ハリーとロンが汽車に乗り遅れたこと以外には特に事件もなく、私たちはホグワーツに着いた。ジニーと別れハーマイオニーにゆんゆんと一緒に上級生たちの流れについて歩いて行こうとすると、一年生らしき女子生徒にローブを掴まれた。
「えっと、何ですか?」
私が振り向きつつそう聞くと、その女の子は私に注意するように言ってきた。
「ダメですよ。一年生はこっちです。お姉さんたちについていきたい気持ちも分かりますが、新入生はボートから行く決まりなんです。ほら、行きますよ」
「え」
そしてそう言うなり、私のローブを掴んだままゆんゆんたちとは反対方向の一年生のコースを歩き出した。
「え、ちょ、私二年生なのですが!あの二人は姉でも何でもなく友達で」
「あなたの体格で二年生なわけないでしょう。東洋人って小さいらしいですけど、そこまで極端ではないはずです」
「本当なのに!」
悲しいことに一つ年下のはずのその子に力で普通に負けていた私は、その子に引っ張られる形でボートに向かって行った。そしてそんな私に気づくことなくゆんゆんとハーマイオニーは歩いて行った。遠くに、友達の作り難さで盛り上がる二人の声が聞こえていた。元ぼっちどもめ。そんな話題で盛り上がるんじゃないとか、その友達が下級生に連行されてるがいいのかとか、そんな事を考えながら私は湖に向かった。
「お?なんでお前さんがいるんだ?こっちは一年生専用だぞ」
ボート乗り場に着くと、私のことを見つけたハグリッドがそう言ってきた。そんなハグリッドに、私を連れてきた子が言った。
「え?この子は一年生じゃ」
「何を言うとるんだ。この子は二年生だぞ。それも学年最優秀の一人だ。お前さんらだって新聞で写真くらい見たんじゃないか?何せ少し前大騒ぎになった『例のあの人』の事件解決の立役者だからな」
ハグリッドのその言葉に、周囲がざわついた。ふふん、こういうのもけっこういい気分ですね。学校のみんなはこういうことしてくれないので少し新鮮です。
「ということは、あなたがめぐみんさんですか!?」
「ええ、まあ。あなたが体格の小ささから新入生だと判断した二年生のめぐみんです」
そうしていると、女の子が驚きつつ聞いてきた。何でしょう。私の名前はもうそんなに有名になったのでしょうか。流石は私。
「姉から聞きました。何でもマグル生まれなのに『生き残った男の子』や名家の子息令嬢たちを抜いて学年トップだったそうで。魔法に関するセンスが抜群だと褒めていました」
「ああ、なるほど。そういうことでしたか。少し残念ですが、まあいいでしょう。それで姉というと誰ですか?」
「スリザリンのダフネ・グリーングラスです」
私の問いにその子は答えた。なるほど、ダフネの妹でしたか。確かにあの子も妹がいるみたいなことを言ってましたね。
「ダフネですか。彼女、家ではそんなふうに私のことを言ってるんですね。てっきりマグル生まれのくせにできるやつ程度だと思っていました」
「いえ、そんなことはありません。姉はとてもめぐみんさんのことを気に入っているようで、ホグワーツの話をするときは大概あなたの話が出てくるくらいですよ。指摘すると否定されますけどね」
「ほう、そこまでですか」
ダフネは分かりやすくツンデレだが、それは家でも健在なようだ。しかしいい話を聞いた。今度このネタでダフネをからかってやろう。そんなことを考えていると、ハグリッドが声をかけてきた。
「話が盛り上がってるところすまねえが、お前さんはどうするんだ?今から戻っても上級生たちには追いつけないだろうし、ボートで行くか?」
「そうするより他なさそうですね。まあ二年連続でボートに乗るなんてホグワーツの長い歴史でも稀でしょうし、それはそれでいいでしょう」
「そうか。そんならどれでも好きなのに乗っていけ」
「そうします」
ボートで行くとホグワーツについてから先生や生徒たちに色々と言われるかもしれないが、後輩との縁を作るのも悪くない。
「すみません。私のせいで」
「いえ、体の小ささを度々言われたこと以外は特に何とも思っていませんから」
「すみませんでした」
そんな私にダフネの妹が謝ってきたのでそう返すと、その子はもう一度謝ってきた。何も思ってないと言ってるのに。
「ちなみに次に小さいと言えば怒るのでそのつもりで」
「本当にすみませんでした。というか、その、気にしているのですか?女性なのですから体格は小さい方が可愛らしくていいと思うのですが」
「あなたもそう思うわよね。ほらめぐみん、やっぱり体のことなんて気にしなくていいと思うわよ」
ボートに乗りつつダフネの妹の放った言葉に、そう言ってジニーが後ろから同じボートに入ってきた。
「別に体が小さいことで実害なんて起きてないんでしょ?」
「ちょうどさっき起こったところなんですが。というかジニー、後ろにいたんですね。声をかけてくれればよかったのに」
「会話に入るタイミングを見計らってたのよ。ロンの言う通りめぐみんの気が短いならちょっと避難しようと思って」
「私への認識に関してちょっと話があるのですが」
私がそう言うのを無視して、ジニーはダフネの妹に向かって言った。
「私はジネブラ・ウィーズリー。ウィーズリー家の末っ子よ。みんなにはジニーって呼ばれてるわ。あなたは?」
「私はアステリア・グリーングラスです。アステリアと呼んでください。七年間同じ学び舎で過ごす者として、どうぞよろしくお願いします」
「よろしく。というかあなた、グリーングラスの人なのに私がウィーズリー家だって分かっても丁寧にしてくるなんて変わってるわね」
「よく言われます。マグルの存在を受け入れているだけで血を裏切る者扱いをする方がよっぽど変わってると思うんですけどね」
そう言えばダフネも妹は生まれで差別をしないとか言っていた。ダフネも言うほど露骨ではないし、グリーングラス姉妹は綺麗に育ってるようだ。
「マグルと言えばめぐみんさん、姉がめぐみんさんのことをマグル生まれだと言うたびに母様や父様が微妙な顔をするのですが、何か心当たりはありますか?」
「そう言えば父さんもめぐみんにあんまり反応しなかったわね。マグルに関することならすぐに飛びつくのに」
二人が話しているのを横で聞いていると、二人は私にそう聞いてきた。十中八九紅魔族のことを知ってるからだろう。紅魔族は魔法族でなかったとしても魔法のようなものを使える人もいる上に、魔法を使ったからといってそれカッコいいな以上の反応をする人もいない。そして先生方の反応を見る限りここで大人しくしてたわけでもなさそうだし、大人たちはそれなりに紅魔のことを知ってそんな反応をしてるようだ。
「私は生まれが紅魔族と言うのですが、その紅魔族は特別な集団であってマグルかと言われれば少し違う気もするのです。あなたたちの両親はそれを知っていたのでしょう」
「うーん、それだけであんな微妙な反応をするものでしょうか」
微妙な表情をするということはおそらく紅魔族の誰か、世代的にはおそらくゆんゆんのお母さんあたりが何かやらかしたのだろうが、色々と面倒だから言わないでおこう。
「純血主義の人からすれば面倒な存在だからでしょう。それより二人とも、ホグワーツの予習は済ませましたか?魔法薬学のスネイプ先生は序盤から厳しいので魔法薬調合法をしっかりと読んでおくといいですよ」
「分かったわ」
「めぐみんさん、実は分からないところがあって姉に聞いたのですが姉も分からないところがあって。後で聞いてもいいですか?」
「ええ、いいですよ。ジニーもですが、じゃんじゃん頼ってくれていいですからね」
そんなことを話しながら、私たちは湖上をホグワーツに向かって進んで行った。
ホグワーツ城につき大きな木製の扉から中に入ると、去年と同じくマグゴナガル先生がそこに立っていた。ハグリッドから先導を引き継ぎ歩き始めようとしたところで、先生はギョッとした目で私のことを見つけた。
「紅魔。なぜあなたがここにいるのですか」
「他の一年生に一年生と間違えられて連れて来られました」
私がそう言うとアステリアは申し訳なさそうな顔をし、マクゴナガル先生は口許をピクピクさせた。
「そうですか。なら先に行って席に着いてなさい。もう皆揃ってますから。一年生の皆さんは私に着いてきてください」
「分かりました。ではアステリアにジニー、また後で」
私はそう言って、パーティー会場の大広間に向かった。大広間に入ると、先生の言った通りすでにほとんどの生徒が集まっていた。グリフィンドールの机に目を向けると、ハーマイオニーにパーバティ、ラベンダーが私を見つけて手招きしていた。
「二人とも、お久しぶりです。夏休みはどうでしたか?」
「いや私たちのことよりまずはあなたのことでしょ」
「めぐみん、なんで馬車に乗る前にどこか行ったの?というかなんでこんなに遅くなったの?」
そんな三人のいるテーブルの席に着くと、パーバティにハーマイオニーからそんなことを言われた。
「色々とありましてね。それよりハリーたちはやはり来てないですか」
「色々って……まあいいわ。二人ならまだ来てないわよ。ホント、どうしたのかしらね。ま、まあ何でもいいのだけれど」
「パーバティ、そわそわしてるのバレバレだよ。でも二人は何して乗り遅れたんだろうね。『あの人』でも見かけたのかな」
「流石にそれはないでしょう。闇の帝王なんて名乗るくらいには役割というものを分かってるのですから、登場するとしてもラスボスらしく来るのは学期の最後になるはずです」
「めぐみんは『あの人』に何を期待してるの?」
私が言うと、ハーマイオニーは呆れ顔でそう言ってきた。イケメンであることや黒いマントを羽織っていることなど色々と期待してることはあるのだが、それを言うともっと呆れられる気がしたから言うのはやめておいた。
「皆さん、静粛に。これより組分けの儀式を開始します」
そうしているうちに広間の脇からマクゴナガル先生が現れ、組分け帽子がセットされた。