湊さんはクールな人だと思っていた   作:忍者小僧

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今回は、友希那さん視点です。


第5楽章

数ヶ月前のことだった。

リサが突然、携帯の画面を見せてきたことがあった。

 

「ねぇ友希那。見てよ、このキャラ」

「なに? ゲームはあまり興味ないのだけど……」

「そう言わずにさ。友希那にそっくりだから。〝雪猫〟っていうんだけどさぁ」

「猫!? ……見るわ」

 

自分にそっくりだとかは興味ないのだが。

猫には興味がある。

友希那はリサの携帯を覗いた。

するとそこには、猫耳をつけた、クールな目つきの少女キャラの画像が。

猫ではなく、猫耳をつけた少女キャラだ。

かなり残念そうな表情で友希那は答えた。

 

「……うそつき」

「え、どうして!?」

「なんでもないわ」

 

勝手に猫と勘違いしただけだ。

自分自身の浅はかさを呪う。

 

「そもそもリサ、あなたゲームなんてやらないでしょ。どこで見つけたの?」

「ダンス部の後輩にあこって子がいてさぁ。その子がゲームとか好きなんだよね」

「そう……」

 

音楽以外のこと、ましてや他人のことなどあまり意識にとめない友希那は、それっきり雪猫のことは忘れていた。

ついさっき、浩樹の部屋で再び画像を見るまでは。

 

「ふ、不意打ちだわ」

 

ふらふらと夜道を歩きながら、つぶやく。

わけがわからなかった。

雪猫の画像を発見したときは、単に「あのキャラだ」と思っただけだった。

ところが。

浩樹がそのキャラを「好きだ」と言った瞬間、頬が熱くなった。

なぜそんなことになるのか、皆目見当もつかない。

音楽にしか興味を持たない人生を送ってきた友希那は、恋愛経験がゼロだった。

少女マンガもろくに読んだことがない。

だから、今、自分がいったいどういう気持ちなのか、まったくわからなかった。

夜風が吹いた。

火照った頬を気持ちよく冷やしてくれる。

長い髪がさらさらと揺れた。

漸く少し気持ちが落ち着いてきた頃に、自宅の前にたどり着いた。

隣の家を一瞥する。

二階のリサの部屋はまだ電気がついていた。

おそらく起きているのだろう。

今日のことを相談してみようかしら。

さすがに約束もなく家を訪問する時間ではないが、電話ならいいだろう。

そう思った友希那は、携帯電話を手にした。

 

 

* * *

 

 

「友希那。珍しいね。どうしたの?」

 

久しぶりの電話に心なしかうれしそうなリサの声が聞こえる。

 

「あの。少し教えてほしいことがあるの」

「なになに? 何でも訊いて?」

「ありがとう。あの……雪猫って覚えているかしら?」

 

まずは確認だ。

記憶違いで違うキャラだったらそもそも意味がない。

 

「雪猫? うん。覚えてるよ。前に見せたゲームのキャラでしょ」

 

正解だった。

少し、また頬が熱くなる。

 

「そ、そうね」

 

できるだけクールな声を作って言った。

 

「そ、そのキャラが、その……わ、私と似ているって、ほ、本当?」

 

自分でも奇妙なほどに、声が上ずった。

リサと話していてこんなことになるのは初めてだ。

 

「え? うん。めっちゃ似てると思うよ」

 

一方、そんなことに気がつかないリサはあっけらかんと答える。

 

「っていうか、そっくりだよね。クールな目つきとか、白い肌とか、さらっとした長髪とかさ。もう友希那を見て描いたんじゃないかってぐらいそっくり。うんうん」

 

なんだか勝手に自分で納得しているリサ。

友希那は、その言葉に、さらに頬が火照る。

 

「わ、わ、わかったわ。も、もういいから」

 

会話を止めさせなければ、妙に気恥ずかしい。

前は似ているとか言われても何も感じなかったのに。

というか。

肝心の事を訊かなければならない。

 

「そ、それよりも、リサ?」

「なに?」

「教えてほしいことが、あるの」

 

いつもと違う雰囲気を感じ取ったのか、リサが一瞬、沈黙する。

 

「どうしたの? 困りごと?」

「そ、そうね。困りごとといえば、困りごとよ」

「え!? どんな? 私が力になれること?」

「わからないわ。私自身、よくわからないの」

「友希那がわからないって……いったいどんなこと?」

 

心配そうな声を出す。

本当に友達想いな少女だ。

 

「ほ、頬が、熱いの」

「ほ、ほっぺ?」

「ええ。それから、その……頭が沸騰したみたい。ぼんやりする。あ、足取りも、ふらふらするわ」

「友希那、そ、それって風邪じゃないの?」

 

やはりそうなのだろうか。

友希那は思った。

頬が熱くて、頭がぼんやりして。

確かに、風邪の症状と似ている。

しかし。

胸がぽかぽかと暖かかったり、苦しくはなかったり。

風邪に似ているけど、違うような気もする。

 

「風邪かも……しれないわ。けれど、違うような気もするの」

「大丈夫なの? ちゃんとベッドに寝てる?」

 

リサが問いかけた。

 

「寝てはいないわ」

「は、早く寝なよ」

「ええ。もうすぐ寝る。ただ、その前に知りたくて……」

「知りたいって言われても……。あ、そうだ、どんなときにそんな症状になるの?」

「どんなときって……」

 

頭の中に、浩樹の顔が思い浮かんだ。

その瞬間、さら頭が沸騰する。

 

「はうっ」

 

思わず変な声が出てしまった。

 

「ゆ、友希那!?」

「だ、大丈夫よ」

 

深呼吸して、つぶやいた。

 

「ど、どんな時ってその……ひ、浩樹くんが……

 

そこまで言いかけて、口をつぐんだ。

な、何を言おうとしているんだ、私は。

 

「ひ?」

 

冒頭しか聞こえなかったリサが怪訝に問いかける。

 

〝浩樹くんが雪猫を好きと言った瞬間に頬が熱くなった〟

 

その一言を伝えることが、妙に恥ずかしかった。

原因を究明しなければ解決はできない。

なのに、原因を友達に言うことがすごく恥ずかしい。

 

「あ、え、えと……」

 

顔を真っ赤にして、言いよどみ、逡巡し。

 

「や、やはりもういいわ」

 

結局、相談することをやめた。

 

「り、リサ。今の電話のことはすべて忘れて」

 

できる限りクールに言い放ったつもりだが、かなり上ずった声になっていた。

 

「あの、友希那。なんか変だよ。絶対に風邪だよ。ちゃんと休んでね。明日、学校に来ちゃダメだよ」

「風邪じゃないわ」

「風邪」

「違うわ」

「違わないよ。っていうか、友希那はいつも、無理しすぎるタイプだから。自覚症状を自覚できてないんだよ」

「そ、そうかしら?」

「そうだよ」

 

しつこいぐらいに安静にするようにといわれて、通話が終わった。

 

「やはり、風邪なのかしら?」

 

自宅のドアを開けながら、友希那はつぶやく。

せめて今夜は安静にしたほうがいいのかもしれない。

まだふらつきの残る足取りでゆっくりと階段を上り、自室にたどり着く。

服を脱ぎ、ベッドに横たわった。

シャワーを浴びたいけれど、もし風邪ならば、熱が出てしまうかもしれない。

 

「こんなこと、初めてよ……」

 

気だるい声でつぶやく。

目を閉じると、今日一日の出来事がよみがえる。

浩樹くんの家に行った。

これはいつも通りのことだ。

二人で工夫して、曲の録音をした。

少しからかわれたりしたけど、楽しかった。

それから、パソコンで猫ちゃんの画像を見せてもらった。

すごく可愛かった。

浩樹くんは、こういうところがすごく親切だ。

それから……雪猫の画像。

浩樹くんがその画像を。

す、す、す、す……。

 

〝好きだ〟

 

そのときの彼の表情が、鮮明に蘇る。

真剣な浩樹くんの表情。

好きという言葉。

 

「~~~~~~!!!!!」

 

胸の奥がむずむずして、ジッとしていられなくなった。

意味もなく足をジタバタとさせる。

そんなはしたない行為をするのも初めてだ。

 

「ど、ど、ど、どうしてなの!?」

 

また頬が熱い。

心臓が早鐘のように打つ。

ドキドキする。

おかしい。

自分が自分でなくなるようだ。

浩樹くんに出会ってから、だんだんおかしくなっている。

こんなこと、今まで一度もなかったのに!

 

「く、悔しいわ」

 

ベッドに寝転んで、枕をぎゅっと抱きしめる。

なんだか、負けた気分だった。

浩樹くんが何かするごとに、心の中が右往左往する。

うれしかったり、ドキドキしたり、こんなに戸惑ったり。

恋をよく知らない友希那は、浩樹に翻弄されているように感じたのだ。

 

「…………わ、私が感じているようなこんなドキドキ。彼は感じたりしないのかしら?」

 

そんな考えが頭をよぎる。

驚かせたりしたら、ドキドキするかしら?

 

「勝ちたいわ。私も彼をドキドキさせてみたい」

 

枕に顔をうずめ、浩樹を驚かせる方法を考えているうちに、いつの間にか眠ってしまった。

 

 

(続く)




三人称は普段あまり書かないので、難しいです。
ちゃんと書けておりますでしょうか。
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