「全く、なぜ私が玄関掃除なんてものをしなきゃならないんですか。煽ってきたのはドラコだというのに」
クィディッチの球場での殴り合いから二日後、私はその副産物としてマクゴナガル先生から言い渡された玄関掃除をしていた。
ちなみにドラコは無罪放免。納得がいかなかった私は、ドラコのカバンの中に森で見つけたGを入れておいた。
授業中に見つけて慌てふためく姿が面白かったです。
しかし面倒ですね。なぜホグワーツには掃除機がないのでしょうか。まあこの場所では電化製品が壊れてしまうわけですが。何と不便な。電化製品を受け入れないとかどこの未開部族ですか。動く写真はあるのに。
まあ愚痴っていても仕方ありませんし、この広い玄関の掃除、少しくらい魔法の練習に使ってみましょうか。校内ですから別に怒られたりはしないでしょうし、
「というわけで早速やっていきましょう。まずはそうですね……ウィンガーディアム、レヴィオーサ!」
杖を振り、箒を宙に浮かべる。さて、次はどうしましょうか。物を自在に動かす魔法、私はまだ知らないんですよね。図書館で探しても木とか体とか限定的なものだけを、しかも少しの間だけ動かせるものしかありませんでしたし。
「なのでここは自作で行きましょう……箒に宿りし精霊よ、今こそ我が呼び声に応えん!モビライズ!」
私がそう言って杖を振ると、箒は動き始めた。
そしてサッと一回だけ床を掃き、止まった。
…………………………。
「モビライズ!」
サッ。
「モビライズ!」
サッ。
………………………………。
「モビライズ!モビライズ!モビライズ!モビライズ」
サッサッサッサッ。
……………………………………………………。
「ふふふ、そうですかそうですか。さては箒あなた、私のことをおちょくってますね?いいでしょう。その身体、私が自由を奪ってあげます!」
この私が!天才たるこのめぐみんが!本気を出してあげましょう!
魔力を使って一掃きしかしない箒に、私は持ってきた本を開いて呪文の作り方のヒントを探った。なぜかムキになってしまっているが、よく考えてみれば私はいずれ爆裂魔法を作る身。簡単にうまく呪文を作れない経験をしておいても悪くはないでしょう。
そんなことを考えながら、私は試行錯誤を繰り返した。
「ふふ……ふふふ、ようやく、ようやく完成しました!」
あれから三時間ほど。私は一回の呪文で箒を自由に操作するための魔法の開発に勤しんでいた。いや、正確には一時間ほどである程度は完成していたのだが、より完璧をと玄関ホールを無駄なく・隈なく掃除するルートを箒に覚えこませるのに時間がかかってしまったのだ。
正直やりすぎ感は否めない。が、別に不都合もない。魔法訓練ですし、むしろいいことでしょう。
「今度こそうまくいってくださいよ?──ネオ・モビライズドルート!」
そうして、私は作り上げた呪文を唱えた。
私の魔法を受けて浮かび上がり、ホールの隅へと行く箒。そしてその箒は丁寧かつサクサクとホールの掃除を進めて行く。
「……だからドラコ、私は理事の仕事でここに来ているだけだと言っているだろう。お前は私をただの口喧嘩の手札として使うのかね?」
「い、いえ、決してそのようなことは。しかし父上、あいつは僕だけでなくマルフォイ家までもバカにするような言動をしてくるんです!僕も色々と努力したのですが、奴の頭のおかしさゆえに効果も少なく……奴はマグルのようで、我が家のことも知らないから言えるのでしょう。なのでここは一つ、父上にマルフォイ家の凄さを教え込んでいただきたいのです」
そうしていると、ドアの外からドラコと誰かが話しているのが聞こえてきた。どうやら父親らしい。
段々と声が近づいてきてますし、多分ここを通るのでしょう。もうカツンカツンと響く足音も聞こえてきてますし。ドラコのお父さんと言えば何やらすごい人のようですし、一目見るのもいいかもしれませんが……。
まあ関係ありませんね。今は新魔法の方が重要です。
特に支障なく進んで行く箒。何と効率よく素晴らしいルートを進むのでしょう。やはり私は天才ですね。
「なるほど。まあ調子に乗っている者に立場を分からせるのも我が家の務めか。それで、その不届き者の名前はなんと言う」
「紅魔めぐみんです。あ、ほらちょうどすぐそこにいるやつです」
「……紅魔だと?」
そして最後の数メートルを進み切り、私の箒は無事に掃除を終えた。やりました!さすが私、天才!
私がガッツポーズを決めたちょうどその時、ドラコとドラコ父が扉を入ってきた。
「はっ、昨日ぶりだな紅魔!箒でホール掃除のなんて、本当に惨めな奴だな。今から父上が我が家の格というもの、魔法界でのあるべき姿勢というものを教え込んでやるからありがたく思えよ!……紅魔?なぜ満面の笑みなんだ?」
「たった今素晴らしいことがありまして。というわけでほら、イェーイ!」
「は?いぇ、イェーイ?」
戸惑うドラコを勢いで押し通し、ハイタッチを交わす私。ええ、ええ、やはり喜びとは分かち合うものですね。
そんなことを思いながらドラコ父の方に目をやると、ドラコ父の顔はなぜか強張っていた。
ふむ、大物にしては余裕がないですね。ここは一つ自己紹介でもしてリラックスさせてあげましょうか。
「我が名はめぐみん!紅魔家随一の天才魔法使いにして、いずれ爆裂魔法を習得するもの!あなたはドラコのお父さんですね?魔法界でのあるべき姿を教えるとのことですが、どんなのです?かっこいいしきたりでもあるのですか?」
おかしい。もっと強張った気がする。
「……はっ!クソっ、紅魔お前、僕に何をさせるんだ!まあいい、これから僕の父上が特別にお前に礼儀というものを教え込んでやる!感謝しろよ!」
そんなドラコ父の顔を見ず、ドヤ顔でそう言うドラコ。そしてそんなドラコに、ドラコ父は言った。
「あー、ドラコ。ちょっといいか」
「何ですか、父上?」
呼ばれて振り返るドラコに、ドラコ父は言った。
「父上、用事思い出したから帰るな」
そう言ったドラコ父は、颯爽とターンして出口の扉へと向かっていった。
「え?ちょっと父上!?調子に乗ってる者に礼儀を教えるのもマルフォイ家の仕事ではなかったのですか!?」
「うるさい!ローブの袖を掴むんじゃないドラコ!私はもう紅魔族とは関わらないと決めたのだ!ああ、せっかく奴らはホグワーツ以外でイギリスには来ないのに、なぜ私はホグワーツの理事なんぞをやっているのだ。自分の有能さが今だけは恨めしい……とにかく!私は!帰る!」
ローブに半分しがみついて止めようとするドラコに、何やら喚きながら外へ出ようとするドラコ父。何でしょう、紅魔族にトラウマみたいなものがあったりするのでしょうか。学生時代に私たちの上の世代が何かしたんでしょう。
「父上……おい紅魔、お前父上に何をした!父上のこんな情けない姿、僕は見たことがないぞ。お前がいつもみたいに何かしたんだろう!」
「ドラコ、今情けないとか言ったか?」
「言ってません」
言ってたし十分情けないと思う。
そんなことを思う私をよそに、親子の言い合いは続く。
「それに父上、紅魔族とは何ですか!こいつはマグルですよ!」
「違うのだドラコ。お前は知らないだろうが、あの見るからに頭がおかしそうなのは紅魔族と言ってな、極東は日本のある場所に住まうトンチキ集団の一員なのだ。純粋な魔法族ではないが、マグルでもない」
「そんな、魔法族名鑑にはどこにもそんな変なのはなかったはずです」
どうしましょう、すごい殴り飛ばしたいです。まあ今日の私は機嫌がいいので許しますけど。それに一応、私も魔法界における紅魔族の位置については知りたいですしね。
「見たら分かるだろう?紅魔はキワモノとかいうレベルではない頭のおかしな連中の巣窟だ。そんなものを本に載せられると思うか?」
「確かに、この紅魔を見ればそれも納得してしまいそうですが」
……やっぱり、話が終わったら一発くらいはお見舞いしてもいいんじゃないでしょうか。うん、それがいいですね。そうしましょう。
「まあ聞け。ドラコ、接したお前なら分かるだろうが、紅魔族とは常にああなのだ。そしてあまりにもああなものだから、魔法界の中ではなかったことにしようという動きもあってな。名鑑には紅魔族は載っていないのだ。ゆえに当時の私もお前のような反応をしていたし、当時の我が父も今の私のような反応をしていた。時代は巡るものだな……」
「父上……」
そんなことを内心で考えている私をよそに、遠くを見るような目をする親子二人。経緯は腹立たしいが、結果だけ見れば私たちは「失われし種族」「存在しないはずの恐怖」みたいなふうにも言えるはずです。
カッコいい……
結果オーライ。許しましょう。
「というかあんなふざけた種族、口で言っても信じはしまい。実際、自分の目で見て確かめることが魔法界では推奨されているのだよ。まあそんな機会、ない方がいいに決まってるが」
「確かにそうですね。僕も信じてなかったと思います」
「そうだろうな。というわけで私は帰る」
ドラコがそう言ったところで、ドラコ父は大きくため息をついた。そして今度こそドラコに邪魔されずに扉の方へと歩いて行き、しかし数歩と行かないところで立ち止まった。
「ああしかし、そうだな」
そしてこちらを振り返り、何とも不気味な笑みを浮かべて言った。
「めぐみんと言ったか。考えもしなかったが、お前がここにいることは、ともすれば奴への意趣返しになるのかもしれんな」
それだけ残し、ドラコ父は今度こそその場を立ち去った。