「めぐみんにゆんゆんじゃないか。帰ってきたのは知ってたけど、ここにいたのか」
引き続き朝食を摂りながらゆんゆんと話していると、ゆんゆんほどではないがそれなりに膨らんだ胸を持つ眼帯の少女が話しかけてきた。さっきの二人と同じく私たちと同い年の友人にして作家志望のあるえだ。
「あるえですか。久しぶりですね。何か書けましたか?」
「まだ完成してないけどね。それより二人は海外の魔法学校に行ってたんだよね。少し話してくれないかな。小説のネタが欲しいんだ」
「別にいいですよ」
「私はそんなに話すことないけど、それでよければ」
あるえのお願いに、私たちはそう言ってホグワーツでの出来事を話し始めた。
「そういうわけで、私たちは隠されし何かについての情報を得たところで冬休みとなったわけです」
私が話し終えると、あるえは何か考えながら口を開いた。
「なるほど……ありがとう。参考になったよ。それにしてもめぐみんの半年はゆんゆんの地味なものに比べてだいぶ色々あったみたいだね」
「地味って言わないでよ。私が普通でめぐみんがおかしいのよ。それよりめぐみん、そんなに危ないことに首突っ込んでたの?何で私に言ってくれなかったのよ」
あるえの言葉に反論しつつ、ゆんゆんはそう言ってきた。ゆんゆんは何というか抜けてるところがあるから、どこかで先生方に私たちのことが漏れて先生方が私たちを警戒するようになるのが嫌だったのだ。でもそれを言うとゆんゆんは何か言ってきそうだし……。
そんなことを考えていると、あるえが言った。
「ゆんゆん、めぐみんは君が心配で話せなかったんだ。察してあげなよ」
「……そうなの?」
「違いますよ!何勝手に理由作ってるんですか!」
私が言うと、あるえはごめんごめんと軽く謝った。全く、適当なこと言わないでください。ゆんゆんが本気にしてこれ以上変な方向に拗らせたらどうするんですか。
「……それと。ゆんゆんにあるえ、あなたたちは何だかんだ優秀で知識も豊富ですよね」
「めぐみん、急に私を褒めるなんてどうしたの?」
「多分デレたんだよ」
「なんであるえはそっち方向に持って行こうとするんですか?」
あるえは冒険小説をメインに書こうとしてると聞いているのだが、恋愛脳に切り替えたんだろうか。それにしても百合物は変わり種だと思うのだが。
「さっき言ったでしょう?私たちはニコラス・フラメルが誰なのかを探しているのです。それで二人に聞こうと思ったんですよ」
私がそう言うと、二人は手を口元に当てながら首をひねった。
「なるほど。ニコラス・フラメルね……残念ながら聞いたことがないな」
「ごめん、私も。お母さんたちには聞いてみた?」
「ええ、昨日の夜に。収穫はありませんでしたが」
まあ紅魔での情報にはあまり期待してませんでしたしね。仕方ないでしょう。
「そうですね……ではもう一つ聞いてみましょうか。これは興味本位でさっきのとは関係ないと思うのですが、あるえかゆんゆんは最も古い紅魔族みたいなのって知ってますか?紅魔族の歴史みたいな」
「うーん……ごめんねめぐみん、私は知らない」
「あ、それなら知ってるよ。昔ネタを探してた時に紅魔の里の図書館で見つけたんだ」
私が何となく聞いてみると、あるえがそう答えた。
「本当ですか?それなら出来るだけ詳細まで話してほしいのですが」
私の考えが正しければ、紅魔の始まり付近に恐らく彼がいるはずだ。
「ああ、いいよ。確か歴代の紅魔族で唯一髪が黒くなくて眼も赤くなかったらしい。白髪で碧眼だったそうだ。一番古い情報でも老人の風体なんだけどなかなか死なず、ここに来たときには既に老人だったのにそれから三百年は生きてたらしいよ。ま、紅魔の人間はみんな飛び抜けて長命だし、そんなことがあっても不思議じゃないけど」
それを聞いて私は確信を強めた。やはり特別な一族である紅魔の影にはやはり魔法の存在があったようだ。そしてその魔法使いの名前はきっと。
「あるえ、性別と名前をお願いします」
「ああ、もちろんだとも。性別は男。名前は──」
あるえが名前を言いかけたちょうどその時、店のドアが勢いよく開かれた。
「ねりまき、めぐみんを知らないか!シスコンのあいつのことだからこめっこに色々吹き込んだことを知られたらぶっ殺され」
「ほう、よく分かってるじゃないですか」
店に入ってきたのは私の幼馴染でニートのぶっころりーだった。そして私はぶっころりーを目にした瞬間、席を立って奴の元に向かっていた。
「ゲッ!あ、あのな、めぐみん。こめっこに色んな言葉を教えたのには理由があってだな?」
「いえいえ、言い訳には及びません。さっき吹き込んだって自分で言ってましたよね?分かってるならもはや説教は要らないでしょう。必要なのはお仕置きのみですね」
なおも言い訳を続けようとするぶっころりーに、私は黙ってぶっころりーのお尻を叩き始めた。
「あ、ちょ、めぐみん、痛い!痛いよ!魔法は使っちゃいけないんじゃなかった痛ッ!」
「魔力を体に循環させて身体能力を高めるくらい朝飯前です。ニートなあなたとは違うの、です!」
「痛いッ!」
……何でしょう、ぶっころりー自体には何とも思いませんが何故だか段々と昂ぶってきました。ふふ、ぶっころりーはいい声で鳴きますね。もっと力を強めたらどうなるのでしょうか。ちょっとずつちょっとずつ強めて行きましょう。ええ、それがいいですね。さあ行きましょうか。
「めぐみん!目が危ない人になってるわよ!」
「……はっ!私は今まで何を」
ゆんゆんの声に私が正気を取り戻した隙に、ぶっころりーは逃げて行った。まあ十分戒めることはできたでしょう。
「めぐみん、いいものを見せてもらったよ。お陰で新作が書けそうだ。それじゃ」
「え?ちょっとあるえ、今のを書くのですか!?というか紅魔の始祖の名前を教え……」
私の声に振り向くことすらせず、あるえは店から走り去って行った。
「えぇ……あるえは今のどこら辺にインスピレーションを得たんですか」
「作家ってそういうものじゃない?それよりなんで紅魔族の祖先なんか聞いたの?」
「いえ、ちょっとした考えがありましてね。ですが憶測も多分に入りますし、まだゆんゆんには話さないですよ」
まああるえに聞かなくても名前くらい分かるだろう。図書館で見たとも聞いたし、私だけでも見つけられるはずだ。もし無理でもまた後であるえに聞けばいいですしね。
それから二週間が経ち、私たちはゆんゆんのお父さんに連れられて羽田空港に来ていた。結局紅魔の始祖に関する記述は全く見つからず、あるえも部屋に篭ってひたすら原稿をやってるらしく話すことはおろか会うことすらできなかった。その集中ぶりと紅魔の始祖の件で目の当たりにした情報収集能力に、私は彼女の紅魔としての才である書く才能のことを初めて畏怖した。
「めぐみん、ゆんゆん、元気でな」
見送りたいと一緒にやってきたお父さんが私たちにそう言った。食事が約束されてる私たちより収入が圧倒的に不安定な自分たちの方の元気を心配すべきなのではと私は思った。
「あ、そうだ。お父さん、ちょっとお願いしてもいいですか?こんなものを作ってほしいのですが」
元気でと返す代わりに私はそう言って、家で書いておいたあるアイデアについてのメモを、変なものを作るが腕は確かな発明家であるお父さんに渡した。
それを見たお父さんはうーん、と唸った。
「別にいいが……何に使うんだ?」
「具体的には何も。単純に戦力をあげたいと思いまして」
「ふふ、そうか。いい心がけだ」
今はありがたいが、戦力を上げたいと言う娘にいい心がけだと褒める父親って一体どうなのだろう。
「めぐみん、もうそろそろ行かなきゃ。お父さん、ひょいざぶろーさん、お見送りありがとう。またね」
「ありがとうございました。夏に帰ってくるときはお土産を持って帰りますね。あ、待ってくださいゆんゆん」
私たちはそうして、ホグワーツのあるイギリスへと飛行機で向かった。
次からホグワーツに戻ります。