「どうしよう、今日だけで僕寮点を2点も落としちゃったよ。みんなに嫌われたりしたらどうしよう」
魔法薬学からの帰り道、先に帰ったハーマイオニーを除いた三人で廊下を歩いているとハリーが言った。
「何ですか、その2倍の4点を落とした私への嫌味ですか?」
「あ……いや、そうじゃなくて。なんかごめん」
「大丈夫だって二人とも、スネイプに減点されて嫌われることはグリフィンドールじゃありえないさ。それよりハリー、僕もハグリッドの小屋に行っていい?」
「あ、私も行きたいです」
「もちろん。一緒に行こうよ」
三人でホグワーツ城の外、禁断の森の端にある小屋へ行くと、駅からホグワーツまでの先導をしていた大男が扉の前に立って待っていた。
「よく来たな、ハリー。友達も連れてきてくれたんか。ささ、入った入った」
中に入ると、そこには大きな部屋が一つだけあった。ハムや干し肉が天井からぶら下がり、焚き火にかけられたヤカンにはお湯が沸いていた。昔話に出てきそうな内装に、私は少し驚いた。
「くつろいでくれや」
そう言ってハグリッドは用意していたロックケーキを紅茶と一緒に私たち三人に振る舞った。ロックケーキは非常に固かったが、食べてみると意外と美味しかった。
二人は歯が欠けそうとか呟いてたが、美味しいものが食べられるんだから文句を言わないでほしい。少なくとも夕食がいつもザリガニ定食だった私の前では。
「ロンです」
「紅魔めぐふぃんれす」
「お前さんは一回落ち着いてケーキを飲み込んだ方がいい。そいで、そっちはウィーズリー家の子かい」
ハグリッドはロンの方を見た。
「お前さんの双子の兄貴、いたずらっ子のフレッドとジョージを追い払うのに俺は人生の半分を費やしてるようなもんだ」
そう言っている表情は苦々しかったが、どこか楽しそうでもあった。
「そいで、授業はどうだ。慣れたか?」
「ううん、全然。僕、ここでやってけるかどうか心配だよ」
「やっていけないはずがあるか。お前さんの両親は天才だったし、お前さんだって『例のあの人』を打ち破ったんだ」
不安そうなハリーに、ハグリッドはそうやって声をかけた。
「『例のあの人』っていうとヴォルデモートのことですか?」
「その名前を俺の前で言わんでくれ!」
私が聞くと、ハグリッドは耳を塞いで大声で怒鳴った。
「……いや、悪かった。でもその名前は言わんでくれ。恐怖でどうにかなっちまう」
そして続けてハグリッドがそう言って……。
「なるほど。こんな反応をしてくれるのなら闇の帝王も悪くないですね。いやでも魔王を倒した者が次の魔王っていうのはありきたりですし、少し話を弄らなければ。あ、そうだ。実は私がヴォル……『例のあの人』の実の娘だったとか」
「……ハリー?この子は大丈夫なんか?」
私の言葉に、ハグリッドはハリーにそう言った。失礼な。私は正常にかっこよさを求めて闇の帝王になろうとしてるだけだというのに。
「あー、うん。めぐみんは少し変わってるだけでいい人だよ。多分かっこよさそうだから食いついただけだと思う」
「めぐみんって馬鹿と天才は紙一重ってのを実感させてくれるよな。だってマグル生まれなのにクラストップレベルで、でも頭の中はこんなんなんだもん」
「こんなんとは何ですか」
なんか最近こんな扱いが増えてきた気がする。そんなことを考えてると、ハリーが言った。
「でもハグリッド、不安なのは単に実力がどうとかだけじゃなくてさ。魔法薬学のスネイプが僕のこと嫌い……というか憎んでるんだ」
確かにあれは懸案事項だ。ハグリッドもそれを分かってるのか、返事をするときにハリーと目を合わせなかった。
「なんでスネイプ先生がお前のこと憎まにゃならんのだ」
「でも実際、そうとしか思えないような態度でした。本当にあの吊るし上げは酷かったです。授業自体はよかっただけに残念ですね」
「あの授業がよかった?嫌味だらけでスネイプのストレス発散みたいなあの授業が?」
私が言うと、ロンが分かりやすく不満そうに言ってきた。まあ気持ちはわかりますけど……。
「ロン、それは言い過ぎですよ。確かに最初のクラスでするような注意ではありませんでしたが、間違いは間違いです。熟練でもやらかしそうなことであっても、ええ、私は納得してますとも」
「めぐみん実は一番根に持ってない?」
そんなことはありません。実際、優秀だねと言われて終わるよりかはよっぽどいいですし。
「ハグリッドも新聞取ってるの?ちょっと見せてよ」
そんななかハリーが机にポンと置いてあった新聞に手を伸ばした。
そしてその新聞をハグリッドは素早く手にとって背中に隠した。
「……ハグリッド?」
「あー、なんだ、ハリー、お前さんに新聞はまだ早い。それよりほれ、俺が内緒で買った魔法の参考書でも……ああめぐみん、取るんじゃねえ!」
ハグリッドがあからさまに誤魔化そうとしてたので回り込んでハグリッドの大きな手から新聞紙を抜き取ると、一面には大きな見出しでこう書いてあった。
“グリンゴッツに強盗、未だ犯人は判明せず。小鬼たちは荒らされた金庫は既に空になっていたと主張。強盗は失敗か”
「へー、地下数キロのあのグリンゴッツに。ハグリッド、なんでこれを隠したんですか?」
「あ!ハグリッド、グリンゴッツ侵入があったのは僕の誕生日だ!僕があそこにいる間に何かあったのかもしれないよ!」
私が広げた新聞紙を見て、ハリーは興奮気味にそう言った。ほほう。
「その話詳しく」
「この七月三十一日に僕もハグリッドに連れられてグリンゴッツにいたんだ。そういえばハグリッド、何かの包みを取り出して713番金庫を空にしてたよね。確かダンブルドアに頼まれた仕事だって」
「ほう?ほほう?ほほほう?それでハグリッドは何を持ち出したんですか?」
「何でもいいだろう。言っとくけど俺は何も言うつもりはないぞ」
そう言うとハグリッドは腕組みをしてそっぽを向いた。極秘事項の匂いがする。
「いえ、答えないなら答えないでいいです。こちらで判断するんで……それは危険なものですか?」
ハグリッドはホッとした顔をした。
「小さな包みに入ってた……包みに入れるというと本ではありませんね。それは宝石のようなものですか?」
ハグリッドはあからさまにビクッとした。当たりですね。
「じゃあ次は場所ですね。確かダンブルドア校長が学期の最初に四階の廊下には立ち入るなと言っていましたが、もしかしてあそこに……」
「マジで言い当てられそうだから止めてくれ!俺がクビになっちまう!」
その日、ハグリッドは私たちが何を聞いても決して口を割ろうとしなかった。私たちはいずれ聞き出してやると心に誓ったのだった。