悪戯トリオへの仕返しを考えつつ授業をこなしてるうちに、数週間が経った。その間にハリーは次のクィディッチの審判を務めるスネイプ先生への恐怖感を強めていた。
「絶対に僕への当たりが強くなってるって。多分僕をクィディッチの試合に出させる気がないんだ」
「考えすぎですよ。それにさっきのは先生の指示を無視して先にドラゴンの尾を入れたハリーが悪いです。あれは高価なので無駄にされたのが嫌だったのでしょう」
「それにしたってさ」
そう言ったところでハリーは後ろを振り返った。
「どうしたの?」
「いや、スネイプに見られてた気がして」
「気にしすぎだって。元気出せよ」
そう言うロンの顔も決して元気そうには見えなかった。
「さすがにあの人だってここの教師ですから、クィディッチの試合であからさまに何かするなんてことないと思いますよ。なのでみなさん、少しくらい落ち着いてください」
「そんなこと言われても、気休めにもならないよ」
そういうハリーの不安は、日に日に大きくなっていってるようだった。
「ハリー、朗報です。次の試合にダンブルドアが観戦に来るそうです」
「本当!?」
試合の前日、ハリーとロンが私の書いたレポートを参考に宿題をしてしているところに私は言った。ハリーは今までの不安が一気に吹き飛んだかのような元気な顔を見せた。
「誰情報?」
「パーシーがマクゴナガル先生から聞いたそうです。何でも、今年の寮杯争いは楽しみだそうで」
「君、パーシーと話すのかい?君みたいに規則なんて犬にでも食わせとけって人とパーシーは、なんというか水と油だと思うんだけど」
私がそう言うと、ロンが少し懐疑的な目で聞いてきた。
「勉強をたまに教えてもらってます。あの人が優秀なのは確かですしね。最初はロンの言う通りの理由で私をよく思ってなかったようですが、さすが監督生だとか未来の首席だとか囃し立てると快く色々と教えてくれました」
「兄さん……」
私の言葉に、ロンは呆れたようにため息をついてそう呟いた。囃し立てた私が言うのも何ですが、将来そういった肩書き……そう、例えば校長だとか魔法省だとかに振り回されそうで少し心配です。
「でもめぐみん、ありがとう。それを聞いて少し落ち着いたよ」
「ダンブルドアがいればスネイプだって滅多なことはできないもの。一応私たちが魔法妨害の呪文をかけておくけど、ハリーは心配せずに伸び伸びとプレイしなさい」
「うん、そうするよ」
そうしてハリー、今までよりもずっとリラックスしている様子でその後の時間を過ごした。ハリーにとって、スネイプ先生が審判をすることもすでにそんなに怖くないことになっていた。
「いよいよですね」
「そうね。でも一応足縛りの呪文の練習くらいはしておきましょう。ロン、いい?ロコモーター・モルティスよ」
「分かってるってば。そうガミガミ言うなよ」
「ねえ、なんでそんなにその呪文について今強調してるの?」
試合当日、私たちはクィディッチの観戦席にネビルと一緒に来ていた。ネビルは私たちが真剣な表情をしてさらに杖を持っていることを非常に不思議がっていた。が、途中でめぐみんがいるんだし仕方ないかと言って一人で納得していた。後でそれがどう言う意味かじっくり聞いてみたいと思う。
「さあ、プレイボールだ。アイタッ!」
球場を見ながらそう言ったロンの頭を誰かが小突いた。後ろを見れば、そこにはドラコがいた。
「ああ、ごめんなウィーズリー。気が付かなかったよ」
そう言ってニヤリとしたドラコに私は言い放った。
「なんで素直にスリザリン生の集まってるところに行かないんですか?この前のイタズラでハブられてるなら少し悪いと思うので謝ろうかと」
「違っ、そんなわけないだろう!僕がなんでマルフォイ家の本拠地スリザリンでハブになるんだ!お前たちに嫌味を言いに決まってるだろう」
「ちょっとくらい普通にクィディッチを楽しめよ、七色の髪のマルフォイ」
「ぶっ飛ばすぞウィーズリー」
からかいの言葉を飛ばしたロンにそれだけ悪態をついてドラコは一息ついた。
「グリフィンドールの選手がどういう風に選ばれたか知ってるかい?」
そしてそんなことを言ってきた。多分今日のために用意してきたんだろうなと思いながら私たちは意識の一割くらいを使ってそれを聞いていた。今はハリーの無事の方が先決だ。大丈夫だとは思うが、確認はした方がいい。
「気の毒な人が選ばれてるんだよ。ポッターは両親がいないし、ウィーズリー家はお金がないし。だからロングボトム、お前もチームに入るべきだね。脳みそがないから」
そんなドラコにネビルは顔を真っ赤にしたが、座ったまま後ろを振り返って言った。
「マルフォイ、ぼ、僕は君が十人束になっても敵わないくらい価値があるんだ」
ネビルの言葉に、私は目を見開いた。とうとうネビルがドラコに真っ向から反抗したのだ。
「ネビル、よく言いました。その通りです。狡猾という言葉の意味を全く分かろうとせずにスリザリンの意味を履き違えてる人よりも、あなたはずっと価値を持っています」
ドラコがクラッブにゴイルと一緒に笑い転げるなか私がそう言うと、三人は笑うのをやめてこちらを睨んできた。
「は?お前にスリザリンの何が分かるって言うんだい?ただのマグル生まれのお前に、何が」
「少なくともあなた方が何も考えずに信望を表明してるヴォルデモートなんかは、学生時代の噂を聞かないあたり狡猾さの意味を知っていたようですよ」
その言葉に、私の周囲は押し黙った。ヴォルデモートの名前はやはり影響力が大きいようだ。
ヴォルデモートほどの力があって且つ今のドラコのような目立ち方をしていれば、自ずとヴォルデモートの学生時代の話は広まっていたはずだ。にも関わらず学生時代の話が全く見つからないあたり、学校ではずっと優等生か少なくとも目立たない生徒という仮面を被っていたのだろう。
「……グリフィンドールチームの話に戻すとだな」
そんなことを考えていると、ドラコが話を戻した。ふっ、勝った。言い負かしてやった。私が勝ち誇った表情で聞いていると、ドラコが私にとって禁断の言葉を言った。
「紅魔、君もチームに入るべきだ。なんせ背がないんだから」
「ぶっ殺す!」
「あ、お頭」
「大丈夫ですか」
ドラコが言った瞬間、私はドラコに飛びかかった。
「ちょ、お前、短気すぎるだろ。やっぱり頭おかしい……というかお前ら、早く助けろよ!実は僕のこと心配してないだろ!」
「多分二人とも、女の子に組み伏せられてるマルフォイに呆れてるんじゃないのか?」
「そんなこと思ってるのかお前たち!」
「「お、思ってませんよ」」
ロンに煽られたドラコのキレ声に、吃りながら答えて私を引き剥がしにくる二人。
「女子一人に二人掛かりで襲うなんてそれでも男ですか!股のそれを千切りますよ!」
「めぐみん、その発言こそそれでも女の子なの?それと試合が終わったわよ」
「「「え?」」」
ハーマイオニーの言葉に、組み合っていた私たちは顔を上げた。大きく表示された得点板は、グリフィンドールの大差での勝利を示していた。
「170-20。グリフィンドールの勝利よ!ハリーも無事だったわ!」
「本当ですか!それはよかったです」
いやー、ハリーが無事でよかった。途中から他のことに気を取られて試合は見れませんでしたが、概ね良しとしましょう。
私は立ち上がりながら苦虫を噛み潰したような顔のドラコたちに全力のドヤ顔を向けた。三人はとてもイラっとしていた。
「さ、行きましょうか」
「その前にめぐみんは保健室に行ったら?男子三人と取っ組み合いはさすがにめぐみんでもキツかったんじゃない?」
「いえ、私は大丈夫ですよ。それよりネビル、よく言い返しましたね。感心しました」
「この前、君たちに励ましてもらったから」
そんなことを話しながら、私たちはグリフィンドール寮の談話室へと帰っていった。
その日の夕方。私たちがグリフィンドールのトップを祝して談話室でパーティーを開いて騒いでいると、ハリーが深刻そうな表情で入ってきた。
「ハリー、どうしたんですか?今日のヒーローなんだからもっとシャキッとしてくださいよ」
「めぐみん、それどころじゃないんだ」
「どうしたんだい、ハリー?」
「何があったの?」
ハリーのただならぬ雰囲気に私たちが聞くと、ハリーは声を潜めて私たちに言った。
「大事な話がある。部屋を変えよう」
私たちが誰もいないことを確認して部屋に入ると、ハリーが私たちに告げた。
「僕たちは正しかった。『賢者の石』だったんだ。さっき、僕はスネイプがそれを手に入れるのを手伝えってクィレルを脅してたのを聞いたんだ」
「「「なっ!」」」
思ったよりもスネイプが精力的に動いていたと知って、私たちはそんな声を上げた。
「スネイプはクィレルにフラッフィーを出し抜く方法を聞いてた。それとクィレルの『怪しげなまやかし』のことも。多分フラッフィー以外にも何か特別なものが石を守ってるんだと思う。それの一つにクィレルの魔法があってスネイプはそれを破らなくちゃいけないのかもしれない」
なるほど。確かにここホグワーツにあって番が犬だけだというのはおかしな話だし、それも十分にありえそうだ。
「ということは、『賢者の石』が安全なのはクィレルがスネイプに抵抗してる間だけということになるわ」
私がそんなことを考えていると、ハリーの話を聞いてハーマイオニーが警告した。
「それじゃ、三日と持たないな。石はすぐになくなっちまうよ」
ロンのそんな言葉は正鵠を射ているようだった。確かにクィレル先生は気弱でスネイプ先生には簡単に負けてしまうだろう。しかし、私はまだどこかあのクィレル先生を疑っていた。ホグワーツの闇の魔術に対抗する防衛術の授業を、本当にただの気弱な先生が持てるだろうか。しかもあんなかっこいいターバンをしてるのに。紅魔式で言えば、あれは絶対に何かがあるはずだ。
私はクィレル先生にどこか引っかかるところを感じながら、『賢者の石』に関する進展について考えを巡らせていた。