「今さらだけどめぐみん、よく怪物の正体なんて当てたね。私、ずっと何が起こってるのか見当もつかなくて怖かったの。もちろん解決したわけではないけど、正体が分かったしちゃんと注意してれば死にはしないって聞いて少しほっとしたわ。ありがとうね、めぐみん」
会議から冬休みを挟みだいたい一ヶ月後。いつものようにラベンダー・パーバティの二人と一緒に宿題をやっていると、ラベンダーが口を開いた。
あの会議の後、私たちはマクゴナガル先生にバジリスクの話をしにいった。最初、先生はあからさまに「またあなたたちですか」といった顔で取りあってくれなかったが、私とハーマイオニーが根拠を説明すると、先生は「確かに、一考の余地があります。校長に伝えておきましょう。もしあなたたちの話を信じるならば、そうですね。対策としては──廊下の曲がり角に鏡を張り、生徒に曲がる際は鏡を見て確認するよう言うのがいいでしょうか」と言ってくれた。
その後少しして冬休みとなり、私とゆんゆんは去年と同じく紅魔の里へと里帰りした。あるえに去年聞きそびれた最初の紅魔族のことを聞こうと思ってたのだが、今年は忙しいらしく里へは来なかった。話を聞けなかったのは残念ですが、去年聞いた「白髪碧眼の老人で紅魔族の中でも特に長生きした」という情報だけでだいたい察しはつきました。できれば確定まで持っていきたかったのですが、忙しいなら仕方ありません。
まあなんにせよ、とりあえずはこれで死者が出ることはないでしょう。石化を解く薬も目途が立っているようですし、ちょっと一息ついてよさそうです。鏡をつけて以降は、今のところ被害者ゼロですし。
そんなことを考えていると、ラベンダーに続いてパーバティが言った。
「めぐみんはいつもは頭のねじが飛んでるけど、こういう時はほんとに頼りになるわよね」
「パーバティ、そのいつもはの認識について詳しく」
パーバティの言葉に、私はそう言った。頭のねじが飛んでるとか、人のことをなんだと思っているんでしょうか。え、日ごろの行い?何を言ってるのか分かりませんね。
「しかしバジリスク、ねえ。あんまり石化と結びつかない印象だけど、日本じゃ違うのね。ただの超危険な大蛇ってイメージだったわ」
「蛇といえば、最近ハリーがパーセルマウスだって噂になってるわね。それで今回の黒幕はハリーだって言い出す人もいる始末。そんなわけないのにね、パーバティ?」
「なんで私に聞くのか分からないけど、まあ私も違うと思うわ。ありえないでしょ。根拠を挙げるまでもないわ。よりによっても継承者がハリー・ポッターって……何よ、ラベンダー」
「いや、ハリーの話をするパーバティの絶妙な表情はなんともいいものだなtいひゃいいひゃい、頬はやめひぇふぁーふぁてぃ」
そうしていると、二人がそんな話を始めた。何それ、初耳なんですが。
「え、何ですかそれは。パーセルマウス……?それでハリーが継承者?ちんぷんかんぷんなんですが」
私が聞くと二人は少し顔を見合わせ、答えた。
「めぐみんは噂聞いてなかったのね。えっと、パーセルマウスってのは要は蛇語が話せるってこと。パーセルマウスは昔から闇の魔法使いの証だって言われてて、実際サラザール・スリザリンもパーセルマウスだったらしいわ」
「なんでも、一昨日あたりに開かれた決闘クラブでハッフルパフのフレッチリーに蛇をけしかけたんだってさ。ハリーは蛇に逆に襲わないよう言ったらしいんだけど、蛇語なんて他に分かる人がいるわけないし、真相は分からないわ」
全部初めて聞いたんですが。え、蛇語使い?なんですかその私の心を震わせる言葉は。というか決闘クラブの話、私聞いてないんですが。まあなんにせよ、とりあえず。
「なんでハリーは蛇語使いなんていうかっこいい称号をゲットしたんですか!既に生き残った男の子とか言われてちやほやされてるじゃないですか!もう十分でしょう、私にくださいよパーセルマウス!」
「相変わらず斬新な感想ね」
私が悔しがりながらそう言うと、パーバティが小さくため息をついてそう言った。なにが斬新なものか。紅魔の里でアンケートを取れば間違いなく私の意見ばかりになりというのに。
それに。
「あと決闘クラブとかいうどう転んでも楽しくなるものになぜ私に教えてくれなかったんですか!ハリーが出たということは少なくともロンも出てたはず……くっ、私たちは友達ではなかったのですか!」
「私たちに言われても。ちなみに講師はロックハート先生とスネイプだったみたいよ?用事があっていけなかったけど、ロックハート先生の勇姿は見たかったなあ」
「あ、ロックハート先生ならいいです」
「なによ!かっこいいじゃないロックハート先生!」
私がロックハート先生の名前を聞いてすっと冷めた表情に戻ると、ラベンダーが言ってきた。さすが魔法界育ちでミーハーのラベンダー。しっかりとロックハート先生びいきですね。
「しかし、パーセルマウスですか。そういえば昨日一昨日と、ハリーは妙にカリカリしてましたね。色々重なって理由は聞けてませんでしたが、あれはそういうことだったんですか。ハリーが継承者とは、また随分な仮説ですね」
「ま、疑いたくなるのも分かるけどね。怪物の正体がバジリスクだってんだから、パーセルマウスはなおさら怪しいもん。みんな不安なのよ」
私が言うと、ラベンダーがそんなことを言った。まあ対策が立ったとはいえ、それが不十分なのは明らか。不安なのはそうでしょうね。
「ハリーといえば、少し前ハリーが何も書かれてない日記を見つけたんですよ。持ち主はトム・リドルというらしいです。どうやら前に一度だけ秘密の部屋が開いたと噂の五十年前の物らしく、色々探ってるんですよ。透かしてみたり、炙り出しや透過魔法の反対魔法を試したりしてみてるんですが、どうにも何も分からなくて。二人は何かそういった方法に心当たりとかありませんか?」
しかもロンのよると、トム・リドルというのはその五十年前にホグワーツ特別功労賞をとった人らしい。今学期の最初にホグワーツに車で突っ込んだときの罰でやらされた杯磨きで見て覚えていたらしい。そんなこともありましたね。今度私もやってみたいものです。窓から飛び込んで入場。
まあなんにせよ、タイミング的にその功労賞は秘密の部屋の事件を解決したことに対するものと考えるのが自然だろう。もちろん違う可能性もあるし、今事件が再発しているのだから本格的に解決したわけではないんだろうが、なんにせよその日記はとても重要な手がかりなわけだ。
そうでなくても、今になって出てきた五十年前の日記とかどう考えても怪しい。どう考えても事件解決への伏線だ。フラグはちゃんと全部回収しろって主人公のための夏期講習で習いましたし、間違いなく手掛かりだと思うのですが……。
「うーん……私は思いつかないかなあ」
「私も特に思いつくことはないわね。あなたたちも思いつくことはとりあえずやってみたでしょうし、それをここでパッと思いつくのは難しいわ」
そう思いながら二人に聞くも、二人はそう言って首を横に振った。うーん、どうしたものか。
「それよりめぐみん、宿題の手が止まってるよ!あなたが終わらなかったら私は誰のを見ればいいのよ」
「さすがに私もそういう言われ方をすると見せてあげる気は失せるんですが」
「お願いします今回の魔法薬の課題難しくて分からないんです教えてください」
「そこまでかしこまれとも言ってないです。ええと、その問題は……」
そうして、私たちは秘密の部屋の件は一旦置いて課題へと頭を向けた。
「やはり、あまり活気はありませんね」
翌日。ハリーたちと廊下を歩きながら、私は呟いた。
冬休み前後以降、ホグワーツの雰囲気はよくない。不必要に寮を出る生徒はかなり減ったし、廊下を歩くときもなるべく早く移動するのがほとんどだ。昨日ラベンダーとパーバティはほっとしたとか頼りになるとか言ってくれたが、それは今のホグワーツではかなり少数派で、大半はあまり気休めにもなってないように見える。
まあそれだけあの二人は有事での私を評価してくれてるのでしょう。その信頼がちょっと嬉しかったのは内緒です。
「まあこんな状況じゃあね。鏡を見て用心したところで石化から逃れられるわけじゃないし、そもそも怪物がバジリスクって証拠があったわけじゃないし」
「証拠ねえ。そもそも怪物が何かを落としていったりしてないし、証拠なんてあるわけないのよね。図書館でいろいろ調べてみたけど、結局手がかりすら見つからないし」
私の呟きに、ロンとハーマイオニーが答えた。あの会議以降も色々と調べているのだが、情報は50年前にも一度部屋が開いたらしいという噂以外に全く集まらない。となると、あと望みは謎の日記帳くらいなのだが。
「ハリー、どうしたんですか?さっきから押し黙ったままですが」
その日記帳を持っているハリーに目を向けると、その日記に軽く目をやりつつ何やら考えごとでもしているようだった。そのハリーは私の言葉に顔を上げると、少しだけ考える素振りをして言った。
「ああいや、そうだね……三人とも、ちょっといいかい?日記についてなんだけど」
ハリーがそう言うと、後ろでドサッと何かが落ちる音がした。何かと思って後ろを振り返ると、ジニーの足元に教科書が落ちていた。
なんだ、ジニーですか。そう思ってふうっと息を吐いたところで、知らず知らずのうちに肩に力が入っていたことに気が付いた。どうやら、私も廊下を歩くときは緊張してしまっていたらしいですね。
まあ仕方ないでしょう。いくら鏡越しなら大丈夫と言っても、やはり石化という現象には背筋に走るものがあります。これはビビりとかじゃありません。当然の緊張状態です。ええ、怖がってるとかじゃ全然ないので。
そんなことを考えている私をよそに、ハリーは落ちた教科書を拾ってジニーに渡した。
「はい、これ。あー、次は魔法薬学か。スネイプに睨まれないよう気を付けてね。といっても、あいつはグリフィンドール生全員を頭のないトロールだと思って──」
「ヒッ」
そんなハリーに、ジニーは小さくそんな悲鳴を上げた。
「え?」
「……あ、ご、ごめんなさい。ちょうど、あの、怪物のこと考えてたから驚いちゃって。それじゃ」
そしてジニーはそう言い、その場から逃げるように私たちの横を抜けて去っていった。
「これは言い逃れできませんね。ハリー、自首しないと罪は重くなるばかりですよ」
「違う、誤解だよ!僕、そもそもジニーと最近ろくに話してないし!バジリスクのこと考えてたら多少のことでああなるのも仕方ないんじゃないか?」
「本当だな?本当に妹に何もしてないんだな?」
「本当だって。というかロンはジニーがろくに僕と対面できないの知ってるだろう」
どうやら冤罪だったらしい。しかし、今のジニーの怖がり方は
「そういえば最近、ジニーの様子が少しおかしいんですよね。学校に来たての頃の快活さがあまり見られないと言いますか。それに談話室や図書室にいると、たまにどうにも何か探るような視線をジニーから感じるんですよね。そっちを見て目が合うとすぐ逸らされるんですけど」
「「「なんだ、今のはめぐみんが原因だったのか(ね)」」」
そんなことを考えながら私が言うと、三人は納得したような声を出した。
「違いますよ失礼な!先月の会議のときも言いましたが、ジニーに何か怖がられるようなことをした覚えはありません」
「だってめぐみんの覚えとか全然信用ならないし」
「ぶっ飛ばしますよハリー」
「じゃあめぐみん、ジニーの前であの岩は爆裂させがいがあるとか言わなかった?」
「言ったに決まってるでしょう、それとこれと何の関係が?」
「…………」
私の返事に、やっぱりと言わんばかりのあきれ顔を見せるハリー。爆裂対象の厳選はただの私のライフワークだというのに、ハリーはなぜそんな顔をするのだろうか。
「……めぐみんの言動がおかしいかどうかは一旦おくとして、確かにジニーがいまさらそんなことでめぐみんを怖がるとは思えないわ。学期が始まって数か月はふつうに仲よさそうにしてたもの。めぐみんは出会ってまだ時間が経ってないからとか言って頭のおかしさをセーブしたりする人じゃないでしょう?」
「確かに」
「言われてみればおかしい」
そうしていると、ハーマイオニーがそんなことを言った。頭のおかしさをセーブするってなんだ。セーブできるものではないでしょうそれは。いえ、そもそも私は頭おかしくないですけど。そして二人もそんなことで納得しないでほしい。私をなんだと思っているのか。
「……まあいいです。その納得のしかたには言いたいことがありますが、今は置いておきましょう。それで思うんですが、先月の秘密の部屋事件解決会議のとき私を見てビクっとしたでしょう?あのときは疲れでもあったのだろうって話でしたが、今のを見るとどうも何か他の原因な気がします」
「なるほど。ふつうにバジリスクが怖い、とかじゃないわよね。なら特別めぐみんに怯える理由がないわ。うーん……分からないわね。やっぱり何かやらかしたとしか」
「違うって言ってるじゃないですか!というか、よっぽどのことがない限りジニーはあんな態度を取らない子だと思います。ロン、そうでしょう?」
「まあそうだな。ジニーがしどろもどろになるのなんて、それこそハリーくらいだ。わりと肝が据わってるやつだよ、あいつは」
うーん……なんでしょう。本当に心当たりがない。話しかけようとしても避けられるの、ふつうに悲しいのでなんとかしたいんですが。
「まあ、今考えても仕方ないですね。ジニーのことはまた後で考えるとしましょう。それでハリー、日記について何か言いかけてましたよね。何か手掛かりでもつかめましたか?」
ジニーにはあとで無理やりにでも話を聞くとでもしましょうか。そう考えながら私がそう聞くと、ハリーは口を開いた。
「この日記帳の読み方……というか使い方が分かったんだ」
どうやらこの事件の捜査にも、ようやく進展が訪れたようだ。
このすば、新作アニメやるらしいですね!それに合わせて書籍の方も動きがあるとか!戦闘員もあるのに完結作品も書いてくださるとか、ありがたい話です。戦闘員のアニメもよかったですし、今年はいい年ですね!コロナ?知らないです。