しばらくすると、ハンナは会場の扉をあけて一人の男子生徒を連れてきた。どうやらわざわざ寮まで行っていたようだ。
「紹介するわね。我らがハッフルパフの誇る未来の首席、セドリック・ディゴリーよ!」
「未来の首席はやめてくれ、四年も先のことなんて誰も分からないだろう。それはそれとして……セドリック・ディゴリー。ハッフルパフの三年生だ。君たちは?」
「パーバティ・パチル。グリフィンドールの一年生よ」
「ラベンダー・ブラウン。同じく一年生」
セドリックの問いかけに、パーバティとラベンダーがそう答えた。私はすぐには答えずにセドリックを観察していた。落ち着いた茶色の髪の毛に、温厚そうな灰色の瞳。背は高く、顔は男前でイケメン。なるほど、周りの女の子たちがチラチラとこちらを見てくるのも納得ですね。
「君は?」
そんなことを考えていると、セドリックが自己紹介を催促してきた。思えば自己紹介するのも久しぶりだ。ここは景気よく飛ばして行きましょうか。
そう思い、私は椅子からスッと立ち上がった。
「我が名はめぐみん!紅魔家一の魔法使いにして、いずれ最も偉大な魔術師として歴史に名を残す者!というわけでめぐみんです、よろしくお願いします」
私が名乗りを上げると、周囲がシーンと静まり返った。
「えっと、笑うところだったかな?」
「いえ、これは我が紅魔家に伝わる由緒正しき名乗りであり決してボケではないので笑わないでください。むしろ笑えばキレます」
「そ、そう」
私の物言いに少し顔を引きつらせるセドリック。ふっ、未来の首席の肝も所詮はそんなもんですか。これは私の勝ちですね。
「うわぁ……みんながめぐみんを頭おかしいって言うのが分かった気がしたわ」
「初めて見たけど、初対面であんなのされたらそう言いたくなるのも無理はないわよね」
「ハハ、やっぱりみんなびっくりするよね」
「めぐみん、外の人にそれをやるのはやめた方がいいって言ってるじゃない」
私がそんなことを思ってるなか、他の四人は好き放題言っていた。フレッドたちは分かってくれたのに。
「それで、僕はどうして呼ばれたんだ?いきなり連れてこられて少し戸惑ってるんだけど」
そんな私たちにセドリックはそう聞いてきた。ハンナは何も言わずに連れてきたんですか。何というか、セドリックもよく付いてきましたね。
「さっきまで私たち、好みのタイプの話をしてたの。そしたらめぐみんのタイプがぴったりセドリックで、めぐみんにあなたを会わせてあげようと思って!」
「そう。ちなみにどんなタイプ?」
「えっと、確か……甲斐性のあるお金持ちで浮気もせず、常に上を目指して日々努力を怠らない誠実で真面目な人、だったかしら」
「それ、別にぴったり僕というわけではなくないかい?」
「そんな完璧超人はセドリックしかいないから実質名指しよ」
セドリックの質問にハンナはトンデモ理論で答えていた。あまり適当なことを言わないで欲しいのだが。
「ねえみんな、ここは二人だけにしない?」
「そうね、その方がめぐみんも色々と話せるだろうし」
「うんうん、めぐみんもちょっとは女の子らしいことをしなきゃね」
「え、そ、そうね。めぐみん、頑張ってね!」
なんとなく四人の方を見ていると、パーバティがニヤニヤしながらそんなことを言って他の人たちも同じようにニヤニヤしながら同調して席を立った。ゆんゆんだけは戸惑いながらそんなことを言ってきた。ゆんゆんは人の心配なんてしてないで自分の友達作りの心配をしてほしい。
「私の友人たちがすみません。普段私がこのような話をすることはなくて、格好の機会だと空回ってるようです。悪気はない……少なくともあなたに対してはないと思うのでそれは分かっててください」
「あ、うん。それは分かってる」
私がそう言うと、セドリックはそんな気の抜けたような声を出した。
「どうしたんですか?どこか変なところでも?」
「いや、こんな場合は大抵女の子の方が押し黙ってしまうことが多いんだけど、君が冷静だから少し面食らってね」
セドリックはそう言いながら周囲のテーブルを見回した。チラチラとセドリックの方を見ていた人たちが目を合わせて慌ててそっぽを向くのが見えた。
「ああ、なるほど。私がいつもの女の子達のような態度でないから面食らったわけですか。それなら安心してください、私は別にその子たちみたいにあなたを狙ってるわけではないので。あくまでタイプが合致しただけですし」
「それは助かるよ。悪い気はしないが、やはりああも多いとちょっと疲れてしまって」
セドリックは今の言葉を真顔で言った。今の言葉を信じるならこの人は大層モテるようだ。しかし女子生徒との甘酸っぱい会話に疲れですか。セドリックからすれば正直な感想なのかもしれませんが、少しイラッとしますね。まあ自慢気に言うよりはずっといいですが。
「それで、僕はどうすればいいんだい?君が僕の、あー、僕と個人的に話がしたいわけでもない以上、ここに留まる意味もないわけだけど」
「いえ、あの子たちのためにもここにいてくれませんか?一応私のためにしてくれたことを無下にするのも何ですし。それにあなたにと言うわけではありませんが、三年生に聞いてみたい話もいくつかありますから」
私がそう言うと、セドリックは上げかけていた腰を下ろした。
「時間はあるし別にいいよ。しかし聞きたいことっていうのは何だい?」
「三年生以降の選択授業も含めた先生方のことです。今年から新しくホグワーツに来た先生はクィレル先生以外にいますか?それと誰でもいいので先生方について何か噂とかありませんか?どんな小さいことでも構いません」
私がそう聞くと、セドリックは口元に手を当てて考え込むような姿勢になった。
「少なくとも」
少ししてセドリックは言った。
「今年ホグワーツに赴任してきた先生はクィレル先生のみだよ。他の先生たちは僕が一年生の時からいる」
「そうですか……噂の方は?」
「うーん、そうだな。いくつかあるけど全部聞くかい?」
「はい。お願いします」
私がそう言うと、セドリックは思い出すように軽く左上に視線を向けながら話し始めた。
「まずは……そうだな。クィレル先生の話かな。僕の同級生が見たらしいんだけど、空き教室にクィレル先生が一人だけでいるはずなのに他のしゃがれた声が聞こえてきたらしい」
ほうほう。いきなりクィレル先生の話を引き当てましたか。しかし、一人でいるはずなのに他の人の声とは一体なんでしょう。
「あとこれもクィレル先生絡みなんだけど、前にフレッドとジョージ──グリフィンドールの三年生、いたずらっ子で有名なんだけど──がターバンを取ろうとしたら五歩くらい素早く後ずさりされたんだって。多分あの下に何か隠してるんだって二人が言ってたよ」
「二個連続でクィレル先生ですか。一年目な分話題には事欠かないってことですかね」
あるいは、実際に何かあるか。
「そうだね。最初の年はやっぱり話題になるものさ。それとあとは……フリットフィック先生がハゲを治すためにフィルチ先生に被験者の協力を要請してキレられたとか、占い学のトレローニー先生が毎年生徒が一人死ぬことを占うのはあの先生がショタコンで生徒の気を引くためだとか、スネイプ先生が夜な夜な不気味に笑いながら作ってる薬は愛の妙薬で相手はドラコ・マルフォイだとかくらいかな」
「最後のはもはやタチの悪い作り話ではないですか?」
何というか、噂の元の出来事も酷ければ付け足される情報も酷い。というか学校の先生がショタコンとかけっこうヤバくないか。そして最後のあんまりな噂に、私はスネイプ先生に少しだけ同情した。
「でもどうしてそんなことを?三年生以上に聞きたいことって言ってたからホグズミードとかのことを聞かれると思ったんだけど」
「ホグズミード?」
そんなことを考えていると、セドリックの口から知らない単語が出てきた。
「知らない?イギリスで唯一魔法使いだけがいる村で、三年生以上の生徒は学校の決めた日にそこに行けるんだよ。『三本の箒』っていうバタービールが売りのパブとか『ハニーデューク』っていうお菓子の店、それに『ゾンコの悪戯道具専門店』みたいな面白い場所が色々あってね」
「ほう。詳しく」
私はホグズミードのこと、そして三年生以降の選択授業に関して色々とセドリックから話を聞いた。個人的には古代ルーン文字学という科目に心を惹かれた。もう科目名からかっこよさが滲み出ている。炎とかでかっこいい登場の演出とかできそうですね。
「今日は色々と教えてくださってありがとうございました。何かあれば言ってください。できる範囲でお礼します」
「いや、いいよ。寮は違えど僕は君の先輩だからね。頼られてナンボのもんさ」
「おお……かっこいいですね」
この人がモテる理由が分かった気がした。決して顔とか成績とかそういうのではなく、言動から人の良さが滲み出ているんだろう。それも嫌味のない類のものが。
「僕はそろそろ戻るよ。じゃあ、また今度」
そう言うとセドリックは席を立ち会場を出て行った。
「どうだった?ときめいた?キュンと来た?恋に落ちた?告白したくなった?だったらこのラベンダー・ブラウンが相談に乗ってあげる!」
「早いという次元ではないのでやめてください。普通に鬱陶しいです」
セドリックが行くとすぐに四人組が戻ってきた。
「でもめぐみん、普通に話せてたわね。憧れの人と話せてよかったじゃない」
「パーバティ、私はタイプを言っただけであって憧れの人を名指しなんてしてません。あなただって分かってるでしょう」
「分かってるわよ。ぶっちゃけ思ったよりちゃんと話してて鬱憤晴らしにならなかったから都合よく記憶を書き換えてるところよ」
「書き換えないでください」
意外と根に持つタイプなのですね、パーバティ。
「そんなんじゃハリーに興味を持ってもらえませんよ」
「そ、そんなことないわよ。というか別に興味を持ってもらう必要なんか……」
また面倒くさい状態に入ったパーバティをみんなでからかいながら、私たちはパーティを楽しんだ。ドラゴンのことはすっかり頭から抜け落ちていた。