「ほう、謎解きですか。腕が鳴りますね」
「そうだめぐみん、どっちが早く解き終わるか勝負しない?それで食い違ったら話し合えばいいし」
「お、いいですね。やりましょう」
ハーマイオニーの持つ紙を見てそう言う私に、ハーマイオニーが言ってきた。この手の勝負は久しぶりですね。一年前にゆんゆんの思考をひたすら邪魔して勝ちありがたくおやつを頂戴したとき以来でしょうか。
「ちょっと二人とも、何言ってるんだよ。そんなことしてる場合じゃないだろ」
そんな私たちにハリーがそう言ってきた。
「いえ、この勝負はけっこう合理的です。互いに影響されずに同じ回答に辿り着いたなら多分それは合ってますし、違ってたならそこで議論すればいいだけですから」
「ああ、そうなんだ。それなら任すよ。頑張って」
そんなこんなで私たちは紙を見つめたり瓶を覗き込んだりしながら必死に先に進むための薬の入った瓶を探した。そして数分もしないうちに、私たちは同時に同じ瓶を指差していた。
「この一番小さい瓶が『石』の方へ行かせてくれる薬で」
「この丸い瓶が戻るための薬ですね」
私たちは『賢者の石』への薬の入った瓶を覗き込んだ。侵入者が先に飲んだからか、中身は一口か二口分しか残っていなかった。
「一人分しかないわね。どうしましょうか」
ハーマイオニーはそう呟いた。私たちは顔を見合わせた。
「……うん、そうだね。めぐみんにハーマイオニー、丸い瓶の薬を飲んでくれ」
そうしていると、何か考えていた様子のハリーがそう言った。
「はぁ!?何言ってるんですかハリー!」
「いいから少し聞いてくれ。戻ったらロンと合流してほしい。それから鍵の部屋の箒でホグワーツに帰って、まっすぐフクロウ小屋に行ってダンブルドアに手紙を送ってくれ。僕だけじゃ先を行ってるスネイプを止めるなんて無理だ」
「侵入者と戦うことを考えるならあなたではなく私が適任です。私が行きます」
私がハリーにそう言うと、ハリーはかぶりを振った。
「いや、僕が行くべきなんだ。向こうにはヴォルデモートがいるかもしれない。もしそうなら、僕が一番実績がある」
どうやらハリーに譲る気はないようだった。だがもちろん私だって戻る気は無いわけで。
……仕方ない。安全とは言えないが、これしかなさそうだ。
「ハリー、私にはここまで来て戻る気はさらさらありません。なので、私が瓶の中身をひと舐めするので残りをハリーが飲んでください。魔法薬は一定量飲まないと効果が出ないような代物ではありませんからね、それで十分でしょう」
「それは本当に大丈夫なの?」
私の言葉にハリーはハーマイオニーに聞いた。ハーマイオニーは私の方をじっと見ながら頷いた。ハーマイオニーからの肯定が出た。
「ええ。効果は弱まるけど、消えるわけじゃないわ。大丈夫だと思う」
「というわけでハリー、二人で行きますよ」
私がそう言うと、ハリーはゆっくりとうなずいた。話が決まったのを見て、ハーマイオニーは戻るための薬を飲んだ。
「二人とも、危なかったらすぐに逃げ戻ってくるのよ。ダンブルドアが帰るまで粘らなくても大丈夫、ダンブルドアならきっとどうにかするわ……本当に、本当に頑張ってね、二人とも」
「ええ、任せてください。そちらこそできるだけ早くダンブルドアに連絡してくださいね」
「もちろん。幸運を祈ってるわ」
そう言うと、ハーマイオニーは走って部屋から出て行った。残された私たちは二人で瓶の中身を飲んだ。薬を飲むと、冷たい氷が体内を巡る感覚がした。
「さあ、行きましょうか」
そう言って、私は黒い炎の中に足を踏み出した。薬のおかげか私は炎の熱を全く感じずに──
「……ん?少し熱さを感じるような」
「めぐみん!燃えてる燃えてる!ローブの端っこに火がついてるよ」
「え?……ギャーーー!!!」
──なんてことはなく、普通に私のローブに火がついて私はとても強く火の熱さを感じていた。
「あ、ちょっと、待ってよめぐみん!」
何やら私に呼びかけるハリーを置いて、私は全身に火が回る前にダッシュで炎を突っ切った。
何とかローブの火が大きくなる前に炎の域を越えて魔法で火を消した私は、同じく走ってきたハリーに苦言を食らっていた。
「やっぱりあの量を二人ではダメだったじゃないか。僕は燃えこそしなかったけど、あの通路を通るとき熱すぎて死ぬかと思ったよ」
「いやでもほら、死ななかったじゃないですか。それに熱いで済んだあたり、ちゃんと効果は出てるでしょう?」
「ちゃんと?火が付いたり死ぬほど熱かったりするのが?」
「ご、ごめんなさい」
今までの先生たちの仕掛けた罠の傾向を見る限り、本来なら安全に突破できたはずだ。確かに薬はあの量だと不十分だったかもしれない。
「……いや、こっちこそごめん。僕が偉そうに言えることじゃないや。薬のパズルを解いたのはめぐみんとハーマイオニーなのに。ごめんめぐみん、『石』に近付くにつれて頭の傷の疼きが強くなってるせいで少し気が立ってるみたいだ」
「いえ、量が少なかったせいで効果が薄かったのは事実ですから。それより大丈夫ですか?きついならここで休んでても大丈夫ですよ。私が一人で解決してきますから」
私がそう言うと、ハリーは首を横に振った。
「いや、そこまでじゃない。僕も行くよ」
そう言って、ハリーは次の部屋の扉へと向かって行った。
次の部屋は先ほど通ったチェスの間より少し小さいくらいの空間になっていた。中には何もないように見えたが、目を凝らすと巨大なトロールが奥の扉に寄りかかって寝ているのが見えた。
「……トロールですね。扉を塞いでます」
「トロールだって!?……本当だ。どうしようめぐみん、今度はハロウィンの時みたいにうまくやれる気がしない」
トロールを見て、ハリーはそんなことを言った。確かにあの時のは奇跡みたいなもんですからね。トロールは本来大人の魔法使いでも手こずる相手ですし、仕方ないでしょう。
「そうですね、一つ作戦があります」
「本当!?」
私がハリーにそう言うと、ハリーは勢いよく反応した。
「ええ。まず私がトロールを起こして引き付けるので、ハリーはその隙に奥の部屋へ行ってください。おそらくそこに『石』があるはずです」
「そんな、ダメだよめぐみん!一人でトロールに対峙するなんて!」
私が作戦の内容を告げると、ハリーは首を振りながらそんなことを言ってきた。全く、今はそんな場合じゃないでしょう。
「ハリー。あなたの頭の傷が疼くということは、おそらくこの先にはヴォルデモートがいるはずです。ヴォルデモートが復活することのを阻止したいのでしょう?なら、今は一刻を争う時です」
「めぐみん……」
本当は私が行ってヴォルデモートをボコってやりたいのだが、ハリーにトロールを任せるのはいささか以上に不安だ。それにハリーにはヴォルデモートの呪文から生き延びた実績がある。ならすぐに死ぬことはないだろう。つまりハリーが次の部屋に行ってすぐに私がトロールを倒せば何の問題もないわけだ。
「ハリー。ここは私を信頼してトロールを私に任せてくれませんか?」
「……うん、分かった。絶対に死なないでくれよ!」
「もちろんです、絶対に私がトロールごときにやられることはありません。安心してヴォルデモートから『石』をぶんどってきてください」
私たちは二人で顔を見合わせて頷きあった。そしてハリーは扉が自由になればすぐに進めるように扉の近くへと行った。それを見て、私はトロールに杖を向けた。
「インセンディオ!」
私の杖から炎が吹き出た。赤く強く燃え上がる炎は真っ直ぐにトロールへと進んで行き、トロールの全身を包み込んだ。
「グォォォ!」
感覚の鈍いトロールも流石にこれはこたえたようで、そんな叫び声を上げて立ち上がった。そして火を放った私を見てゆっくりとこちらに向かってきた。
「ハリー、今です!行ってください!」
「頑張れよめぐみん!」
ハリーはそう行って先へと進んだ。よし、これで作戦の第一段階にして最も重要な部分は済んだ。
「ふふ、ハロウィンの時はダメでしたが今度こそ倒してあげましょう」
私はハリーからトロールに視線を切り替えてそう呟いた。
平然と死亡フラグを立てていくスタイル。