「これをマルフォイに渡せばいいのね?」
「ええ、そうです。ありがとうございます。あ、私からのものだということは伏せておいてくださいね」
それから数日後の飛行訓練の授業後。私は三人から預かったお菓子の袋を友人のダフネ・グリーングラスに渡していた。
「全く、この私があなたみたいなマグル生まれの頼みを聞くなんてね」
私の渡したお菓子を懐に入れながらダフネはそう呟いた。
ダフネの家、グリーングラス家は間違いなく純血とされる聖28家のうちの一つで、基本的にスリザリンの家系だ。そこから分かる通りグリーングラス家は純血主義を掲げている。それでも私と交流できているのは、ひとえに私が天才だからだ。より具体的に言うならば箒の扱い方を教えてあげたからだ。
「私との交友を機にその差別思想もやめた方がいいと思いますよ。そろそろ本格的に時代遅れになると思うので」
「うーん、それはまだちょっと。一つ下の妹はそういうのは最初からなかったんだけどね」
「へえ、グリーングラス家の子なのにすごいですね」
「すごいかどうかは人それぞれよ」
そんなことを言い合いながら校舎内へと帰っていく私たちを、他の生徒たちは珍しいものを見るような目で眺めていた。グリフィンドールとスリザリンの組み合わせはどうやらどちらの生徒から見てもあまり思わしくないもののようだった。
「それで、これはどんなものなの?さすがに毒とかなら私はこれをマルフォイじゃなくて先生に渡さなくちゃいけないんだけど」
「そんなことするわけないじゃないですか。私も詳しくは聞いていませんが、基本的に愉快なことしか起こらないようになっています」
あの三人が企むのはあくまでイタズラであって、誰かが本当に苦しむことを望んだりはしない。というか毒じゃなかったらいいんですね。スリザリンも別にマルフォイを中心に一枚岩というわけではないということですか。
「ふーん。まあいいや。もしマルフォイが食べてそのあとに問い詰められたらどうすればいいの?流石に私が作ったなんて言いたくないんだけど」
「ドラコが食べた後ならもう私のことをバラしてもいいですよ」
「そう。じゃあね。渡したら連絡するわ。報酬に呪文学を教えてくれるってこと、忘れないでよね」
そう言うと、ダフネはスリザリンの寮がある地下牢の方へ歩いて行った。別に勉強を教えることくらい頼まれればいくらでもやるのだが、純血としてのプライドがまだそう易々と私に頼みごとをできないようにしてるのだろうか。生きづらいだけだと思うので早く目を覚ましてほしい。
「今話してたのはグリーングラスよね。何を話してたの?」
「ちょっとしたお願い事ですよ」
私がダフネと別れるとすぐにパーバティが寄ってきてそう聞いてきた。
「ふーん?めぐみんってスリザリンとも仲良いよね」
「ええ。スリザリンも一緒に学ぶ学友には違いありませんから」
ダフネの態度に、フォイフォイを崩せば以外と簡単に話せるくらいにはなるんじゃないかと密かに考えてたりする。
「珍しい考え方よね。マグル生まれなのが大きいのかしら」
「マグル生まれは多分関係ありませんね。マグルも魔法族並みに身内以外を差別しますし。単純に、一緒に学ぶ人たちは仲間であってほしいと思ってるだけですよ」
「それで、お願いってどんなこと?」
パーバティと話していると、横で話を聞いてきたラベンダーが聞いてきた。
「明日になってからのお楽しみです。強いて言うなら……そうですね、ドラコを見てみれば分かると思います」
「「?」」
キョトンとしてる二人を見て、私は小さく笑いをこぼした。あとはあの三人の案がどれほどのものか。かくいう私も明日になってからのお楽しみですからね。期待しておきましょう。
翌日の朝。ハリーたちと一緒に朝食を食べに広間に向かっていると、クラッブとゴイルを従えて歩くドラコに遭遇した。
そのドラコの髪はいつもの金髪ではなく、何種類かの蛍光色が移り変わりながらピカピカと光っていた。
「「「ブッ!」」」
私たち四人は堪らず吹き出した。
「笑うなポッタァァァ!」
「ブハァッ!」
顔が赤く染まったドラコのその声で、またしても私は吹き出してしまった。
「くっ……お前たちがやったことは分かってるんだぞ。父上に言いつけてやる!」
ドラコがそう叫ぶと、どこからともなく大人の男の声が響いてきた。
『ドラコ、それくらい自分でやりなさい』
「父上!?」
どうやらその声はドラコのお父さんのものだったようで、私たちは倒れこんで爆笑した。
「くそっ、お前ら……!クラッブにゴイル、やっちまえ!」
ドラコが今度は二人にそう命令すると、またもやその場に声が響いた。
『えー、お頭がやってくださいよ』
『いつも俺たち任せじゃないですか。たまにはボスがやってくださいよ』
「お前ら!」
「今のは俺たちじゃないです!」
「多分さっきのと同じやつです!」
キレた様子のドラコに必死で弁明する二人。これはちょっと、いやすごい面白い。さすがあの三人は期待を裏切らない。
「じゃ、私たちはこれで。今日は朝からいいものを見せてもらいました」
「あ!ちょっと待て、これを解いてから」
ドラコが後ろから何か言ってくるなか、私たちは駆け足でその場を離れた。
その日は一日中、ドラコとその周り以外の生徒にとってとても愉快な時間となった。スリザリン生ですら何かあるたびに笑っていた。特に図書館でチェスをやっていたドラコが、命令を全く聞かない駒に『たまには自分が戦場に立ってみろ』と言われて駒が動かないままダフネにボコボコにされていたのは見ものだった。
「いやー、いい体験をさせてもらったわ」
私が湖のほとりでハリーたちと談笑していると、ダフネが近づいてきて言った。
「前あいつにチェスで惜敗してからずっとこき下ろされてたのよ。今日はスッキリしたわ。あなたのおかげよ」
「やっぱり今日のマルフォイってめぐみんが何かしたの?」
ダフネの言葉に、ハリーがそう聞いてきた。
「ええ。私というかウィーズリー兄弟にリーが、というのが正確ですけど。私とあの三人で作った薬をお菓子に入れて、ダフネに届けてもらったんです」
「なるほど、昨日のはそういうわけだったか」
三人に今日のことをバラしていると、後ろから聞き覚えのある怒ったような声が聞こえてきた。
「失望したよ、グリーングラス。スリザリンがグリフィンドールの頼みを聞くなんて」
それは話題のその人、ドラコ・マルフォイだった。ダフネを強く睨みつつ吐いたそんな言葉に、ダフネは言い返した。
「スリザリンがグリフィンドールの頼みを聞いたわけじゃないわ。私が、めぐみんの頼みを聞いたの。髪じゃなくて目まで細工されちゃったの?首から上が見えてないみたいよ。それじゃめぐみん、また今度ね」
「グリーングラス!」
ダフネはそう言って、ドラコの怒りも意に介さずに建物の方へと帰っていった。意外と大物になりそうですね、ダフネ。
「……まあ、グリーングラスなら後でどうにでもできる。今はお前たちだ。お前たちは絶対に許さない。スネイプ先生に言いつけてやる。あの人は僕を気に入ってるからな、お前たちなんか」
『ドラコ、そのくらい自分でやれ』
ドラコがそれなりに怒ってる顔なのに、その声のせいで私たち四人は吹き出してしまった。
「笑うなお前ら!」
「面白いんだから仕方ないじゃないですか」
私がそう言うと、ドラコはローブから杖を取り出して私たちに向けて構えた。
「もう謝っても遅いぞ。僕を怒らせたお前たちが悪いんだ」
それだけ言って、ドラコは叫んだ。
「フォフォイのフォイ!」
「「「ブフォ!」」」
ドラコの唱えた呪文に、私たちはやっぱり笑い出してしまった。あの三人はこんなところにまで影響が出るようなものを作ったのですか。やはりあの三人は優秀ですね。
「はぁ!?何だよ今の!クソ、ペトリフィカス・トタルス……よし、言える。ペトリフィカス・トタルスだ。よし、行くぞ!ペトフォフォイのフォイ!」
やはり何も起こらなかった。
「く、ふふ……マルフォイ、お前は僕たちを笑い殺そうとしてるのかい?」
「うるさいぞウィーズリー!原因を知ってるくせに!もういい、帰る!」
「パパの下にですか?」
「寮にだ!」
そう吐き捨てると、マルフォイは髪をネオンサインのように光らせたまま建物の方へと帰って行った。そしてそれと入れ替わりにネビルがやってきた。
「ねえ、今日のマルフォイがおかしかったのって君たちが原因なの?」
「いや、今回に関しては私たちは関係ないわ。めぐみんとフレッド、ジョージ、それにリーが企てたみたい」
「どうです?面白かったでしょう?これで少しはドラコを怖がらなくても済むようになりましたか?」
私がそう聞くと、ネビルは少しポカンとした後に笑顔になって頷いた。どうやら談話室でのことがきっかけだということを察したようだ。
「うん!ありがとう」
「もう卑屈になってはいけませんよ。あなたはこの私と同じ、グリフィンドールなのですから」
「分かったよ。本当にありがとう。それと四人とも、そろそろ日が落ちるから一緒に寮に帰ろうよ。もうすぐ一気に寒くなるよ」
「そうですね」
「そうするか」
こうして、ドラコ以外にとって愉快な一日は終わっていった。そして翌日の朝。部屋に設置されている洗面台の鏡を見て私は叫んだ。
「あいつら!」
私の頭は、昨日のドラコのように遷移的にキラキラした色になっていた。私は部屋のみんなに笑われながら、三人にどう仕返ししてやろうかを考えていた。
なお、髪は部屋を出て朝食に行く頃には元に戻っていた。