ホームに着くとそこには既に列車が止まっていて、多くの保護者らしき人たちが生徒たちを見送りに来ていた。そんな人混みの中に紛れながら、私は言った。
「いやー、まさか壁をすり抜けるとは。マジシャンもびっくりですね」
「なんたって魔法だからね。マグルの家で育ってればそう思うのも仕方ないさ」
「ロンのその言い方は何か偉そうで腹が立ちます」
「理不尽じゃないかい?」
私たちはここに来る間に軽く自己紹介をした。どうやらハリーは若き英雄でありながらマグルの家で虐げられながら過ごしてきたらしい。なぜかロンの方がハリーのことを誇らしげに語っていたがそれに関しては気にしない。またロンは六男坊ということから分かるように持ち物の全てがお下がりだそうだ。ペットすらお下がりだとか。それをあげる親も親だが、ロンはそこまでして鼠を飼いたかったんだろうか。
そしてその話の間に、私は二人に闇の帝王だとか死ななかった男の子だとかそういうワードについて聞いておいたのだった。
「しかし『闇の帝王』ですか。ぶっちゃけダサいですね。痛々しいです」
「ダサっ!?」
私がそう言うと、ロンがそんな反応をした。周囲の人も口には出してないがそんな感じだった。まあ別にいいでしょう。その人たちが話に入ってくるわけでもないようですし。
「いやだってダサくないですか?『闇の帝王』て。今時小学生でももう少しマシな名前つけますよ。安直とか言うレベルじゃないです。死ななかった男の子ってのもそのまんま過ぎです。もっと、こう、『世界に敵対せし闇の貴公子』だとか『選ばれし光の御子』みたいなのはなかったんですか?」
「ま、まあ、そういう考えもできる、かな?」
「僕、今の呼び名さえ恥ずかしいのにその呼び名だと学校来れなくなっちゃうよ。それにめぐみんの挙げたやつの方が痛々しいと思う」
「う、うるさいですよ!」
そんな話を列車に乗り込みながらしていると、周囲で話を聞いていたらしい同い年くらいの男の子たちが割り込んできた。
「君があのハリー・ポッターって本当か?ホームでその話をちらほら聞いたんだけど」
「ああ、そうだよ」
ガッチリした二人組の男の子にボディーガードのように立たれながら、青白い肌に金髪のその子はハリーにそう聞いてきた。よほどこのハリーというのは有名人らしい。まあ話を聞く限り妥当なところではある。
そう思っていると、その男の子たちの親分らしき人が自己紹介を始めていた。
「こいつらはクラッブとゴイル。そして……」
そこでその男の子は一息置いて、気取った様子でマントを軽く翻した。
「僕の名はドラコ・マルフォイ。名門マルフォイ家が長男にして、やがて魔法界を背負って立つことになる男!」
「ブフッ」
その名乗りに、ハリーは堪え切れないといった様子で吹き出した。
「……何か変なところでも?」
「い、いや、特には。ところでそれ、魔法族の伝統的な挨拶の仕方だったり」
「するわけないだろう。これは僕が編み出した画期的な名乗り「ブフゥッ!」ポッター!君はさっきから何を笑っているんだ!」
私たち紅魔家の名乗りをパクったとしか思えない名乗りを画期的と言ったドラコ少年にまたもや笑いを堪え切れなかったハリーは、こいつのせいと言わんばかりに私の方を指差した。
「お前は、さっきから『例のあの人』を愚弄していたマグルの子か。ポッター、そこのウィーズリー家やこんな穢れた血なんぞと付き合ってたら格が知れるぞ」
ドラコのその言葉に、ロンは勢いよく立ち上がり、ドラコに向かって杖を向けた。
「黙れマルフォイ!お前今、お前、なんてことを言った!」
「おや、気に障ったか?それにしてもやはりウィーズリー家、ネズミの如く子が湧くのだから仕方ないかもしれないが落ち着きがゼロだな。呪文の一つも使えない無能のくせに」
「なんだと!?」
ロンとドラコが言い争っているのをよそに、私は一言呟いた。
「穢れた血?」
それを聞いたドラコはにやりと口元を歪めた。
「なんだマグルの子。穢れた血と呼ばれるのがそんなにも癇に障ったか。全く、これだからマグルはいけない。全く躾がなってない。なあ、お前ら」
そう言って部下らしきクラッブとゴイルと一緒にドラコはこちらを見て笑った。そんな彼らに私は言った。
「いえ別にこれっぽっちも癇に障ってないですし、むしろ琴線に触りました。その穢れた血ってダークヒーローの二つ名みたいでめちゃくちゃかっこいいですね!私好きです。闇の帝王(笑)なんかよりずっとセンスありますよ。あなたが考えたんですか?」
そして私のその言葉に、その表情が固まった。
「え?ダークヒー……?ちょっとよく分からないけど、怒らないのか?」
「怒るわけないじゃないですか。ほらそれよりもっと、穢れた血について詳しく!」
「ちょ、やめ、近寄るな!こいつ頭おかしい……おいお前ら、行くぞ!」
私がそう言いながらドラコに詰め寄ると、ドラコは手下らしき二人を連れて何処かへ走り去って行った。
「あら、行ってしまいました。あの名乗りと言い、『穢れた血』というワードと言い、あの子とは気があうと思ったのですが」
「それは間違いなく君の思い違いだと思う。二人はマルフォイ家って知ってる?」
私の呟きに、ロンは私とハリーにそう聞いてきた。
「欠片も」
「僕も知らない」
私たちが近くのコンパートメントに入りながらそう答えると、ロンは座席に座りながらふう、と一息置いて話し始めた。
「ま、そうだよね。マルフォイ家っていうのは『例のあの人』が消えた時に真っ先にこっち側に戻ってきた家族の一つでさ。魔法で隷属させられてたっていうんだけど、そんなの絶対嘘だっていうのが魔法界の通説だよ。マルフォイ家なら、闇の陣営の味方をするのに特別な口実はいらないだろうってね。
それとコッチコチの純血主義でも有名で、さっき君に言った、その、『穢れた血』っていうのはマグル生まれの魔法族を指す言葉の中で最低最悪の言葉なんだ」
なるほど。まあよくあることではありますね。分かりやすい悪役というか。
「しかし、薄々気付いてはいましたがあれは蔑称でしたか。かっこよかっただけに残念です」
「君のセンスは本当に独特だね」
「ハリー、おそらくあなたもいずれこのかっこよさに気付くはずです。具体的には14歳のあたりに」
「その14歳ってのはよく分からないけどとりあえず否定しておくよ」
半純血とか、ヴォルデモートとかいう闇の帝王を打ち破ったとか、まさにそんな属性を持ってるのにこのかっこよさが分からないとは。可哀想な子ですね。
「しかし純血主義を小さい頃から背負わされてるあの子も少し可哀想ですね」
「マルフォイが?そんなわけあるか。あいつは好きで純血主義をやってるんだ」
「ロン、そう簡単に決めつけてはいけませんよ」
「魔法界についてはよく分からないけど、僕も出会ってすぐに決めつけるのはよくないと思うよ」
「二人とも……」
君たちは知らないだけなんだ、とでも言いたげなロンの顔を見ながら私は言った。
「というわけで、私はこの学校生活においてあの子を救うことを決めました。具体的にはあの子に爆裂魔法の素晴らしさを伝授します」
「爆裂魔法ってのが何なのかよく分からないけど、絶対にやめといた方がいいと思う。さすがにそれはマルフォイ家が可哀想というか」
「ロン、あなたはどちらの味方なんですか!」
「魔法界の」
その答え方はズルイと思う。
「ここのコンパートメントは空いてるかしら」
そんなことを言い合っていると、新調のホグワーツ・ローブを着た女の子がそう言いながら扉を開けた、
「ええ、空いてますよ。あなたは?」
「私はハーマイオニー・グレンジャー。魔法族が誰もいない家庭で育ったから、手紙をもらった時はびっくりしたわ。もちろんそれ以上に嬉しかったけど。だから、私はここで優秀な成績を残したい。最高の魔法学校だって聞いてるし。教科書は暗記したんだけど、あとは何をすればいいのかしら……」
私が聞くと、ハーマイオニーと名乗ったその子は席に座りながら一気にそうまくし立ててきた。まあいい。今度はこっちの番だ。
私はそう思いながら、立ち上がってローブをバサッと翻した。
「では、私も自己紹介を。我が名はめぐみん!紅魔家一の天才魔法使いにして、いずれ爆裂魔法の使い手として歴史に名を刻む者!」
私がそう言うと、ロンとハーマイオニーはポカンとした顔でこちらを見上げていて、ハリーはそんな二人を見てほっとした表情を浮かべていた。
「えっと、それは……?」
「めぐみん、君実はさっきのマルフォイのが気に入ってたのかい?」
少しすると、二人はそんなことを言ってきた。
「ハーマイオニー、これは魔法族に伝わる由緒正しい名乗りです。さあ、あなたもこれでもう一度名乗りを「やめてあげなよめぐみん、ハーマイオニー混乱してるよ。からかうのは僕で満足したろ?」チッ、分かりましたよ」
ハリーがすぐにネタバレしてしまったので、私はすごすごと引き下がった。別にからかってるわけじゃなくて単純にかっこよさを共有したかっただけなのに。
「あれ?そう言えばハリーもそれしてたよね。もしかしてハリーがさっきマルフォイを笑ってたのって」
「ええ、そうです。あれはさっきの金髪の画期的なアイデアなどではなく我が家で伝統的に使われている名乗りです。当然こちらの方が歴史は古いです。あんなフォイフォイ言ってる家とは違うんですよ!」
「プッ、フォイフォイって」
マルフォイ家って名前からして面白いからつい言ってしまった。秘伝の呪文はフォフォイのフォイで決まりだ。
「というか、あれ?さっきマルフォイは穢れた血って君を呼んでたけど、マグル生まれじゃなかったの?」
「いえ、彼は合ってますよ。私の両親は正真正銘の一般人です」
「え?でも今、紅魔家一の天才だって」
「私の家には魔法使いが一人もいないので必然的に私が紅魔家一です」
「ふざけてるの?」
私の言葉に、ロンはそう言った。おかしい。私が言ってることに何一つ間違いはないはずなのに。
そんなことを考えていると、ハーマイオニーが言った。
「あなたもマグル生まれなの?もしかして、それを隠すために紅魔家一だとか言ったの?それはダメよ。そのマルフォイって奴みたいな人もいるけど、大半はそうじゃないんだから。胸張ってればいいのよ」
ハーマイオニー……。
「別に私にそういう意図はなかったんですが。単純に紅魔家一って響きが好きなだけです」
「あれ?あ、えっと、変なこと言ってごめんなさい」
「大丈夫ですよ。あなたが強くていい人だってことは分かりましたから」
私がそう言うと、ハーマイオニーは少し照れた顔で私から顔を背けながら言った。
「……そう。ありがと」
そんなハーマイオニーにニヤニヤしていると、ハーマイオニーは無理やり話題を変えた。
「それで!あなたたちは?」
ハーマイオニーの問いかけに、二人は答えた。
「僕はロナルド・ウィーズリー。みんなにはロンって呼ばれてる」
「ハリー・ポッター」
ロンの後にそう手短に自己紹介したハリーに、ハーマイオニーは食いついた。
「ほんとに?私、もちろんあなたのことよく知ってるわ。参考書に載ってたもの。確か『近代魔法史』『黒魔術の栄枯盛衰』『二十世紀の魔法大事件』なんかに出てたわ」
「僕が?」
そんなことを言うハーマイオニーにハリーは呆然とした。
「まあ、知らなかったの。私があなただったらできるだけ全部調べるのに。あ、そうだ。三人とも、どの寮に入るか分かってる?私、色んな人に聞いて調べたけど、一番いいのは絶対にグリフィンドールよ。ダンブルドアもそこ出身らしくて。まあレイブンクローも悪くないとは思うけどね」
「僕は家族みんなグリフィンドールだし多分グリフィンドールだと思う。というかそうでないとなんて言われるか」
「あら、よかったじゃない。何も手がかりのない人よりずっとマシだわ」
「ハリーはきっとグリフィンドールだよな、めぐみんは……入れる寮があればいいけど」
「ちょっと、それはどういう意味ですか!」
そんなことを話していると、再びコンパートメントのドアが開いた。
「誰ですか、このコンパートメントはもう満員──」
そう言いながらそちらを向くと、私はそこに立っている人影に途中で言葉を失った。