨日の続きをしましょう」
意味深なことをおっしゃる。
「き、昨日の続き?」
僕の問いかけに、湊さんがぐっと顔を近づけた。
ち、近い近い!
近すぎる。
耳元に吐息が触れそうな状態で、奇麗な声でささやく。
「忘れてしまったの? 猫ちゃんの写真よ。もっと見たいわ」
そ、そういうことか。
でもどうして耳元でささやくんだ!
「朝礼までまだ時間があるから。校舎裏に行きましょ。そこで見せてもらうわ」
なんで校舎裏!?
「み、み、湊さん!」
僕は慌てて席を立つ。
「ちょ、ちょっとこっちへ」
とりあえず教室を出た。
だって目立ちすぎるんだもの。
クラス中が、僕と湊さんを奇異の目で見ていた。
特に男子連中から、こんな声がちらほら。
「おい、小牧の奴、なんで湊さんに話しかけられてるんだ?」
「湊さん、いままで男子と喋ってるとこ見たことなかったのにどういうことだよ?」
やばい。
クラス一のクール系美少女に急に親しげにされたらそりゃそうなるわな。
こ、これからどうしよう……。
そんな僕の心配など想像もつかないという様子で、湊さんは廊下で僕に言う。
「早く校舎裏に行きましょ。授業が始まってしまう」
「いや、だからなんで校舎裏なのさ……」
「だって、その……誰かに見られたら恥ずかしいのだもの」
もじもじと頬を赤らめて、小さな声で湊さんが言う。
いやいや、さっきすでに教室で死ぬほど目立ってたよ?
「恥ずかしいって、何が?」
「そ、それは……」
意を決するようにぎゅっと目をつむり、湊さんが宣言した。
「ね、猫ちゃんが好きなことが」
あー。
なるほどね。
そういうと昨日も僕に見られたとき恥ずかしそうにしてたな。
「それじゃ、耳元でささやいてきたのも」
「もちろん、他人に聞かれないための対策よ」
なぜか自慢げに胸を張る。
僕は、思わずため息をつきそうになった。
「そんなにこれが見たいの?」
携帯を取り出して、画像を一枚表示すると。
きらっきらの瞳で湊さんがコクコクとうなづく。
僕の携帯をじぃっと見つめている様子は、まるで獲物を狙う子猫のようだ。
僕はついつい意地悪をしてみたくなった。
「湊さん、ハイ」
携帯を差し出してみる。
「!!」
湊さんが手を出した瞬間、さっ。
携帯を引っ込める。
「むぅ~~」
物欲しげな目で湊さんが僕をにらむ。
「ほい」
「やっ!」
「ほらっ」
「そっちっ?」
僕が携帯を差し出す方向に飛びかかろうとしては翻弄される湊さん。
うわっ。
なんか家の猫と遊んでる時みたいだぞ、これ。
「な、なんでそんな、いじわるをするの?」
と、湊さんが涙目に。
やべっ、からかいすぎた。
「ごめん。冗談だよ。校舎裏に行こ?」
「え、えぇ。それがいいわ」
こくこくと頷く湊さん。
朝礼開始までまだあと20分ある。
まぁ、間に合うだろう。
僕は、湊さんと連れ立って歩きだした。
そばにいると、相変わらず、ふわっとしたいい匂いが漂う。
「これからは毎日、猫ちゃんの写真を撮ってきてほしいわ。お昼休みにも見せてもらっていいかしら?」
興奮気味にそんなことを言う湊さんの横顔を見ながら僕は思った。
湊さんはクールな人だと思っていたが、実はそうでもないらしい。
夢中になれることにはとことん情熱的で。
時には周りが見えなくなってしまうタイプで。
そんなところもひっくるめて、とびっきり可愛い人だ。
いかがでしたでしょうか。
バンドリ小説には初挑戦ですので、不安でいっぱいです。
少しでも楽しんでいただけたら良いのですが。
ご意見、ご感想、ご叱咤などございましたら、どうかお気軽にお伝えください。
今後の改善点として学ばせていただきます。