ハロウィンの日も、ホグワーツの授業は通常通りにあった。しかし夜はパーティー、つまりご馳走だ。また歓迎パーティーの時の食事を食べられると思うと、夜が待ち遠しかった。
「そろそろ物を飛ばす練習をしましょうか」
そんなことを考えていると、朝の呪文学の授業でフリットウィック先生がそう言った。パーティーのことは頭から吹き飛んだ。
「……このようにして、魔法使いは物を飛ばすのです。大丈夫、皆さんは今まで手首の動かし方や呪文の唱え方を練習してきました。それを思い出せればできるはずです。さあ、二人一組でやってみましょう」
ネビルが組みたそうにじっと見てきていたので、私はネビルと組むことにした。組みたいなら声をかければいいのに。ネビルにはもっと主体性を持ってほしい。
「ビューン、ヒョイ、ですよ。いいですか、ビューン、ヒョイ。呪文の正確さも重要です」
それを聞いて、まずはネビルがやってみた。張り切ってやっていたがどうも空回りしたようで羽はまったく動いていなった。どうやら周りも似たり寄ったりのようで、だいぶ苦戦していた。
「今度はめぐみんがやってみてよ」
ネビルがそう言うので、私はネビルと立ち位置を交代して机の前に立った。
「真打ち登場」
私はそう言いながら、なるべく不敵に見えるように口角をあげながら杖を構えた。
「ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」
羽は浮かばなかった。
「めぐみん?真打ちだったんじゃないの?」
「うるさいですよネビル。……こうなったら我が秘奥義にして禁呪を見せてあげましょう。ネビル、これは先生が見てるところで真似しちゃダメですよ」
「今はいいの?授業中でフリットウィック先生がガン見してるけど」
ネビルの言葉を無視しながら、私は杖を机と羽の間に差し込んだ。
「ウィンガーディアム……」
そして呪文を唱えながら腕に力を入れ、
「レヴィオーサ!」
力一杯上に振り上げた。
「ほら、浮かびました」
「ズルじゃん!めぐみん、それズルだよ!」
私の禁呪に対してネビルは妬ましいのかそんなことを言ってくる。ふっ、聞こえないですね。結果が全てなんですよ。
「いや、紅魔のこれはズルではありません。ちゃんと浮いてますよ」
「「え?」」
背後から近づいていたフリットウィック先生が私たちに向かってそんなことを言った。確認するように二人して上を見上げると、確かに羽は浮いていた。
「おお!見ましたかネビル!ほら、成功してるじゃないですか!」
「いや、うん……そうだけど、なんか納得いかない」
そんなことを言っていると、教室の後ろの方から朗々とした響の呪文が聞こえてきた。
「ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」
ハーマイオニーの唱えたその呪文に従って、羽は机を離れ、頭上1.2メートルほどの場所に浮かんだ。
「オーッ、よくできました!皆さん、グレンジャーさんがやりましたよ!」
そしてフリットウィック先生がハーマイオニーの浮かばせた羽を見てクラス中にそう言った。
「……ちゃんとした方法で浮かばせたなら賞賛されたのは私だったんでしょうか」
「禁呪なんか使うから。それよりほら、もう一回やってみてよ。今度は普通に成功するかもよ」
言われてやってみた浮遊の呪文はネビルの言った通り、普通に成功した。
「………………」
「まあまあめぐみん、成功したんだからいいじゃん。それと、呪文の発音の仕方とか手首の振り方とかコツを教えてくれない?」
ネビルがそんなことを言ってきたので、わたしは場所をネビルに譲ってネビルのすぐ後ろに立った。
「じゃあまず杖を構えてください。私があなたの手を動かすので、その感覚を覚えてください」
「うん、分かったよ」
そして私はネビルの後ろから大人がよくやるように後ろから一緒に杖を握って教えようとして……教えようと……教え……。
「ネビル、あなたの体が大きすぎて手を握れません。少し体積を縮めてくれませんか?」
「めぐみんって時々すっごい無茶言うね。それとそれは僕が大きいんじゃなくて君が小さごめんごめん、謝るから僕の二の腕をつねらないで!痛いよ!」
結局、私が杖を振る様子をネビルが見て真似ることにした。もちろんネビルが上手くいくことはなかった。
「だから誰だってハーマイオニーには我慢できないっていうんだ!まったく悪魔みたいなヤツさ」
クラスが終わりハリーたちのところへ行こうと歩いていると、ロンがそう言うのが聞こえた。ハッとしてハーマイオニーの方を見ると、ハーマイオニーは何かを堪えるように顔を歪め、どこかへ走り去っていった。
「ちょっとロン!何てことを言うんですか!」
「何って、ちょっとした事実さ。あいつだって誰も友達がいないことにとっくに気がついてるだろうよ。というか、あれ?めぐみん目が光ってない?けっこう怖いよ」
「……ロン、あなたにはがっかりしました」
「あ、ちょ、待てよめぐみん!」
グリフィンドールは騎士道の寮じゃなかったのか。これじゃあハッフルパフに誠実さを取られるのも仕方ないじゃないか。同じ寮生を悪魔呼ばわりだなんて。私はロンにそれだけ言って、ハーマイオニーの走っていった方に向かった。
「こんなところにいたんですか、ハーマイオニー」
ハーマイオニーの駆け込んだ女子トイレの個室の前で私はそう呼びかけた。返答はなしですか。
「返事してくれなきゃ始まりませんよ。とりあえず出てきてくれませんか?」
私がそう言うと、開けるかどうか迷うように少しドアがカチャカチャと音を立てた。そしてちょっとして、中からハーマイオニーが出てきた。出てきたハーマイオニーの目元は赤くなっていた。
「……何よ。どうせあなただってみんなと一緒で私のこと嫌ってるんでしょう?それで泣いてる私をみて、いい気味だって笑ってるんでしょう?」
「なんでそうなるんですか。みんなって言ったって実際に言ったのはロンだけでしょう。それに、私はルームメイトに対してそんなこと言いませんよ。あなたはちゃんと私の友達ですしね」
私がそう言うと、ハーマイオニーは気まずそうに目を逸らした。……えっ。
「あれ、友達だと思ってたの私だけですか?うわぁ、ちょっとこれは恥ずかしいですね。出直してきます」
「違うの!そうじゃなくて、あ、と、とにかくちょっと待って!」
私がトイレから退出しようとすると、ハーマイオニーは慌てたように待ったをかけてきた。
「……何ですか?私は今恥ずかしさで今すぐ寮の部屋で足をバタバタさせたいのですが」
「ご、ごめんなさい。あなたを友達と思ってなかったとかじゃなくて。えーっと、その……ほら、ここ最近私、あなたに冷めた態度ばっかり取ってたじゃない。だから友達って言ってくれたのが意外で」
「ああ、そんなことですか。別に気にしてませんよ。勉強で疲れてるのでしょう?仕方ありませんよ」
私がそう言うと、ハーマイオニーはバツが悪そうに首を振った。
「そうじゃないの。私がめぐみんに素っ気なかったのは、その、端的に言って嫉妬してたからよ」
「嫉妬?」
私が聞き返すと、ハーマイオニーは話し始めた。
「そう、嫉妬。私は私なりに頑張って勉強して授業に臨んでるわ。私は本を読むのが好きだし、今までクラスで一番をとるのが当たり前だったから。でもここでは一番が当たり前じゃなくなった。あなたがいたから。
あなたは私と違ってみんなと楽しく過ごしてて。その上私と同じくらいに成績が良くて。なんで、私の方がずっと頑張ってるのになんでって思っちゃったの。
……ごめんなさい。勝手な都合だってことは知ってるんだけど、それでも抑えきれなくて」
それは、ハーマイオニーなりの正直な言葉だった。まあ、自分は勉強してる間に遊んでる人が自分と同じくらいの成績を取ってればムカッとぐらいくるのは当然だろう。
「別にいいですよ、ハーマイオニー。そうなるのも分からなくはないですし」
こちらをじっと見つめるハーマイオニーに、私はでも、と続けた。
「あなたの方がいいものだっていっぱいあるんですよ。まずは魔法史ですね。非常につまらない授業なので私はあの教科は人並み以下です。それと品行方正さ。自慢ではないですが、私は今月だけで5回先生に注意されました。それにあなたは私より背が高い……高……たっ!」
私が苦しみながらそう言おうともがいていると、ハーマイオニーはクスリと笑った。
「もう、何でわざわざ自分で傷付きに行くのよ……でも、うん。ありがとう。ちょっと必死になりすぎてたみたい。そうよね。変に意識しないで少し力を抜いてやってみるわ」
ハーマイオニーは大きく深呼吸をして、肩の力を抜いてそう言った。
「あ、でも成績は諦めないからね。学年トップこそが私のアイデンティティーよ」
「それはこっちのセリフです。天才と爆裂魔法が私のアイデンティティーですからね」
「爆裂……なんて?」
「爆裂魔法、この世で最強の破壊魔法です。まだこの世にないですけど」
私の言葉に、ハーマイオニーはため息をついた。
「はぁ……まあめぐみんがふざけてるのはいつものことよね。それより授業だけど、戻りにくくなっちゃったわね」
「そうですね。もう授業も中盤を少し過ぎたところですし……というわけで」
私は八月にマクゴナガル先生に買ってもらった空間圧縮ポーチを懐から取り出しながら言った。
「親睦が深まった記念にボードゲーム大会をしませんか?」
「アークウィザードをあなたのアークビショップの目の前にテレポートよ。これで詰みね。今まで七連敗してきたけど、ようやくあなたの癖が分かったわ。これからは楽に勝てると思わな」
「エクスプロージョン!」
「あぁぁぁぁ!ちょっとめぐみん、ズルじゃない!」
「ズルじゃありません。エクスプロージョンは一日に一回だけ使える技だとルールブックにも書いてあります」
「……本当だわ。酷いゲームね」
ハーマイオニーはこのゲームがそんなに受け入れられない様子。紅魔の里の人気ボードゲームなんですけどね。
「それにしても遊んだわね。こんなの本当に久しぶりだわ。そろそろ夕食の時間だし、大広間に行くわよ」
散らばった駒を二人で拾い上げながら、ハーマイオニーはそう言った。結局あの後、女子トイレの前にあった机を使って私たちはボードゲームに興じた。ハーマイオニーは意外にもこのゲームに熱中し、二人して時間を忘れて遊んでしまったのだった。
「そうですね。そろそろ行きましょうか」
私が拾った駒とゲーム盤をポーチにしまいながらそう言ったとき、強い悪臭が鼻をついた。
「ハーマイオニー、なにか臭いませんか?」
「そうね、酷い臭い。何かしら」
そうして後ろを振り向くと、廊下の少し先にそいつはいた。灰色の肌にゴツゴツの巨体、異常なほどに太い手足。その手には巨大な棍棒が握られていた。
「「ギャーーーー!!!」」
私たちはすぐに女子トイレに駆け込んだ。その部屋の鍵が閉められると気付いたその時、ドアを大きく開けて体に比べてひどく小さい顔が覗き込んだ。
それは間違いなく恐ろしい剛力の怪物、トロールの姿だった。