この素晴らしいホグワーツに爆焔を!   作:里江勇二

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この人の来ないトイレに五十年前の日記を!

 

「それでハリー、何が分かったんだい?使い方が分かったくらいじゃこんなところにわざわざ来る必要はないだろう?」

 

 ハリーから日記の読み方が分かったと聞いてからだいたい二時間後。気もそぞろに魔法史の授業を受けたあと、私たちはハリーに連れられ二階の女子トイレへと向かった。

 

 女子トイレに行くと言い出したときは付き合いを考え直そうかと思ったが、聞けばその女子トイレには“嘆きのマートル”というゴーストが住み着いており、秘密の話をするのに好都合らしい。なんでも、ポリジュース薬の作成もここでやるつもりだったとか。そう言えばそんな話もありましたね。

 

 余談だが、女子トイレに行くと言い出したハリーに頭でもおかしくなりましたかと聞いたら、ハリーは「めぐみんに頭おかしいって言われた……」と絶望したような表情で言っていた。私のことをなんだと思っているのか。友情の確認のため小一時間問い詰めたかったが、大人な私は寛大な姿勢でスルーした。

 

 ええ、私は大人なので。別にハリーに同情を寄せるような二人の表情に何も言えなかったとかじゃありません。ええ、別にいつも問い詰めようとして三人一丸となってめぐみんは頭おかしいよと言われててちょっと尻込みしたとかじゃ全然ありませんとも。

 

「こんなところってなによ。人の住処にケチ付ける気?」

 

 そんなことを考えていると、どこからともなく少女のゴーストが現れそう言ってきた。どうやら彼女が嘆きのマートルらしい。

 

「あー、うん、悪かったよ。トイレするのに移動しなくてすむし、案外いい場所かもしれないかな?」

「トイレがいい場所とかそんなわけないじゃない。バカじゃないの?それに私ゴーストだからトイレなんてしないんだけど。もしかして死んでる私への皮肉かしら?最低ね」

「僕はなんて言えばよかったんだよ!」

 

 そのマートルはロンとコントをしていた。わりと口が回るタイプらしい。

 

 そうしていると、マートルは私の方を見て訝しむような視線を向けてきた。なんでしょう。私とマートルには特に何もないはずですが。そもそも初対面ですし。そう思っていると、マートルは言った。

 

「あんたもしかして、紅魔族かい?」

「ああ、なるほど。ご明察です。長い間ホグワーツにいるだけはありますね」

 

 どうやら紅魔族を知っていたらしい。さすが学校憑きのゴースト。私の前にホグワーツへ来た紅魔族はわりと前の世代だと聞くし、マートルはそこそこ長い間ここにいるのかもしれません。

 

 そんなことを考えながら、私はローブに手をかけた。フフ、そういえばこれ(・・)をやるのは久しぶりですね。

 

「我が名はめぐみん!紅魔家随一の魔法使いにして、いずれ爆裂魔法を操りし者!」

「ああはいはい、そういえば紅魔族には名乗りなんて風習があったわね。うるさいったらありゃしない」

「「「!?」」」

 

 私が名乗りを上げると、マートルはそんな返しをしハリーたち三人はマートルに驚いていた。

 

「おかしい。めぐみんが名乗りを上げたのに大して反応してない」

「多分マートルもおかしいんだ。おかしい者同士通じ合ったんだ」

「そうね、そうに違いないわ。めぐみんのアレに引かないなんておかしいもの」

「おいそこ、言いたいことがあるなら聞こうじゃないか」

 

 というか引いてたんですかハーマイオニー。

 

「私を紅魔族と一緒にしたら二度とこのトイレに入らせないわよ。それと紅魔、もう一人紅魔族がいるでしょう?紅魔にしては大人しい子よ。あの子に、もうここに来ないようやんわり言ってくれないかしら」

 

 そうしていると、マートルはそんなことを言ってきた。

 

「ゆんゆんが来てるんですか?」

「あー、多分そいつ。多分私がいるのを知らないからだと思うんだけど、たまに来てなんか友達の作り方とか話しかけ方の計画練ってるのよ。なんというか、悪い子じゃないのは分かるんだけど見てて苦しくなってくるのよね。いつもは人の無様な姿は面白く思えるんだけど、あの子のはあんまり笑えないのよ」

 

 私の質問にそう答え、マートルはその場から立ち去っていった。さらっと最低なことを言っていたが、どうやらゆんゆんはたまにここに来て随分とアレな光景を見られているらしい。まあ人付き合いが希薄なゆんゆんだし、別にマートルを知らないくてもおかしくないでしょう。私も知りませんでしたし。

 

「あー、その、うん。あんまり見ないけど、今度ゆんゆんを見たら話しかけてみようかな」

「正直サボテンと話す本だとかトロールと話す本だとかはジョークみたいなものだと思ってたよ。僕もこれからは話しかけるようにしよう」

「そうよね……一人は寂しいものね……友達欲しいわよね……」

 

 私が聞く限りあまりいい性格をしていないマートルにすら心配されるゆんゆんに微妙な気持ちになっていると、三人も同じように微妙な雰囲気を漂わせながらそう言った。約一名が一年の最初の時期を思い出してる気もするが、ここはスルーだ。

 

「……話を戻そうか。日記の使い方の話。ロンが言った通り他に分かったこともあるんだけど、まずはこっちから話そうと思う」

 

 そんな微妙な空気の中、ハリーはそう言って日記帳を私たちの前の台に置いた。

 

 この日記の持ち主の名前はトム・リドル。ロンによれば、前に一度秘密の部屋事件が起きたとされる五十年前にホグワーツ特別功労賞をとった生徒の名前だ。間違いなく重要な手がかり。微妙だった私たちの空気は自然と切り替わった。

 

 そんななか、ハリーは言った。

 

「これ、何かが書いてあるものじゃなかったんだよ。書いた人の記憶かな?それが編み込まれた魔法の品だったんだ。だからこの日記の“読み方”は、書いてある文章を探すを探すんじゃなくて、こういうふうに書き込むことで答えてくれるんだ」

 

 そしてハリーは日記に「気分はどう?」と書き込んだ。するとその文はスッと消え、「ハハ、日記に気分も何もあるわけないだろう。どうしたんだい、ハリー?」という文が浮き出てきた。

 

 道理で読めないはずだ。この日記は何か見えないインクで書かれていたわけではなく、そもそも何かが書かれているタイプの日記ですらなかったわけだ。

 

「書き込むと答える……なるほど。その手がありましたか」

「なるほど、そういうタイプの魔道具だったのね。そういうものがあるのは知ってたけど、やっぱり現実で見てもパッと出てこないものね」

 

 言われてみればありがちですね。なぜ思いつかなかったのか。これは悔しいですね。

 

「ハリーはどうやって気づいたの?」

「ちょっと飲み物をこぼしちゃったんだけど、いつのまにかシミが消えててね。それでもしかしたら、って思ったんだ」

 

 そうしていると、ロンが言った。

 

「うーん、書いたら返事が返ってくるかあ。ねえハリー、それに書き込んでて大丈夫だった?何か変なことはなかったかい?」

「文字が浮かび上がるのはまさに変なことだと思うんだけど」

「そういうこと聞いてるんじゃないのは分かるだろう!みんなは知らないだろうけど、魔法界じゃ脳がどこにあるか分からないものを信用しちゃいけないのは鉄則なんだ。分かるだろう?」

「変なことねえ。うん、少し考えてみたけど特になかったよ」

「そう。ならいいんだけど……」

 

 言葉通り特に何もなさそうなハリーに、ロンはそう言った。魔法界にそんな鉄則が。正直いろいろとデタラメなこの魔法界で脳の場所なんて些細だと思うのですが。

 

「それで、書いたら返事が返ってくるのに気づいた僕は軽くトムについて質問したあと、五十年前の事件について聞いてみたんだ。それで分かったんだけど」

 

 ハリーはそこで一息つき、言った。

 

「五十年前の事件だけど、全くの未解決だったみたいなんだ」

 

 今回も前回も怪物の正体がバジリスクで合ってればだけど。そう言いながらハリーはこちらを見てきた。

 

「それは間違いないです。ここ一ヶ月で色々調べましたが、怪物の正体はバジリスクで正解でしょう。調べた限り、他の石化能力を持った魔法生物だと今回の事件の状況には当てはまりませんでした」

「未知の魔法生物だったらお手上げだけど、五十年前の事件がちゃんと解決してるならそれもありえない。バジリスクと考えて調査すべきよ」

「え?あ、うん。そうだよ。バジリスクで間違いないさ、ウン」

 

 大きな鳥ではホグワーツ城内で動けないからコカトリスはなし。ゴルゴンは髪が蛇なだけで本体は普通の人型でパイプを通る必要はない。水との縁もないし、水溜りの説明がつかない。他もスリザリンの秘密の部屋の怪物としてしっくりこないし、バジリスクでFAでしょう。

 

「ロン、無理しなくていいよ。僕も同じだから安心して。じゃあ、この日記で見た五十年前の出来事を今から話そう」

 

 そう言って、ハリーは話し始めた。

 

「詳しいことは省くけど、五十年前、今回と同じように秘密の部屋が開かれたんだ。それで同じようにマグルの生徒が狙われた。でも今回とは違って、一人実際に犠牲者が出てしまったんだ。それで閉校の話も出てきて、当時からいたダンブルドアも犯人を見つけられないなか、トム・リドルが怪物と犯人を見つけたんだけど……」

「それがバジリスクじゃなかったと。そういうわけですね?」

 

 私が言うと、ハリーはぎこちなく頷いた。

 

「うん、そうなんだ。見つかった怪物は大蜘蛛でバジリスクじゃなかった。でも、問題は他にもあって」

 

 ハリーは少し言い淀んだあと、言った。

 

「捕まった犯人がハグリッドだったんだ」

「「「は?」」」

 

 私たちの綺麗に被った声がトイレに響いた。

 

 

 

 


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