「楽しみね、めぐみん!」
「そうですね。私にとって今回は初めての観戦ですし、ちょっとドキドキしています」
十一月に入って少し経ったある日。私にパーバティ、ラベンダーの三人はクィディッチの競技場の観客席に来ていた。学校中が試合を楽しみにしていたようで、ほとんどの席が生徒、あるいは先生たちで埋め尽くされていた。
「……ビールの売り子さんとかいないんですね」
「生徒が観客の大半なのにいるわけないじゃない」
私の疑問に、パーバティが呆れ顔で答えた。昔お父さんに連れて行ってもらった東京ドームとかいう場所にはいっぱいいたのだが、ここはそうではなかったようだ。
「あ、でも球場販売はあるよ。外から客席に入る通路があったじゃない? あそこを曲がるとポップコーンみたいなスナックとか、バタービールみたいな飲み物が安めの値段で売ってるのよ。あれを食べながらの観戦は結構楽しくてね。単純に美味しいし」
そう思っていると、ラベンダーが何かを思い出しながらそう言った。なるほど、安くて美味しいと。
「もうすぐ始まりの時間ね……ちょっとめぐみん! どこ行こうとしてるの!」
「離してください! 私には安くて美味しいものを無視できない呪いがかかってるんです!」
「そんなバカな呪いがあるわけないでしょ。ちゃんと前もって三人分買ってあるから落ち着いて座りなさい」
パーバティはそう言って手元の袋からジュースとスナックを取り出して私とラベンダーに渡した。
「確か、パーバティという名前はインドの神様に由来するものでしたね……なるほど。名は体を表すとは言いますが、パーバティはまさしく女神ですね」
「あなた、割と頻繁に頭おかしくなるわよね。どれだけ食事でひもじい思いをしてきたのよ」
そんなことを言っていると、選手入場口からそれぞれ真紅のローブと深緑のローブに身を包んだ選手たちが出てきた。
「あ、見て! 選手たちが出てきたわ! めぐみん、赤がグリフィンドールだからね。間違えちゃダメよ」
「友達も出場してるのにどうやったら間違えるんですか」
そう言いながら、私は向かい合って整列している選手たちに視線をやった。ハリーと、あとはロンの双子のお兄さんのフレッドとジョージもいますね。彼らは常に楽しそうに生きてますし、いたずらの発想が大変愉快です。この試合を実況する彼らの仲間のリー・ジョーダンも含めて是非とも仲良くなっておきたい人たちですね。
そんなことを考えていると、審判のフーチ先生の笛が鳴った。試合開始だ。
『さて、クアッフルはたちまちグリフィンドールのアンジェリーナ・ジョンソンの手に渡りました。何と素晴らしいチェイサーでしょう。その上かなり魅力的であります』
『ジョーダン!』
『失礼しました、マクゴナガル先生』
グリフィンドールの手に渡ったクアッフルの行方を眺めていると、実況席からはそんな声が聞こえてきた。
……本当に楽しそうに生きてますね。
しばらく後も試合は続いていた。クソゲーと思っていたが、観戦自体は意外と楽しかった。やはり友達と盛り上がるというのはいいものだ。まあみんなほどクアッフルの10点に歓声を上げることはできなかったが。勝敗に絡まないのになぜあそこまで盛り上がれるのか。不思議です。
「ん? あれはスニッチじゃないですか?」
立ち上がって試合を見ていると、私は金色の光が走るのを見てそう言った。
「え?あ、本当だ! ハリーも見つけたみたいね、追ってるわ」
「本当!? ラベンダー、双眼鏡を貸して。……本当だわ、しかもハリーの方がスリザリンのより速いじゃない!」
試合が決まりそうな場面に、今度ばかりは私もみんなと一緒に盛り上がった。スリザリンのシーカーより速く走るハリー。あと少しでハリーがスニッチを掴もうというところで、ハリーが突然コースを外れた。スリザリンのチェイサー、マーカス・フリントがわざとハリーの邪魔をしたのだ。
「反則じゃないですか! なんですかあの選手、スポーツマンシップに反します! 退学ものですよ!」
「そうよそう……いや、退学ほどじゃないと思うよ?」
「そもそもスリザリンにスポーツマンシップを要求する方が間違ってる気もするわ」
私が叫ぶと、同調しかけたラベンダーと私の声に気勢を削がれたらしいパーバティがそう言ってきた。さっきまで私より盛り上がってたのに急に冷静にならないでほしい。
騒ぎにより両シーカーともスニッチを見失ったらしく、二人はまた周りを気にしながら場内を飛び回り始めた。
「あれ? ハリーの動き、何か変じゃありませんか?」
しばらくクアッフルではなくハリーを見ていると、ハリーの箒が急に変な動きを始めた。
「貸して!」
私の言葉に、パーバティはそれだけ言ってラベンダーの双眼鏡をバッと取ってハリーの方を見た。
「え? ちょっと! 私も見たいんだけど!」
「恋する乙女が優先よ!」
あ、さらっと恋してると吐きましたね。この前は頑として口を割らなかったのに。それに気付いたラベンダーはニヤニヤとパーバティを見るが、パーバティはハリーを見るのに必死で気付かない。ええ、確かにこれは恋する乙女ですね。この試合が終わったらラベンダーと二人でゆっくりと問い詰めてあげましょう。
そんなことを考えていると、ハリーの箒が誰の目にもはっきりとおかしな動きを始めた。箒がグルグル回り始めたのだ。ハリーも必死にそれについていくが、ハリーの体を支えるのはもはや箒の柄を握る左手だけだった。
「ちょっとヤバくないですかあれ。フリントがぶつかったとき壊れたんですかね」
「箒はそんな簡単に壊れないわ。それに私、箒に悪さをできるのは強力な闇の魔術だけだってママに聞いたわ」
私の呟きに、ラベンダーがそう答えた。となると球場のどこかにそれをしてる術師がいるはずだ。私は目に魔力を集中させて観客席を見渡した。
「闇の魔術……候補は先生たちと一部スリザリン生……いえ、いくらなんでも生徒ができることではなさそうですね。となると先生たちの中で闇の魔術を簡単に操ることができる人……スネイプ先生に、防衛術を教えてるんですからクィレル先生もですね」
二人を探すと、二人ともスリザリンの観客席に座っていた。そして両者ともにハリーをじっと見つめ絶え間なく何か呟いていた。
「……二人ともですか。判別がつきませんね。いえ、言ってる暇はありません、とりあえず行ってみましょう」
「ちょっとめぐみん、どこ行くの!」
「ハリーの箒を止めに!」
私はそう言って、スリザリンのスタンドに向かって走り出した。もう少しでスネイプ先生のところに辿り着くというところで、同じことに気がついたのかハーマイオニーがクィレル先生をなぎ倒しているのを見た。ナイスですハーマイオニー。あとは私がスネイプ先生をやるだけですね。
「おっとすみませんスネイプ先生! 体が滑りました!」
私はそう言いながらスネイプ先生にタックルをかました。ハリーの方を凝視していたスネイプ先生はもちろん、やはりハリーの方を見ていた周りの生徒も私に対応できなかった。
私は真横からスネイプ先生に勢いよくぶつかり、スネイプ先生はそれを受けることもできずに地面に強く転がった。よし、これでOK。
「……紅魔ぁぁぁぁぁぁ!」
後ろにスネイプ先生の怒号を聞きながら、私はグリフィンドールの席まで逃げ戻った。ハリーの方を見れば、動きは正常に戻っていた。私が元の席に戻ったところで、ハリーは今度は急降下をした。そして私は見た。ハリーの口の中に金色の何かが入っていくのを。
ハリーは地面に四つん這いになって着地した。そして、その金色の何かがハリーの手のひらに落ちた。
「スニッチを取ったぞ!」
頭上高くスニッチを振りかざし、ハリーが叫んだ。私たち観客は大いに沸き上がり、試合は終了した。
『グリフィンドール、170対60で勝利!』
実況席からはそんなアナウンスが聞こえてきた。
試合後、みんなとまだ騒ぐと残ったラベンダーとパーバティを置いて、私は球場から出て行ったハリー、ロン、ハーマイオニーを追ってハグリッドの小屋へ向かった。
「ハリー、おめでとうございます」
小屋に入ると、三人はすでに紅茶を淹れてもらっていた。
「ありがとうめぐみん」
「お前さんもいるか?」
「お願いします、ハグリッド」
そう言いながら私は椅子に腰掛けた。
「スネイプだったんだよ。ハーマイオニーも僕も見たんだ。ハリーの箒に呪いをかけてた。ハリーからずっと目を離さずにね」
紅茶を一口飲んで、ロンがそう言った。やはり二人も気付いていたようだ。
「あとクィレル先生もそうでしたよ」
私がそう補足すると、二人は目を丸くした。
「「嘘!?」」
……どうやら気付いていなかったようだ。じゃあハーマイオニーのあれは偶然か。
「まあ闇の魔術に対抗する防衛術の先生だしね。ハリーを守ってくれてたんじゃないかしら」
「それにクィレルに箒に細工する度胸なんかないさ」
私の言葉に、二人はそう言った。確かにそうとも考えられるが、悪役が本性を隠すのは世の常だ。怪しすぎるスネイプ先生が白な気もする。紅魔の人たちも怪しすぎるのは絶対にミスリードだって言ってた。
「ちょいと待て。なんでスネイプがそんなことをする必要があるんだ」
ハグリッドの問いに、私たち四人は互いに顔を見合わせた。みんな、前日にハリーに聞いた話のことを考えているんだろう。どう言うか迷っていたが、ハリーが心を決めたみたいだ。
「僕、スネイプについて知ってることがあるんだ。あいつ、ハロウィンの日に四階廊下の三頭犬の裏をかこうとして噛まれたんだよ。何か知らないけど、あの犬が守ってるものをスネイプが取ろうとしたんじゃないかと思うんだ」
それを聞いて、ハグリッドはティーポットを落とした。
「なんでフラッフィーを知ってるんだ?」
「フラッフィー?」
「そう、あいつの名前だ。去年パブであったギリシャ人から買ったんだ……俺がダンブルドアに貸した。守るため……」
「何を?」
私たちは身を乗り出してハグリッドの言葉を聞こうとした。
「もうこれ以上聞かんでくれ。重大秘密なんだ、これは」
「でもスネイプは盗もうとしたんだよ?」
「スネイプはホグワーツの教師だ。そんなことするわけないだろう」
そんなハグリッドに、私は言った。
「ならどうしてハリーを殺そうとしたんですか? クィレル先生もでしたが、確実に何かしてましたよ。私には分かりました」
「私も保証するわ」
そんな私たちに、ハグリッドは大きくため息をついた。
「俺にゃスネイプが何をしたかなんて分からん。分からんが、奴がハリーを殺そうとしてないことだけは分かる。さあ、紅茶を飲んだら帰った帰った。もうフラッフィーのことにも守ってるものにも首を突っ込むな。あれはダンブルドアとニコラス・フラメルの大切な……」
「ニコラス・フラメルって人が関係してるんだね!」
ハグリッドの言葉にハリーがそう言った。ハグリッドはハッとしたように口を押さえた。
「ちょっとハリー、なんですぐに声に出してしまうんですか! 黙ってればもっと聞けたかもしれないのに」
「あ、ごめん」
「何でもいいからお前さんらは今日聞いたことを全て忘れろ!」
私たちは図書館でニコラス・フラメルなる人物を片っ端から探すと決意した。