夜のホグワーツは建物が古城であることもあり、とても雰囲気ある場所となっていた。時折ゴーストが飛ぶのも含め、まさに魔法学校といったところだった。
「先を越された」
四階の廊下の扉に着くと、扉はすでに開かれていた。
「君たち、戻りたいなら今のうち」
「バカ言わないでください。それより早く行きますよ」
まだ念を押してくるハリーの言葉を一蹴し、私は扉を押し開けた。扉は軋みながら開き、低いグルグルという唸り声が聞こえた。巨大な三頭犬の三つの鼻は、見えないはずの私たちの方向を正確に向いていた。
「さあ、始めよう。もう突き進むだけだ」
ハリーはそういって懐から取り出した横笛を吹き始めた。メロディーといえるものではなかったが、最初に音を聞いた瞬間から三つの頭はトロンとし始めた。やがて犬の唸り声は消え、三頭犬は床にゴロリと転がった。私たちはマントを抜け出し、犬の向こう側にある仕掛け扉にたどり着いた。扉を開けると、真下に大きな穴が空いているだけだった。
「ねえ、何が見える?」
「何も見えませんね。真っ暗です。階段すらないので落ちていくしかありませんね」
ハーマイオニーのこわごわとした質問に私はそう答えた。そんな私たちにハリーは笛を吹いたまま自分と穴を指差した。どうやら一番最初に行くと主張してるようだ。
「何言ってるんですか。先頭は私に決まってます。美味しいところは持って行かせませんよ」
私がそう言うと、三人は私を何か奇妙なものでも見るような目で見てきた。
「さすがめぐみん、頭おかしい……」
「ロン、次にそのワードを口にすればそれがいつであれぶっ飛ばします。それでは、行ってきますね」
私はそれだけ言って、仕掛け扉の淵に立った。そして勢いよく飛び降りた。冷たく湿った空気を切り、私はひたすらに落ちて行った。少しの飛行の後に、私はドシンという鈍い音を立てて何やら柔らかい物の上に着地した。あたりを手探りで触ると、床は植物のような肌触りだった。
「みんな、大丈夫です!軟着陸ですよ!飛び降りてきてください!」
私は上にいる三人に向けて声を張り上げた。すると三人は少ししてそれぞれ落ちてきた。
「ルーモス!よし、これで見えるようになりましたね……なっ!」
「何だこれ!」
私が光をつけて周りを見回すと、私たちは互いを見て悲鳴を上げた。床の植物のツルが蛇のように私たちの足首に絡みついていたのだ。私たちはもがき振りほどこうとしたが、そうするたびにツルはさらに強く巻きついてきた。一番最後に落ちてきたハーマイオニーだけが植物から逃れることに成功していた。
「動かないで!私、知ってる……これ、『悪魔の罠』よ!」
「ああ。どんな名前かを知ってるなんて、大いに助かるよ」
ハーマイオニーにロンが皮肉を飛ばす。だが私はそれにピンと来た。そして何とか杖を取り出し、呪文を唱えた。
「インセンディオ!」
私の杖から真っ赤な炎が植物めがけて噴射した。草は光と熱ですくみ上がり、私たちの体から退散していった。
「ふぅ。ハーマイオニー、気づかせてくれてありがとうございました。すぐには『悪魔の罠』と気づけなくて」
「あなたこそ、すぐに弱点を思い出してくれてよかった。私、動転しててすぐには出てこなくて」
「今まで薬草学の勉強なんてどこで役に立つんだって思ってたけどちゃんと役に立つんだな。次からしっかり勉強するよ」
「そうするといいわ、ロン」
「さあ、次へ進もうか」
私たちはそんなことを言い合いながら、次の部屋へと繋がる通路を進んだ。少し長めのその通路を抜けると、目の前にまばゆく輝く部屋が広がった。部屋中を手のひら大の小さな鳥が飛び回り、部屋の反対側に先へと続く扉が見えた。
「あの鳥たちはここを横切ろうとすると襲ってきたりするんでしょうか」
「多分。よし、走って突っ切ろうか」
そう言って走り出したハリーに続いて、私たちはダッシュで扉まで向かった。意外にも鳥たちは私たちに襲いかかってくることはなかった。
「ここは特に何もありませんでしたね」
そう言って扉の取っ手を引いてみたが、鍵が掛かっていた。
「アロホモラ!」
やはり開かない。
「どうやら決められた鍵以外では開かないようになってるようですね」
「どうする?」
私の様子を見て、ロンがみんなに言った。侵入者は先に行ってるのだから、何か手段があるはずなのだが……。
「鳥ね。鳥に何かヒントがあるはずだわ」
ハーマイオニーの言葉に、私たちは上を向いた。頭上高くを舞い、キラキラと輝くその鳥を目に魔力を集めて見つめ、私は言った。
「あれは鳥ではありません!鍵です!鍵に羽がついてます!」
「羽のついた鍵か!ということはあれが……あった!箒だ!」
私がそう言うとハリーは部屋を見回して隅っこにあった箒を見つけた。
「よし、僕がドアを開ける鍵を捕まえてくるよ」
「でも何百羽もいるよ」
箒にまたがったハリーに、ロンはそう言って扉の錠を調べた。
「うーん……そうだね、大きくて昔風の鍵を探して。取っ手と同じ銀製だと思う」
それを聞いて、ハリーは飛び立った。私たちも同じく箒にまたがり鍵を捕まえようと飛び立ったが、魔法のかかった鍵は私たちを嘲笑うかのように手の中をスルリと抜けていく。
「……インセ」
「めぐみん、気持ちは分かるけど抑えて!余計に見つけるのが難しくなるだけよ!」
そうこうしているうちに、ハリーは叫んだ。
「あれだ!あの大きいやつ……違う、そこだよ。明るいブルーの羽の……羽が片方、ひん曲がっているやつ」
私たちはハリーの指差す方向に目標の鍵を見つけた。そこからハリーの作戦で私たちは上下左右から鍵を部屋の隅に追い込んだ。私たちの包囲網から逃げる鍵をハリーが一直線に追う。そして……
「やった!捕まえた!」
私たちは鍵が逃げないうちに素早く地面に降り立ち、暴れる鍵を鍵穴に差し込んだ。鍵は合致し、錠はガチャリと音を立てて開いた。
「よし、行こう」
ハリーは鍵を手放し、扉を開けた。私たちは次の部屋へと進んでいった。
次の部屋は真っ暗で何も見えなかったが、一歩中に入ると突然光が部屋中に溢れ、驚くべき光景が目の前に広がった。
大きなチェス盤が置かれ、三人は黒い駒の側に立っていた。そして部屋の向こう側に、こちらを向いて白い駒が立っていた。
「どうしたらいいんだろう」
「見れば分かるよ。チェスをすればいいんだ。多分、僕たちがチェスの駒になるんだろう」
戸惑うハリーにロンが言った。そしてロンは黒のナイトに近づき、手を触れて聞いた。
「あの、僕たち、向こう側に行くにはチェスに参加しなくちゃいけませんか?」
黒のナイトがうなずいた。ロンは私たちを振り返った。そして少し考えて言った。
「気を悪くしないでくれよ。でも三人ともチェスはあまり上手じゃないから……」
「気を悪くなんてしませんよ。それより早く、私たちがするべきことを言ってください」
そしてロンの指示で、私はクイーン、ハリーはビショップ、ハーマイオニーはルーク、ロンはナイトとなりゲームがスタートした。駒はロンの言う通りに動いた。試合が続くうちに、双方ともに駒が取られていった。取られた駒は相手側に床に叩きつけられ、盤外に投げ出された。私たちは自分がそうなったらと身震いした。
「うん、詰めが近いな。いやでも、うーん……」
試合開始からしばらくが経ち、ロンが呟いた。
「仕方ない。僕が取られるしか」
「「「ダメ!」」」
ロンの呟きに私たちは同時に叫んだ。
「これがチェスなんだ!僕が前進するとクイーンが僕をとるから、そしたらハリー、君が動いてキングにチェックメイトをかけるんだ!」
私たちの叫びにロンはきっぱりと言った。私たちはなおも食い下がったが、結局ロンの言う通りに動く以外に道はないようだった。
「じゃあ行くよ。いいかい、勝ったらここでグズグズしてないで先に行けよ」
そしてロンは取られた。頭を石の腕で殴りつけられ、盤外に投げ出された。ロンは気絶しているようだった。
そしてチェスは終わった。ハリーが進むと、白のキングが王冠をハリーの足元に投げ出したのだ。チェスの駒は左右に分かれ、道を開けてお辞儀した。私たちは一度だけロンの方を振り返り、順路を進んでいった。
「あとはスネイプとクィレルだけね」
ハーマイオニーがポツリと呟いた。
次の部屋の扉を開けると、中にはただテーブルがあってその上に形の違う7つの瓶が一列に並んでいた。扉の敷居をまたぐと、ちょうど通ってきた入り口でたちまち火が燃え上がった。その火はただの火ではなく紫の炎で、私はちょっとだけテンションが上がった。同時に前方のドアでも黒い炎が燃え上がった。私たちは部屋に閉じ込められた。そして私のテンションはさらに上がった。
「見て!」
部屋の中の方へ進むと、ハーマイオニーがテーブルの上に巻紙を見つけて取り上げた。私とハリーはハーマイオニーの肩越しにその紙を読んだ。
前には危険 後ろは安全
君が見つけさえすれば 二つが君を救うだろう
前進させるは七つに一つ
後退させるも七つに一つ
二つの瓶はイラクサ酒 残る三つは殺人者
どれかを選び ここからすぐに去るがいい
選ぶに役立つヒントは四つ
まずは一つ目 第一に
毒入り瓶のある場所は いつもイラクサ酒の左
そして第二に両端の 二つの瓶は種類が違う
君が前進したいなら 二つのどちらも友ではない
第三のヒントは見た通り 七つの瓶の異なる大きさ
小人と巨人のどちらにも 死の毒薬は入ってない
第四のヒントは双子の薬 ちょっと見た目は違っても
左端から二番目と 右の端から二番目は いつも同じ味がする
それは謎かけのヒントが書かれた紙だった。第四の試練は論理パズルだったのだ。