「その後のハグリッドの調子はどうですか?」
「うーん、説得に応じる様子はないわね」
数日後、今日も小屋に行ってきたらしい三人に状況を聞くとハーマイオニーからそんな答えが返ってきた。うーん、あんまり芳しくないようですね。
「あ、でもこの前めぐみんが譲ってって言ったおかげでハグリッドも僕たちが今どんな気持ちか少し分かったみたい。だからか僕たちへの反応もそんなに頑なじゃないんだ」
「もしかしたらもう少ししたら僕たちの言うことを聞いてくれるかもしれない。めぐみんの機転のおかげだよ」
ハーマイオニーに続いてハリー、ロンはそんなことを言ってきた。機転とは何のことを言ってるのか分からないが、役に立てたのなら何よりだ。
「……ねえめぐみん、一応確認しておくけどあの『譲ってほしい』っていうのはハグリッドを諭すための嘘よね?本当はドラゴンが欲しいだなんて思ってないわよね?」
そう思いながら宿題をしていると、ハーマイオニーが少し不安そうな顔でそんなことを聞いてきて……。
「何を言ってるんですか。もしそうなら私はもっと直球で言います。私は本気でドラゴンが欲しくてそう言ったのです。あの時はダメでしたが、粘り強く交渉を続ければハグリッドもうんと言うかもしれません」
私がハーマイオニーにそう返すと三人はギョッとして私から距離を取り、ヒソヒソと三人で何か話し始めた。
「ねえ、今のも冗談だと思う?私は本気だと思うんだけど」
「聞くまでもないよ。やっぱりめぐみんは頭がおかしかったんだ」
「めぐみんに対してはマルフォイ並みの警戒をした方がいいと思うんだけど、みんなはどう?」
「それがいいわ」
「とりあえずドラゴンの件が丸く収まるまではめぐみんに近づかないほうがいいかも」
「それじゃあ解散ね」
内緒話が終わると、三人はすぐさま持っていた本などを持って談話室から走り去っていった。
「えぇ……何なんですか」
一人残された私は脱力気味にそう呟いた。
それから一週間。ハリーたちは執拗に私のことを避けた。談話室に私が入ってくればすぐに部屋に引っ込み、食事の時間が被らないようになるべく早くに大広間へ行き、私が授業をしっかり聞くのを知ってハーマイオニーですら教室の一番後ろに座った。正直最初は戸惑ったが、流石にここまで露骨にされれば誰にだって原因は分かる。おそらくドラゴンに関する話を私の耳に入れないためだろう。
そうと分かった私は、ハブにされたのに腹が立ったのと単純にドラゴンの情報が欲しかったので即席の盗聴呪文を作り出した。その結果分かったのが、以下のことだ。
・ドラゴンはハグリッドがノーバードと名付けた。
・もうすでに大きくなっていて、そろそろ何処かにやらないと本格的にまずい。
・そこでハリーが思いついて動物に強いロンの兄のチャーリーを頼ることにした。
・ビルによる迎えが来るのは今週の土曜日の夜。つまり今日。
うーん、どうしますかね。もう今日が土曜日ですし、流石に事ここに至ってドラゴンを譲って欲しいという気はありません。ノーバードとかいう名前ではなくじゃりっぱという素晴らしい名前を用意していただけに残念ですが、仕方ないでしょう。
そしてハリーたちに関してですが、正直にそう言って仲間に入れてもらうのが流れでしょうか。いえ、でもそれだとなんか負けた気がしますしね。それに……。
「めぐみんめぐみん、今日のパーティー楽しみね!」
「分かりましたからもう少し声のトーンを下げてください。恥ずかしいです」
この子が今日のパーティーを楽しみにしてますし、他の予定を入れて上の空になるのも何だかかわいそうですからね。今回のドラゴンをゲットするのは諦めましょうか。
……いえ、別に私もゆんゆんみたくパーティーが楽しみで他のことを考えるのが面倒だとかそういうわけではないのです。ゆんゆんと勉強会以外で遊びに行くのは久しぶりだし、別の予定を入れないで全力で楽しみたいなー、だなんて思ってるわけではないのです。
「どうしたのめぐみん?さっきから変な顔して」
「何でもないです。それよりゆんゆん、お茶会では友達を作る機会もそれなりにあると思うので、なるべく人見知りしないように意識しておいた方がいいですよ」
「うん。とりあえず、このパーティーで同室の子たちとちゃんと話せるくらいにはなっておくわ」
……今まで話せてなかったんですか。
「まあ頑張ってください。紅魔の里でも言われましたが、いい加減ゆんゆんの拗らせすぎたぼっち感性を治さなければいけませんからね。今のままでは本当にナーグルみたいなのに話しかけてしまう痛いだけの寂しんぼ娘になってしまいそうですし」
「痛いだけの寂しんぼ娘って何!?私だってナーグルやラックスパートが架空の存在だって分かってるわよ。でもほら、もしかしたらいるかもしれないじゃない?そしたら友達になってくれるかもしれないじゃない?」
どうやら架空の存在だとちゃんと分かってないらしい。どこか期待するようにそんなことを言うゆんゆんに私はそれを悟った。
「ありませんよ、そんなこと。というかそこら辺があなたがふにふらたちに『イブが生まれてこなかった場合のアダム』だとか『人生がピン芸人』『ぼっち度全一』だなんて言われる所以なので、本当に治したほうがいいですよ」
「私、そんなこと言われてたの!?アダムって男の方じゃない!」
ゆんゆん、突っ込むところはそこではないと思いますよ。
「はぁ、まあいいわ。そう言えばめぐみん、このお茶会って何時からなの?今はもう一時過ぎだけど」
「確か二時からですね。では各々用意してぼちぼち向かいますか。大広間の扉の前で待ち合わせとしますか」
「待ち合わせ!?うん、そうするわ!待ち合わせ……ふふ、いい響きね」
後ろにゆんゆんのそんな声を聞きながら、私はホグワーツに来て何回目だかのゆんゆんの脱ぼっちを心に誓うのだった。
「私たちのアフタヌーンパーティーへようこそ!よく来てくれたね、めぐみん」
「こちらこそ招待ありがとうございます、アンナ」
厨房近くの大きな部屋の前に来ると、私をパーティーに誘ってくれたハンナ・アボットがそう言って近づいてきた。
「えっと、そっちの子が前に言ってたゆんゆん?なぜかめぐみんの背中に隠れてこっちをチラチラ見てるけど」
「ええ、この子が私の友人のゆんゆんです。あとそれは極度の人見知りが発動してるだけなので気にしないでください」
全くこの子は。このパーティーで友達を増やすんじゃなかったんですか。
そう思ってると、後ろでゆんゆんが何だか嬉しそうに呟いた。
「めぐみんが私のことを友達って言った……!」
その言葉に、ハンナは私のことを無言でじっと見つめてきた。私は目を逸らした。
「それだけで喜ぶなんて、その子は普段めぐみんにどんな扱いを受けてるの?」
「ちょ、人聞きの悪いことを言わないでくださいよ!ゆんゆんはぼっちを拗らせすぎて究極にチョロくなってるだけです。今日はそのぼっちのリハビリも兼ねて連れてきたんですよ」
「ぼっちにリハビリなんてあるのね……まあいいわ、とりあえず二人とも中に入ってよ」
ハンナにそう言われて、私たちは扉を開けて中へと進んで行った。
中は結構広くて、すでに多くの生徒が来ていた。やはりハッフルパフ生が多いが、レイブンクロー生にグリフィンドール生もそれなりにいた。少ないがスリザリン生もいる。
「あら、めぐみんじゃない。あなたも来てたのね」
「こっち来なよ。ケーキとかもあるよ」
会場を見て回っていると、あるテーブルから声がかかった。そちらを見ると、ラベンダーとパーバティが手招きして座っていた。
「二人とも、もう来てたんですね。ゆんゆん、向こうのテーブルに行きましょう。友達を紹介します」
「う、うん。そうね」
私はゆんゆんに声をかけて二人のいるテーブルに向かった。
「二人とも、紹介します。私の友人のゆんゆんです。拗らせぼっちなので言動が少しおかしいかもしれませんが、仲良くしてあげてください」
「めぐみんに言動がおかしいって言われたくないんだけど。えっと、紅魔ゆんゆんです。めぐみんとは幼馴染です。それで、あの、えっと……よろしくお願いします」
私に続いてゆんゆんが自己紹介をしようとして失敗していた。別に無理に色々なことを言う必要はないというのに、これが人馴れしていないぼっちという生き物ですか。
「私はパーバティ・パチルよ。よろしく。それと敬語はいらないわ」
「私はラベンダー・ブラウン。ゆんゆん、よろしくね。私にも敬語はいらないよ」
そんなゆんゆんに二人は簡単に自己紹介をしていた。何というか、コミュ力の差を見たような気がした。
「パチル……?もしかして、パドマと姉妹だったりする?あの、レイブンクローの一年生の」
「ええ、双子の妹よ。友達?」
「うん、同室なの。いつもよくしてもらってるわ」
「そう。妹と仲良くしてもらってありがとうね」
そんなことを考えていると、パーバティとゆんゆんはそんなことを話していた。そういえばパーバティの妹とゆんゆんは同室でしたね。
「ところでゆんゆん、あなた今好きな人とかっている?」
パーバティとゆんゆんが話していると、ラベンダーが唐突にそんなことをゆんゆんに聞いた。
「え!?い、いや、いないけど」
「ラベンダー、何であなたはそうやって会ってすぐの人にそんなこと聞くのよ」
「女の子が仲良くなる手っ取り早い話題は恋バナだもの。そうだゆんゆん、この子はあのハリー・ポッターが好きなのよ。ミーハーよね」
「そうなの?ハリーってあのメガネの黒髪の子よね」
「前から違うって言ってるじゃない、ラベンダー。ゆんゆん、この子の言うことを信じちゃダメよ」
「そうは言ったって、前にクィディッチの時に自分のことを恋する乙女だって言ってたじゃない」
「そうなの?私は初恋もまだなのに、パーバティは大人なのね」
「恋する乙女という表現はどちらかというと少女的ですよ、ゆんゆん。どちらにせよパーバティがハリーのことを好きなのには変わりありませんが」
「めぐみんにゆんゆんまで……」
私たちがパーバティの反応を見て年相応の少女らしく楽しんでいると、パーバティが言った。
「いつも私ばっかりじゃない。たまには私じゃなくてラベンダー……は喜んで喋りそうね。そう、めぐみんの恋バナなんて新鮮で面白いんじゃないかしら」
パーバティはそう言って、私に話の流れを差し向けた。
「いいわね、それ。ほらめぐみん、吐いちゃいなさいよ。年頃の女の子なんだから浮いた話の一つや二つあるでしょ?」
「私もめぐみんのそういう話は気になるわね」
「というわけでめぐみん、観念しなさい」
そんなパーバティの言葉に乗る二人と、二人を見て勝ち誇った顔でこちらを見てくるパーバティ。いや、そんな顔で見られてもそんな話なんてないのですが。
「残念ながら私はそのような話のネタは持ってなくてですね」
「じゃあ好みは?男の人の好みくらいあるでしょ?」
「さあ、洗いざらいぶちまけなさい。精一杯恥ずかしがらせてやるわ」
私の言葉にそう被せてくる二人と目を輝かせてワクワクしているゆんゆん。というかパーバティは復讐する気満々ですか。
「好みと言っても普通ですよ。甲斐性のあるお金持ちで浮気もせず、常に上を目指して日々努力を怠らない誠実で真面目な人です」
「「「うわぁ……」」」
私がそう言うと、三人は口を揃えてそんな声を漏らした。
「夢がないわね。なんというか、11歳なのに甲斐性を考えてるところとか小生意気な雰囲気があるわ」
「そんな人いないわよ。もっと現実見よ?」
「めぐみんが苦労してるのは知ってるけど、友達同士の恋バナの好みに経済事情を入れるのはどうかと思う」
うるさいですね。こちとら現代社会で一日二食で両方ザリガニ定食というメニューを経験したことがあるのです。四の五の言ってる余裕なんてないのですよ。というかラベンダーにこの分野の話で現実を見ろと言われたのは割とショックなのですが。一番現実見てなさそうなのに。
「めぐみんったら欲張りね。でも安心して、我がハッフルパフ寮にちょうどそんな人がいるわよ」
三人が私の好みに辟易しているなか、後ろから声をかけてくる人がいた。振り向くと、そこにはハンナが立っていた。
「え、そんな人がいるのですか?」
「自分で言っておいてそれはどうなのよ。まあいいわ、連れてきてあげる」
そう言ってハンナは他のテーブルへと駆けて行った。