授業は歓迎パーティーの翌日から始まった。授業は思っていたよりも複雑で面白そうだった。特に変身術。授業の最初にマクゴナガル先生が上げた口上から気に入った。
「変身術は、ホグワーツで学ぶ魔法の中で最も危険で複雑なものの一つです。いい加減な態度で私の授業を受ける生徒は出て行ってもらいますし、二度とクラスには入れません。初めから警告しておきます」
もう、ね。素晴らしいとしか言いようがないですよ。初めから警告しておきます……なんとかっこいい響き。これだけかっこいいことが言えるのですから、魔法に長けているのも納得というものです。かっこいいことが言える人は万に通ず。紅魔の里で習いました。
授業の内容の方も実に興味深いものだった。マクゴナガル先生は、まず演示として机を豚に変え、元に戻すということをやってのけた。すでに生徒たちは大興奮。みんなはつまらなさそうに受けていたが、そのあとの講義の内容も私にとってはとても面白いものだった。
そして実技。最初の授業だからかマッチ棒を針に変えるという地味なものだったが、それでも素晴らしい魔法体験だった。
「矮小なる木の棒よ、その真なる姿を現せ!メタモルフォシス!」
「ミス・紅魔、変身術にそんなに大仰な呪文はいりませんしそもそも呪文が間違ってます。それに変身術なのですから変身後の姿は真ではありませ……え?成功してる?最初の授業で完璧な成功なんて、しかもオリジナル呪文で?……なんですかミス・グレンジャー、私は今少し考えなくてはいけないことが……え、あなたも成功?なんですかこの学年」
マクゴナガル先生は困惑していたが。生徒の成長を素直に喜んでくれてもいいのに。
肩透かしだったのは、闇の魔術に対抗する防衛術の授業だった。特に実技があるわけでもなく、講義の内容も期待からするとイマイチ。頭にターバンを巻くという強烈な個性を持ち、闇の魔術に対抗する防衛術という最高にかっこいい名前のクラスを持ちながらこの体たらく。正直クィレル先生にはがっかりしました。
まあいい。今日は魔法薬学といういかにもな授業がある。今日はこれに期待しておこう。
「いやー、今日の魔法薬学楽しみですね!いかにも魔法学校というような授業じゃないですか」
朝食を食べながら私がそう言うと、同じく朝食を食べていたグリフィンドール生たちの机がシーン、と静まり返った。
あれ?
「えっと、私今変なこと言いました?」
もしかしたら魔法薬学の授業はクィレル先生並みのがっかり授業なのかもしれない。そう思っていると、隣に座っていたロンがため息をついて言った。
「……魔法薬学はスリザリンと合同授業で、しかも教授のスネイプは自分が寮監してるスリザリンを贔屓することで有名なんだ」
「マクゴナガル先生も僕たちを贔屓してくれたらいいのに」
それに続いてハリーがそう言った。マクゴナガル先生は厳格にして公正なのでどの寮の生徒にも平等に接する。私は自分の寮監が依怙贔屓する人よりはマクゴナガル先生のように誠実な人の方がいいと思うんですけどね。
「贔屓を期待するのはおかしなことよ。それに、贔屓なんて本当にいい成績を残せば関係ないわ」
「だといいけど」
ハーマイオニーに対して呟いたロンのセリフは、次の授業へのグリフィンドール生全員の不安を表していた。
そしてやってきた魔法薬学の授業。
「このクラスでは、魔法薬調剤の微妙な科学と厳密な芸術を学ぶ」
冒頭のセリフで、私はスネイプ先生の有能さを確信した。
「吾輩の教えるこのクラスでは、杖を振り回すようなバカげたことはやらん。この時点でそれでも魔法かと思う諸君はただの見識なしだ。フツフツと沸く大釜、ユラユラと立ち上る湯気、人の血管を這い巡る液体の繊細なる魔力……真にこの素晴らしさを理解できるとは思っておらん。吾輩が諸君らに教えることができるのは名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえ蓋をする方法である──もっとも、諸君らが吾輩のこれまで教えてきたウスノロたちよりまだましであればの話だが」
演説が終わるとすぐに、私は大きく拍手した。素晴らしい。百点満点の格好良さ。先日のマクゴナガル先生の厳粛な格好良さもよかったが、このスネイプ先生のコテコテの偉そうな演説もまた、非常にかっこいい。
そう思いながらみんながシーンとするなか一人拍手をしていると、スネイプ先生は口を開いた。
「紅魔、お前の拍手は騒がしい。グリフィンドール、1点減点」
圧倒的理不尽。
「はぁぁ!?ちょ、拍手しただけで減点ですか!?おかしいですよ!」
「さらに騒がしくなった。1点減点」
「ふざけてるんですか?」
「失礼な態度。1点減点」
ぶっ殺してやろうか。
「物騒な思考。1点減点」
「どうしろと!?」
ここで隣に座っていたハーマイオニーに止められ、私はようやく落ち着いて席に座った。納得いかない。そう思いながら先生を見ていると、先生のグリフィンドール嫌いの矛先はハリーに向いた。
「我らが新しいスター、ポッターに聞いてみよう。アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」
「えっ」
確か強力な眠り薬だったような。『生ける屍の水薬』とかいう超絶かっこいい異名が付いていたから覚えてる。
ハーマイオニーも分かってるらしく、彼女はサッと手を挙げた。先生は無視した。ハリーはどうやら分かっていないようで、ロンと目を合わせて首を力なく横に振っていた。
「分かりません」
「チッ、チッ、チ──どうやら有名なだけではどうにもならんらしい。ではもう一つ。ベゾアール石を見つけてこいと言われれば、どこを探すべきか」
この学校の倉庫を探せばあるんじゃないだろうか。
まあそんなことを聞いてるわけじゃないだろう。ベゾアール石と言えば山羊の胃石だ。牧場へ行って一匹買ってくるとか?
「分かりません」
「全く……クラスに来る前に教科書を眺めるくらいはしなかったのかね、ポッター。え?」
再びハーマイオニーの挙手を無視しつつ、先生はそう言った。私いじめの時よりも追及が激しい。有名人に突っかかってるだけなのか、それとも何か因縁があるのか。私は何となく突っかかってるだけではないと感じた。
「では最後に。モンクスフードとウルフスベーンとの違いは何かね?」
とうとう立ち上がって手を大きく上に突き出してるハーマイオニー。その気持ちは分かる。同じものの違いを聞くなんてバカなんですかと私も言ってやりたい。
「分かりません。ハーマイオニーが分かってるようですから、彼女に質問してみたらどうでしょう?」
ハリーの言葉に生徒が数人笑い声を上げたが、スネイプの不快そうな顔に数刻と経たずに止んだ。
「座りなさい、グレンジャー。では答え合わせだ。最初のは眠り薬となる。強力すぎることから『生ける屍の水薬』との異名を取っている。ベゾアール石は山羊の胃から取り出す石であり、多くの毒に対する解毒剤となる。モンクスフードとウルフスベーンは同じ植物であり、トリカブトのことだ。アコナイトとも呼ばれる」
ここで先生は教室を見回して言った。
「どうだ?諸君、なぜ今の話をノートに取らないのかね?そしてポッター、君の無礼な態度でグリフィンドール2点減点」
こうして魔法薬の授業は始まった。
基本的にスネイプ先生は態度こそ悪けれ、授業に関しては普通にいい教授だった。最初のハリーへの質問だって、ハーマイオニーを無視したこととハリーをいじめたことを除けばノートの取らせ方としてはとてもよかったように思える。
「む。ドラコ、君の角ナメクジの茹で方は完璧だな。諸君、手本として見に来てはどうかね?」
そんなことを考えると、お気に入りらしいドラコを先生がそう言って褒めた。ドラコは非常に得意げな顔でクラスを見回した。
「へー、確かに綺麗ですね。家で練習してきたんですか?」
「いや、父上はまだ危ないとやらせてくれなくてね。これは純然たる才能……って、お前はあの頭がおかしいマグルの子!」
「頭がおかしいって何ですか。私には紅魔めぐみんという素晴らしい名前があってですね。そう呼ばないのならば、私にはとある大魔法を覚えた暁にあなたを最初の餌食にする準備が」
「分かった!分かったから、紅魔って呼ぶから変なことをするのはやめてくれ!」
…………。なんかすごい怖がられてるようで気に食わない。気に食わないが、取り敢えずここは流そう。
「それでドラコ、その大魔法について私はあなたに言いたいことが……あ!ネビル!それはダメです!ドラコ、また後で来ますね。聞いてくださいネビル、まずは火から鍋を降ろさないと」
私はドラコに爆裂魔法の素晴らしさを布教するのを一旦中断してネビルの指導に向かった。
「……いや、もう来ないでくれ。僕の価値観が色々とおかしくなってしまう気がするから」
ドラコのそんな呟きは、私の耳には入ってこなかった。
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