湊さんはクールな人だと思っていた   作:忍者小僧

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第4楽章

もはや定番となった、放課後の友希那さんとのセッション。

その日も、学校が終わると僕の家へ直行してピアノ部屋で練習。

定番ナンバーの演奏を終えると、友希那さんがギターを置いた。

少し疲れたのだろうか?

いつもならもっと続けるんだけど。

 

「…………」

 

何やら思案顔の友希那さん。

白い頬に汗が滴っていて……い、色っぽい。

思わず僕は目をそらしてしまう。

 

「浩紀くん」

「ひゃ、ひゃいっ」

 

思考を読まれたか?

変な妄想していたことがバレたかと思い、恐る恐る返事をする。

 

「な、何でしょうか。友希那さん」

「?? どうして急に敬語なの? まぁいいわ。一つ、提案があるの」

 

あ、違ったみたいだ。

ホッとして問いかける。

 

「提案?」

「ええ。ライブハウスに出てみない?」

 

ライブハウス?

ライブハウスってあれだよな。

ロックバンドとかが集まって、ステージで演奏する店。

思わず脳裏に、派手な格好をしたロックミュージシャンと、煙草のけむりが立ち込める狭い空間が思い浮かぶ。

 

「ライブハウスかぁ……」

 

正直、気乗りはしない。

いや、だってさぁ。

僕ってほら、あんまり人前で騒ぐタイプじゃないから。

目立ちすぎるのって好きじゃないんだよな。

それにライブハウスって行ったことないから想像だけど、なんか怖そうだし。

スクールカーストでいうところ上位の〝ウェーイ〟な人たちが行く場所のような……。

そんなことを考えていると。

 

「ダメかしら?」

「う、うわわわわっ」

 

いつの間にか目の前に、友希那さんの綺麗な顔があった。

ち、近いってば。

さっき演奏を終えた直後だからか、ほんのりと頬が上気していて、目もどこかしら潤んで見える。

 

「ダメなら、理由を教えてほしいわ。まだまだ練習が足りないということかしら?」

 

相変わらずのストイックな考え方の友希那さんだ。

これは、ライブハウスが怖そうとか、恥ずかしくて言えないな。

 

「い、いや、その。まぁ。だ、ダメでは、ないけど」

 

ぼそぼそとつぶやく僕。

 

「そう。安心したわ」

 

にっこり笑顔で、友希那さんが顔を離してくれた。

 

「でもまだまだ練習が足りないのは事実ね。もう一曲演りましょ」

 

そう言って、ギターを手に取った。

 

 

* * *

 

 

一時間ほど黙々とセッションを重ねて、少し休憩。

僕はペットボトルのお茶を飲みながら、友希那さんに問いかけてみた。

 

「ライブハウスってそもそも、どうやったら出ることができるの?」

「そうね。知り合いの紹介か、自分たちで売り込むかのどちらかだと思うわ」

 

なるほど、そういうものなのか。

 

「自分たちで売り込むってのはハードルが高そうだね。となると、知り合いから紹介してもらうってのが無難か。友希那さん、バンド友達とかいないの? 」

 

何気なく訊いたこの一言が、思ったよりも地雷だったらしい。

友希那さんがぴくりと反応する。

 

「…………」

 

あ、しまった。

友希那さんって実はあんまり友達いないんだよな。

今の話忘れてと言おうとした矢先に、友希那さんが口を開いた。

 

「別に。バンド友達ぐらいいるわ」

 

いつもどおりのクールな表情。

でもその口元は若干ヒクついてる。

この表情は……強がってるな。

 

「今井さんてのはナシだよ」

 

その一言に、友希那さんの目線が泳ぐ。

図星かよ。

だが友希那さんは負けず嫌い。

どうやら、僕に言われっぱなしなのはプライドが許さないらしい。

 

「他にもいるわ」

 

そう断言するが、さっきよりも口元がヒクついている。

友希那さんのこういう強がりを見ると、からかいたくなっちゃうんだよな。

 

「たとえば?」

「そうね……路上でライブをやっていた時には、すごいって褒めてくれた人がたくさんいたわ」

 

胸を張ってそう言うのだが。

それってただのファンでは?

 

「連絡先の交換はしたの?」

「どうしてそんなことをしなればならないの?」 

 

真顔で問い返してくる。

 

「知らない人と交換なんてするはずないじゃない」

 

おい。

知らない人って言っちゃったよ。

 

「それ、知り合いにすらなってないよ」

「…………」

 

友希那さんは数秒間無言でうつむいた後。

びしっと宣言した。

 

「と、友達が多いからって歌が上手くなるわけではないわ!」

 

ひ、開き直りやがった。

とはいえ、友達が少ないのは僕も同じだ。

あまり突っ込むと墓穴を掘るし、自分でもむなしくなってきた。

この話題はもうやめておこうか。

 

「ま、どっちにしろ、自分たちで売り込むしかなさそうだね。具体的にどうすればいいんだろう?」

 

その言葉に、待っていましたとばかりに友希那さんがトートバックの中をガサゴソする。

 

「これを使うわ」

 

自信ありげに取り出したものは黒い小さな機械。

なんだこれ。

 

「ハンディレコーダーよ。これさえあれば、私たちの音が録れるわ。演奏を録音して、ライブハウスに持ち込みましょう」

「小さいのに便利なツールだね」

 

僕がそう言うと、友希那さんが熱弁をはじめた。

 

「これはかなりの優れモノよ。手のひらサイズの小さなボディだけど、とてもクリアな音が録れるの。私も以前スタジオで自分で録ってみたけど、満足のできる音質だったわ。ライブハウスに持ち込むだけなら充分よ」

 

好きなものの話題にはすごく饒舌なんだよなぁ。

思わず気圧されながら、僕は頷いた。

 

「お、オッケー。それじゃやってみようよ、録音」

 

 

* * *

 

 

「こんな感じかしら」

 

友希那さんが、手慣れた様子でマイクスタンドにハンディレコーダーを設置する。

一人でスタジオに入り浸っていた時に、よくこれを使って録音していたらしい。

 

「高さがとても重要なのよ。机の上とかに置いていては綺麗に録れないの」

 

そんなウンチクを教えてくれる。

 

「用意はできたわ。あなたは?」

「うん、いいよ」

 

僕もピアノの前でスタンバイできている。

 

「いくわよ!」

 

セッション開始だ。

本格的な録音だとさすがに緊張するだろうけど、ハンディレコーダー相手だと、比較的気は楽だ。

焦ることもなく、適切な運指ができた。

これまで練習を繰り返してきたから、友希那さんとの連携もばっちりだ。

 

「よしっ!!」

 

最後の一音を弾き終えて、お互いに顔を見合わせる。

手ごたえはばっちり。

 

「早速聞いてみましょう」

 

心なしかウキウキとして友希那さんが再生ボタンを押した。

ところが。

 

「あら?」

 

どうにも、音がおかしい。

というか、僕のピアノの音が遠いな。

完全に友希那さんの歌とギターに負けちゃっている。

こんなはずじゃなかったんだけど。

音程が外れているわけじゃないし。

これってもしかして。

友希那さんの方に目をやると、こっそりとマイクスタンドの位置を動かそうとしている最中だった。

あ、やっぱりか。

いつも一人で録音していたから、二人で演奏するときの適切なマイクの距離がわかっていなかったんだな。

僕と目が合うと、気まずそうに視線をそらした。

 

「……何もしていないわ」

 

いや、めっちゃ見ちゃったから。

 

「今、マイクスタンドの位置、僕の方に寄せてたよね?」

「え、えと、その」

 

珍しい。

友希那さんが音楽関係の失敗でアタフタしているぞ。

 

「そ、それは、その……」

「その?」

 

きりっとした表情で、髪をかきあげる。

 

「何かの間違いよ」

 

カッコよく言ったけど、顔が真っ赤だ。

実は恥ずかしいのだろう。

 

「ま、そういうことにしとくよ」

 

思わず笑いながら僕がそう言うと、ぽかぽかと体を叩いてきた。

うわっ、友希那さんそういう怒り方するんだ。

ぜんぜん痛くないけどね。

ちょっと拗ねた感じの表情が可愛かったんだけど、そんなことを言うとまた怒っちゃうだろうから黙っておいた。

 

 

* * *

 

 

そんなこんなで、数度の試行錯誤を経て、ようやく納得のいく録音ができた。

 

「これなら、そこそこのライブハウスでも通用するはずよ」

 

静かな声音の中に若干の興奮をにじませて友希那さんがつぶやく。

僕も同じ気持ちだった。

手ごたえは確かにあった。

 

「そうだね。僕もかなりいい演奏だったと思う」

「でも油断は禁物よ」

 

友希那さんが細い指を僕の前に突き付ける。

 

「今はまだ道の途中。目指すなら、もっともっと高みを見つめなくてはいけないわ」

 

友希那さんの瞳は真剣そのものだ。

濁りがまったく無くて、真っすぐ。

今が道の途中だとするならば。

この人が目指している道の終着地点っていうのはいったいどこなんだろう。

僕はふと、それが知りたくなった。

だが、問いかけようとした瞬間、友希那さんが言葉を続けた。

 

「それはそうとして、浩紀くん。まだ時間はあるかしら?」

 

ん?

 

「時間? まだ大丈夫だけど」

「そう。それなら、あなたの部屋に入ってもいい?」

「ふはっ!?」

 

思わず変な声が出る。

 

「へ、へへへ部屋?」

 

狼狽する僕なんて気にも留めない様子で友希那さんが首をかしげる。

 

「いったいどうしたの?」

 

どうしたは僕のセリフだよ。

部屋に入りたいだなんて。

どういうことなんだ。

 

「ぼ、僕の部屋で何がしたいの?」

「浩紀くん、自分のパソコンを持っていると言っていたでしょ?」

 

あー、そういえば、ちょっと前に言ったなそんなこと。

 

「それを触らせてほしいの」

 

唐突に、友希那さんが僕の手を握ってきた。

 

「お願いよ」

 

うわっ。

手、華奢だ。

ほっそいのに柔らかい。

どうなってるんだ、これ。

 

「ぱ、ぱ、パソコンを?」

「私、自分のパソコンを持っていないから自由にインターネットが見れないの。猫ちゃんの画像を検索したいわ。携帯の小さな画面だと物足りないのよ」

 

そ、そういうことか。

そういう理由なら構わないんだけど……。

僕の脳内で、部屋に置いてある〝見られてはならないもの〟が即座にリストアップされる。

とりあえず、部屋を片付けねば。

 

「い、いいけど、ちょっとだけ時間をくれないかな?」

「わかったわ」

 

部屋に入る了承が得られたことがよほど嬉しいらしい。

友希那さんは餌を目の前にした子猫のように、らんらんと輝く瞳で頷く。

 

「絶対じっとしててね」

「心外ね。いたずらなんてしないわ」

「そういう意味じゃなくて。片付けてる間、二階に来ないでねってこと」

 

ついてこないように釘を刺すと、僕は大急ぎで二階の自室へと走った。

ドアを開けると、いかにもちょっとオタクな高校生男子の部屋というべき光景が広がっている。

壁には雑誌特典のアニメポスターが2枚ほど貼ってあるし、棚にはクラシックとかジャズのCDに混じって萌え日常系の4コマ漫画がある。

とりあえず……ポスターは剥がしておこう。

漫画も背表紙を裏向けておくか。

んで、パソコンを立ち上げて、壁紙を風景に変えてっと。

あとは……一応ファブリーズしておこうかな。

 

大急ぎで片付けたんだけど。

ピアノ部屋に戻ると、友希那さんが頬を膨らませて待っていた。

 

「遅いわ」

 

猫のことになると無我夢中だからなぁ。

 

「いやぁ、思ったよりも散らかっていたから」

「そんなこと別に気にしないのに」

 

そんな会話をしながら二人で階段を上がる。

通路の右側が僕の部屋だ。

 

「ど、どうぞ」

 

片づけたとはいえ、女の子を部屋に入れるなんて初めてだ。

正直、かなりドキドキしながらドアを開ける。

 

「お邪魔するわ」

 

そんな僕の気も知らずにすたすたと入っていく友希那さん。

パソコンを見つけるや否や、嬉しそうに椅子に腰掛けた。

うわっ、僕が毎日座っている椅子に友希那さんが座ってるよ。

 

「どうすればいいの? 早く教えて?」

 

マウスに手を添えて、問いかけてくる。

 

「と、とりあえず、パソコンを起動させよう」

 

ボタンを押して起動。

おなじみのウィンドウズマークが現れた後、草原の壁紙が。

インターネットエクスプローラーを立ち上げる。

友希那さんはかなり興奮しているらしく、ディスプレイにめっちゃ顔を近づけてる。

眼を悪くするぞ。

 

「ていっ」

 

思わず引っぺがす。

 

「意地悪をしないで」

「いや、友希那さんの将来のためだから」

 

眼が悪くなって眼鏡をかけた友希那さんもきっと可愛いんだろうけど。

 

「で、お目当てのサイトとかはあるの?」

「ここよ」

 

メモ用紙を手渡してくる。

丁寧な字でURLが書き込んであった。

いや、サイト名を書いてよ。

検索したほうが楽だから。

 

「前にリサに教えてもらったサイトよ。忘れないようにちゃんとアドレスを書いておいたの」

「しょうがないなぁ」

 

URLを手打ちしていくと……件のサイトが現れた。

シンプルなデザインだけど、サムネイル表示で猫の画像が盛りだくさんだ。

 

「すごいわ」

 

友希那さんが、普段は絶対に見せないような高揚した表情に。

 

「こんなにたくさんの猫ちゃんの画像。しかもすべて高画質よ」

 

ふるふると震えながら、僕のほうを振り向く。

 

「ここは天国なの?」

 

いや、ただの僕の部屋だから。

 

「浩紀くん。たくさん保存してもいいかしら?」

 

クールな表情をなんとか崩さないようにしてるみたいだけど、鼻息が荒い……。

僕は気圧されて同意する。

 

「い、いいよ。デスクトップにフォルダを作るから、ここに保存して?」

「分かったわ!」

 

マタタビを与えられた猫のように興奮して、次から次へと画像を保存していく。

僕はそんな友希那さんを隣で見守る。

部屋の中で二人っきりなわけだけど。

若干、甘い展開なんかも期待しちゃったんだけど。

この調子だと、ただ猫を見て終わっちゃいそうだなぁ。

はぁ、とため息をついた瞬間。

くいくいとシャツの裾を引っ張られた。

 

「浩紀くん、これ見て。動画もあるわ」

 

緩みきった笑顔で、友希那さんがディスプレイを指さす。

一緒に見ろということらしい。

 

「お腹を見せて転がっているわ。すごくフワフワね。可愛いわ」

 

猫の動作の一つ一つに、うっとりとした声で感想を述べる友希那さん。

気に入ったシーンがあると僕のシャツの裾を引っ張って教えてくれる。

なんだか、小さな子供みたいだ。

いつものしっかりした友希那さんとのギャップがあって……可愛い。

 

「そ、そうだね」

 

僕は気恥ずかしくなって、鼻の頭をかいた。

 

 

* * *

 

 

今井さんが教えてくれたサイトの鑑賞も一通り終わり。

 

「とっても素敵だったわ」

 

満足げに友希那さんがつぶやく。

 

「保存した画像はどうするの?」

「そうね。これからも練習の後に見せてもらうわ」

 

パソコンの容量がどんどん浸食されそうだな……。

いや、別にいいんだけどね。

 

「それじゃ、デスクトップに作ったフォルダに名前つけておくよ。〝猫画像・友希那さん〟って」

「ありがとう」

 

そう言って、友希那さんが笑った。

 

「なんだか、不思議ね。浩紀くんのパソコンに私のフォルダが存在するって。二人で一つのことをしているって感じられて、楽しいわ」

 

無自覚でそういうことを言うんだからなぁ、この人は。

さっきまで猫に夢中で小さな子供みたいだったのに、急にドキッとさせられるようなことを言う。

本当にずるい人だ。

 

「あら。これは何かしら? 猫?」

「え?」

 

友希那さんが、デスクトップにあるフォルダの一つを指さした。

〝雪猫〟と書いてあるそのフォルダは。

 

「や、やめろぉぉぉ!」

 

思わず大急ぎで友希那さんの手を食い止める僕。

 

「ひゃっ」

 

手が触れあったからだろう。

友希那さんが驚いた声を上げる。

 

「ど、どうしたというの?」

 

なんだかちょっと頬を赤くしながら問いかけてくるのだが、ここで折れるわけにはいかない。

 

「だ、ダメなんだそのフォルダは」

「どうして? 猫のフォルダなのでしょ?」

「うぐっ。そ、それは猫であって猫ではないというか」

「ちっとも意味が分からないわ」

「と、とにかく、説明はできないんだ」

「猫なら、見たいわ」

「見ちゃだめだ!」

「見たいわ!」

 

友希那さんがぐぐぐっと指に力を込める。

や、やばい。

クリックする気だ。

 

「さ、させるか!」

 

僕も抑える手に力を込めるのだが。

 

「負けないわ!」

 

負けず嫌いの友希那さんも、懸命に抗おうとする。

頭を動かした瞬間、友希那さんの髪の柔らかくて良い匂いが僕の鼻腔をくすぐった。

思わず力が抜けてしまったスキを突かれて。

 

「えいっ」

 

フォルダをクリックされてしまった。

 

「あぁぁぁぁぁ」

 

思わず顔を覆う僕。

だって〝雪猫〟ってのは猫じゃなくって。

最近、僕がハマってる二次元美少女キャラの名前なんだよ。

普段はちょっと青みがかった白猫なんだけど、いざというときはクールな美少女に変身するキャラで。

猫だって事を隠してガールズバンドのボーカルをしてる設定で。

正直、友希那さんを二次元化したんじゃないかっていう雰囲気のキャラなんだ。

サラサラの長い髪とか、鼻筋の通った綺麗な顔立ちとか、ちょっと冷たい雰囲気の瞳とか、それでいてご主人様に忠実で情熱家なところとか。

デスクトップのフォルダを移動させるの、すっかり忘れてた。

 

「…………」

 

一方、当の友希那さんはというと。

無言でクリックを繰り返して、〝雪猫〟の画像を見ている。

ってか、めっちゃ熱心に見ている。

お、終わった。

絶対軽蔑されたわ、これ。

美少女キャラの画像集めている気持ち悪いヤツ認定決定だ。

女子ってそういうの嫌うと思うし。

 

「浩紀くん……」

 

僕の位置からは、表情は見えなかったけど。

友希那さんが、僕の名前を呼んだ。

し、死刑宣告だろうか。

 

「な、なに? 友希那さん」

 

僕は、恐る恐る返事をする。

 

「その……あなたは、このキャラクターが好きなの?」

 

どうしよう?

どう答えるべきだ?

まったく好きじゃないと胡麻化すか?

でもそれじゃなんで画像を集めてるんだってことになる。

それに、この状況で嘘をつくのはアンフェアな気がする……。

僕は神妙にうなだれて、答えた。

 

「……す、好きだよ」

「そ、そうっ」

 

なにやら、狼狽えたような不思議な反応。

……怒っているわけではないのか?

 

「そう、なのね……」

 

つぶやきながら、長い髪をいじる。

 

「こ、このキャラクターの、どういうところが好きかしら?」

「え、えと」

 

えぇい、こうなったら素直に答えるしかないか。

 

「長くて、その、サラサラの髪とか、ちょっとクールな感じの表情とか、歌に対して真剣なところとか」

「…………」

「あ、あと、髪飾りのデザインも可愛いと思う」

 

色素の薄い感じの髪に付けている濃紺の髪飾りがよく似合っているのだ。

 

「わ、わかったわ」

 

なにやら、こくこくと一人で頷いて納得する友希那さん。

 

「ありがとう。今日はもう、帰るわ」

 

唐突にそう言って、すっくと立ちあがった。

 

「あいてっ」

 

急に立ち上がるから、僕の顎に頭が当たったんだけど。

そのことにも気が付いていないのか、そのままドアのほうへ歩き出す。

 

「ゆ、友希那さん。カバン、カバン」

 

トートバックすら置いたままで帰ろうとするから、慌てて呼び止めた。

振り向いた友希那さんは、熱でもあるのかというぐらいに赤かった。

 

「大丈夫? 風邪でも引いたの?」

「わ、わからないわ」

 

頬に自分の手を触れさせて、友希那さんが答える。

 

「きゅ、急に熱くなってきたの」

 

ふらふらと歩き、ときどき壁にぶつかったりしながら、僕の家から出て行った。

 

「お、送ったほうがよかったかな?」

 

そんな背中を見送りながら、つぶやく僕。

負けず嫌いだから、送るとか言ったら拒否しそうだけど。

 

 

 

 

(続く)

 




次は友希那さん視点で書くかもしれません。
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