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今回は、友希那さん視点です。
数ヶ月前のことだった。
リサが突然、携帯の画面を見せてきたことがあった。
「ねぇ友希那。見てよ、このキャラ」
「なに? ゲームはあまり興味ないのだけど……」
「そう言わずにさ。友希那にそっくりだから。〝雪猫〟っていうんだけどさぁ」
「猫!? ……見るわ」
自分にそっくりだとかは興味ないのだが。
猫には興味がある。
友希那はリサの携帯を覗いた。
するとそこには、猫耳をつけた、クールな目つきの少女キャラの画像が。
猫ではなく、猫耳をつけた少女キャラだ。
かなり残念そうな表情で友希那は答えた。
「……うそつき」
「え、どうして!?」
「なんでもないわ」
勝手に猫と勘違いしただけだ。
自分自身の浅はかさを呪う。
「そもそもリサ、あなたゲームなんてやらないでしょ。どこで見つけたの?」
「ダンス部の後輩にあこって子がいてさぁ。その子がゲームとか好きなんだよね」
「そう……」
音楽以外のこと、ましてや他人のことなどあまり意識にとめない友希那は、それっきり雪猫のことは忘れていた。
ついさっき、浩樹の部屋で再び画像を見るまでは。
「ふ、不意打ちだわ」
ふらふらと夜道を歩きながら、つぶやく。
わけがわからなかった。
雪猫の画像を発見したときは、単に「あのキャラだ」と思っただけだった。
ところが。
浩樹がそのキャラを「好きだ」と言った瞬間、頬が熱くなった。
なぜそんなことになるのか、皆目見当もつかない。
音楽にしか興味を持たない人生を送ってきた友希那は、恋愛経験がゼロだった。
少女マンガもろくに読んだことがない。
だから、今、自分がいったいどういう気持ちなのか、まったくわからなかった。
夜風が吹いた。
火照った頬を気持ちよく冷やしてくれる。
長い髪がさらさらと揺れた。
漸く少し気持ちが落ち着いてきた頃に、自宅の前にたどり着いた。
隣の家を一瞥する。
二階のリサの部屋はまだ電気がついていた。
おそらく起きているのだろう。
今日のことを相談してみようかしら。
さすがに約束もなく家を訪問する時間ではないが、電話ならいいだろう。
そう思った友希那は、携帯電話を手にした。
* * *
「友希那。珍しいね。どうしたの?」
久しぶりの電話に心なしかうれしそうなリサの声が聞こえる。
「あの。少し教えてほしいことがあるの」
「なになに? 何でも訊いて?」
「ありがとう。あの……雪猫って覚えているかしら?」
まずは確認だ。
記憶違いで違うキャラだったらそもそも意味がない。
「雪猫? うん。覚えてるよ。前に見せたゲームのキャラでしょ」
正解だった。
少し、また頬が熱くなる。
「そ、そうね」
できるだけクールな声を作って言った。
「そ、そのキャラが、その……わ、私と似ているって、ほ、本当?」
自分でも奇妙なほどに、声が上ずった。
リサと話していてこんなことになるのは初めてだ。
「え? うん。めっちゃ似てると思うよ」
一方、そんなことに気がつかないリサはあっけらかんと答える。
「っていうか、そっくりだよね。クールな目つきとか、白い肌とか、さらっとした長髪とかさ。もう友希那を見て描いたんじゃないかってぐらいそっくり。うんうん」
なんだか勝手に自分で納得しているリサ。
友希那は、その言葉に、さらに頬が火照る。
「わ、わ、わかったわ。も、もういいから」
会話を止めさせなければ、妙に気恥ずかしい。
前は似ているとか言われても何も感じなかったのに。
というか。
肝心の事を訊かなければならない。
「そ、それよりも、リサ?」
「なに?」
「教えてほしいことが、あるの」
いつもと違う雰囲気を感じ取ったのか、リサが一瞬、沈黙する。
「どうしたの? 困りごと?」
「そ、そうね。困りごとといえば、困りごとよ」
「え!? どんな? 私が力になれること?」
「わからないわ。私自身、よくわからないの」
「友希那がわからないって……いったいどんなこと?」
心配そうな声を出す。
本当に友達想いな少女だ。
「ほ、頬が、熱いの」
「ほ、ほっぺ?」
「ええ。それから、その……頭が沸騰したみたい。ぼんやりする。あ、足取りも、ふらふらするわ」
「友希那、そ、それって風邪じゃないの?」
やはりそうなのだろうか。
友希那は思った。
頬が熱くて、頭がぼんやりして。
確かに、風邪の症状と似ている。
しかし。
胸がぽかぽかと暖かかったり、苦しくはなかったり。
風邪に似ているけど、違うような気もする。
「風邪かも……しれないわ。けれど、違うような気もするの」
「大丈夫なの? ちゃんとベッドに寝てる?」
リサが問いかけた。
「寝てはいないわ」
「は、早く寝なよ」
「ええ。もうすぐ寝る。ただ、その前に知りたくて……」
「知りたいって言われても……。あ、そうだ、どんなときにそんな症状になるの?」
「どんなときって……」
頭の中に、浩樹の顔が思い浮かんだ。
その瞬間、さら頭が沸騰する。
「はうっ」
思わず変な声が出てしまった。
「ゆ、友希那!?」
「だ、大丈夫よ」
深呼吸して、つぶやいた。
「ど、どんな時ってその……ひ、浩樹くんが……」
そこまで言いかけて、口をつぐんだ。
な、何を言おうとしているんだ、私は。
「ひ?」
冒頭しか聞こえなかったリサが怪訝に問いかける。
〝浩樹くんが雪猫を好きと言った瞬間に頬が熱くなった〟
その一言を伝えることが、妙に恥ずかしかった。
原因を究明しなければ解決はできない。
なのに、原因を友達に言うことがすごく恥ずかしい。
「あ、え、えと……」
顔を真っ赤にして、言いよどみ、逡巡し。
「や、やはりもういいわ」
結局、相談することをやめた。
「り、リサ。今の電話のことはすべて忘れて」
できる限りクールに言い放ったつもりだが、かなり上ずった声になっていた。
「あの、友希那。なんか変だよ。絶対に風邪だよ。ちゃんと休んでね。明日、学校に来ちゃダメだよ」
「風邪じゃないわ」
「風邪」
「違うわ」
「違わないよ。っていうか、友希那はいつも、無理しすぎるタイプだから。自覚症状を自覚できてないんだよ」
「そ、そうかしら?」
「そうだよ」
しつこいぐらいに安静にするようにといわれて、通話が終わった。
「やはり、風邪なのかしら?」
自宅のドアを開けながら、友希那はつぶやく。
せめて今夜は安静にしたほうがいいのかもしれない。
まだふらつきの残る足取りでゆっくりと階段を上り、自室にたどり着く。
服を脱ぎ、ベッドに横たわった。
シャワーを浴びたいけれど、もし風邪ならば、熱が出てしまうかもしれない。
「こんなこと、初めてよ……」
気だるい声でつぶやく。
目を閉じると、今日一日の出来事がよみがえる。
浩樹くんの家に行った。
これはいつも通りのことだ。
二人で工夫して、曲の録音をした。
少しからかわれたりしたけど、楽しかった。
それから、パソコンで猫ちゃんの画像を見せてもらった。
すごく可愛かった。
浩樹くんは、こういうところがすごく親切だ。
それから……雪猫の画像。
浩樹くんがその画像を。
す、す、す、す……。
〝好きだ〟
そのときの彼の表情が、鮮明に蘇る。
真剣な浩樹くんの表情。
好きという言葉。
「~~~~~~!!!!!」
胸の奥がむずむずして、ジッとしていられなくなった。
意味もなく足をジタバタとさせる。
そんなはしたない行為をするのも初めてだ。
「ど、ど、ど、どうしてなの!?」
また頬が熱い。
心臓が早鐘のように打つ。
ドキドキする。
おかしい。
自分が自分でなくなるようだ。
浩樹くんに出会ってから、だんだんおかしくなっている。
こんなこと、今まで一度もなかったのに!
「く、悔しいわ」
ベッドに寝転んで、枕をぎゅっと抱きしめる。
なんだか、負けた気分だった。
浩樹くんが何かするごとに、心の中が右往左往する。
うれしかったり、ドキドキしたり、こんなに戸惑ったり。
恋をよく知らない友希那は、浩樹に翻弄されているように感じたのだ。
「…………わ、私が感じているようなこんなドキドキ。彼は感じたりしないのかしら?」
そんな考えが頭をよぎる。
驚かせたりしたら、ドキドキするかしら?
「勝ちたいわ。私も彼をドキドキさせてみたい」
枕に顔をうずめ、浩樹を驚かせる方法を考えているうちに、いつの間にか眠ってしまった。
(続く)
三人称は普段あまり書かないので、難しいです。
ちゃんと書けておりますでしょうか。