この素晴らしいホグワーツに爆焔を!   作:里江勇二

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この奇妙な召使いに尋問を!

 

「うーん、ヴォルデモートはどうやって秘密の部屋を開いたんでしょうかね。スリザリンの継承者を自称するほどの自信家かつ痛い子なんて、あの人しか考えられないと思うんですが」

 

 ある日の夜。珍しく遅い時間になっても頭の冴えていた私は、みんなが眠りにつき静かな自室のベッドの上で何冊かの本を広げながら小さな声でそう呟いた。

 

 今日あたりであのミセス・ノリス石化事件からそろそろ一ヶ月となるにも関わらず、事件の捜査は未だに進展していない。というか教師陣は捜査すらしてないんじゃないだろうか。それくらい何もない。

 

 猫とはいえ石化なんてものがなされ、しかも犯行予告じみたものまであったのに先生たちはちょっと気楽すぎやしないだろうか。

 

 そんなことを思いながら、私はせっかく夜に考える時間ができたのだからと事件について考えていた。

 

 『秘密の部屋は開かれたり。継承者の敵よ、気をつけよ』。これ、いかにもあのヴォルデモートが思いつきそうな文章ですよね。しかも血文字でしたし。不覚にもかっこいいと思ってしまいました。

 

 ヴォルデモートか何かそれに近しいものがいるのは色々なことから考えてほぼ確定だと思うんですが、方法が思いつきません。さすがに『こんな文章を書くのはヴォルデモートに決まってます!』でみんなを説得できるとは思いませんし、何かそれっぽいものを考えないと。その特異性から言って秘密の部屋から考えていくのがいいんでしょうけど……

 

 そう、秘密の部屋ですよ秘密の部屋!もう名前からかっこいいのに、調べてみればあのサラザール・スリザリンがホグワーツを去るときに忘れ形見の怪物を置いて残した隠し部屋だそうじゃないですか!しかも長年の調査でも未だに発見されてないという。もうね、最高です。最高に紅魔族の琴線に触れました。

 

 何世紀にも渡って部屋一つ見つけられないホグワーツ 教師陣の適当さが脳裏をチラつきましたが、無視しておきましょう。発見した私(予定)がすごいということになりますしね。

 

「それとまあ、はっきりとした関係性は見えませんが、ハリーの言ってたドビーとやらも気になりますね」

 

 継承者の敵よ、気をつけよ……まんまハリーですよね、これ。ハリーに対する宣戦布告というか。そんな血文字と、ハリーの登校を邪魔しようとした屋敷しもべ妖精。うーん……。屋敷しもべ妖精とヴォルデモートは流石に繋がりませんね。

 

「せめて、そのドビーってのがどこの家の屋敷しもべ妖精か分かればいいんですけどね」

 

 うーん、屋敷しもべ妖精がいそうな家の生徒たちに手当たり次第聞いてみますかね?でも数がちょっと多すぎますね。生徒の家とは限りませんし。

 

 というか、ドビーの目的はなんだったんでしょうか。何かの計画を邪魔されないように主人に命令されて、というのが本命ですけど、なんかピンと来ませんね。そういう勢力がわざわざハリーの家に行って「すみません、来年度はホグワーツに来ないでもらえますか?」とか言わないでしょう。もしヴォルデモート勢力がそんな残念集団ならそれに飲み込まれかけたイギリスが情けなく思えてくるレベルです。

 

 そもそもハリーをこの学校に近づけたくない理由がなんらかの企みを邪魔されたくないというものなら、去年のMVPである私も排除しなくてはなりませんしね、ええ。

 

 というわけで、その線は一旦保留としましょう。となると、他の理由……今年度を使ってハリーに何かしてもらったとか。「君はホグワーツで勉強なんてしてる場合じゃない。イギリス魔法界の危機なんだ!私と一緒に世界を救おう!」。うーん、これもないですね。少なくともハリーからは「ホグワーツに来るな」以外のメッセージを受け取ったとは聞いてませんし。

 

 あとは、そうですね。限界系のハリー推しとかですかね?「私のハリーをホグワーツの女どもに渡したくない!」みたいな。それともなんかこう、ドS系の人ですかね?ハリーの家庭環境は悪いと聞きますし、「ハリーは虐められてこそ輝くのよ!」みたいな。

 

 ……ダメだ。ちょっと変な電波を受信してしまっている気がする。ちょっと休もう。

 

 と言っても眠るには勿体ないくらいに今日の夜は頭が動いてますし……ええ、校則にはちょっと触れてしまいますが、校内を散歩でもしてみますか。ちょうどいい月の夜ですし、先生方も許してくれるでしょう。多分。許してくれなかったら、まあ、その時はその時です。

 

 そう思い、私は静かに部屋を抜け出した。

 

 

 

 

「夜のホグワーツ、けっこういいですね。少し寒いですが気持ちいいです。これからも偶に歩いてみますか」

 

 日付も変わり一時間と少しが経った夜のホグワーツを歩く。なんか、こう、いい感じの雰囲気ですね。紅魔族的にグッドすぎる場所です、夜の古城。改めてホグワーツ城のかっこよさを認識しました。時折ゴーストが通り過ぎるのもまたその雰囲気の一助となってますね。

 

 しかし、ここってどの辺りでしょうか。秘密の部屋のことやドビーのこと、ヴォルデモートのことをなんとなく考えて歩いていたらよく分からない場所に来てしまいました。

 

 十二歳にして迷子。そんな言葉が頭をよぎる。

 

 ……ま、まあ、ホグワーツって毎秒通路が変わる迷路みたいなところありますしね。悪いのは私じゃなくて創設者四人みたいなところありますしね。ええ、大丈夫でしょう。

 

 というか教育施設として通路が変わり続けるとか欠陥だと思うんですけど、何を思って彼らはこんな仕様を取り入れたんですかね。勉強ができるタイプのバカだったんでしょうか。

 

 そう思いながら歩いていると、何やらガチャガチャという音が小さく聞こえてきた。

 

「ッ!!」

 

 その瞬間、私はすぐそばにあった柱の陰に隠れた。今の時間に起きてこの場所にいるとなると、教師しかありえない。さっきはその時はその時と思ったが、教師に見つかるのはやはりめんどくさい。

 

 全く、教師というのならば明日の授業に向けてしっかり寝ておくべきでしょう。自分のことを棚に上げてそんなことを考えながら誰の部屋か表札を確認すると、そこはフーチ先生の部屋だった。それを確認した私は軽く息をついた。フーチ先生は比較的緩めな先生だし、とりあえず焦りすぎる必要はないでしょう。何にせよ、スネイプ先生やマクゴナガル先生ではなくてよかったです。

 

 私が少しホッとしながら元来た道を引き返そうとすると、小さくボンっという音がして目の前にボロ布を纏った小人──屋敷しもべ妖精が現れた。

 

「ふぅ、これでハリー・ポッターはホグワーツから離れられます。ああ、ドビーはまた自分をお仕置きしなくてはなりません。でもこれもハリー・ポッターのため!私は挫けませ……」

 

 そして震えながらも小声でそう決意したそれがこちらを向き、私と目が合った。

 

「……えっと」

「確保おおお!」

「ぐへっ」

 

 私は小声で叫びながらその屋敷しもべ妖精をゲットし、ダッシュでその場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、どうにか帰ってこれましたね。さてドビーと言いましたね?あなたにはいくつか聞きたいことがあります」

 

 それからしばらく走りいつのまにかグリフィンドール寮の前に辿り着いていた私はそのまま寮の談話室まで行った。そして捕まえた屋敷しもべ妖精の腕に姿くらましで逃げられないよう魔法で取り出した紐を結び、そう言った。

 

 この屋敷しもべ妖精はさっき自分のことをドビーと言っていた。時期的にもハリーの言っていた例の屋敷しもべ妖精で合っているだろう。

 

 そう思っていると、ドビーは恐る恐るといった様子で聞いてきた。

 

「な、なんでございますか?」

「そうですね……まずはあなたが何者なのか聞きましょうか。名前とどこで働いているかを教えてください」

 

 そんなドビーに、私はそう言った。名前を聞いたのは一応の確認だ。さっきのが私の聞き間違いならまずいし。今聞いたので重要なのは家の方。これが分かれば今回の件についてある程度前進できるかもしれないが……

 

「私めはドビーにございます。ご、ご主人様のお名前はお教えできません」

 

 ま、そうくるでしょうね。そう簡単に家名を教えられるほど忠実さのない生き物なら、この屋敷しもべ妖精という存在は世間であんな扱いを受けてないでしょうし。私は自分の腿を全力で抓っているドビーを見てため息をついた。どうやら自分がした何かについて自分にお仕置きをしているらしい。

 

「はぁ……分かりました。名前が確認できただけで重畳としましょう。それで。あなたは先程あんなところで何をしていたのですか?」

「え、えっと、その……」

 

 私が聞くとドビーは口籠もり、少しして奇声を上げながら自分の頭を壁に全力でぶつけ始めた。

 

「ドビーはいけないことをしてしまいました!ドビーは、ドビーはああああ!!!」

「ちょ、ちょっと静かにしてください!夜だって分からないんですか!?ここでうるさくしたらご主人様に迷惑がかかるかもしれませんよ!」

 

 私がそう言うと、ドビーは頭を打つのをやめた。

 

「ご主人様が?」

「え、ええ。ほら、あなたがここで騒いで捕まり、その上であなたの所属がバレたら家に迷惑がかかるでしょう?」

 

 私がそう言うとドビーはなるほど、と呟いた。そしてどこからかクッションを取り出し無言でそれに頭を打ち始めた。それがお仕置きになってるのかどうかはちょっと議論の余地があると思う。

 

アンノイズ

 

 そう思いながら、私は小声で呪文を唱えて私を中心に半径2メートルほどの防音空間を作り出した。

 

 防音魔法。ホグワーツに入ってから小声での相談が多かったため、あったら便利だなと思い最近作り出したものだ。空間内の音を漏らさないなんてのができれば理想的だったが、やはり魔法の作成は一筋縄ではいかないらしく、空間内の音が小さくなって外に出て行く程度のものしか作れなかった。まあ私はまだ二年生ですし、今後も気長に研究を重ねていきましょう。

 

「これである程度は大丈夫でしょう。とりあえずドビー、お仕置きはそこまでにしてもらってもいいですか?それと何をしてたか教えてください。さもなくばこのままあなたを先生方に差し出すので、さっき言ったのと同じ結果になりますよ」

 

 魔法がかかったのを確認し、私は言った。

 

 まあ嘘ですけど。このまま差し出したら夜に出歩いてたのがバレて怒られるし、そんなことはしません。しませんがどうやらドビーには効果はあったようで、ドビーはクッションに頭を打ち付けるのをやめてこちらを見てきた。

 

「私が捕まってもご主人様は名乗り出たりしませんし、私も言いません。捨てられて終わりです」

「そうですか。でも先生たちが探し出すのでどの道バレますよ」

 

 私が言うと、ドビーはビクッとした。なるほど、捜査の類の魔法に抵抗するような魔法がかけられているわけでも道具を持っているわけでもないと。ホグワーツに忍び込ませるならご主人様とやらはもう少し警戒していいと思いますが、まあ大丈夫だと思ったんでしょう。

 

 しかしそうですね、ドビーももうひと押しで簡単に吐いてくれそうです。適当に近そうな家でもいくつか挙げていきましょうか。色々言って近づいていけば音を上げるかもしれませんし。

 

「というか、私独力でも家名を探り当てるくらい簡単なことです。そうですね。比較的扱いの悪い屋敷しもべ妖精の中でも更に劣悪そうな労働条件を押し付け、ハリーに目をつけており、何か企んでいる。そして主人に似る(と私が勝手に設定を付け加えた)屋敷しもべがポンコツ気味。これはもう、マルフォイ家で決まりですね!」

 

 そう思った私が適当な理由を並べながらそう言って指先をドビーの顔の前に突きつけると、ドビーはさっきよりも大きく肩をビクつかせた。……マジですか。え、嘘でしょ?

 

 私が驚きながらドビーを見ていると、ドビーは「え、えっと、それは違うんです」と言いながら必死に頭を働かせているようだった。誤魔化しとか言い逃れを考えているらしい。

 

 マジですか、一発目で当たり引いちゃいましたか。別に私、豪運とかそんなんじゃ全然ないんですけど。よく当たりましたね、今の。

 

 というか、はぁ……またマルフォイですか。この世界の神様はとりあえずマルフォイにしておけばいいとでも思ってるんでしょうか。他の悪役はいないんですかね。

 

 なんか、こう、ガッカリです。

 

 私があまりにも安直な配役に少し白けた視線をドビーに送っていると、ドビーは慌てて私に言ってきた。

 

「ド、ドビーはご主人様に似てなどおりませんしルシウス様などお知りではありません!……あっ!ご主人様のお名前を口にしてしまいました!ドビーはドビーにお仕置きをせねば……い、いえ、ご主人様はご主人様ではないのですが!」

 

 これはひどい。

 

「あの、もういいです。別に私も告げ口するつもりがあるわけではないので」

「ち、違うのです!今のは、えっと、そう、錯乱の魔法がかけられていたのです!」

「気が変わりました。今から今の言動のレポートごとマクゴナガル先生にあなたを渡しに行きましょう」

「ああああ!!!おやめください!言います!言いますから!ご主人様の名前も私が今日ここに来た理由も!ですからそれは!」

 

 私が座っていたソファーから立ち上がると、ドビーはそう言って慌てて止めてきた。

 

「ほう。ではしっかりと説明してもらいますね」

「はい……承知しました……」

 

 そうしてドビーは少し項垂れながら話し始めた。

 

 

 

「なるほど。あなたはハリーが邪魔だからではなく、むしろハリーのために色々なことをしていたと」

「そうです、そうです!私がハリー・ポッターを邪魔と思うなど!」

 

 ドビーの話を聞くと、どうやらドビーの目的は何か危険なことが起こるらしいホグワーツからハリーを遠ざけることだったらしい。少し前に父フォイが何か意味深なことを言っていたし、何か起こそうとしてるのは確定事項だろう。そしてそれは多分秘密の部屋関連のことなんでしょうが……

 

「ドビー、ご主人様が何をしようとしているのかを言うつもりはないのですね?」

「は、はい。申し訳ありません。しかしそればかりは……」

 

 ドビーの返答に私は軽くため息をついた。今のところ物的な証拠どころか状況証拠すらない。これで先生たちに訴えても難癖にしか見えないでしょう。ある程度のことを話してくれた以上、ドビーを先生たちに引き渡すつもりもありませんし。

 

 それより。

 

「まあそれはいいです。それよりドビー、いくらハリーのことをホグワーツから追い出そうとしたかったからと言ってブラッジャーに細工をするのはやめてください。あれは割と本気で洒落にならないものです。当たったら骨折どころか最悪死にますからね?」

「し、しかし……ハリー・ポッターはここにいてはいけないのに……」

 

 問題はドビーが今日していたことだ。ドビーは今日、ハリーが大怪我をすればホグワーツから出て行くと思ったらしく、次の試合に使うブラッジャーに細工をしたらしい。

 

 先生にバレないようにブラッジャーに細工とか、ホグワーツの敷地内で姿現しができることといい、屋敷しもべ妖精はなぜ魔法使いに隷属しているのだろう。あんまりな扱いを受けても逃げ出さないくらいに仕事が好きなんだろうか。

 

 そんなことを考えながら、私は言った。

 

「あのですね、ドビー。そもそも、なぜハリーがあなたのご主人様の企み程度で殺されなければならないのですか?ハリーは危機的状況だとけっこう上手く動けますし、何よりハリーの近くには私がいます。そう、この春ヴォルデモートを相手に賢者の石を守りきったこの私・紅魔めぐみんが!」

「!」

 

 すると、ドビーは驚きを隠すことなく大きな目を見開いてこちらを見てきた。

 

「あなたが!?あなた様が去年『名前を言ってはいけないあの人』から『石』を守ったMVP、紅魔めぐみん様だったのですか!?」

 

 その目には驚きとともに尊敬の念が込められていた。ふっ、これは気分がいいですね。そう思って聞いていると、ドビーは続けた。

 

「はっ、言われてみれば新聞で見た写真通りの……あなたが、ご主人様が最近呟いておられる、あの方よりも頭のおかしな一族の方だったのですね!」

「言いたいことは色々ありますが、とりあえず私の出自に文句があるなら言ってもらおうか!」

「ああ、痛いです紅魔さま!違うのです!頭のおかしなも仰っていたのはご主人様で、私は決してあれには近づかないでおこうなどとは思ってなど!」

「思ってるじゃないですか!」

 

 全く、この屋敷しもべは!というか父フォイは頭のおかしさの基準としてヴォルデモートを使うのか。なんというか、それでいいんだろうか。

 

 そう思っていると、ドビーが土下座しながら行ってきた。

 

「すみませんすみません、本当に申し訳ありません!今から家に帰って身体にアイロンをかけてお仕置きするのでどうかお許しを!」

「いや、そんなお仕置きしないでくださいよ。怖いです。なんであなたのお仕置きはいちいち過激なんですか。ほら、顔を上げてください」

 

 よくそんな拷問を自分でできますね。屋敷しもべ妖精ってやっぱりアレなんだろうか。ドMなんだろうか。

 

「とにかく!ブラッジャーにかけた魔法は解いて帰ってください。父フォイの仕掛けたものがどんなものかは知りませんが、所詮はなんちゃって悪役のマルフォイ一家。大したことができるはずもありませんし。もし解かなかった場合、心苦しいですが今回のことは先生たちに報告しなければなりません」

「分かりました。このドビー、元より『例のあの人』を打ち破った英雄に逆らうつもりなどございません」

 

 なんとなくそう思いながら私が言うと、ドビーは敬礼のようなポーズで言ってきた。そんな急に恭しくされても、私はさっきまでの私に対する発言を忘れたりしませんからね。

 

 ま、今日はとりあえずこんなところですか。

 

「それならいいです。もう夜遅いですし、ドビーも早く帰らないとご主人様に見つかってしまうでしょう。私もそろそろ眠くなってきましたし、帰ってもらっていいですよ」

 

 私はそう言いながら指パッチンをしてドビーに繋がっていた縄を消した。そんな私に、ドビーはペコペコしながら姿くらましで消えていった。

 

「さて、と。私も部屋に戻りますか。事実整理は……ま、明日にしますかね」

 

 それを確認して、私もそう呟いて女子寮の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

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