十月の終わり。冬の寒さが近づいてきたこのホグワーツでは、去年と同様に開催されたハロウィンパーティーの会場で、私は飲んでは食い、大騒ぎをしていた。
「だから言ってるじゃないですか!ヴォルデモートは私が討ち果たすべきラスボスなんです。予言しましょう!ヴォルデモートは、私が最上級生の時にホグワーツに攻め込んでくる!」
「ちょっとめぐみん、何をトチ狂ってるの?」
「そんなわけないじゃない。妄想もいい加減にしたほうがいいわよ」
私の言葉を呆れながら否定してくるパーバティとラベンダー。全く、分かってませんね。紅魔族の人生とはすなわち物語。ゆえにラスボスが存在するものです。何なら一年刻みでヴォルデモート絡みの事件でも起こるんじゃないでしょうか。
「いや実際、未来なんて何が起こるか分からないじゃないですか。なら何を期待したっていいでしょう?」
「それでめぐみんは何で悪いことを想像するのかしら」
「悪いことなんかじゃありませんよパーバティ。活躍の場が増えることは素晴らしいことじゃないですか」
「『例のあの人』が起こす災禍にもちゃんと目を向けなさい」
「紅魔の物語は漏れなくハッピーエンドなので大丈夫です」
「何が大丈夫なの?」
むう。去年の活躍を見てくれれば多少は賛同してくれてもいいのに。
「それよりめぐみん、ハリーたちは今日はどうしたの?どこにも見当たらないけど」
そうしていると、ラベンダーがそんなことを聞いてきた。
「さあ?この会場のどこかにいると思っていたのですが、確かに見当たりませんね。また何かに巻き込まれてるのでしょうか。実に羨ましい」
「何をどう羨めるのか分からないのだけど」
私がそう言うと、パーバティが変わらず呆れ顔で言ってきた。いやだって羨ましいじゃないですか。何もないよりあった方が楽しいでしょう。
「あ、いました。こんばんは、めぐみんさん。パーティー楽しんでますか?」
そんなことを話していると、テーブルを移動してきたらしいアステリアが後ろから声をかけてきた。
「アステリアですか。こんばんは。もちろん楽しんでますとも。……おや?ダフネも一緒ですか」
その声に振り返ると、そこにはアステリアだけでなくその姉、ダフネも立っていた。
「何よ。私がいちゃ悪い?」
「そんなこと言ってませんよ。珍しいなと思っただけです」
ダフネ、私がグリフィンドール生と一緒にいるときはあまり話しかけてきませんし。
「言っておくけど、私はアステリアに付いてきただけだから。他意はないわ」
「お姉ちゃんはこう言ってますけど、聞き流してくださいね。スリザリンのテーブルにいる時からこちらをチラチラ見てる姉があまりにアレなので、私が連れてきたんです」
「はぁ!?何言っちゃってんのかしらこの妹は。そんな事実は存在しないわ。勘違いも甚だしいところね」
そう言ってやれやれと首を振るダフネ。そんなダフネだが、残念ながら顔が赤くなっているのは隠せていなかった。
そしてそんなダフネを見て、最初は怪訝そうな顔をしていたラベンダーとパーバティは和んだような顔をして言った。
「「素直になれない子っていいわねぇ」」
「誰が素直になれない子よ!全く、これだからグリフィンドールは」
そう言いながら、空いていた席に座るダフネ。これだからグリフィンドールはと言いながらグリフィンドールの机につくの、なんか面白いですね。いえ、全然歓迎なんですけど。
「えっと、そうですね。……んんっ、初めまして。アステリア・グリーングラスです。いつも姉がお世話になってます。私も相席してよろしいでしょうか?」
そんなダフネを見ながら、アステリアはラベンダーとパーバティの二人に向かってそう言った。
「ああ、アステリアね。もちろんいいわよ。めぐみんから話は聞いてるわ。マグル差別をしない、優秀ないい子だそうね。私はパーバティ・パチルよ。よろしく」
「私はラベンダー・ブラウン。よろしくね」
そんな二人に、アステリアはよろしくお願いしますと返して席に着いた。名家の子ですし、やはり社交的ですねアステリアは。ゆんゆんもこの半分くらい……いえ、一割でいいから社交性を身につけてくれればいいんですが……レイブンクローのテーブルを見る限り、まだ無理そうですね。話かけられてはあわあわし、変に気を遣われて一人にされるゆんゆんを見ながら、私はそう思った。不憫な。
そんなことを考えて小さくため息をついていると、パーバティがアステリアを見て言った。
「しかしあれね、もう私たちも先輩なのよね。グリフィンドールの一年生たちで分かってたけど、他寮の子とも関わると改めて実感するわ」
「約一名、始業式の日にその感覚を半分くらい味わえなかった人がこの場にいるけどね!……あ、ごめんめぐみん、もう気にしてないのかと思ってて……ねえ、謝る、謝るからにじり寄ってこないで!」
そんなパーバティの言葉に続いてそんなことを言ってくるラベンダー。全く、忘れようとしてたことを思い出させるなんて。
「あの時はすみませんでした」
そうしていると、アステリアがそう言って頭を下げてきた。おっと。
「いえ、アステリアはいいのです。頭が一年生のラベンダーが全て悪いので」
「ねえ、今の私ってそんなに悪かった?それと一年生は私の頭じゃなくてめぐみんの体……あの、ごめん、失言だったわ、言うつもりはなかったの、だから許して……ね?」
またもや私を煽るようなことを言うラベンダーに、私はニコリと笑った。ホッとするような顔をするラベンダー。
「許してくれるのね?」
「許すわけないでしょう!リクタスセンプラ!」
「やっぱり!いやあああ!」
私が杖を素早くポケットから取り出してラベンダーに呪文を唱えると、ラベンダーはそう叫んだ後に全身を丸めて変な声を出し始めた。
「!?ひゃうっ!ひゃ、やめ、あはは、これ、めぐみ、ひひっ、止め、はは、死ぬ、ひゃは、死んじゃう!」
「めぐみん、これ何の呪文なの?」
「くすぐりの呪文です。深刻度は低い割にけっこうキツいので、こういう時に便利なんですよ」
「おねが、解説してないで、あは、ふ、ひひ、呪文、はひ、解いて、あんっ、よ!」
「何でもいいけど、鬱陶しいから少ししたら止めなさいよね。私がここの机に来たのはうるさい声を聞くためじゃないの」
そんなラベンダーを見て、何をするでもなくそう言うパーバティとダフネ。やった私が言うのも何ですが、大概ひどい反応ですね。
「フィニート・インカンターテム!あの、大丈夫ですか?」
「はぁ、はぁ、ひー、ふぅ……うん、何とか。ありがと、アステリアちゃん」
そうしていると、見兼ねたアステリアが終了呪文でラベンダーを助けた。ほう、入学して二ヶ月で終了呪文ですか。やはりアステリアは優秀ですね。入学前に家で練習とかしてたんでしょうか。
「全く、いつも一緒のパーバティさんならまだしも、何でお姉ちゃんまでそんなに馴染んでラベンダーさんを放置するの!いくらこれを機にこのグループと仲良くしたいからって、パーバティさんと同じ態度を取ればいいってわけじゃないんだよ!」
「はぁ?そんなんじゃないんですけど?変な言いがかりはやめてくれないかしら、アステリア」
「そんなこと言うんだったらもう相談に乗ってあげないよ!いつも『どうやったらめぐみんだけじゃなくて他のグリフィンドールとも仲良くできるかしら?』とか私に聞いてきてるくせに!」
「は!?ちょっと、それは今言っちゃダメじゃない!今だけはそれ言っちゃダメなやつじゃない!今からでも撤回しなさ……はっ!」
そんなことを思っていると、アステリアとダフネが口喧嘩を始め、そしてダフネが自爆した。ふーん?へえ?なるほど?
私とパーバティ、ラベンダーは視線を交わし、笑顔でダフネに語りかけた。
「ダフネ、そんなことを考えてたんですね。そうなら私に言ってくれればよかったのに。グリフィンドールはいつでも歓迎ですよ、ええ」
「へえ、ダフネあなたそんなこと思ってたのね。いつも遠巻きに見てるだけだったから気がつかなかったわ。ごめんなさいね」
「ごめんねダフネ、気がつけなくて。グリフィンドールのこと敵視してるとばかり思ってたわ。いつでも遊びに来ていいのよ?」
「ああああああ!あんたたちニヤニヤすんな!こうなるから嫌なのよグリフィンドールは!」
またまた、そんなこと言って。
「本心は?」
「本心よ!」
そう言うダフネに、ただニヤニヤする私たち。そんな私たちを見て顔を真っ赤にしながらぐぬぬとこちらを睨むダフネ。
「ああ、もういいわよ!ええ、そうよ。私はグリフィンドールの生徒とどうやったら仲良くなれるか考えてたし、あんたたちのことも気にしてたわ!悪い!?」
そして、ダフネは叫ぶようにしてそう言った。
「開き直りましたね」
「開き直ったわね」
「開き直ったね」
「何なのよあんたたち!」
しかしあれですね。こうして見るとダフネの素直じゃない性格も可愛らしいというか、微笑ましいですね。
「何ニヤニヤしてるのよ!」
「気にしないでください」
「気にするから言ってるのよ!」
そうしていると、ダフネの様子をニコニコ顔で見ていたアステリアが言った。
「お姉ちゃん、仲良くできそうでよかったね」
「よくないわよ!あんた、自分のしたこと分かってるの?私はもっと、こう、いい感じに、クールに仲良くなりなかったのよ!」
「あ、それはアステリア関係なしに無理だったと思いますよ」
「何よ!」
だってダフネ、割と初期からデレるタイプのツンデレみたいですし。
「はぁ……分かった。もういい。諦めるわ。あんたら、仲良くしてくれるんでしょう?それならもう何でもいいわよ」
「拗ねましたか」
「拗ねたわね」
「拗ねたのね」
「しつこいわよ」
しかしあれですね、人って変わるものですね。去年はグリフィンドールで付き合うのは私だけとか言ってたのに、一年経たずにこうなりますか。
「まあ何はともあれ、これからよろしく」
「ダフネ、よろしくね!」
「……ヨロシク」
勝手に感慨深く思っている私をよそにそう言う二人と、そっぽを向きながら答えるダフネ。うんうん、いい感じです。この感じで、あの陰気臭いスリザリンを更生させていきましょう。
「あ、そうそう。いきなりだけど、あんたらに相談があるのよ。アステリアのことなんだけど」
「私ですか?」
「ええ、そうよ。あんた」
そうしていると、ダフネが横に座るアステリアを見ながら切り出した。頭の上に疑問符を浮かべるアステリアを横目に、ダフネは続けた。
「この子には好きな人がいるんだけど、そいつが何というか、アレなのよ。どう考えてもアステリアに相応しくない……というか、あれ単体で見ても無いわ」
「!ちょっとお姉ちゃん、やめてよ!まだパーバティさんやラベンダーさんに話すことじゃないじゃない!」
「黙りなさい。私のことだけバラしてあんたが無傷で済むなんて大間違いよ」
ダフネが話そうとしている内容に、ダフネに食ってかかるアステリア。そんなアステリアを片手で押さえてダフネはそう言った。
「へえ!いいじゃないアステリアちゃん、もうそういう人を見つけてるのね!流石に入学からじゃまだ早すぎるし、家の付き合いで知ったのかしら?それとダフネ、そんなこと言っちゃダメよ。どんなにダメダメな男でも、恋する乙女からしたら王子様なんだもの」
そして当然のように反応するラベンダー。気分が乗ったのか胸の前で手を合わせ、目を瞑りながらの言葉だった。そんなラベンダーに、ダフネの言いようにムッとした顔だったアステリアの表情が明るくなった。そしてラベンダーほどではないにしても、パーバティも気になったのか身を乗り出していた。
いやでも、相手は実際あれですよね……私もこめっこがああいった類の人間を連れて来たらダフネと同じような反応をする気がします。ラベンダーは相手が誰かを知っても同じことを言えるんでしょうか。
同じことを考えていたのか、少し小馬鹿にしたような笑みでダフネが言った。
「それがマルフォイでも?」
ラベンダーが固まった。
その横でパーバティも一瞬固まった後、現実逃避するようにそっぽを向きながら言った。
「ああ、知ってる知ってる。マルフォイ家の次男の、ナンカイイコ・マルフォイよね?マルフォイ家のくせに品行方正なことで有名な」
「残念ながらマルフォイ家は一人っ子よ」
パーバティは沈黙した。
「ちょっと、お二人とも、あんまりな態度じゃないですか!どんなダメ男でも王子様だって、ラベンダーさんは言ってたじゃないですか!いえ、ドラコ様はダメ男なんかじゃないですけど」
「男以前に人として評価できるか微妙なラインはちょっと許してほしいの……」
「酷くないですか?」
残念ながら当然の評価ですね。私はそこまで言うつもりはないですけれども、恋愛関連では断固としてノーですし。
「ええ、分かりました!もういいです、みなさんにはドラコ様の魅力について教えてあげます!」
「あいつに魅力なんてないでしょ」
「お姉ちゃん!」
私たちの散々な反応が堪えたのか、アステリアがそう言った。
「ねえねえめぐみん、アステリアちゃんってあんな感じの子なの?イメージ違うんだけど」
「いえ、普段は穏やかですよ。多分イメージ通りです。ただ厄介なことに、ドラコ関係で時々スイッチが入っちゃうんですよね」
「そんな……あれを気になっちゃうなんて、不憫な子なのね」
そんなアステリアを見て、私に小さくそう言ってくるラベンダー。あの恋バナ大好きラベンダーをしてこう言わせますか。ある意味すごいですね。
そしてアステリアが私たちに存在しないはずのドラコの魅力を語ろうとした時。
「キャーーー!!!」
パーティー会場の外から甲高い悲鳴が飛び込んできた。
何事かと声の方向へ向かうパーティー会場にいる生徒たち。その中をかき分けて群衆の一番前に飛び出ると、そこには松明にぶら下げられている固まった猫と、呆然としているハリーたち三人がいた。
『秘密の部屋は開かれたり。継承者の敵よ、気を付けよ』
そして側の壁には、血文字でそんな文が刻まれていた。