十二月になり、ますます冷え冷えとしてきたホグワーツ。冬季休暇が近づく中、私たちは荷造りをしながらニコラス・フラメルに関する書籍を探していた。しかしどんな人物か全く分からないので、全然見つからない。
図書館の司書であるマダム・ピンスに聞けばわかるかもしれないが、そうするとスネイプ先生(あるいはクィレル先生)の耳に私たちのことが入るかもしれない。それは避けたかった。
「今日でイギリスともしばらくおさらばですか」
そして今日、フラメルが誰なのか分からないままとうとうイギリスから日本に帰国しようとしていた。ここはロンドン・ヒースロー空港。ロンドンで最も大きな空港だ。そこで私はゆんゆんと一緒にベンチに座って飛行機を待っていた。
「お父さんがイギリスにテレポートできればよかったのにね」
「そうですね。完全に当てにしてただけに予想外でした」
紅魔の長をしているゆんゆんのお父さんがテレポートを使えるので、本当はゆんゆんのお父さんに迎えを頼もうとしていたのだ。しかしテレポートといえど世界の反対側まで行くほどの力はないらしく、私の帰省計画はすぐに頓挫した。
飛行機に乗るお金なんてないのでホグワーツに残ろうと考えていると、なんと学校が奨学金だと言ってお金を出してくれた。その時私は将来ホグワーツに貢献することといずれゆんゆんのお父さんにテレポートを教わることを心に誓った。私の力なら世界のどこへでも行けるでしょうしね。
「私たちは直接紅魔の里に行くんだっけ」
「ええ、そうです。もうみんな集まってる時期ですしね」
ゆんゆんの声に私はそう返した。毎年のクリスマス前に、紅魔の人間は日本のとある場所に存在する紅魔の里に集まることになっている。年末の実家帰りみたいなもので、三が日が終わるまで基本的にみんな紅魔の里でのんべんだらりと過ごしている。
「早く帰ってゆっくりしたいです」
「確かフライトは十二時間くらいだったっけ」
「ゆんゆんのお父さんが羽田まで来てくれるんでしたよね」
「うん、だから空港に着いたら里まですぐよ。……そろそろ時間ね、もう行こっか」
「よくぞ帰ってきたな、我が愛娘にその真なる友よ。その大いなる帰還を祝そう。我らが故郷にてしばしの休息を享受するがいい」
「ねえお父さん、なんで素直におかえりって言ってくれないの?」
十二時間後、私たちは羽田空港のロビーでゆんゆんのお父さんと落ち合っていた。
「何を言っている、ゆんゆん。今のは紅魔の正しい『おかえり』の言い方だ」
「なんで私のいる一族ってこんなに訳が分からないんだろう……」
ゆんゆんのお父さんの言葉に何か諦めたようなそんなことを言うゆんゆん。ちょっとかわいそうに思い、私はゆんゆんに声をかけた。
「個性的でいいじゃないですか、ゆんゆん。みんなだって本当に頭がおかしいわけじゃないんですから」
「頭のおかしさナンバーワンのあなたに言われても……」
「何おう!」
知ってましたけど、この子けっこう言いますね。
「それはそれとして……よくぞ世界の救い手たる我らを迎え入れてくれた。族長たるあなたの示す通り我ら、安息の地たる我が故郷にて一時の休養を楽しまん」
「おお、めぐみんはよく勉強してるな。礼儀正しい挨拶だ」
「今のが礼儀正しいの!?」
私たちのやりとりにゆんゆんが驚いたようにそう言った。この子は何年紅魔として過ごしてるんだろうか。もう慣れててもいいだろうに。
「挨拶はこれくらいにしておこうか。さあ、紅魔の里へ行こう」
ゆんゆんのお父さんはそう言ってパチリと指を鳴らした。周囲の景色がぼやけ、次第に白い光だけが目に入ってくるようになる。一瞬目を閉じて再び開けると、そこは懐かしき里の入口だった。
「おー……やはりテレポートというのは凄いですね。ところでその指パッチンは必要だったんですか?」
「必要だったとも。恥ずかしながらこれがないとテレポートできなくてね。発動条件ってやつだ」
「ああ、なるほど」
ゆんゆんのお父さんと私がそんな話をしてると、ゆんゆんがポツリと言った。
「お父さん、前テレポートした時はライターをカチってやって発動し」
「さあ行こうか!みんなもう集まってるぞ!」
ゆんゆんの言葉を遮るようにして歩いていくゆんゆんのお父さん。なんとなくゆんゆんの気持ちが分かった気がした。これは確かにイラっとくる。
「こめっこ!」
「お姉ちゃん!」
里の中を歩いていると、道の向こう側から我が妹、こめっこが走ってきた。
「お姉ちゃん、大丈夫だった?わたしがいなくて寂しくなかった?体が火照ってなかった?」
「それは普通私のセリフ……待ってください、最後のはどこで覚えてきたんですか」
「ぶっころりーがお菓子くれながら教えてくれた」
「あのクソニートが!」
あとで紅魔随一の穀潰しをボコボコにしようと決意しているうちに、里で一番大きな建物に着いた。
「二人とも、夕食がまだだろう。早く上がって食べなさい」
「お姉ちゃん!今日は鍋だよ!ごちそう!」
ゆんゆんのお父さんとこめっこに促され、私たちは建物の中へと入っていった。里にいる間は夕食は一族みんなで集まって食べることになっている。料理は紅魔随一の酒屋の女将とその娘である同い年のねりまきが作っていて、この里に来る楽しみの一つでもある。
「おお、めぐみん!お帰り」
「お帰りなさい、めぐみん」
「ただいまです、お父さん、お母さん」
私が両親にそう言うと、こめっこが私の服の裾を引っ張ってきた。
「早く鍋食べよう!」
「あれ?まだ食べてなかったのですか?」
私がそう聞くと、こめっこは言った。
「お姉ちゃんが帰ってくるの、待ってた」
「こめっこ!」
それを聞いて、私は思わず妹に抱きついた。なんでこの子はこんなに可愛いんだろう。早く食べたかっただろうに、私を待っててくれるなんて。
「こめっこ、今日はお姉ちゃんと一緒に寝ましょう」
「お姉ちゃんは、寂しんぼ」
「……こめっこ、それもぶっころりーが?」
「うん!」
ボコボコで許してあげようと思ってましたが、気が変わりました。魔法の実験台にしてあげましょう。
「……父さんには抱きついてくれないのか」
「そんなこと言ってると嫌われますよ」
お父さんの呟きにお母さんがそんなことを言っていたが、もう遅い。私の父への好感度は呟いた時点で大きく下がってる。
「それでめぐみん、ホグワーツはどうだ?」
家族で鍋をつついていると、お父さんが切り出した。
「けっこう楽しいですよ。いい授業も多いですし、色んなことが起こりますしね」
「ちゃんと友達はできたの?」
「ええ、たくさん。その友達の話も含めて、今から色々と話してあげましょう」
そう言って私はホグワーツでの出来事を片っ端から話し始めた。
「そして私はトロールに杖を突きつけて……おや?」
私が熱弁を振るっていると、ふと肩に重さを感じた。そちらを見ると、瞼が閉じかけのこめっこがこてりと頭を私の肩に乗せていた。
「そろそろ家に行きましょうか」
「そうね。ほらこめっこ、行くわよ」
そう言って私たちは里の私たち用の家に帰っていった。そうして私の帰省一日目は終わった。