「怪物の正体はバジリスクです」
秘密の部屋事件についての会議の最中。私が四人にそう告げると、ハーマイオニーが言ってきた。
「……とりあえず、根拠を聞いてもいいかしら」
「ただの勘です。……嘘です嘘、冗談です!だから無言で眼帯に手を伸ばさないでください!」
私が答えると、ハーマイオニーがまた眼帯をバーンとやろうとしてきた。全く、ちょっとした冗談じゃないですか。ハーマイオニーは余裕がないですね。
「めぐみん、なにか失礼なこと考えてない?」
「微塵も。それよりも、根拠ですか」
根拠と言っても、さっき言ったのが大体全てなのだが。
「そうですね。まずは秘密の部屋の怪物が、サラザール・スリザリンの置き土産と言われていること。そして三人が聞いたシュルシュルという息漏れのような音。この二つから、怪物はおそらく蛇だと推測できます」
「そうね。そこまでは分かるわ」
私が説明を始めると、ハーマイオニーがとりあえずと相槌を入れた。
「次に、その息漏れのような音が三人にしっかり聞こえてきたこと。いくら音の響きやすい誰もいない廊下とはいえ、目に見える場所にいない蛇の息漏れが聞こえてくるとかおかしいでしょう。しかも見えなかったということは、壁を隔ててた可能性すらありますし。というわけで、怪物は蛇は蛇でもかなり大きな大蛇だと考えられるわけです」
「すごいよめぐみん、まるで頭のいい人みたいじゃないか!」
「ぶっ飛ばしますよハリー。私は『まるで』ではなく頭の良い人です」
説明してる最中に茶々を入れないでほしい。
「なるほどね。そこまでは納得できるわ。私が聞きたいのは、そこからバジリスクに飛んだ理屈よ」
そうしていると、ハーマイオニーが言ってきた。あれ、ここまでくればあまり説明することないと思うのですが。
「え、飛ぶとかいうほどそこから距離ありますか?大蛇で、被害が石ですよ?バジリスク以外思いつかないと思うんですけど」
バジリスクといえば石化と毒でしょう?石化とかそんなに普遍的な能力でもないですし、そんな変なこと言ってないと思いますけど……
そう考えていると、ロンが言った。
「なんだ、ただの設定か……」
イラッときた。
「ぶっころ!」
「ちょ、おい、それはおかしいって!今ので掴みかかるのはおかしい!今回に関しては僕絶対悪くないって言えるんだけど!茶々を入れたつもりはないぞ!」
「はあ?バジリスクといえば石化の魔眼でしょう。何を言ってるんですか?どう考えても茶々でしょう!」
そうして私がロンに掴みかかっていると、ハーマイオニーか言ってきた。
「ちょっと待ってめぐみん。石化と言えばバジリスクなんて私も聞いたことないわ。バジリスクは強力な毒を持つ大蛇で、目を見ると即死するって言われてる怪物よね?石化なんて前見た図鑑には載ってなかったわ……あの、めぐみんの妄想とかじゃないのよね?」
「ハーマイオニーまで知らない?ということは本当に石化と言えばバジリスクではないのですか」
「そうね。私の知る限りでは」
ということは、本当にバジリスクではない……?となると、ゴルゴーンとかコカトリス辺りでしょうか。いえ、ゴルゴーンは蛇系ではありますが人型ですし、コカトリスに至っては鳥。シュルシュルという音だとか、スリザリンとは合致しませんし。やっぱりバジリスクだと思うのですが。
「ねえめぐみん、考え込む前に僕に言うことがあるんじゃな」
「あ、でも、私もバジリスクといえば石化って思っ……あ、ごめんなさいロンさん。被せちゃって。邪魔でしたね。私、黙りますね」
「全然いいから!別に被したくらいで黙らなくていいから!というかハーマイオニーの目が理不尽に痛いからむしろ喋って!」
私が考えていると、ロンとゆんゆんが何やら言った。
「ゆんゆん、ロンにそんな気を遣うなんてことしなくていいわよ。もっと雑に扱うといいわ。そんなことより、ゆんゆんは石化とバジリスクが結びつくの?」
「そんなことってなん……はい、すみません、雑に扱ってもらって大丈夫です、はい」
ハーマイオニーに視線一つで黙らされるロン。そんなロンを微妙な視線で見ながら、ゆんゆんは口を開いた。
「う、うん。紅魔族のニートのゲームの話とか、お母さんの見る怪物映画とかではそんな感じで……」
「なるほどね。……そう言えば私も、昔テレビでそんな内容の映画見たことあるかもしれないわ。少し考えてみましょうか」
ハーマイオニーがそう言うと、ハリーが立ち上がった。
「じゃあ僕はバジリスクが載ってそうな本を探してくるよ」
「あ、それなら向こうの方の棚を探すといいかもしれません。お願いしますね、さっきから影が薄いハリー」
「うるさいな!僕もそう思って今立ったんだから、ほっといてよ!」
ハリーはそう言うと、私の言った棚の方へと歩いて行った。いつもみんなが周りにいるような生活してるわけだし、別にたまに影が薄いくらい気にしなくていいと思うのですが。
そうして私たちはハリーが持ってきた何冊かの図鑑のバジリスクのページを探した。すると、バジリスクに関していくつかのことが分かった。
・バジリスクは鶏の卵から生まれ、ヒキガエルの腹の下で孵化する。
・その牙から分泌される毒は非常に強力。
・その目を見ると死ぬ。
・蜘蛛が逃げ出すのはバジリスクが来る前兆。
・雄鶏の時をつくる声が唯一の致命的な相手。
「……なるほど」
相変わらず魔法界の生物はなんというか、色々と舐めてますね。鶏の卵から生まれるはまだ分からなくもないですけど、ヒキガエルの腹の下で生まれることになんの意味があるんでしょうか。
「うーん、やっぱり今回の件の犯人だって断定するには至らないわね。石化に関する記述が何もないわ」
そんなことを考えていると、ハーマイオニーがそう言った。
「そうね。日本では割と石化のイメージもあったと思うんだけど、やっぱり創作なのかな……」
「どうなのかしら。何もなしに石化ってイメージが根付くとも思えないけど、そもそもマグルの世界で魔法生物のイメージなんて空想もいいところだし」
何やら話し合うゆんゆんとハーマイオニー。私も概ね同じようなものですね。ふとハリーとロンの方を見ると、図鑑のページを軽く眺めながらこちらを見ていた。最初から考えるのを諦めてこっちに任せるのはやめてほしいんですけど……
「とりあえず、状況を整理してみましょう。それで何か見えてくるかもしれないわ」
「そうですね。じゃあまず、猫のところからですか。概要は聞いてはいますが、もう一度要点だけまとめて話してくれませんか?」
私がそう言うと、ハリーとロンが切りだした。
「そうだね。絶命日パーティーの帰りに、僕の頭に謎の声が響いてきたんだ。シュルシュルって音も一緒にね。それでその声を追って廊下を行くと、ミセスノリスの現場に着いてたってわけさ」
「そんで、壁に描かれた血文字に呆然としてたらみんなが来たわけ。他に変わったことと言ったら、なんだろう、水溜まりくらいかな。なんかミセスノリスが掛かってた壁の下に水溜まりができてたんだ」
「ほう、水溜まりですか」
確かにそんなものもあったような気がしますね。だからといってすぐに結びつくようなものでもないですが。バジリスクと水溜まり。うーん……
「コリンの方は立ち会ったわけじゃないからあまり詳しくないのだけど、寮に戻る途中の廊下で石になってたそうよ。近くにカメラが落ちてたけど、中が溶けてたらしいわ」
「溶けてた、ですか」
少し考えていると、ハーマイオニーが言った。中だけというのが気になりますね。カメラに魔法が直撃したわけでもなさそうですし。
「あ。私、分かったかも」
そうしていると、ゆんゆんが呟いた。
「……中だけが溶けてたということは、魔法がカメラに直撃したのではなく、中に入っていったということなんでしょうか。中に入るというのはつまり」
「聞いてよめぐみん!分かったかもって私言ったじゃん!今こっちをちらっと見てたし、絶対聞こえてたじゃん!」
「あー、はいはい分かりましたよ。聞いてあげます。それで、何が分かったんですか?」
「なんでそんな上からなのよ……まあいいわ。私ね、もし怪物の正体がバジリスクだったとして、どうやって姿を見られずに石化をしてるのかを考えてたのよ」
私が振ると、ゆんゆんは若干ドヤ顔で話し出した。
「最初は透明化の魔法とか能力があるのかと考えてみたけど、さすがにそれだけじゃ無理があるじゃない?実際に廊下を通ってるなら痕跡の一つくらいは残ってるだろうし。そういうふうに考えてたら、ふと思ったのよ。なんで水たまりができてたんだろうって」
ゆんゆんはそこで一旦切り、私たちがじっと見つめてることに気づいて少しテンパった。
「え、えっと、それでね!なんだっけ、その……そう!耐久魔法がかかってるホグワーツで雨漏りはありえないし、あとはこの場所で水と言えば一つ。そう、
「「「!」」」
その言葉を聞き驚く私達を尻目に、少しドヤりながらゆんゆんは続けた。
「そこらの家なら別だけど、ホグワーツは大きな城だもの、水を張り巡らせるためのメインパイプはかなり太いはずよ。もし怪物の正体が蛇なら、いくら大きくても太いパイプの中を通るくらいできるんじゃないかしら」
「……なるほど、バジリスクはパイプの中を移動して、穴か何かから出てきたってわけね。それなら水たまりは説明がつくし、けっこう納得のいく説だわ。すごいじゃないゆんゆん、よく思いついたわね!状況からはもうバジリスク確定で考えていいかしら」
「そうよね、これいい考えよね!ありがとう、ハーマイオニー!」
「そういえばハグリッドが雄鶏が殺されたと言ってたわね。雄鶏はバジリスクの天敵。パーフェクトじゃない。そしたら、そうね、水たまり……そしてコビー……あ、分かったわ!反射よ!ミセス・ノリスは水たまりに反射したバジリスクを、コビーはレンズ越しにバジリスクを見たのよ!それで死の視線が緩和されたんだわ。つまり、バジリスクに対抗する手段は鏡!鏡越しに曲がり角を見るなりすればいいんだわ!」
「あなたたちそろそろ止まってください!なんでそんなポンポン意見が出てくるんですか!」
ゆんゆんに触発されたのか、ハーマイオニーが石化の謎まで有力な説を出してしまった。これはマズい。非常にマズい。これでは石化事件のMVPを取れなくなってしまう。
「ふふ、めぐみんが思いつかなかったことを思いつけた……!はじめてめぐみんに勝った……!」
「めぐみんも衰えたものね。一年の成績は早熟だったってことかしら?これはもう、今年は勝ったも同然ね」
「説一つ出したくらいでそんな勝ち誇らないでください!ぶっ飛ばしますよ!」
そこまで言ったところで、ふとハリーとロンはどうしたのだろうとそちらを見ると、どこから取り出したのかチェスをしていた。とうとう話し合いを聞くことすら諦めてしまったらしい。
「あ、僕たちのことは気にしないで。なんかもう、今回考えるのは君たちに全部任せた方がいいと思うから」
「同意。はい、チェック。ハリー、君にこの盤面は返せないだろう」
「……うん、無理だね。リザインだ。あーあ、また負けた。なんでロンはチェスだけ頭が回るんだろう」
「負けたくせに言うじゃないか」
「あの、せめて話を聞くくらいしてほしいんですが」
……まあ、二人のことは置いておいて。そろそろ私もゆんゆんとハーマイオニーに負けず何か言わなくては。そうですね、何かあったでしょうか……あ!
「そうでした、私にはまだこれがありました」
私が呟くと、ゆんゆんにハーマイオニーと、なんだかんだ話は聞いてるのかハリーとロンもこちらを見た。そんな四人に、私は言った。
「今回の事件、マルフォイが関係しています!」
「「「やっぱりそうじゃないか!」」」
私の言葉に、四人は口を揃えて言った。あ、あれ?
「めぐみん、君マルフォイじゃないって自分で言ってたじゃないか。どっちなんだよ」
私がその反応に戸惑っていると、ハリーが言ってきた。
「ああ、なるほど。そういうことですか。はい、ドラコではありませんよ。それは多分間違いないと思います。私がマルフォイと言ったのは、パパフォイのことです」
「パパフォイ……つまりルシウス・マルフォイのことよね。その根拠を聞いてもいいかしら?」
私が言うと、ハーマイオニーが聞いてきた。
「そうですね……ではこれは他言無用でお願いします」
そう言って、私はドビーのことを話し始めた。
「……ドビー、また何かやらかそうとしてたのか」
「やることなすこと全部おかしいなそいつ。頭のネジが飛んでるんじゃないか?」
まだ会ったことのないロンにもこの言われよう。やってることを考えたら仕方ないですが。
「ま、そういうわけで私は父フォイが黒幕であることを知ってるわけです。なんかこの前私に向かっていかにもなセリフ吐いていきましたし。ただ、屋敷しもべの証言だけではおそらく取り合ってもらえないでしょう。というわけで、準備してないところに詰め寄ってぐいぐい行けば簡単にゲロってくれるかと思ってドラコのところに行ってみたわけです」
ま、ドラコが白っぽいとかいうまさかの結果に終わったわけですが。
私がそう言うと、ハリーが言った。
「なるほど、あれは例の発作じゃなくてめぐみんなりに考えての行動だったのか」
「ハリー、言いたいことがあるならはっきり言っていいんですよ?」
例の発作ってなんですか。
「しかしそうなると分からないわね。ルシウス・マルフォイはどうやってバジリスクを操ってるのかしら。あれでも立場ある人だし、そう簡単にホグワーツで事件なんて起こせないと思うんだけど」
「誰か手下でも潜り込ませてるとか?あいつならそういうのが常套手段だろ。よく父さんが愚痴ってる」
私がハリーを睨みつけていると、ハーマイオニーとロンがそう言った。そういえばロンのお父さんはマグル関係の取り締まりでマルフォイ家を目の敵にしてるんだったか。まああの感じだと後ろ暗いものがワラワラありそうですし、それを検挙しきれてないんだから当然ですね。
そんなことを考えていると、バン!と大きめの本が落ちる音が後ろの方からした。何かと思って振り返ると、少し離れた席に何やら日記帳のようなものを拾おうとしているジニーがいた。
いつのまに来てたんですね。そう思いつつなんとなくそちらを見ていると、こちらを伺うように振り向いたジニーと目が合った。どうせなら話し合いに加わってもらおうかと思い声をかけようとすると、ジニーはそんな私を見てビクッと体を震わせた。
……えっ。
「なんですかその反応。え、私何かしましたか?ジニーにはそんな変なことしてないと思うんですけど」
「めぐみん、うちの妹にまで何かやらかしてるなら僕はやらなくちゃならないことができるんだけど」
「いやあの、私本当に心当たりないんですけど。ジニー、できればその反応の理由を教えてくれませんか?けっこうショックです」
私がロンからの視線から逃げつつジニーに言うと、ジニーは小さく咳払いをして答えた。
「んんっ。ちょっと考えごとしててびっくりしただけよ。別に深い理由はないわ。また変なことでも調べてるのかと思ったけど、ハーマイオニーたちがいるってことはそういうのじゃないのね」
「またってなんですか。私は変な調べ事などしたことありませんよ。具体的に言えば、そっちのぼっちみたいに植物とのしゃべり方とかUMAと友達になる方法なんて調べたことないです」
「なんであんたはそう軽率に私に流れ弾飛ばすのよおおおお!」
「あ、ちょ、組み付くのはやめてください!図書館ですよ、静かにしてください!」
「めぐみんにそのたしなめられ方するのは納得いかない!」
私たちがそうしていると、ジニーは「じゃ、私はやることがあるから」とその場を去っていった。
「ジニー、やっぱり様子おかしくないですか?いつもは私が騒いでたらあきれ顔で話に参加するのですが」
「どっちが先輩か分からないわね、あなたとジニーの関係。ま、そんな日もあるんじゃない?一年生だし、まだ色々慣れなきゃいけないことは多いでしょうし」
私が呟くように言うと、ハーマイオニーがそう言った。確かに、全寮制ということもあって一年生は新しいことばかりだ。毎日変わる校内の道順だのロックハートのあまりに自意識過剰な絡みだのどう考えても意味が分からなくてめんどくさいものもあるし、四か月そこらじゃ余裕が出ないこともあるだろう。ちょうど疲れが出始める時期でもあるし。
結局会議でそれ以上何か新しいことが分かることはなく、とりあえず怪物の正体がバジリスクであろうことを先生に伝えるということで話は終わった。